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妖精  作者:    
10/36

10 パーティー 2回戦目

 紺色のAラインの少しだけいつもより胸元が開いたワンピースに紺色のお花の髪飾り。そして、いつもよりはっきりとした紅をさしてちょっとだけ大人っぽく。


 今、私は2回目の婚活パーティー(?)に参加する準備中だ。今日もガティは私に特殊メイクばりのフルメイクを施してくれた。テーマは「少女から大人への開花」らしく、前回よりも全体的に大人っぽくまとめられていた。


 「まあまあ。マリィ様、今日もお綺麗ですわ。」


 今日もキーロがにこにこして褒めてくれてる横で、ガティはふふんと満足げに鼻をならしていた。ガティ的にも良い出来って事らしい。


 前回のパーティーで急接近したクリクリィートとどうなったかと言うと、彼はかねてから希望していた国外留学の留学生にパーティー直後に大抜擢されて忙しくやっているらしい。政治、経済共に先進的なお隣の国に国費で3年間の留学だとか。王宮に仕事で来ていたクリクリィートにたまたま廊下で会ったときに、彼は目を輝かせて『自分が選ばれるなんて夢のようだ。きっとソメィヤマーリィのお陰だね。』と言ったけど、ほぼ間違いなく彼の実力だろう。

 とにかく、クリクリィートとのデートの約束は流れて彼は近いうちに長期で国外に発つ。いい人だと思ったのになぁ。まあ、縁が無かったのだと諦めて次にいこうと思う。そして本日は2回目のパーティーなのだ。


 今日はバネットもいるし、前回よりは緊張せずにすみそうだ。そっと大広間の扉を開くと今日も沢山の男女がいる。前回見た顔もあれば、初めて見る顔も。そして、またもや壁際に知っている顔を発見して私は迷わず寄っていった。


 「ユーリ。今日も会場警備のお仕事中?」


 「知っているなら話し掛けるな。」


 ユーリは渋い顔をしたあとに真っ直ぐに会場内を見つめていた視線をこちらに寄越すと、私の顔を見た後に頭の上から足元まで視線を動かした。


 「どうかな、似合う?テーマは『少女から大人への開花』らしいよ。化粧師の人にやって貰ったの。」


 ユーリは何か言いたげな不満そうな顔をしたあと一言。


 「似合ってない。」


 ん?幻聴か??当然『似合う』と言って貰えると思っていた私は目が点ですよ。なんという失礼な奴!! 


 「キーロやガティは褒めてくれたもん。ユーリって格好いいけど失礼だから絶対モテないでしょ?どうせ私はユーリ好みじゃありませんよーだ。」


 捨て台詞を吐いてユーリの顔を見ること無くパーティー中央部に私は足を向けたのだった。ムキー!頭にくるな、ユーリの奴!!ちょっとばかし美形だからって今のはさすがに酷いと思う。私なりに着飾ってお洒落したのはわかってるはずなのに。

 ウェイターからドリンクを貰ってなおもプンスカ怒っていると、今日はあっという間に男性陣に取り囲まれた。ちょっと身動き取れないくらいの人垣に圧倒される。ふんだ。ユーリの好みじゃ無くたって私もそれなりにモテるんだから。妖精マジックと特殊メイク効果が多分に入ってそうだけど。

 

 結局、男性陣に取り囲まれて身動き取れなくなった私は誰ともゆっくりと話すことが出来ず、2回目のパーティーを終えたのだった。うぅ、クリクリィートとお喋りした前回の穏やかなパーティーが恋しいよ-!!


 「マリ、今日はどうだった?」


 「(せわ)しなく怒濤(どとう)の2時間だったわ。」


 「私もピンとくる人には出会えなかったわ。」


 ただいま私はバネットと本日の成果報告会中である。まさか、異世界に来て合コン後の女子トークのようなものが出来るとは夢にも思っていなかった。


 「だいたい、本当に本能的にわかるの?どうやってわかるの??相手が輝いて見えるとか??」


 私が思わずバネットに詰め寄ると、バネットは呆れたようにこちらを見返してきた。


 「そんなこと私が知るわけ無いでしょう?こっちが知りたい位よ。なかなか出会えないものね。」


 「うぅ、八つ当たりした。ごめんね、バネット。」


 「別に良いわよ。」


 かくして妖精2人は成果報告会で成果無しを報告しあって、次回リベンジをお互いに誓い合ったのだった。 


***


 ユーリルーチェは勤務終了後に自室に戻ると深いため息をついた。


 妖精のマリィは何故だか自分に何かと構おうとする。訓練に突然見学しに来たり、パーティー中に話し掛けてきたり。マリィは自分がどんなに魅力的だかわかっていない。若く見た目も性格も愛らしい水色の爪の妖精。


 訓練を見に来れば隊員が下心を持ってマリィに近付くから最近は「お勧めはしない」から「来るな」に言い方を変えてみたが、全く気にしていないようで時々ふらっと現れては愛嬌を振りまいていく。そして、まわりの隊員はマリィが現れるのを楽しみにして以前より真面目に訓練に取り組むようになり、第1小隊は全体的にレベルアップしてきた。普通に考えれば良いことなのだか、どうしてか胸がざわつく。


 そして、パーティーの時の姿は脳裏に残るほど本当に魅力的だった。1回目のパーティーは颯爽と現れた男に横から連れ去られたのを指を咥えて見ているしか無かった。2回目は心の平穏の為に視界に入れないようにしようと思っていたのに、やはり向こうから近づいてきた。

 その姿はいつもに増して官能的で、若い男を引き寄せるのには十分過ぎる魅力だった。開いた胸元が曝されるのが気に入らなく、思わず「似合ってない」と漏らしてしまいマリィを怒らせたようだ。思った通り、その後マリィは男に取り囲まれていた。


 パーティー参加者はみな有力政治家や実業家と言った名家の嫡男が多い。やや出世が早いとはいえ、一介の警備兵の自分とは稼ぎも将来性も全く違う。そもそも、自分は現時点であのパーティーの参加資格すらなく、彼らと同じスタート地点にすら立てていないのだ。

 思いを寄せるのもおこがましい、と思われるのがせいぜいだろう。再び漏らした深いため息は、誰にも気付かれることなくかき消えた。


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