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妖精  作者:    
19/36

19 恋の応援を頑張ることにします

 ユーリと決別してから2週間が経った。ユーリは予定通りに王都警備隊第一中隊副隊長に就任したようで、キーロがそれを『若いのに凄いことです。きっとマリィ様のおかげですわ。』としきりに言っていたけれど、私はそれを適当に聞き流していた。私のおかげかどうかなんて結局はわからないし、振られた相手の動向をあんまり気にしすぎちゃうと粘着体質で気持ち悪い奴だと思われかねないしね。


 あの日以来、ユーリから私に宛てた手紙が毎日のように来る。内容は『ソメィヤマリィ殿。会って話がしたい。返事が欲しい。ユーリルーチェより』という、ひどく簡潔明瞭なもの。多少の表現の差は在るけれども大体内容は同じだ。

 私はそれに対し最初は『ユーリルーチェ殿。お気遣いありがとう。私は元気にやっています。新天地で益々のご活躍をお祈りします。ソメヤ・マリより』と書いて送った。

 続く手紙の返事には『会いたい』と言う部分は華麗にスルーして世間話を綴る。本当は返事なんて出さなければ良いのだけど、こんなことでもユーリと繋がっているのが嬉しいと思う自分がいた。直接会うのは、まだユーリと会って笑える自信がないから、、、ごめんね。

 そうそう、私は遂に『ソメヤ・マリ』と書けるようになったのだ。最初に名前を書いて送った手紙の行き先が自分を振った男というのはいただけないけどね。


 さて、そんなことよりも、本日私はとても気合が入っている。実は、バネットがちょっと気になっている男性が今日のパーティーに来るらしいのだ。

 その相手はバネットの今の実家でもあるマルキン商会に仕事で出入りしている男性で、バネットも何回か会ったことがあるらしい。バネットの話によると、少したれ目に薄い唇、高い鼻梁の甘いマスクにすらっとした高い背丈が特徴的な青年だそうで、何回か話した限りではとても優しくてよい方だとか。偶然彼がこのパーティーに参加することを耳にしたと言うバネットは、『彼が婚活しているなんて』、とかなりショックを受けているようだけど、私からするとこれはチャンス。

 だって、妖精の伴侶はこれまで100%パーティーで会った人なんでしょ?これまで気付かなかったけど、よくよく考えてみればこの『会う』の定義は非常に曖昧だ。パーティーに参加することにより初めて顔を会わせる相手なのか、パーティーに参加する元々の知人なのか、はたまた会場にたまたまいた言葉も交わさない給仕人も含まれるのか・・・


 とにかく、私はその彼とバネットができるだけ今日親密になって欲しいと思った。そのために、会場にいる男は全て私が引き受けるぐらいの肉食系で行きますよ。ガティにお願いしたテーマは『引き立て役なのに、声をかけられるとついつい引き寄せられちゃう魅力のある女性』。ガティは『だんだんとテーマが小難しくなってきてるわね』とやる気満々で楽しそうに引き受けてくれた。


 そして仕上がりがこちら。ベージュのシンプルなロングフレアワンピースでいつもよりやや控え目にまとめられ、髪は下ろされて小さなピンの飾りが付けられた。化粧もベージュ系の色を使い、パッと見は他の女性たちよりは一歩後に下がるような控え目な印象を受けると思う。

 でも、フローラルな香水が控え目につけられていて、近くに寄ればミツバチを引き寄せる花のような美しさを引き出した繊細な化粧だった。流石はガティ、毎度毎度おそれいります。今日もドアの外で待っていたメーリンと待ち合わせして会場に向かった。


 「メーリン、囲まれたくなかったら席に誰かと座るといいわよ。『2人でゆっくり話したいから邪魔しないで』って意味があるんだって。気が合う人が居ると良いね。」


 メーリンは前回のパーティーで囲まれて可哀想なくらい怯えていた。今日はそうならないようにアドバイスをすると、メーリンはふむふむと頷いていた。

 扉を開けると、視線の先のいつもの彼の定位置だった場所にはジュンが立っていた。ジュンはユーリの異動に伴い王都警備隊第1小隊隊長に就任したのだ。私はこちらに気付いたジュンに笑顔で手を振る。メーリンは早速声をかけてきた人とテーブルについていた。うん、今日は怯えずに済みそうだね。


 「ジュン、久しぶり!隊長就任おめでとう。」


 私が笑顔で声をかけるとジュンは照れたようにはにかんだ。キーロの恋人が昇進なんてめでたい限りだ。そうだ、お祝いしよう!と私はジュンの胸元に手袋の上から手を触れた。


 「ジュンが益々活躍しますように!」


 ぱぁっとキラキラが空を舞う。うふふ、何回見てもこのキラキラが舞う景色が好きだ。こんな私でも誰かの役に立てたと感じる事が出来るからね。今日も沢山の人と話して祝福を贈ろう!


 「マリィ、ありがとう。ユーリルーチェに追いつけるように頑張るよ。」


 「うん、そうしな。私の大事なキーロはそんじょそこらの男には渡せないわよ。」


 「えぇ!マリィの要求は高そうだから大丈夫かな。」


 ジュンが肩を竦めると、私達は2人でアハハッと笑った。やっぱりジュンは良い奴だわ。キーロを安心して任せられる。私がそう思っていることはまだ教えてあげないけどね。


 「俺、今日初めて警備責任者になって参加者名簿見たんだけど、このパーティーの参加者って本当に凄いのな。」


 「そうなの?」


 「そうだよ。議員の子供とか、大富豪の子供とか、新進のやり手実業家とか、研究家とか、そんなのばっかり。俺、この歳にしては結構イケてると思ってたのにレベルの差を突き付けられたわ-。」


 「そんなの気にすること無いって。ジュンは十分凄いよ。よっ、第1小隊隊長殿!」


 私が(おだ)てるとジュンは嬉しそうに表情を緩めた。なんだかんだで第1小隊隊長になれたのは相当嬉しいようだ。私もつられてへらっと笑う。

 その時、私は大広間の入口がそっと開いて隙間から中を伺う人影に気付いた。オレンジ色の髪が見えたからバネットだ。その様子から、きっと誰かに囲まれる前に気になる彼を探そうとしているのだとわかった。


 「そういえばさ、ユーリルーチェが今度の「ごめん、ジュン。急用できた。またね。」


 「え?あ、またな。」


 何かを話そうとしたジュンを遮って、私は足早にバネットのもとへと向かったのだった。




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