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妖精  作者:    
15/36

15 新たな妖精

ヒロインがやや拗らせてます。

 部屋の窓から外を見て日が射して穏やかな陽気なのを確認すると、私はお散歩にでも行こうかとキーロに声を掛けた。キーロはすぐに承知したようにテキパキと準備を始める。その横で髪の毛を自分でブラシで整えていると、ドアをノックする音がした。


 「また来たのかな?」


 中の返事を聞く前にそっと開いたドアから顔を出したのはハニーブラウンの髪にピンクの瞳、ピンクの爪を持つ愛らしい女の子。ドアの隙間からこちらを窺っている。


 「メーリン、どうしたの?」


 「あの、マリは何をしているかと思って。」


 「これから散歩に行くの。一緒に行く?」


 「良いの?行く!」


 メーリンは愛らしい笑顔を浮かべて花が綻ぶようにふわっと笑った。庇護欲をそそる女の子って言うのはこういう子のことを言うんだろうな、と思う。


 あの日の深夜、ユーリ達が見つけ出して連れて来た妖精は王妃様と同じ濃いピンク色の爪を持つまだ若い娘だった。若い娘自体が珍しい上に、水色より更に貴重なピンク色の爪で可愛らしい容姿に控えめな態度。彼女が人気者になるのはあっという間だった。

 しかし、彼女はとても人見知りの性格のようで、いつも第1発見者のユーリか同じ妖精であり隣室に住む私か、お世話係の女性と共に行動しようとする。まだこちらに来て2週間弱しか経っていないし、色々と不安も多いのだと思う。


 「適当に王宮内を散歩するけど、行きたい場所はある?」


 「あの、いつも行く・・・」


 「訓練場かな?」


 「はい!そこが良いです!」


 メーリンはパッと表情を明るくして目を輝かせた。メーリンは第1発見者であるユーリをとても慕っている。それは男女の感情と言うよりは、兄を慕う気持ちに近そうにみえる。メーリンはバネットと私より年下の17歳で、庇護欲をそそる性格に天然の甘え上手、ユーリもメーリンにはなにかと優しく接していた。


 新しい妖精が自分の男友達と仲良くなる。なにも問題ないし、むしろ良いことだと思う。なのに、何故か2人を見ていると無性にイライラするのだ。それは多分、ユーリの態度が私と彼女に対してでは全く違うことに起因していると思う。

 ユーリはいつも私には素っ気なくて冷たい態度をとる。なのに、メーリンにはとても優しい。極めつけに・・・


 「また見物に来たのかメーリン、マリィ。」


 これですよ、これ。訓練をしていたユーリは私たちを見つけると少しだけ微笑んだ。私だけで見学しに来ていた時はいつも仏頂面で顔を(しか)めてたくせに。

 それに、ユーリは未だに私の名前は『マリィ』としか言えないのに、メーリンの事は最初から『メーリン』と言えていた。王妃のスエリ様に最初に聞いた『伴侶以外は名前を言えない事が多い』と言う言葉がふと脳裏に()ぎった。今はまだ兄のように慕う感情でも、いつかこの2人は愛し合うようになって伴侶になったりするのだろうかと思うとなぜか胸がざわつく。

 そもそも、私はユーリのいつも素っ気ない態度はもともとの性格なのだろうと受け流して、自分なりにうまく良い友達としてやっていると思っていたのだ。それだけに、メーリンに対するユーリの態度は衝撃的だった。

 誰にでも素っ気なくしちゃう性格なんじゃ無くて、私にだけ冷たかったの?私も人間だし、仲良くやっていると思っていた相手に実は煙たがられていたのかもしれないと気が付いて何も思わない程鈍感ではないのだ。正直言うと、結構傷ついていた。


 「ねえ、ユーリルーチェ。あんまり見学に来ると邪魔?」


 「いや、好きなときに来てくれて構わない。隊員にも緊張感が出ていいだろう。」


 ユーリとメーリンが横で交わす会話が耳に届いてチラリと見ると、甘えたような態度のメーリンにユーリは目を細めて答えていた。

 『好きなときに来てくれて構わない』ねぇ。私には確か『おすすめしない』とか『来るな』って言ってたよね。ふーん、そうですか。私は来ちゃ駄目で、メーリンは来ていいんだ。


 「そう言えば、マリィ。ここ数日ルビン舎に来ないんだな。」


 「えーっと、なんか最近疲れちゃってさ。」


 「そうか。」


 脳内で一人でいじけているとユーリが珍しく自分から話し掛けて来たので私は慌てて笑って誤魔化した。ユーリの煙たがる気持ちに気付いてもなおあそこに行けるほど、私は神経は図太くないのだ。横に立つユーリの顔をそっと窺うと、またもや綺麗な顔にクマが出来ていた。

 ああ、そっか。きっと人事異動に合わせて引継ぎとかがあって忙しいのかな。ユーリは実は結構疲れをためやすい人だと思う。忙しくなると顕著に顔色が疲れたように(やつ)れるからすぐにわかる。

 癒してあげようかと思って手袋を付けた手をユーリまで伸ばしかけて、私はハッとしてその手を引っ込めた。ユーリは怪訝な顔をしてこちらを見つめてきたので慌ててメーリンに声をかけて誤魔化す。


 「ねえ、メーリン。ユーリが疲れているみたいだから祝福して癒してあげたら?メーリンの爪はピンク色だから私より力強いはずだし。」


 嫌いな奴に触られたくないかと思って横にいるメーリンにそう提案すると、メーリンはどういうふうにするのかと首をかしげたのでやり方を教えてあげた。メーリンの祝福でキラキラがぱっとユーリを包みこむ。

 「おぉ!」とか「流石だ」とか「俺も!」とか、相変わらず周りの警備兵達が騒ぎ立てていた。人気者のメーリンの祝福に周囲は大盛り上がりだ。確かにキラキラはユーリを包んでぱっと消えた。でも・・・なんだか私にはユーリのクマはまだうっすらと残っているように見えた。なんだろう、初めてで上手くできなかったのかな。

 散々迷った挙げ句に、訓練場に戻ろうと背を向けたユーリの背中を指先でトンっと触れて祝福を贈る。ユーリはハッとしてこちらを振り返り、私を見つめた。でも、私は知らんぷりをして訓練場の兵士達へと目を逸らしたのだった。

 

 「ねえ、マリ。明日はパーティーだね。ちょっとどきどきするけど楽しみだわ。」


 部屋に戻りながらお喋りをするメーリンはうきうきしたような声で頬を紅潮させていた。そっか、明日はパーティーか。私もいい加減に早く相手を見つけないとだな。明日はいつもよりきちんと一人一人と向き直ってみようと思う。


 「そうね。楽しみだね。」


 私はメーリンに視線を向けるとにっこりと微笑んだ。

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