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72話 霊園の歌姫33

ブライアン装甲態は迫り来る蟻の悪魔達を次々と格闘で蹴散らしていった。

彼の繰り出すパンチや飛び蹴り等はキレが良く戦いを観戦していた直花以外の一同は深く感心した。


「格闘術のセンスはピカイチね、あの子。」


雪木はブライアン装甲態に抱いた感想を口にする。


「ただ殴ったり蹴ったりしてる訳じゃないわ、殴った瞬間に敵にオーラを与えているのよ、彼に殴られた相手は力がみなぎって気分も良くなるわ。」


直花はブライアン装甲態の拳は普通の攻撃とは訳が違う事を解説した。


「え? 敵に力を与えては逆効果なような……」


アモーレはそれではまるで敵に塩を送っている様ではないかと意見する。


「そうでもないわ、急激なオーラを与えられた敵は頭もハイの状態になっている事もあって身体が上手くそれを分解できず、結果……」


直花が解説を途中で中断すると、ブライアン装甲態の拳を何発も浴びた蟻の悪魔達は突然苦しみだし、次々と爆発して行った。


「あの通り身体の限界を超えて爆発してしまう、例えるならお酒は1杯飲んだ位なら気分が良くなる程度で済むけど1度に何杯も飲むのは危険って事ね。」


直花は敵にブライアン装甲態のオーラが送り込まれる状況はアルコールが身体に多量に注入される様な物だと比喩した。


「分かる様な分からない様な……」


美森はブライアン装甲態が持っている能力は少しややこしく、理解が難しくて困った表情になる。

そんなやり取りをしている間にブライアン装甲態は変身を解いて美森達の元へ歩み寄って来た。


「まぁ、ざっとこんなモンだろ。」


ブライアンは得意気な様子で自分の実力をアピールした。


「ありがとう、君って結構鍛えてるんだね。」


美森は能力はややこしくても実力は素直に凄いと思ってブライアンに礼をした。


「格闘技は好きだからな……それじゃあボスの元へとっとと行こうぜ。」


ブライアンは美森の礼の言葉を何食わぬ顔で受け止めた後、オデイシアスの元へ向かおうと一同に呼び掛けた。


「はい、ですがその前にちょっとお尋ねしたい事があるのですが……」


そんな時、アモーレはふとブライアンの疑問に思うポイントを見つけて彼に質問しようとする。


「なんだ?」

「先程から笑顔をみせておりませんが、その……何か人に言えない訳があるのですか?」


さりげなく質問の内容を尋ねるブライアンに、アモーレは彼の表情がムスッとしたままでまだ笑顔を見せていない事に触れた。

アモーレは300年前は城の中の裕福な暮らしで不幸な境遇に出会わなかった人生を歩んでいたため、他人に笑顔を見せない者の心境が人一倍気になったのだった。


「……確かに訳がある、気が付くとそんな表情を作るのが難しくなっていた。」


ブライアンはあまり答えたくない質問を問いかけられたらしく少し戸惑った様子になり、そしてせめて会話は成立させようと思って質問の答えらしい返答をアモーレに返した。


「そうですか……私は裕福な育ちで……辛い過去をお持ちの方を見るとそんな自分に時折罪悪感を感じるんです。」


アモーレは以前一緒に居たロンリネスも自分には明るく接していたが1人の時は遠い目をしていて何処か闇を感じさせる一面があり、そして今ここにいるブライアンも闇が深そうだと思って運よく不幸知らずな王族に生まれた自分が嫌になってしまった。


「あんたの気持ちは察した、だが気にする必要は無い、俺はこれでも今の自分は幸せな方だと思っているから。」


ブライアンは今の自分が不幸だとは思わない様にしているらしく、幸福な家庭に生まれたからと言って逆に罪悪感を抱く必要は無いとアモーレを励ました。


「ブライアンだって笑顔を見せた相手はいたわ、私の口からは深く言わないけど。」


直花はブライアンも笑顔を許した相手がいた事を匿名でアモーレに伝えた。

直花が頭の中に思い浮かべたその相手とはヴァイオレットだった。


(笑顔はヴァイオレット使用なのね、ヴァイオレットも自分は両親を亡くして孤児になって不幸だと思っていたのかもしれないけれど、こうして純粋に愛してくれる人がいてある意味彼女は幸せ者ね。)


直花は心の中でブライアンを騙して貶めようとしたにも関わらず、当のブライアンから愛されているヴァイオレットは不幸じゃないと感じていた。


「へぇ、心を許せる相手もいたのですか……勉強になりました、私の話しは以上です。」


アモーレは辛い環境の中でも心を許して優しく接する事が出来る人もいるのかと思い、庶民の心境を少し知れてホッとしながら話しを切り上げた。

そして一同は江戸時代風のフィールドを跡にした。









来た道を戻った美森達一行は向かいの道へ進んだ。

進んだ先の扉を開けると、そこは辺り一面黒い岩で覆われたフィールドだった。

行く手はグツグツと音を立てるマグマの湖になっており、火山地帯の様な場所だと一同は思った。

そしてマグマの先には黒く聳え立つ洋館があった。


「1885年にファミコンで発売されたゲームに『碧眼の勇者』っていうタイトル通り碧眼の目を持つ少年が魔王を倒すために仲間を集めて旅をするRPGがあったわ、そのゲームのラスボス一歩手前のステージがこのマグマのフィールドなのよ。」


雪木はこのフィールドも今までに例に洩れず昭和絡みなのだと解説した。


「昭和の物に詳しいわね、マニアなの?」


直花はジャングルのフィールドの時も江戸時代風のフィールドの時も得意気に解説を行った雪木は昭和の文化に興味があるのかと感じた様だった。


「小学校の頃から昭和初期に使われていた電話とかに関心を示して、戦後から自分が生まれるまでどういう文化があったのかを調べて……こういうのって一度調べるとハマっちゃう物なのよ。」


雪木は昭和に使われていた道具や有名だった絵画、発売されてたゲームを調べてるのは個人的な好奇心なのだと語った。


「確かに昭和の文化も魅力がありますね、僕も給食で牛乳の代わりに出ていた脱脂粉乳がどれだけ不味いのか気になりますし、それはさておきゲームだとどうやってこのマグマを進んでいたんですか?」


美森は雪木の昭和の文化への興味が分かる気がすると感じた後、先へ進む方法を尋ねた。


「ゲームだと実は序盤の頃に来れるフィールドなのだけれでも後半で『吹雪の珠』っていう辺りに吹雪を起こせる宝玉を手に入れないと先へ進めないシステムになっているのよ、そのアイテムでマグマを凍らせる訳ね。」


雪木は自分が調べ上げたゲームの攻略法を思い出し、美森に語った。


「凍らせる……どう考えても僕が役に立ちますね……皮肉な事に。」


美森は恐らくこの先でオデイシアスが待っているであろうと予想し、そしてゲーム通りにキーアイテムを手に入れなくても自分の能力でマグマをどうにか出来そうなこの状況を皮肉に感じた。

オデイシアスとの1対1の決戦を行う自分がその一歩手前で役に立ってしまうからだ。

そして美森は右手をマグマの前にかざし、オーラを込めた。

美森のオーラは氷の性質になってやがて吹雪を作り出し、あっという間にマグマの湖を冷気で冷やしていった。


「私達は貴方の戦いに手出しはしない、勿論貴方1人で戦う事は不安ではあるけれど……健闘を祈るわ。」


直花は万が一美森がオデイシアスとの決戦でピンチになった時は助けたいと思ったが、過去の経験から何があっても自分は戦いに介入出来ないと自問自答していた。

故に美森の勝利を祈る事だけをした。


「ありがとうございます。」


美森は直花の気持ちを受け取って礼をして、そして雪木の方を見つめる。

雪木も緊張感を漂わせた深刻な眼差しで美森を見つめ、無言の応援を送っていた。


「後ろから追手が来たぞ、無視して進もうぜ。」


そんな時、ブライアンは背後の気配を感じ取り一同に注意を呼びかける。

背後からは蝿の悪魔や蟷螂の悪魔がこちらに襲い掛かってくるのが目に見えた。


「了解、一気に敵の本拠地へ突っ走る!!」


美森はブライアンの指摘通り、雑魚敵を無視して洋館に進もうと決意し、そして一同は走り出した。

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