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妖精  作者:    
22/36

22 通じ合う気持ち


 「マリ。やっとつかまえた。」


 嬉しそうに見下ろしてくるとユーリはしゃがみ込む私の前で立て膝になり脇の枝を掴み、私はユーリの腕に囲まれる形になった。

 こ、これは!?一昔前に大ブームとなった壁ドンの応用型、(しげ)みドン??ヤバイ、ユーリの顔が近いんですけど!

 一方のユーリは、私の赤くなったり青くなったりする私の顔をじっと見つめて不服そうに眉を寄せた。


 「マリは俺をからかってたのか?悪ふざけであんなこと言った?」


 「違うよ!からかってなんか無い!!」


 予想外のユーリの言葉に私はびっくりしてしまい、思わず強く否定した。勇気を振り絞った告白がそんな風に思われていたなんてショックだった。


 「あんなこと言って走り去っておいて、翌日から全く会えないし、手紙出して会いたいって伝えても『今日は○○しました。』とか頓珍漢(とんちんかん)な返事ばっかり返ってくるし。だから、俺はからかわれたのかとかと思って正直かなり落ち込んだ。」


 「うぐっ。ごめんなさい。」


 つらそうな表情で目を伏せて絞り出すように声を出すユーリの様子に心が痛む。確かに言い逃げしたと言われれば否定し辛い。でも、ユーリの断りの返事を直に聞くのか辛かったから・・・


 「マリ。あれは本気だったって思って良いんだな?」


 ユーリが射貫くような眼差しで私を見つめる。その灰色の瞳には熱を孕んでいるようにみえて・・・


 なんでそんな風に私を見るの?本当は煙たがってるんでしょ?


 ユーリは私を囲っていた腕の片手を外し、頬に優しく触れてきた。まるで(いつく)しむかのような触れ方に、あり得ない位に心臓がドキドキしてくる。


 「俺もマリが好きだ。どうしようもないくらい好きだ。」


 元々近かった顔が更に近づく。触れそうなくらいの近距離で熱い吐息と共に信じられない言葉が耳に届いた。


 「えぇ!嘘だ!!」


 「嘘じゃない。」


 思わず叫んでしまった。だって、そんなわけないもの。私にだけ冷たかったじゃない。いじわるばっかり言うし、素っ気ないし。

 でも、目の前のユーリは冗談言っているような様子じゃなかった。色々な感情がごちゃ混ぜになって両頬に熱いものが伝うのを感じたけど、留めることが出来ない。


 「だって、私にだけ冷たかった。」


 「そうしないと、自分が抑えられなかったんだ。マリは水色の爪の妖精だから、俺じゃ釣り合わないと思い込んでた。」


 「ドレスも似合わないって言うし。」


 「似合ってたよ。綺麗すぎて会場の他の男に嫉妬した。俺はあの場に参加者としては行けないのに、あいつらはマリに大っぴらにアプローチ出来て悔しかった。酷いこと言ってごめん。」


 「私のことはいつまでも『マリィ』って言うくせに、メーリンは最初から『メーリン』って呼ぶし。」


 「『メーリンガティ』と同じ名前だからさ。ごめんな、マリ。」


 そこで私はハッとした。名前・・・ちゃんと『マリ』って言ってる。ユーリは私の考えていることに気付いたようで、眉尻を下げた。


 「マリの名前は手紙でいつも『ソメヤ・マリ』って書いてあったから。最初はまた書き間違えてるなって思ってたんだけど、毎回毎回だからもしかしたらと思って発音矯正を頑張ってみたんだ。ちゃんと言えてるかな?」


 ユーリは自信なさげにこちらを覗う。耳がちょっと赤くて照れているのだとわかった。きっと、本当に練習してくれたんだ。


 「言えてる。ありがとう、ユーリ。ありがとう。私もユーリが好きだ。」


 感激のあまりに嗚咽をもらし始めた私をユーリはそっと抱きしめてくれた。真二にも抱きしめられた事は何回かあったけど、ユーリのそれは比べものにならないくらいに優しくて安心出来た。

 好きな人が私を好きだって言ってくれる。なんて素敵な事なんだろう。

 私がやっと落ち着いて泣き止み、庭園の東屋(ガセボ)に移動してからも、ユーリは私と手を繋いだまま離そうとはしなかった。所謂恋人つなぎってやつで、地味に照れる。初めてしっかりと繋いだ手は手袋越しでもわかるくらいに予想よりずっと大きくて熱かった。


 「今日・・・」


 「うん、なに?」


 「マリになかなか会えなかったからパーティーで2時間かけて口説こうと思ってたんだ。俺、昇進したからあのパーティにやっと参加資格が出来て、警備責任者のジュンフィーグに言って無理やり直近のパーティーの参加者リストにねじ込んで貰ってさ。なのに、よりによってシミュレザックに掻っ攫われて何しに行ったんだかって感じだったよ。」


 私はちょっと拗ねたようにそう言うユーリを見て焦った。確かに今日の私の態度は褒められたものじゃない。必死にユーリに謝るが、ユーリの顔は不満げだ。どうしようと本気で焦り始めた頃にやっとユーリは口を開いてくれた。


 「あいつに何の祝福したんだ?」


 「え?一生病気にならないようにって。」


 「じゃあ、俺にも同じのして。」


 ユーリの言葉に私は目を丸くする。もしかしてユーリ、嫉妬してる?うわ、可愛い。見た目シベリアンハスキーみたいで冷たくて怖そうなのに、可愛い!!


 「もちろんだよ!ユーリが死ぬまで病気になりませんように!」


 ユーリの身体を私のキラキラが包み込む。何度みても本当に綺麗で大好きな光景。ユーリはやっと不機嫌な表情を崩し、満足げに微笑んだ。


 「ありがとう。マリのこの前の祝福も効きそうだな。」


 「この前?」


 「俺が愛する人と幸せな未来を築くってやつ。」


 それって、私が振られたと思い込んだときの!未練がましくユーリに憶えていてほしくてかけた祝福だったのに、恥ずかしい!!でも、目の前のユーリはとても機嫌がよさそうにしていた。まだ信じられないけど、期待せずにはいられない。


 「ねえ、愛する人って?」


 「え?マリ以外にいないだろ。」


 好きのみならず私のことを『愛する人』って!その後私は本日二度目の嗚咽混じりの大号泣となり、ユーリはそれにも優しく付き合ってくれた。

 妖精の伴侶は本能的にわかるって言っても、相手が輝いて見えたり夢で信託が下るわけじゃない。でも、私は自分の唯一はこの人に違いないと思った。何故と言われてもわからないけど、そう、本能的にそう感じた。



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