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妖精  作者:    
21/36

21 予想外の展開です

 本日は私にとってX回目のパーティー。数えられるけど、数えるのも面倒くさい数ということで察して欲しい。

 会場に一緒に向かうメーリンはだいぶパーティーでの対処に慣れてきたようで、最初のようなおどおどした感じが無くなっていた。それと共にに、メーリンの落ち着いた可憐な美しさが引き立ってきたようにも思う。メーリンは男心をくすぐる雰囲気があるのでとても人気がある。きっと、伴侶も近い未来に見つかる気がした。


 いつものように会場に入ると真っ直ぐに正面の壁際にジュンの姿が見えた。私はジュンに挨拶しに行こうとして、ジュンに向かって少し手をあげた。ジュンもすぐに気が付いてくれて、ちょうど彼と立ち話をしている男性に何かを言っていた。

 その後ろ姿が視界に入った瞬間、私はくるりと身体を曲がれ右させた。何あれ、見間違い?幻覚??なんで!?


 「まぁ、ユーリルーチェ!どうしたの?」


 横でメーリンの嬉し気な声をあげた。やっぱり見間違えじゃないのね。後ろからコツコツとこちらに近づく足音が聞こえた。

 どんな顔して会えば良いのよ。ヤバイ、逃げないと。私は視界に入る中でたまたま一番近くに居た男性の腕をガシッと掴む。突然腕を掴まれた事に驚いて唖然とした表情でこちらを振り向く30歳位と覚しき男性。


 「あ、あのっ、あなたと是非ともお話したいんです!!」


 どこの誰だか知らないけど、とにかく私を助けて!あまりにも必死な様子の私に男性はぷっと噴き出し、「いいですよ。」と答えた。おお、助かった!


 「初にお目に掛かるけど、妖精からこんなに熱烈なお誘いを受けるとは驚きだな。」


 「ごめんなさい。ちょっと顔を会わせ辛い人が居て・・・」


 「なるほど、人助けしろって事だね。誰?」


 「本当にごめんなさい。ユーリルーチェ中隊副隊長なの。」


 目の前の男性は「あぁ、彼か。」とユーリに視線を向けているようだった。知り合いなのかな?男性の顔が苦笑気味だ。


 「射殺しそうな目で俺を睨んでる。しつこく言い寄られてるの?」


 「いえ。ただ、ちょっと気まずいと言うか・・・」


 「なら、おいで。」


 男性は私の手をとってテーブル席の方に近づいて行こうとする。その時、私のもう片方の腕をガシッと力強く掴まれたので私は咄嗟に振り返った。


 「ユーリルーチェ副隊長。彼女は俺と親睦を深めるところなんだ。その手を離してくれるかい?」


 「お前は仕事中だろ?」


 私の腕を掴んだのはなんとユーリだった。ユーリは今まで見たことが無い位に凄く怖い顔をしていて、私の目の前の男性を睨みつける。


 「君も仕事だろう?」


 「俺は違う。純粋にパーティーに参加している。」


 「なら、早く自分のパートナー探しでもしたらどうだ?俺はソメィヤマーリィ殿に是非お話ししたいと熱烈アプローチを受けたんだ。こうやって妖精の傍に居て話を聞きながら護衛をしてる。立派な仕事さ。」


 目の前の男性はユーリを挑発するようなもの言いをする。なんだか険悪な雰囲気に私は早くこの場を収めようとブンブンと首を縦に振った。


 「ほら、ソメィヤマーリィもそう言っている。わかったらその手を離せ。」


 「本当か、マリ?」


 「え?あ、うん。ごめんなさい。」


 私は慌ててユーリに謝る。この時、ユーリの言葉にいつもと違う違和感を感じたのに、私はそれに気付くことは無かった。


 「改めて初めまして。俺はシミュレザック。王都警備隊第2中隊副隊長をしている。」


 「初めまして。染谷茉莉です。ザックって呼ぶね。」


 笑って頷いた目の前の男性はがっしりとした体つきに切れ長の吊り気味の目をした男らしい凛々しい顔立ちだった。第2中隊副隊長と言うことは、ユーリと同格か。仕事で知り合いなのかな。


 「ユーリルーチェ副隊長と俺は年が近いし、何かと昔からライバル関係なんだ。今日はソメィヤマーリィの奪い合いで勝ったな。」


 ザックは愉快そうに笑った。ザックによると、28歳のザックと26歳のユーリはお互いに出世頭として昔からのライバル関係らしい。と言っても、良きライバルとしての関係らしいが。私としては今さらユーリの年齢を知ったことが棚ぼただった。26歳か。ちょっと童顔なんだね。


 「今日は会場警備の仕事?」


 「まあ、そんなようなものだよ。正確に言うと君達の護衛。水色とピンク色は貴重だからね。参加者に紛れて近くにいるんだ。」


 ザックは視線で別の男性とお喋り中のメーリンをさした。メーリンの近くには知らない女性とお喋りするユーリもいた。ユーリは女性とお喋りしながらも顔は不機嫌そうで、視線はこっちを睨んでいた。ユーリがここに来たと言うことは、恋人探し中なんだよね。そのことに私の胸はチクンと痛む。でも、高いお金払ってわざわざ参加したのに、なんでそんなにこっち見て睨んでるのー!!

 ユーリが笑顔で誰かを口説いているのを見るのは辛いけど、不機嫌な顔でガン見されて睨まれるのも結構堪(こた)える。なんで?何か私したかな?告白はしたけど振られた側だし・・・

 結局、ユーリの視線が痛すぎて私はパーティーが終わるまでザックとお喋りをしたのだった。


 「そろそろお開きかな。部屋まで送ろうか?」

 

 「大丈夫だよ。ありがとう。あ、ちょっと待って。」


 笑顔で席を立とうとするザックを慌てて私は引き留めた。ザックは怪訝な表情で首をかしげる。実は、私はパーティーでお喋りした人には皆に祝福を贈ることにしていた。まだ彼には贈っていない。

 でも、そこで考えた。ザックはユーリのライバル。と言うことはザックに『仕事で大活躍』とか祝福するとユーリが負けちゃうかも。うーん、ユーリが負けるのはやだな。


 「ザックが死ぬまで病気しませんように!」


 私の声に合わせてキラキラと金粉がザックを覆った。

 

 「ものすごい長期スパンの祝福だな。これで祝福出来るなんて驚きだ。」


 「ふふっ。凄いでしょう?」


 私達は笑顔で別れ、今日も楽しくお喋り出来たと私は満足した。相も変わらず成果無しだけど。

 会場は殆ど人が掃けてもう私達が最後だった。ご機嫌で部屋に戻ろうと廊下を歩き出した私は、後ろからかけられた聞き覚えのある声にビクンと肩を揺らした。恐る恐る振り返ると、予想通りの人物。会いたいけど、会いたくない!


 「おい、マリ。待てよ。」


 咄嗟に走り出す私に追いかけるユーリ。ドレス姿にヒールだし、逃げ切れる訳も無く。ああ、ザックさんに送って貰えばよかった!!逃げ切れないと判断した私は廊下から急いで庭園に降りて木陰に身を隠す。


 「マリ。見つけた。」


 ギュッキュッという草を踏みしめる音が近づき、頭上からユーリの声がして顔を上げると灰色の瞳と視線が絡み合う。私を見下ろすユーリは怒るどころか嬉しそうに微笑んでいた。



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