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6話 美森と雪木3

美森装甲態はディセントの尾による攻撃を剣ではじき返しつつ、諸突猛進で突っ込んでいく。

ディセントは美森装甲態が先程のビルの室内同様に自身の顔を連続で斬り裂いていくつもりだと悟り、後ろへ後退する。


「何度も同じ攻撃をされてたまるもんですか!」


ディセントは美森装甲態にそう言い放ち、自分の付近に落ちているビルの瓦礫を鋏で掴み、彼目掛けて投げつける。

美森装甲態は自分の方へ飛んできた瓦礫をテニスボールをラケットで打ち返すように剣をスイングさせディセントに投げ返す。

ディセントは投げ返された瓦礫を尾の針で砕き、そのまま再び尾による攻撃を美森装甲態喰らわそうとする。

美森装甲態はまたしても剣で尾の攻撃をガードする。


「くくく……何度も同じ攻撃をすると思わないでちょうだい、もう充電は完了したわ。」


しかし、攻撃をガードされたディセントは罠にかかった獲物にかけるかの様な余裕に満ちた口調で美森装甲態を嘲笑った。


「何!?」


美森装甲態はディセントの言葉に驚き、何かあると思って彼[ディセント]を注意深く観察する。

するとディセントの身体から紫色の電気があふれ出し、その電気が尾を伝ってこちらへ向かってくるのを目撃する。

ディセントの身体から放たれた電撃は坂道から流れる水の様な勢いで美森装甲態に襲いかかり、彼の身体に縄の様に纏わりつく。


「ぐあああああああ!!」


美森装甲態は咄嗟に後ろへ後退しようとするが、反応が少し遅く、ディセントの電撃を浴びて悲痛の叫び声を上げてしまう。


「水前寺!!」


美森装甲態とディセントがいる位置から離れた距離にある電柱の陰で隠れて戦いを見つめていた雪木が、電撃を喰らった美森装甲態を見て動揺して彼の名を叫ぶ。


「あたしって電撃を使えるのよね。」


ディセントは切り札はとっておくものだと言わんばかりに美森装甲態に自分の電撃を自慢する。

美森装甲態はよろめきながらも後ろへ後退していく。


「隙あり!」


ディセントはふらついて隙の出来た美森装甲態に次々とパンチを喰わらしていく。


「これでとどめよ!」


そしてディセントはとどめと宣言して再び美森装甲態に電気の帯びた尾を直撃させる。

その光景を見た雪木は美森装甲態が負けると思い目を反らす。

ビリリリリリリッという激しい電撃の音が響き渡る。

雪木は意を決して閉じていた目を開き、戦闘の様子を伺う。

雪木の目に映っていた攻撃は電撃を浴びながらも、剣を捨ててディセントの尾の針の部分を掴んでいる姿だった。


「何よあんた、しぶといわね!」


ディセントは自分の尾を掴んでいる美森装甲態の腕を離そうと抵抗しながら彼に毒づく。

美森装甲態は電撃でダメージを受けながらも振りほどこうと抵抗するディセントの尾をギュッと掴んで離さない。


「おオオオォォォりゃ!!」


美森装甲態は大きな掛け声と共に自身の身体を力いっぱい回転させる。

ディセントの体が180度回転し美森装甲態に振り回される。


「あ――――れ―――――!!」


ディセントは身体が回転し目が回り、悲鳴を上げながらも電撃で抵抗するが、回転の速度は落ちないでいた。

そして美森装甲態はディセントの尾から手を離し、雪木が隠れている電柱と反対方向の場所へディセントを放り投げる。

放り投げられたディセントはドゴ―――ンという音と共に地面に叩きつけられる。


「凄いじゃん!」


美森装甲態がディセントを放り投げる一部始終を見ていた雪木は彼に対し格好いいという印象を抱き感激の言葉を口にした。

美森装甲態は地面に落ちていた剣を拾い、再度ディセントの方へ立ち向かって行く。

ディセントも体制を立て直し電撃で対抗する。

美森装甲態は繰り出された電撃を剣で斬り払い、そして高くジャンプしてディセントへ飛びかかる。

バシュッ

その音の直後に美森装甲態はディセントの背後に着地する。

彼の剣はディセントの尾を切断した。


「ギャアアアアアアアア!!」


ディセントは悲鳴をあげながらも鋏で美森装甲態の方を振り向き、鋏で彼に攻撃する。

美森装甲態は先程パンチを喰らった際に攻撃を見切ったのか、ディセントが繰り出す右腕の鋏で攻撃したのをかわした直後、左腕の攻撃がくる前にディセントの右腕を剣で切断する。

そして美森装甲態はディセントが完全に怯んだのを見てとどめと言わんばかりにディセントの額に剣を突き刺した。

美森装甲態が剣を抜いた直後、ディセントはぐったりとして動かなくなった。


「お前に聞きたい事がある、昨日列車の中で僕を襲撃した傀儡人形達はお前が送り込んだのか?」


美森装甲態はディセントの顔が僅かにヒクヒクと動いているのを見てまだ息があるのを確認し、彼に尋問をしようと判断した。


「違うわよ、犯人を探したきゃ自分で探しなさい。」


ディセントは負けた悔しさからか、美森装甲態にドライな受け答えをする。


「雪木さんを狙ったのは何故だ? 彼女が半天半魔だからか?」


美森装甲態は自分はともかく雪木を狙った理由なら答えてくれるかと思い、ディセントに引き続き尋問を続ける。


「ええ、最初はあんただけを狙うつもりだったけど一緒にいたあの娘から半天半魔の気を感じてゾッとしたからね。」


ディセントは最初は雪木が半天半魔である事は知らなかった様だが、異端な存在を見つけたため彼女も殺そうと考えたそうだった。


「それだけか?」

「そうね、あんたもあんな紛い物の糞アマと付き合ってるなんて物好きね。」


ディセントは負け惜しみをするかの様に雪木を侮辱した言葉を美森装甲態に浴びせる。

その直後、美森装甲態の剣が再度振り下ろされ、ディセントは顔面を真っ二つにされ絶命する。

美森装甲態は変身を解き、雪木の方へ歩み寄る。

美森は歩いている最中、今しがたディセントが発した雪木への侮辱の言葉を脳裏に浮かべ、そして自分にとって雪木はどういう存在なのか。

美森は雪木をまだ完全に好きになった訳ではない、今でもまだ死んだ高井の方へ想いをよせている。

ひょっとしたらただ自分は都合よく甘えられる女性が欲しいだけなのかもしれないから、高井の代わりとして雪木を求めてるのかもしれないという考えもあった。

しかし雪木を高井の代わりではなく、1人の女性、雪木蛍として真剣に愛したいという気持ちも存在した。

だから先程ディセントが雪木を侮辱した際、ディセントに対し怒りの感情を抱き刃を振り下ろしたのだ。

しかし自分と雪木の立場は使用人とその雇い主、一線を超えるのはどうかという関係だった。

そう考えると美森は人に恋をするとはどういう物なのか、時として許されない恋もあるのかと思い複雑な心境になる。

美森は頭の中で色々と考えている内に雪木が自分の正面まで近づいて来た事に気づく。


「お疲れさん。」


雪木は微笑みを浮かべながら戦いを終えた美森に感謝の言葉を送る。


「どういたしまして。」


美森は雪木に対する想いの考えを一旦中断して、彼女にお礼を返す。

美森は赤いカーディガンとロングスカートのピンクのワンピースに服装を変え、自分に微笑む雪木が可愛らしく見えた。

眼鏡をかけた真面目そうな看護師である高井とはイメージは違うが、美森は今の雪木の容姿を大変気に入った。


「えーと……今日は散々な一日だったわね。」


雪木は美森にどんな言葉をかければいいのか分からず困ったのか、取りあえずディセントや下級悪魔に襲われた感想を口に溢す。


「ええ、こんな事に巻き込んでしまって申し訳ないです。」


美森は雪木に戦いに巻き込んでしまった事を深く謝罪する。


「別に深くは気にしてないわ、私はこういうのもう慣れたし……半天半魔の身だから仕方がないって思ってるの。」


雪木は半天半魔の身に生まれた事を呪っているのか、悪魔達に自分が異端の存在として襲われるのは当然だと思っていた。


「そんな事ないです、生まれた種族のせいで命を狙われるなんてあまりにも理不尽です。」


美森はネガティブな発言をする雪木を見て忍びないと思い、前向きに物事を考える様説得する。


「そう思ってくれるとありがたいけど、悪魔達はあんたみたいな考えはしてないの、そりゃ私も理不尽に感じる事はあるけど宿命と思うしかないのよ。」


美森から励ましに近い言葉を貰った雪木だったが、彼女は自分を狙って来る悪魔は皆美森の様な優しい考えは持っていないと自分が狙われる運命を諦めている様だった。


「それなら尚更僕がお守りします、これも宿命です。」


しかし美森は雪木自身が悪魔に狙われるのが宿命と捉えているのなら自分も彼女を守って行く事を宿命とすると宣言する。


「本当かなぁ~?」


雪木はニヤリと笑いながら美森が口だけで『自分を守る』と言っているのではないかとからかう様に疑う。


「嫌だなー、僕は真面目だし本気ですよ。」


美森は困った顔をしながら雪木に自分の言葉を信じてくれと願い出る。


「ま、あんたに期待する事にするわ! それよりも私の今の服装、気に入った?」


雪木は先程のディセントとの戦いから美森も中々強い男だと感じ取り、彼の言葉を信用する事にする。

その直後、雪木は話題を変える様に自分が今着ている服装は気に入ったかどうか美森に伺った。


「今の服装ですか、ええ気に入りました、何というか……使用人の身である僕が言うのもおこがましいですが、これからもその服装でいてくれませんか? 前より可愛いと思います。」


服の事を聞いて来た雪木を見て美森は先程自分が感じた感想を聞いて来てくれて嬉しく感じたのか、自分の思った事をありのまま彼女に伝える。


「きっぱり言うじゃん、でもお望みとあらばそれでいいよ、高校時代はこんな感じの服だったし、こっちの格好の方が結構気に入ってるしね。」


雪木は今の服装の方が自分のお気に入りだったためか、美森のお願いに然程抵抗がなかったのか、素直に彼の希望通り今の服装を続けると宣言した。


「大学に入ってからイメチェンしたんですか?」

「まあね、でも次第に高校時代と比べると地味だなーって感じて戻したの、あんたとデートする時がいい機会だと思ったわ。」


雪木は大学に進学してから大人っぽい服装に変えようと考えたらしいが、途中で地味だと感じて美森とデートをする際に戻したそうだ。


「そう言ってくれると何だか嬉しいです、貴方をデートに誘って良かった。」


美森はほとんど勢い任せで雪木をデートに誘ってしまったが、今こうして彼女と楽しげに話せてるのを感じて、彼女とデートをして正解だと思い満面の笑みになった。


「まったく……」


雪木は美森が唐突にデートに誘ったりと調子が良すぎると感じニヤけるが、結局自分も途中から自分も彼とのデートを楽しんでおり、何だかんだと言って自分はその場のノリに合わせられる性格なのだなと感じた。

美森と雪木が会話を弾ませている内に結界が消え、2人は現実世界へと戻される。

現実世界へ戻れたの事に気づいた2人は結界で派手に暴れて壊したのに何事もなかったかの様に修復されているビル、広場を何食わぬ顔で歩いて行く通行人達、そして少し日の暮れてきた青と黄色の混じった空を見上げながら現実世界へ戻って来た事にホッとする。


「戻れたみたいね。」

「はい。」


2人はお互いに微笑みを浮かべて見つめ合いながら結界から戻れた嬉しさを口に溢す。


「……ねぇ、嫌な事を思い出させる様で悪いんだけど、高井さんがどういった殺され方をしたのか聞かせてくれない?」


結界の中から戻れた後、雪木は何を思ったのか美森に高井の死因を聞き出そうとする。


「……診察室で左胸を引き裂かれて死んでいました、多分刃物の様な武器や身体の部位を持った悪魔に殺されたんだと思います。」


雪木の質問に美森は高井が死んだ時の状況を思い出して凍り付いた表情で沈黙してしまうが、もしかしたら雪木はそれを聞いて心当たりのある悪魔がいれば教えてくれるのではと解釈して彼女に高井の死因を伝える。


「成程ね……剣を持っていたり身体を刃物みたいに変えたりする悪魔って少なくないよ、探し出すのは骨が折れるかもしれない。」

「でしょうね……でも占い師をしている母さんはここに来た方がいいと言ってました、今はそれに懸けるしかありません。」


雪木から刃物に関係した能力を持つ悪魔は限られていないと聞かされた美森は確かに高井を殺した悪魔を探すのは大変だろうと思うが、しかし母親からグリーンパールに行けば仇に会えると占ってもらったため、この街で虱潰しに探してく決意を持ってると彼女に宣言する。


「あんたのお母さんは占い師をしているんだ……もしよかったら私もその復讐に協力してあげてもいいよ、一応悪魔の血を引いてるから同胞の気配を察知する事ぐらいはできるし。」


雪木は美森の母親が占い師をしている事を初めて聞いて感心した後、少し沈黙して考え込み、そして自身も復讐に協力してもいいかと彼に尋ねる。


「お気持ちは嬉しいですが、あなたはあくまで僕を使用人として雇った雇い主、今日みたいな危険な目に合わせるのは忍びないです、それにさっきも言いましたが僕はあなたを守って行きたいんです。」


美森は雪木が先程高井の死因を聞いて来た事から復讐に手を貸してくれる気なのだろうと思ってはいたが、自分と彼女の立場が立場なために協力してもらう事に抵抗を感じてしまう。


「そう……まああんたと私ってそういう関係だし仕方ないか、それに私って確かに半天半魔で人間より生命力は高いけど運動は元々苦手で戦える程の武術は持っていないし。」


美森から復讐の協力を反対された雪木は少し残念そうな表情になるが、自分には悪魔と渡り合える戦闘能力は無く、戦いでは足手まといになりそうなので仕方がないと考える。


「取りあえず今は英夜さん達の元へ行きましょう、結界の対策も考えなくてはならないし。」


協力を断られて落ち込んでる雪木を見た美森は一先ず英夜達と再会してディセントに結界に閉じ込められた事を報告しようと彼女に持ち掛ける。


「了解、引き続き悪魔達から私を警固してね。」


雪木も一先ず美森の意見に賛成し、彼にまた別の悪魔に襲われない様自分のボディガードを怠らないよう願い出る。


「勿論です。」


美森は一日に何ども戦う破目になるのは大変だと感じながらもこれもオーラナイトの仕事だと自分に叩き込み、雪木に軽く返事をした後歩き出す。


(こいつの事をまだ完璧に好きになった訳じゃないけど……ま、似たところはあるし今度は私がデートに誘ってあげてもいいかな?)


雪木は心の中で女々しい一面のある美森をまだ完全に好きになれずにはいたものの、オーラナイトの家に生まれたが故に周りから特別扱いを受けるのに抵抗を感じている彼に半天半魔の身であるために周りに正体を隠して人間のフリをして生きてきた自分とシンパシーを感じた所もあるため、またデートをするのも悪くないかと思いながら美森の後に付いて歩き出した。

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