60話 霊園の歌姫21/直花の応援歌
1
翌日の早朝、直花はオデイシアスと戦った公園に美森と雪木を呼び出していた。
「ふぁあ……こんな朝早くに呼び出して何の用よ?」
雪木は欠伸をしながら直花に用件を尋ねる。
「呼び出したのは……大した理由じゃないの、ただ貴方達を見て自分の心境が変化していっただけ。」
「変化?」
直花は顔を俯かせながら呼び出した理由は大事があるからではないと、申し訳なさそうに語り始め、美森は彼女の話した単語の意味が分からずキョトンと首を傾げた。
「私にとって、過去は振り返れば自分を弱くするだけの代物だと思っていた……でも先の天城英夜と幽霊少女の件……そして貴方達の過去の意外な接点を知っていく内にたまには自分の過去を貯めこまずに吐き出すのも悪くないかと思ったの。」
直花は英夜とリリカの何年経ってもちぎれなかった絆、そして高井という人物が美森と雪木両方に関わりがあるのを知るにつれて、他人に話すのが好きではなかった自分の過去を打ち明けたくなってきた様だった。
「そうなの? ていうか私達はあんたの昔話を聞かされるために呼び出された訳……」
雪木は直花の用件が本当に些細だと思って呆れてしまう。
「私もいいタイミングが思いつかなかったのよ、悪かったわね。」
直花も話をしたくても効率の良い時と場所を選べない自分の意外な不器用さを体感して少し落ち込んだ表情になる。
「いいじゃないですか、僕は聞きたいですよ、雑賀さんの過去。」
美森は何はともあれ直花が自分達に心を開いた事が嬉しく感じ、彼女の身の上話を聞きたがる。
「じゃあ早速語るわ、私は幼い頃から歌姫としての使命を母から教えられた、歌う事自体は別に嫌じゃなかったから抵抗は無かった……学校の合唱コンクールでも健気に歌声を鍛えたわ……11歳の時にはアメリカのコンサートで初めて大勢の前に私一人の歌声を披露した事もある……そして15歳の時、同級生の祖母が病気で亡くなって、その時に初めて死者への弔いの歌を歌ったわ……その同級生は泣いていた……祖母が亡くなって悲しいからでもあるのだけれど、オペラ歌手を目指していた娘だから自分ではなく私の歌で弔った事に嫉妬して悔しかったからでもあったの……私の家系が特殊で歌姫と言っても畑違いだからそれは仕方ない……そう自分に言い聞かせても、心の中では罪悪感で押し潰されそうだった……その時母が私と同級生の娘にこう言った『大切な人の死を悲しむよりも、大切な人の分まで自分が懸命に生きる事が大事なの、誰かを妬むよりも自分が幸福に生きる事を第一に考えなさい』って……同級生の娘との溝が埋まった訳じゃないけど、私達は少し気持ちが楽になった、母はカウンセラーをしてるから同級生の娘にもしばらく心の支えになってくれた……次第に私が歌で慰めるのは死者だけじゃない、生きてる人の力にもなりたい、そう思えて来た……というのが私が心に秘めている想いよ。」
直花は自分の過去を語って不思議と心が穏やかになったのか、優しい表情になっていた。
自分の過去を人に打ち明けるのも悪い気分ではなく、新しい体験をして自分は一つ大人になったという達成感が芽生えていた。
「へぇ、いい話じゃない、呼び出された時は何考えてんだかって思ってたけどあんたの話を聞いて少しほっこりしたわ。」
雪木は直花の過去を知って普段は強がっている彼女もたまには自分の弱さを語りたい時があるのだなと感じて直花を称えた。
「雑賀さんの過去も分かったし、これで改めて雑賀さんも僕らの仲間だなって感じました。」
美森は直花が自分達に過去を吐き出した事で、彼女の抱える物も少し軽くなってのではと思えてにこやかな表情になった。
「私も正直どうしたんだろうって思うわ、アメリカではブライアンと、日本では貴方達と関わるにつれて自分の強がりな気持ちが次第に溶けていったのかも……」
直花は他人と関わるにつれて自分の心が変化していく事に戸惑っていた、しかし同時に気持ちのいい体験だとも思っていた。
「まだ会って間もないからあんたの事はよく分からないけど、今までよりは素直になってると思うわ。」
「そう……所で私は過去の経験から死者を弔う歌の他に生きてる人間にエールを送る歌を作詞したの、聞いて頂戴。」
雪木は直花に高井との思い出を甦らせてくれた経験もあってか彼女を認め、対する直花は唐突に自分が作詞した歌を披露しようとする。
「これまた唐突ですね。」
美森は直花の突拍子もない言動に唖然としてしまう。
「明日の戦いに向けて勇気を付けた方がいいと思ったのよ、行くわよ……うー♪ いーまーというー♪ うー♪ きーぼーう抱ーいーてー♪ 生きてーたーいせつな人ーとー♪ 出会ったりー永遠に別れたりもするけどー♪ マイペンライ、マイペンラーイ、愛する気持ち、それを持ってれーばー♪ しあーわーせーだーよねー♪ 花のー様に美しいきーみー♪ この手ーでー必ーず守ってーみせるー♪ マイペンライ、マーイペンライ、荒波越えー出会ったーのーだーかーらー当然ーのー感情ー♪ 甘い甘ーいモンブラーン、みたいなキスをしーてー♪ 泣いたーり笑ったーりそんな人生を、す・ご・し・た-い♪ あー、心の花がー綺麗に咲いてー君を何処へでも連れてーゆけるよー♪ 暗いやみーよーを照らそう♪ 放て心から嘶けライトニングパラーダイスー♪ めーそめそ悩まずー突き進めばー見えるスターライトロード♪ ぼーくが君をー守るー優しい風ーになーるよ♪」
直花は普段のクールな態度からは想像がつかない歌を笑顔で歌い切った。
「なんというか……貴女でも楽しそうに歌う事が出来るのね。」
雪木はよくここまで歌詞が思いつけた物だと直花を感心する。
「私だって歌で人を楽しませたいって思う時位あるわ。」
直花は職業柄悲しい場面でしか歌う事が出来ないのかと葛藤する時も有り、それで明るい歌を考えたのだった。
「感謝します、昨日は連敗してましたから内心落ち込んでる部分もあったんです、でも今の雑賀さんの歌で心が晴れました。」
美森は直花の歌が気に入り、歌で気を晴らしてくれた彼女に感謝した。
「さて、そろそろ戻りましょう、お腹も空いたし。」
雪木は朝食をまだ食べていない事に気づき、2人に帰って食事を摂ろうと提案する。
「そうですね、今日も美味しい朝食を作ります。」
美森は直花の歌を聞いた事で今日の料理に自信を持っていた。
そして3人は公園を跡にして歩き出した。
2
美森達が直花の歌を聞いていた頃、ロンリネスは別の場所で赤のジャージ姿を着てジョギングをしていた。
そんな時、ロンリネスは何かの気配を感じて足を止めた。
辺りをキョロキョロと見渡すが人影は何処にも見当たらない。
それでもロンリネスは警戒を怠らず、拳銃を取り出した。
「そんなに警戒する事ないんじゃない? なんだか悲しい。」
ロンリネスの背後で声が聞こえ、彼女は振り返ってバックステップをした。
声の主は緑色の長い髪をツインテールで束ねた赤い瞳の少女だった。
少女の服装は黄色いワンピースにサンダル姿で、今は秋のため季節はずれな格好だった。
「いつか来るんじゃないかと思ってたけど、とうとう目覚めたのね、デュアル。」
ロンリネスはデュアルと呼んだその少女に険しい表情で銃を構える。
「おっと、暴力反対! 私を傷つけちゃいけない事位分かってるでしょ?」
デュアルは余裕そうな態度で、ロンリネスが自分を攻撃出来ない理由を知っていてそれを盾にしている様だった。
「あんた、今から何をする気なの?」
「そうだねぇ、取りあえずお肉が食べたいなー、ピチピチの女の子のお肉。」
ロンリネスから目的を問われたデュアルは何食わぬ表情で人間の肉が食べたいと宣言した。
「残念だけど今は朝の早い時間だからほとんどの女の子はまだ寝てると思うわ、それに騒ぎを起こされると困るのよ、そのためならあんたに多少の怪我を負わせても構わない。」
ロンリネスはデュアルの好き行動させて人食い事件を起こされるのは面倒だと考え、彼女の目的を阻止しようと拳銃を構えた。
「あはは! 冗談だよ、人間食べたい所だけれどまだ力が本調子じゃないの、だから久々の外の空気を吸うだけ我慢してあげる。」
デュアルは軽く笑いながら今は人を食べたくても上手く出来ないとロンリネスに告げた。
「冗談がキツイわよ。」
ロンリネスは少し警戒を和らげ、銃を下した。
「所でこれからデートでもしない?」
「そんな事する余裕無いでしょ? 早く病院に戻らないと看護師に気づかれるわよ。」
デュアルは調子に乗ってロンリネスをデートに誘うが、彼女はデュアルがそんな事をする程自由な身でない事を知っており、注意をした。
「あら残念、でも久しぶりに顔を見れて嬉しかった、機会があればまた会おうね。」
デュアルは仕方がないと思いながらロンリネスに別れの挨拶を告げてジャンプして高く舞い上がった。
そしてデュアルは民家の屋根に着地して、次々と屋根を飛び越えながら走り去って行った。
「やれやれ、あいつさえいなければハルカと楽にやっていけるのに……」
ロンリネスは意味深な言葉と共に引きつった表情になり、そして今の出来事を忘れようと思ってジョギングを続ける事にした。




