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妖精  作者:    
20/36

20 バネットが可愛い

 婚活パーティーの成果報告会にて「成果なし」を報告し合うことウン回、こんな日が来るなんて、と私は娘の成長を感慨深く見守ってきた母親のような気分になっております。だって、バネットが。あのバネットが!年齢不相応な悟りを開いていたバネットが!!なんと、恋する乙女になっているんです。


 本日はバネットに招待されてバネットの自宅であるマルキン商会の社長宅にお邪魔している。いくつもの店舗を持つとても大きな商店らしく、お屋敷はとても立派だった。バネットに限らず妖精が里子に出されるときはこういった経済的に恵まれた家に引き取られることが多いらしい。それは、妖精に十分な教育と苦労のない生活を送らせるためだそうで、引き取る側も妖精は幸運を引き寄せるのでwin-winの関係を築いているそうだ。

 バネットに案内されたのは彼女の自室で、私の王宮の部屋と同様に寝室以外にリビング兼応接間の様な部屋がついている。バネットは外国から取り寄せたというマルキン商会で新たに扱うお茶を出してくれたが、それは私の知るほうじ茶に似た味をしていて、口に含んだらなんだかホッとした。


 あのパーティーの日、私はかなりいい働きしましたよ!

 バネットが彼を探そうとしている間に話しかけてくる男性がいないようにバネットを壁際のカーテンに隠し、特徴を聞きながら目当ての人を必死に探した。それでも目ざとくバネットに気付き話かけてこようとする男性には片っ端から自分から声をかけ、祝福を贈り、喉が渇いたからドリンクをとってきて欲しいなどと甘えてさりげなく追い戻した。もう、お腹がちゃぽんちゃぽんになったわ。


 でも、そのおかげでバネットは意中の彼を無事に発見しゆっくりお話しすることが出来たし、私は沢山の人と話して祝福を贈ることが出来た。

 バネットの気にしていた彼、スバル何とかさんは、実はマルキン商会に仕事で出入りしている時からバネットを意識していたようだ。でも相手は妖精なので自分などを覚えていないし、相手にもされないだろうと思っていたそうだ。しかし、どうしても諦めることが出来なかった彼はバネットをどうにか口説くチャンスを得るために大金を叩いてあのパーティーに参加したらしい。

 そう、今更知った新事実だが、あのパーティは妖精は無料だけど他の参加者は安くはない参加費がかかるそうだ。食べ放題、飲み放題だし、参加者も年齢、健康状態、収入、犯罪歴、家事スキル等の一定基準を合格した人達だけだし、会場も王宮内で豪華だし、そりゃあ婚活パーティー参加費も高いに決まってるよね。


 話が逸れたが、とにかく、あのパーティーでゆっくりと話した二人は今、現在進行形で愛を育んでいるのだ。次回から成果報告会が出来ないのが寂しいよ。メーリンはほんわかキャラであんまりそういうぶっちゃけトークに乗ってくれる感じじゃないし。


 「バネット、本当におめでとう。でも、次回からバネットがパーティーに来ないのはちょっと寂しいなー。」


 「ふふ。でもこうやってお茶はいつでもできるわよ。私たちは妖精同士だからいつでも会えるし。」


 「そうだよね!会えなくなるわけじゃないものね。」


 バネットの『いつでも会える』という言葉に私の寂しい気持ちは小さくなった。バネットが伴侶を見つけるなんて、こんなに嬉しいことはない。寂しいけどすごく嬉しい。やっぱり、これはきっと娘を嫁に出す母の心境なんだわ。

 妖精への面会は基本的にその妖精の承諾がないと叶わない。そうしないと祝福を欲しがる人々が群がって大変なことが起きるからそういう決まりになっている。例外は王族の人間と妖精と身の回りのお世話をしている人達だけ。だから、私とバネットは会おうと思えばいつでも会えるんだ。私はバネットに微笑みかえした。


 「それはそうと、例の彼とはどうなったの?」


 「例の彼って誰だっけ?」


 「もう!とぼけないでよ。片思いの彼よ。」


 ほうじ茶にミルクと砂糖を入れてティーカップで優雅に飲むバネットは頬膨らませて不満顔をした。ほっぺを膨らませたバネットもリスみたいで可愛い。でも、ほうじ茶にミルクと砂糖は日本人的には邪道だと思うわよ。


 「うーん。振られたよ。」


 「好きだってちゃんと伝えたの?」


 「うん。伝えたよ。」


 「で、気持ちに応えられないと言われたのね?」


 「無言だった。」


 「無言??」


 バネットが怪訝な表情をしたので、私はあの日の一部始終を説明した。ついでに今は何故か会話の噛み合わない文通相手になっていることも。


 「手紙に会って話したいと書いてあるなら会った方がいいんじゃない?」


 「えー。だって、会って『嫌いだからほんと無理』とか言われたら立ち直れないよ。」


 「わざわざ毎日手紙を出して呼び出した挙句にそんなとどめを撃つようなことをいう意味が分からないわ。マリの好きになった人はそんなに嫌な男なの?」


 「ユーリはいい男だよ!!」


 バネットはその言葉を聞いて満足げににっこりと笑った。


 「じゃあやっぱりマリはそのユーリさんに会うべきだわ。」

 

 嵌められた!バネットに嵌められた!!でも、会うかどうかは私に決定権があるんだから。


 私とバネットはその後も世間話をして楽しんだ。バネットの話はやっぱり殆どがスバル何とかさん・・・もうスバルさんと呼ぶことにする、の話だった。バネットの様子を見ると、本当に彼が好きなんだと伝わってくる。


 「バネット、お幸せにね。」


 私はバネットに祝福を贈った。妖精には効かないと聞いてはいたけれど、これから先の未来もずっとバネットが笑顔でいれたらいいな、と心から願った。

つい先日、この話を書き終えた後に某コーヒーチェーン店でほうじ茶ラテなるものが売っているのを発見しました。最近はどんなお茶でも砂糖とミルクを入れるんですね。作者世代には軽くカルチャーショック(@_@)

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