58話 霊園の歌姫19
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美森装甲態達3人は再度フォグ装甲態へと立ち向かう。
フォグ装甲態は3人同時の突進を両腕で受け止めた。
「さっきはしくじったが今度こそテメーを押し切ってやる。」
英夜装甲態は薙刀を力一杯押し込みながら勝利宣言をする。
「人生は思った通りにいかないものだ。」
しかしフォグ装甲態は余裕と冷静さを感じさせる台詞を英夜装甲態に返した。
その直後、美森装甲態達の身体から緑色のカビが発生した。
「なっ!? このカビは昨日の!!」
英夜装甲態は昨日ジルと戦っている最中に沸き出したカビを思い出し、カビ使いの正体はフォグ装甲態なのだと理解した。
「マズい、離れるわよ!!」
直花はこのままではカビに身体を侵食されてしまうと判断して美森装甲態達にフォグ装甲態から距離を取る様指示した。
3人はバックステップで早急にフォグ装甲態から離れた。
「俺に近づけばカビの餌食に、離れたとしてもこの矢の餌食だ!」
フォグ装甲態は自分から離れた3人に順番にボウガンの矢を放った。
3人は放たれた矢をかわそうとするが、やはりフォグ装甲態の意志で操られた矢は軌道を変えて3人に直撃してしまう。
「ぐあっ……! カ……カビが……!!」
美森装甲態は矢が当たった左腕からカビが侵食している事に気づき、苦しみだす。
「確かに……カビを操るのが得意なら矢にもカビの効力が備わってると考えるのが妥当ね……私とした事がこの発想に送れるなんて……」
直花もフォグ装甲態のカビの応用技を推理するのが遅れて不覚を感じてしまった。
「くっそー……どっち道カビにやられるんなら近づいた方がマシだ!!」
英夜装甲態は多少のカビによる攻撃は覚悟の上でフォグ装甲態に飛びかかり、空中から薙刀を振り下ろした。
するとフォグ装甲態は突然ボウガンを地面に捨てて右手のパンチで薙刀に対抗した。
フォグ装甲態が繰り出した拳は、瞬く間に薙刀をへし折った。
「なんだと!? ぐあっ!!」
薙刀を折られて驚く英夜装甲態だったが、すぐにフォグ装甲態の左ストレートを顔面に直撃してしまった。
「き……貴様!!」
倒れた英夜装甲態を見た美森装甲態は今度は自分の番と思ってフォグ装甲態に捨て身の突進をする。
しかしフォグ装甲態は地面に落ちていたボウガンを蹴り飛ばして美森装甲態の剣を弾き飛ばした。
そしてフォグ装甲態は美森装甲態に駆け寄り、彼にパンチの連打を浴びせた。
「ぐっ……ぐう!!」
美森装甲態も格闘で応戦しようとするが、フォグ装甲態のパンチの速さに追いつけず凡戦一方だった。
更に追い打ちをかける様にフォグ装甲態のキックが美森装甲態の腹部を直撃した。
「ぐあっ!!」
美森装甲態はそのダメージで弾き飛ばされ、変身が解けてしまった。
「そんなんでオデイシアスに勝てるのか?」
フォグ装甲態は変身が解けて地面に蹲る美森に辛辣な言葉の刃を投げかけた。
直後にフォグ装甲態は背後から何かの気配を察知して振り返り、自分に向かって来る物を右手で掴んだ。
手にした物は直花が放ったイーグルドローンだった。
「こんなオモチャで俺に勝てると思うのか?」
フォグ装甲態はこちらを睨み付ける直花に格好の付けた言葉を放った後、イーグルドローンにカビを侵食させた。
「あいつの能力……厄介過ぎる!」
イーグルドローンまでもがカビの餌食になったのを見た直花はどうすればフォグ装甲態のカビに対抗できるのか、それが分からず焦ってしまう。
「おい、お前が蹴った武器が俺の所に転がって来たぜ。」
そんな時、フォグ装甲態のボウガンを持って近づいた英夜装甲態が彼にボウガンを突きつけた。
「そんな事も予想している、試しにトリガーを引いてみろ。」
しかしフォグ装甲態はこの事態も計算に入れていたらしく、英夜装甲態を挑発する。
英夜装甲態は言われた通りにボウガンのトリガーを引いてみたが、矢が放たれる事がなかった。
「ちっ、お前にしか使えないのか!」
英夜装甲態はよく考えればボウガンは持ち主であるフォグ装甲態でしか自在に操れないのは想像がつくと思って、自分の行いを後悔してしまう。
直後にフォグ装甲態のパンチが英夜装甲態の腹部に炸裂し、ボウガンを取り返されてしまった。
英夜装甲態もその衝撃で変身が解けてしまう。
「さて、どいつから先に片付けようか。」
フォグ装甲態はボウガンを構えながら3人を見渡し標的を選択しようとする。
「強い……こいつに弱点はあるのか……?」
美森は近距離、遠距離共に隙の無い攻撃を仕掛けるフォグ装甲態に対しての対処法を必死に頭で考えていた。
その時、何処からともなく吹雪が吹き荒れた。
「今度は何!?」
直花は突然の吹雪に困惑した。
吹雪はすぐに止み、そして何時の間にかアイシクルがフォグ装甲態の隣にポツンと立っていた。
「なんだ、この女……?」
英夜は突然現れたアイシクルを見てこんな時に新手が参戦したのかと思って焦り出した。
「何の用だ?」
フォグ装甲態はアイシクルに此処にやって来た目的を問いただす。
「別に……ただちょっと現代のオーラナイトがどんな感じか気になって見に来ただけ……」
アイシクルは現代のオーラナイトが見たいというほんの些細な好奇心で戦いの場に来た様だった。
「お前もこいつの仲間って訳か!?」
英夜はフォグ装甲態とアイシクルが何気ないやり取りをしていた事から、彼女もオデイシアス一味の1人かと判断した。
「別に仲間じゃない……ただちょっと顔見知りなだけの関係……」
アイシクルは英夜の考えを否定しながら右手で自分の髪をいじる。
フォグ装甲態はアイシクルの乱入で繊維が冷めたのか、変身を解いた。
「オデイシアスとの対決を考慮して再起不能にはしないでやる。」
「んだと!? 舐めんじゃねぇぞ!!」
フォグはこの勝負は預けると3人に伝え、英夜は彼の人を見下した言い方にカッとなってしまう。
「強気なのはいいけど……勝算はあったの?」
アイシクルはそんな英夜にフォグに勝てる自信はあったのかと質問する。
「ちっ……」
英夜はアイシクルの質問に返す言葉が見つからず舌打ちをしてしまう。
「取りあえず今は仕事を済ませるか。」
フォグはポケットから薬を取り出してジルに歩み寄る。
そんな時、美森は立ち上がってフォグの行く手を阻んだ。
「お前の思い通りにはさせない!!」
美森は身体を張って通せんぼうをするが、すぐにフォグに左の拳で殴り飛ばされてしまう。
「悔しかったら今みたいに俺の顔面に拳を入れてみろ。」
フォグは冷たい視線で倒れた美森に挑戦的な台詞を吐き捨てた。
そしてフォグは何事も無かったかの様にジルの目の前まで到着した。
「8万円程度に負けといてやる、分割払いも良しとしよう。」
フォグは薬の値段を明かしてジルに渡そうとした。
「今ので……目が覚めました、やっぱり私は間違ってました、この薬は……買いません。」
ジルは先程のフォグの圧倒的で容赦の無い戦いを見て、やはり彼は悪党なのだろうと思い、そんな悍ましい存在の誘惑に自分は負けていたのかと思って薬は買わないと決断した。
「……好きにしろ。」
フォグはあっさりとジルの申し出を受け入れた。
最初に会った時にジルを殺せなかった事、理不尽にもオデイシアスにオーラ使いにされて洗脳された事、今のジルが幸せとは言えない状況に置かれている事、それらがフォグの頭の中で張り巡らされた結果、彼女は可哀想な存在だと心の何処かで思っていたのだ。
「貴方は……平気で人を殺す事が出来るのですか?」
ジルはふとフォグに殺人に対して躊躇いは無いのかと質問してしまう。
「……さぁな、既に人は殺しているし後戻り出来ない状況なのは確かでだからこそ迷いなく人は殺せると思うが……でも常時人を殺したいと考えている快楽殺人鬼ではない。」
フォグは女性を殺そうとすると身体が拒絶反応を起こす体質だったため、ジルの質問の回答には誤魔化しもあった。
正直に女性は殺せないという自分の弱さを打ち明けるのは当然抵抗があったためジルは見かけによらず痛い所を突いて来るのだなとフォグは内心思っていた。
「機会があればまた会おう。」
フォグは良心の垣間見える複雑な瞳でジルに別れの挨拶をしてその場を立ち去った。
一方のアイシクルはフォグに負けて悔しそうにしている美森に近づき腰を下ろした。
「貴方……ウィンドミル家の人間だよね?」
アイシクルは好奇心に満ちた瞳で美森に尋ねる。
「君も……僕の事を知ってるの?」
美森はアイシクルはリメイン同様に自分の家系に何か因縁がある存在なのかと考えた。
「昔色々あって貴方の先祖に封印された……アイシクルよ。」
アイシクルは何気ない態度で自己紹介をした。
「アイシクル……まさか、中世のイギリスで世界を飲み込もうとした最悪の魔女と言い伝えられている……あの……」
美森はイギリス人の血を引いてる関係で、イギリスで伝説になっているアイシクルの存在を知っていた。
そんな恐ろしい存在が今自分の目の前にいるのかと思うと背筋が凍り付いてしまう。
「安心して……何もしない……ただ現役のウィンドミル家のオーラナイトの顔をこの目で見てみたかっただけ……」
アイシクルは警戒する美森に危害を加える気はないと断言した。
「君達がこの街に潜んでいる目的は何?」
美森はオデイシアス一味は自分の想像以上にスケールが大きいのかと感じてアイシクルにオデイシアス一味が何を考えているのかを問いただした。
「さっきも言ったけど……私は別にオデイシアス達の仲間じゃない……だからあいつらが何をしようと私には関係ない……」
しかしアイシクルは美森達とオデイシアス達の戦いに自分は介入するつもりは無いのでオデイシアス一味が何を企んでるのかも聞いていないと美森に返答した。
「ただ……貴方もオーラナイトなら……あいつらを葬り去る位の根性は持たないとね……今日は負けても生きていれば次がある……じゃあね……」
アイシクルは美森に助言の様な言葉をかけた後、フォグに続いてその場を立ち去った。
美森はアイシクルが何を思って自分を励ましたのかが分からずに困惑するが、同時に彼女の言葉で少しは気が楽になった様にも感じた。




