63話 霊園の歌姫24
1
リチュオルの隠れ家を追って旧校舎にやって来た美森達だったが、そこにいたのはアイシクルだったため3人は戸惑ってしまう。
「女を連れ去ってる悪魔には一足早く逃げられたって事か?」
英夜はアイシクルからリチュオルはもういないと告げられ、自分達の捜索は骨折り損のくたびれ儲けだったのかと抗議の感情を抱く。
「そうでもないかも、フォグ曰く『明日の7時に美容院の予約を入れている』……みたい。」
アイシクルはまだリチュオルを探す希望がある事を美森達に伝える。
「その美容院って何処の?」
「サンアップルデパートの中にある美容院……だったかな。」
美森は具体的に何処の美容院に予約を入れたかを尋ね、アイシクルは記憶を掘り起こしてその場所を答えた。
「サンアップルデパート……北区にあるデパートだな。」
英夜は過去にそのデパートに行った事があるのか、場所を鮮明に把握してる様子だった。
「貴女は何故私達にそんな有力な情報を教えるの?」
直花はアイシクルが自分達に協力的な言動を取る意図が見えず、彼女にその理由を伺った。
「どちらの味方にもつかない中立な立場を満喫したい……かなぁ? 貴方達が連れ去られた女の人達をどう救出するのかを見物するのも面白そうだし……」
アイシクルが美森達にリチュオルの行く先を教えたのは良心からではなく、ただの好奇心が理由の様だった。
「見物か……ある意味魔女らしい感性だが、他に手掛かりがねー以上、お前の頼るしかねぇな。」
英夜はアイシクルの感性がイメージ通りで逆に尊敬の感情を抱いてしまい、やむを得ず彼女の情報通りにサンアップルデパートを張り込む事にした。
「それで、貴女がここにいる理由は?」
一方の直花はアイシクルが旧校舎にいる目的が気になり尋ねる。
「学校って私のいた時代には無い文化だから気になって探検したくもなる……この気持ちは分かる?」
アイシクルは自分の時代には無い文化があれば調べたくもなると語り、直花に自分が同じ立場ならこんな気持ちにならないかと問いただす。
「まぁ……理解出来なくもないわね。」
直花は学校がどういう所かを調べたい好奇心に関しては理解出来たらしく、納得してしまう。
「例え元いた時代に戻れたとしても迫害されるのがオチ……だからこの時代で平和に生きていたいと思うのよ……」
アイシクルは自分の心境を軽く語った後、ずっと指で挟んでいたイーグルドローンを直花に投げ返した。
直花はイーグルドローンを雑に扱うアイシクルに不服を抱きながらも、投げ返されたイーグルドローンをキャッチした。
「でもどうしよう……女性を連れ去っている悪魔が美容院に予約を入れた時間とオデイシアスが決戦に指定した時間が被っている……」
美森はリチュオルとオデイシアスを2人同時に倒すのが難しい状況である事に気づき、焦りを抱いてしまう。
「チーム分けするしかねぇな、滝内も明日の戦いに参加するらしいし分担して行動する事はかのうだろ。」
すると英夜はオデイシアスを倒すチームとリチュオルを倒すチームに別れようと提案する。
「だったら帰って話し合いましょう。」
そして直花はもう旧校舎に用が無いため帰って作戦会議に取り掛かろうと提案した。
「待って。」
そんな時、アイシクルは立ち去ろうとする美森達を呼び止めた。
「どうした?」
英夜は面倒くさそうな表情でアイシクルに呼び止めた理由を伺う。
「私の事はどう思う? 恐い?」
アイシクルは先程から自分達が何気ないやり取りをしているのを感じて、美森達が自分という存在をどう捉えているのかが気になった様だった。
「どうって言われてもなぁ……昔は村人達から恐れられていた魔女だからそんな質問をしたくなる気持ちも理解できるが、俺達はその時代の人間じゃねぇしあんまり恐いっていう印象沸かねぇな……お前がこの先街に危害を及ぼす気がないのなら問題ねぇと思うしな。」
英夜はアイシクルが昔と同様に街を滅ぼそうと考えているのならとっくに実行しているだろうと解釈しており、本人が静かに暮らしたいのなら深く介入しないでいた。
「今の所貴女からオーラを感じない……多分貴女は強大なオーラを押し隠しているんだろうけど……強大な力を持っているかこそ迫害されて1人ぼっちだった、だから自分の力を封印して人間社会に溶け込もうとしているんじゃないの?」
直花はアイシクルの心理を自分なりに分析して、彼女はこの先無害な存在でいたいのではと思っていた。
「うーん……当たってるかも……」
アイシクルは直花に図星を突かれたらしく、右の揉み上げをいじって恥ずかしそうな態度を取る。
それでも表情自体は無表情のまま変わらなかったが。
「君の力がどれ程の物かは僕等からしてみれば未知数、村人達がオーラ使いでないとしたらその気になれば誰でも村を滅ぼせるかもしれないけれど、オーラナイト達が手こずって倒せず封印する事しか出来なかったのだとしたら確かに君は相当なオーラ使いなのかもしれない……でも自分の強さに葛藤があったのなら自分の事を誰も知らないこの現代でごく普通に生きて行くのも悪くないと思う。」
美森も直花同様、アイシクルは現代社会において特に害の無い存在なのではと思っていた。
「……随分と分かった様な事を言ってくれるね……でも確かにこの街を滅ぼしても何か得する事がある訳でも無い……貴方達の活躍を安全圏からゆっくり見物させて貰うよ……」
アイシクルは自分が街を滅ぼすメリットは特に無いと美森達に語りながら窓の方へ歩き出し、そして遠い目をしながら青い空を見上げた。
美森達はアイシクルはこれ以上自分達に何かを語りかける事は無いだろうと判断して図書室から立ち去って行った。
2
ハルカの病室。
そこでハルカは唇に赤い口紅を塗り、胸の谷間が見える赤いノースリーブのシャツに黒いミニスカート姿で見舞いに来ていたロンリネスに抱きついた。
ロンリネスはハルカに抱かれて心地よさそうな表情になりながら彼女を抱き返した。
「ロンリネスも変わってるね、突然私に肌がスケスケな服を着させるなんて、まぁこの間水着を着させてくれた事も嬉しいと思うけど。」
ハルカに露出度の高い服を着てくれと頼んだのは他でもない、ロンリネスだった。
しかし入院中でお洒落を楽しめない身である自分に色々な服を持ってきてくれる事自体は嬉しいと感じていた。
「ハルカを退屈させない為よ、それにハルカの肌は綺麗なんだからもっとそれを生かしたいのよ。」
ロンリネスは入院中のハルカに退屈をさせない工夫をしてるのだと告げると、彼女と口づけをかわした。
5秒程の硬直の後、2人は唇と抱き合っていた腕を解いた。
「それにしても、今日はなんだか眠い……結構遅くに起きた筈なんだけど……」
ハルカは右目を擦りながら眠気を感じる。
「まぁ……そういう時だってあるんじゃない……」
ロンリネスはハルカが眠気を感じる理由を知っている様で、それを誤魔化す様に苦笑いをした。
「ふーん……退院したらロンリネスと一緒にジョギングをした方がいいかなぁ……」
ハルカはぐっすり寝た筈なのにまだ眠いのは入院してて身体が鈍ってるせいなのかと思い、退院後はロンリネスと共に運動する事を考える。
「ああ、いいかもそれ……私が最も信頼してるのはハルカだから……」
ロンリネスはハルカと共にジョギングをするのも悪くないと思った後、少し切なげな表情になる。
「ロンリネス……」
「さ! 今のその格好をバッチリ写真に収めないと!」
ハルカは突然表情を変えたロンリネスを心配するが、当のロンリネスは気持ちを切り替えハルカの服装を写真に残そうとスマホを取り出した。
ハルカはロンリネスの事が気掛かりになりながらも、色々とポーズを考えて撮影の準備に入る事にした。
3
翌日の夕方6時55分。
美森、雪木、直花、アモーレの4人はオデイシアスが指定したグリーンパール博物館へとやって来た。
残りの英夜、胡桃、リコの3人はリチュオルが予約を入れたサンアップルデパートの中にある美容院へと向かっており、チーム分けはそれで決まった様だった。
「本当にこの戦いに同行して良かったの?」
雪木は自分達に同行して来たアモーレに心配そうな表情で語りかける。
「はい、私のオーラはパワータイプ、十分に戦闘でも役に立ちます。」
アモーレは雪木の家に居候する以上、自分も出来る限りの事がしたいと思ってこの戦いに同行した様だった。
自分のオーラのタイプが戦闘に適していたため尚更都合が良かったのだ。
「敵がどんな罠を仕掛けているのか分からないから、一応気を付けて。」
「はい!」
美森はアモーレに用心をしておく様に警告し、彼女は元気よく返事をした。
そして美森は改めてオデイシアスとの決戦に緊張感を抱き始める。
1年前に復讐を誓った相手をようやく倒せる機会が訪れた、しかし果たして自分は無事にオデイシアスを倒すことが出来るのだろうか、一昨日の様にまた一手食わされるんじゃないかと不安が過ってしまう。
そんな時、直花が美森の左肩に手を触れた。
「もっと自信を持って、亡くなった恋人に誇れる人間になるんでしょ?」
直花は美森が今どういう人間になりたいのかを改めて問いただし、彼に勇気を送った。
「そう……ですよね……もっと前向きに考えないと!」
美森は自分の緊張を解してくれた直花に感謝し、弱気な心で戦いに挑むのは自殺しに行くも同然、前向きで強い意志を持って戦いに挑んでこそ勝算が見える物だと考えを改めた。
「さぁ、博物館に入り込むわよ!」
雪木は美森が強気になったのを確認すると、その場にいる一同に博物館に入ろうと呼びかけた。




