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妖精  作者:    
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2 妖精の出現

 その日、王都警備隊の第一小隊隊長であるユーリル―チェは日中の仕事を終えてから自身の愛騎であるエイがいるルビン舎に向かい、その世話をしてやっていた。濡れたタオルで丁寧に拭いてやるとエイは気持ちよさそうに「グウォーン」と喉を鳴らす。


 ルビンは馬よりも強いのに馬以上のスピードで野を駆ける。そして性格は勇猛果敢で主に忠実、角に行燈を持ち夜間も移動に利用できるため、警備兵たちの足としてなくてはならない存在だ。

 エイはユーリル―チェが王都警備隊に新人配属された時からの相棒で、大切な自身の半身と言っても過言ではない。これからどんなに出世しようとも、エイの世話は基本的に自分でやると誓っている。今は争いもなく平和な世の中だが、然るべき時には自身のためにきっと運命を共にしてくれるだろう。


 エイを拭き終えて使用済みタオルをバケツで濯いでいると、不意に既に暗くなっていた空から光が差した。その方向を見ると月から地面に一筋の光の道が出来ているのが分かった。


 「妖精が現れたか。」


 すぐに保護に向かうためにエイに鞍を乗せようとしていると、腰に付けた通信機から呼び出し音が鳴る。応答すると、それは予想通り第一小隊副隊長のジュンフィーグだった。


 『こちら第一小隊のユーリル―チェだ。』


 『こちら第一小隊のジュンフィーグ。南西方向の0405地区草原地帯に月の道を確認した。妖精が出現した模様です。』


 『了解した。すぐに保護に向かう。帰宅した隊員を呼び戻す時間が惜しい。いるやつだけで5分後に南西門に集合だ。』


 『了解。』


 用件だけ簡潔に伝えあった通信を終わらせると、すぐにエイに鞍を乗せてその背中に飛び乗った。


 「エイ、仕事だ。もうひと頑張りしてくれるか。」


 エイに声をかけるとエイは「グウォーン」と喉を鳴らして返事をした。南西門に向かうとやはり隊員は皆帰宅後で、副隊長のジュンフィーグしかいなかった。ユーリル―チェはジュンフィーグと合流すると妖精の保護のためにすぐに0405地区草原地帯へと向かった。


 「おっかしーな。この辺の筈なんだけどな。手分けして探すか?」


 隣を走るジュンフィーグは愛騎のサクに跨って辺りを見回していた。今回は妖精が現れた場所が街中でなく何もない広大な草原地帯だったため、明りが少ない上に目撃証言もなく、探すのが難航した。あまり保護が遅れると妖精を良からぬ人間が連れ去る可能性もある。確かに手分けした方がいいか、、、そう思った時、ジュンフィーグが不思議な光に気が付いた。


 「おい、あっちに奇妙な白い光が見える。ルビンの光とも違うようだな。」


 指さされて目を向けたはるか遠方には地面すれすれのところに僅かに鈍く光る小さな明りを確認することが出来た。


 「よし。行こう!」


 すぐに方向転換して光の方向を目指す。興奮したルビンたちが「グウォーン」と嘶く。だが、動き出してすぐに目標としていた光が消えた。あれがないと目標物がわからないと舌打ちしたが、よく見ると光が消えた辺りがキラキラと輝いている。妖精の金粉だ。しかし、何故かこちらから遠ざかる方向に少しずつ動いているように見える。あまり遠くに行かれるとまた見失ってしまうと思い、一直線にエイを走らせた。

 その妖精は暗闇のような色のさらさらの肩までの髪を揺らしながら必死に逃げているようだったら。ひどく怯えていて何か怖い目にでもあったのだろうか。もう大丈夫だという気持ちをこめて妖精の前に回り込んでエイから降りる。目が合ったので手を伸ばしたところ・・・


 妖精はぱたりと倒れた。


 「えっ?おい!?」


 返事がないので妖精に近づいて確認すると、意識がない。どうやら気絶したようだ。横抱きに抱き上げると、力の抜けた頭がコテンと自分の胸元にもたれ掛かった。


 妖精はまだ若い娘だった。さらさらとした限りなく黒に近い色の短めの髪に白い肌、顔は繊細な化粧が施されており、もう一度目を開けた姿を見てみたいと思わせるのには十分な美しさだった。そして、何故かスカートの丈が全く彼女にあっておらず、白い足が太腿のあたりまでむき出しになっていて劣情を催させる。  

 

 「気を失っているのか?」

 

 「そのようだ。」


 サクから降りたジュンフィーグが横から覗き込んできて、彼女の手をとると爪を確認した。


 「おや、水色だ。珍しいね。なんだろう、飾り石がついているのか?初めて見たな。目を閉じているからハッキリはわからないけどそれなりに可愛い外見してそうだし、若い娘だから引く手あまただろうね。どこぞの有力者にでも嫁ぐのかな。」


 ジュンフィーグの言葉にユーリル―チェも頷いた。定期的にある日突然現れる妖精は老若男女と様々な姿をしている。しかし、全員に共通しているのが体から妖精の金粉を撒き、幸福をもたらす存在であるということ。特に一番の恩恵を得られるのはその妖精の特別な愛情を得たパートナー、つまり夫や妻となった人間だ。

 これまでの妖精とパートナーになった人間は例外なく社会的にも成功し、家庭でも幸せになっている。あるものは賢王として名を残し、あるものは世界的な美術家になり、またあるものは著名な作家になったりもした。そしてその幸福をもたらす力の強さは爪の色と相関が強い。

 通常、人間の爪の色は例外なく黒だ。だが、妖精達は違う色をしている。茶色や濃紺などの黒に近い色の場合は幸福をもたらす力が弱く、彼女のように水色や紫色はそこそこ力が強い。その色が白に近いほど力は強く、最強と言われるのは透明の爪だ。伝説では爪を作る組織が白く半円に透けて見えると言われるほどの透き通った爪をしている妖精は百年に一度現れるかどうからしい。

 

 水色の爪を持ち、若い娘である目の前の妖精を多くの有力者達が欲しがるのは目に見えている。そして、妖精はその中から一番自分が気に入った相手をパートナーに選ぶのだろう。ただの警備兵である自分には全く縁の無いことだ。

 ユーリルーチェは妖精が気を失っているのを確認し、エイの上で自分にもたれ掛からせるように座らせると後ろから支えるように跨がり、王宮へと帰路についた。

 


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