73話 霊園の歌姫34
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美森達は固めて安全な地面にしたマグマの上を走り、追って来る下級悪魔の群れを振り切っていた。
追いつかれそうになった悪魔はアモーレのフルートから放たれるレーザーで返り討ちにされていた。
「やっぱり足止めする奴が必要だな! アモーレ、レーザーで地面を抉ってくれ!!」
するとブライアンは下級悪魔達を足止めする何か良い策が思いついた様で、アモーレに指示を出した。
「え? あ……はい!」
アモーレはブライアンの意図が分からなかったが、取りあえず言う通りにしようと思って地面にレーザーを放った。
レーザーによって抉られて宙に飛んだ岩状の地面の破片にブライアンが拳で殴ってオーラを送った。
オーラを浴びた岩は瞬時に形を変え、やがてゴリラへと変身した。
「あいつらを蹴散らせ!!」
「ウオオオオオオオオ!!」
ブライアンはゴリラに命令し、命令を受けたゴリラは雄たけびを上げながら下級悪魔達へ向かって行った。
「本当に応用性が凄いね。」
美森はブライアンが生み出したゴリラが次々と下級悪魔を蹴散らしていく様子を見て彼の能力の便利さを再度実感した。
「雑魚はあいつに任せよう!」
ブライアンは気を取り直して洋館に向かおうと一同に呼び掛ける。
それから1分もしない間に美森達は無事に洋館の扉を開けて中に入れた。
「ここからがあんた1人の戦いらしいな、俺も1対1で決着を付けなけいけない因縁の敵がいたから気持ちも分からなくない、だがいざ自分が第三者の立場になると不安が込み上げるのは皮肉だな。」
ブライアンは美森の過去を聞かされた訳ではないが、オデイシアスとは1対1で戦わないといけない関係なのは察していた。
自分も同じ様な経験をしていた身である故、美森の戦いに介入してはいけないと誰よりも理解していたが、自分が第三者の立場になった途端、美森が無事に1人で戦いに白星を挙げられるだろうかと不安になってしまってそんな人間のアンバランスの感情を呪ってしまった。
「ありがとう、僕も正直……無理だと思ったら仲間の助けを借りたいっていう感情がある、でも……これから戦う奴って僕の恋人の仇だから、僕一人の力で解決しないと恋人に顔向けできないとも思う……例えこの身が朽ち果てようとも。」
美森はブライアンにオデイシアスとの因縁を説明し、他力本願な弱い気持ちもある事を打ち明けた。
敗北して命を落とす可能性を想像しては恐怖し逃げ出したくもなったが、高井への愛する気持ちを捨て去りたくないとも思っていたため勇気と自信を強く持とうと自問自答していたのであった。
「恋人の仇ね……取りあえずお前の実力を信じる事にする。」
ブライアンは美森が頭の中で高井の事を思い浮かべていたのと同じ様に、自分もヴァイオレットの事を思い浮かべていた。
美森が万が一敗れ去った場合は残った自分達が束になってオデイシアスに突撃する事も考えていたが、それでは美森の実力を舐めている様で失礼だなと考え直して彼を応援した。
「ここに毛利ハカセがいれば、もっと緊張を解す言葉を送れたかもしれないわね。」
そんな時、直花は毛利ハカセなる人物の事を思い出してこの場にいて欲しかったという思いをはせた。
「毛利ハカセって誰?」
雪木が首をかしげながらその人物に対する質問をした。
「かけがえのない仲間よ。」
「割とどうでもいい奴だ。」
直花が毛利ハカセを高評価した後、すぐにブライアンが逆の評価を雪木に伝えた。
「意見が別れましたね。」
アモーレは2人の意見が真逆だった事から毛利ハカセに対して好奇心が沸いた。
直花はどういう所を説明しようかと考えて毛利ハカセとの思い出を回想する。
☆☆☆
ある日の夜だった。
マンハッタンにあるジャパニーズレストランから直花とブライアン、そして紫のボブカットの髪をした紫のパーカーにグレーのズボン姿の中学生位の少年が出てきた。
少年はメカニカルなゴーグルをかけており、紫色の濃いバイザーで瞳が確認できなかった。
そして大きな特徴は背後に4本のアームが付いた独特な車椅子に乗っていた事だった。
椅子かけにはレバーが付いており、それで車椅子を自力で操縦している様だった。
この少年こそが毛利ハカセである。
「ここのレストランいいですねぇ~、カルビ丼をお持ち帰り出来るなんて~。」
毛利ハカセは間延びした口調でアームの一本に持たせている袋を眺めて喜んでいた。
この袋の中にはレストラン自家製のカルビ丼の入ったプラスチック製の弁当箱があったのだ。
「お前は本当に大食いだな。」
「彼の場合は仕方がないわ、消化器官が発達し過ぎて満腹にならない体質だもの。」
ブライアンは食欲旺盛な毛利ハカセに呆れた後、直花が彼の体質に触れて注意をした。
毛利ハカセには何か訳ありな事情が隠されていそうだった。
「人はぁ~、食べなきゃ死んじゃうんですよぉ~、ブライアンさん。」
毛利ハカセはブライアンに当たり前とも言える指摘をした。
「お前の言ってる事も一応正論だが……所でお前って……死んだ想い人の事はどう思っているんだ?」
ブライアンは毛利ハカセの正論に返す言葉が無くて一本取られたと思った後、話題を変更した。
「シンディの事ですかぁ~? お墓に行きたいと思った事はありますがぁ~……こんな虚弱な今の自分じゃ合わす顔がありませんねぇ~……」
毛利ハカセは長い黒髪に白いカーディガンにピンクのワンピース姿の小学生位の少女を頭に思い浮かべた。
その少女がシンディという毛利ハカセの想い人だった。
「私がその娘のお墓の前で歌ってあげてもいいけど。」
直花は自分も墓参りに同行してシンディの墓に安らぎの歌を送りたいと申し出た。
「それも嬉しいと思うんですけどぉ~……霊園に行くには心のぉ~、準備が必要ですねぇ~……」
毛利ハカセは直花の気持ちに感謝して、取りあえず墓参りには行っておこうと考えを改める事にした。
それでもやはり緊張した様子だったが。
「はぁ……ヴァイオレットも聖女だったら良かったってつくづく思う……」
ブライアンは毛利ハカセからシンディが心優しい少女だったと聞かされていたらしく、ヴァイオレットも腹黒い本性が無かったら自分も幸せだったとため息をついてしまった。
「人生色々って奴ですよぉ~、僕も~シンディへの未練を断ち切って大好きなラーメンのスープの研究に勤しみたいって思ってますしぃ~。」
毛利ハカセはブライアンに気を落とすなと助言した後、自分も先立たれた女性への未練を乗り越えてやりたい事をやりたいという想いを語った。
ちなみに毛利ハカセのやりたい事とはラーメンのスープの研究だった。
婦人バックやテニスラケットといった食べ物ではない物からも出汁を採って、究極に美味しいスープを研究したいと思っていたのだった。
「この間も言ったが、お前のそれは恐ろしく無駄な研究だと思うんだが……」
ブライアンは毛利ハカセの研究があまりにも下らなくて呆れた表情になった。
☆☆☆
「彼もまた、暗い過去を持ちながらも前向きに生きたいと考えている人物なのよ、ちょっと天然で抜けている所があるけれど。」
毛利ハカセとの思い出の一部を回想した直花は、彼がどんな人物かを簡単に説明した。
「それはまたお強い方なのですね。」
アモーレは取りあえずは毛利ハカセは過去のトラウマに負けない人間なのだと読み取った。
「確かに精神的に強い所はあるかもだけれど、でもアメリカに置いて来て良かったぁ、あいつ場違いな所で笑い取ろうとするから。」
ブライアンは一応毛利ハカセにも認めている一面はあったのだが、苦手な面もあったらしく日本に連れてこなかった自分の判断は正しいと思っていた。
「随分と賑やかに会話してるなぁー、俺も混ぜてくれないか!?」
その時、館内の奥から声が鳴り響いた。
一同は奥の方を注目すると、大広間の階段からオデイシアスが降りて来た。
彼の右手には4枚のパズルカードがあった。
「やっぱりこの洋館がラストステージの様だな、とっとと戦いを始めるぞ!」
オデイシアスの登場と共に表情を強張らせ、戦闘態勢に入る。
「そうだなぁ、特にお前と話す話題は無いし、3階の寝室に人質のガキ共を捕らえてる事だけ説明しましょうかね、じゃあ俺も本気で行かせて貰うぜ!」
オデイシアスはゲームのラスボス前のデモシーンの様に長話をするのは面倒に感じ、自身の身体のオーラを上げて早速本領発揮に入った。
オデイシアスの身体は黒い液状に変化して瞬く間に巨大化し、黒いムカデの姿となった。
美森装甲態は数十mはありそうな敵の巨大さに怯みそうになるが、すぐに懐中時計を取り出して装甲態へ変身し、剣を持って突撃した。
「て―――りゃ!!」
美森装甲態の剣がオデイシアスの頭上に直撃する。
身体の巨大さ故に攻撃をかわせなかったオデイシアスであったが、その分耐久力は高かったらしく何事も無かったかの様に頭突きで美森装甲態を押し倒した。
「ぐうっ!!」
美森装甲態はすぐに体制を立て直して地面に着地した。
「あっという間にヘタレたりするなよ? 俺の実力はまだ徐の口だからな!」
オデイシアスは余裕に満ちた口調で美森装甲態を挑発した。




