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55話 霊園の歌姫16/雪木の追憶

2階の書庫のデスクの引き出しから、雪木小さな緑色の箱を取り出した。

雪木は箱の蓋を開けて中身を直花に見せる。

そこにはピンクの花の模型が設置されているブレスレットがあった。


「それね、名前も知らない女の人から貰ったっていうブレスレットは?」


ブレスレットを見た直花は率直に雪木に尋ねる。


「そうよ、このブレスレットから残留思念的な物を感じ取るってな感じの事をするの?」


雪木はこれから直花がやろうとしている事を大体察した。


「まぁそういう所ね、ちょっと拝借させて頂くわよ。」


直花は早速ブレスレットを手に取り、それを両手で抱いて瞑想を始める。

雪木は今現在直花はブレスレットから持ち主の思念を読み取っているのだろう思って緊張感が芽生えて来る。

そして直花は瞑想を終えたのか、顔を上げて雪木を見つめ、右手を彼女の額に当てた。

すると雪木は直花からオーラを送り込まれ、意識が過去の記憶へダイブした。






☆☆☆






何処かの公園で、まだ幼かった雪木はブランコに乗っている黒髪の三つ編みヘアーで青いボーダーシャツに黒いスカートの少女を見つめていた。


「乗りたいの?」


三つ編みの少女はブランコを止め、上から目線な笑みを浮かべながら雪木に尋ねる。


「う……うん。」


雪木は気弱そうな表情で頷いた。


「だったらそのブレスレット借してよ?」


三つ編みの少女は雪木のブレスレットに興味があったらしく、借して欲しいと要求した。


「いや、これはお母さんから貰った大切な物なの!」


しかし雪木はブレスレットを人に借す事に抵抗が有り、三つ編みの少女の要求を拒否した。


「私のパパがやってるレストランのご馳走をタダで食べさせてあげるわ。」

「いや!」

「デザートも付けちゃう!」

「いやぁ!」


三つ編みの少女は借してくれた際のお礼をつけるが、雪木は頑としてブレスレットを借そうと思わなかった。


「つべこべ言わずに借してよ!」


三つ編みの少女は強引にブレスレットを奪おうとするが、雪木は当然の様に逃げ出した。

公園の中を逃げ回る雪木だったが、網状のフェンスに追い込まれてしまった。


「よこしなさい!」

「いーや!」


三つ編みの少女は強引にブレスレットを引っ張り、雪木は必死に抵抗する。

その時、ブレスレットの紐がちぎれてビーズが何個かフェンスの川に落ちてしまった。


「あっ……! 私知ーらない!」


三つ編みの少女は慌てた表情でその場から逃げ出した。


「私のブレスレット……う……うえ―――――――ん!!」


ブレスレットが台無しになってしまった雪木は大泣きしてしまった。

そんな時、たまたま公園入口を1人のランドセルを背負った少女が通りかかる。

その少女はボブカットの緑の髪に眼鏡をかけており、緑のボーダーシャツに紫のスカートを履いていた。

その少女は小学生時代の高井だった。

高井は泣いている雪木に気づき、公園に入って彼女の元へと駆け寄った。


「どうしたの、貴女?」


高井は泣いている雪木に話しかける。


「お母さんから貰った大事なブレスレットが壊れちゃったの、うえ――――――ん!!」


雪木は泣きながらブレスレットの事を高井に打ち明ける。


「そう……それじゃあ、私のブレスレットを代わりにあげるわ。」


事情を聞いた高井は困った表情で解決策を探り、そして自分のブレスレットを渡そうという決断に出た。


「え?」


高井の解決策に雪木は驚く。

高井は腕に着けていたブレスレットを取り外すと、早速雪木に差し出した。


「いいの?」


雪木は反射的に両手で涙を拭きながら尋ねる。


「ええ、私が出来る事はこれ位だから。」


高井は笑顔で雪木の右手を取り、彼女の手のひらにブレスレットを乗せた。


「ありがとう、お姉ちゃん!」


雪木は高井がくれたブレスレットが自分のと色違いなだけで形状が同じだったため気に入り、泣き止んで笑顔で彼女に礼をした。






☆☆☆






「そうだ……私は小さい頃東京で暮らしていて、それであの人……小学生の時の高井さんだよね? 水前寺が見せてくれた写真の面影が濃かったから……多分そうだ……」


記憶が鮮明に甦った雪木は驚愕した表情で呟く。


「不思議な繋がりがあったものね……」


直花は第三者から見た感想を述べた後、ブレスレットを雪木に返した。


「なんで忘れていたんだろう……ありがとう、高井さん……」


ブレスレットを受け取った雪木はそれを両手に抱きながら、自分も高井と繋がりがあった事に驚き、そして悲しげな表情でもうこの世にはいない高井に再び礼をした。







美森達3人は引き続き雪木の家に向かいながら会話をしていた。

気が付けば会話の内容は雑談へと変わっていた。


「へぇ、高校時代にネットに小説を載せていたんですか。」


ジルは美森から聞いた過去談に関心を示した。


「はい、同級生が載せていた小説がネットで人気で、自分も書いてみようと思ったんです、ですが……」


美森は苦笑いをしながらその時の事を思い出す。






☆☆☆






高校時代の美森は夜遅くまでネットで小説を書き上げていた。

イギリスのロンドンを舞台に英国紳士を目指す聡明な大学生の青年が押しかけ助手である13歳の少年と共に開けた者には死が訪れると言われている箱の謎を解明するミステリー小説だった。

翌日、目にクマの出来た美森は読者達からの評価確かめようとしていた。


「ラストは心温まる内容にしたし自身はあるんだよねぇ、さぁて、評価はどうかな?」


美森は胸の高まりを押さえながら小説の感想のページを開いた。

そこに書かれていたのは、


『主人公がチート級のエリートですね、貴方はきっと才能に溢れて苦労知らずなのでしょう。』

『不死身の吸血鬼と思われていた男が実は幻覚ガスで若く見えていただけの老人とか強引じゃね?』

『美少女が活躍する話じゃないからつまんない。』

『なんか違うんだよなぁ、俺が読みたいのは感動する百合な訳でこれは波長に合わなかったわ、何よりこれ登場人物の殆どが大人だしその時点でダメ。』


という感想だった。

それを見た美森は自棄を起こした様に牛乳にイッキ飲みした。






☆☆☆






「高評価を期待していただけに流石にあの現実は……でした……」


美森は小説の評価の事をジルに語りながらシュンと落ち込んだ。


「私は興味がありますよ、ミステリー好きですし、今度読んでみようと思います。」


ジルはそんな美森を見て慌てた表情で励ましの言葉を送った。


「ありがとうございます……」


美森はジルからの励ましで少し気持ちが楽になり再び顔を上げた。



美森達3人が歩いている光景を歩道に止めてある車の中からリチュオルが眺めていた。

リチュオルはスマホでフォグと会話をしていた。


『お前が2日前に完成させたっていう薬をジルに買わせるつもりか?』

「ああ、赤血球を正常に働かせるっていうのが俺の薬の効力だからな、あの女には持って来いだと思うんでな。」

『そいつはまた理想的な薬を……ジルを唆すのは俺がやってもいいか?』

「へぇ、お前って積極的なキャラだったのか。」

『なんとでも思え、一応お前は仲間だからな、仲間同士は助け合いだとオデイシアスが言ってたからそのルールに従うまでだ。』

「それじゃあ、期待してるぜ。」


リチュオルはフォグとの通話を終えて止めていた車を発進させた。


「あの女に薬を買わせて一儲けした後はどうしようか……あいつもコレクションに加えるかな?」


リチュオルは車を運転しながら煙草に火をつけ、ジルに薬を買わせた後は彼女をコレクションに加えようと考えていた。






雪木の家に到着した美森達は早速雪木に出迎えられた。


「水前寺……」


雪木は美森の名前を呼びながら彼の元へと歩み寄る。

彼女の左腕には高井から貰ったブレスレットが填められていた。


「雪木さん……?」


美森は雪木の表情が深刻そうで何があったのかと疑問を抱く。


「ちょっと2人きりで話がしたい。」


雪木は美森にだけブレスレットの事を打ち明けようと考えた。



英夜とジルを居間に待機させた雪木は美森を寝室まで呼び出して幼少期の思い出を話した。


「雪木さんと高井さんにこんな接点があったなんて……」


話を聞いた美森は驚きを隠せなかった。


「雑賀に甦らせて貰った記憶の女の人が高井さんにそっくりだった、多分間違い無い……」


雪木は左腕のブレスレットを見つめながら暗い表情になる。


「以前高井さんが言ってました、『昔泣いていた女の子に自分のブレスレットを渡した事がある』って。」

「そう……高井さん、覚えていたんだ……」


美森は高井から聞いた話を雪木に打ち明け、彼女はやはり自分にブレスレットをくれた人物は高井なのだと100%確信して微笑んだ。

高井は自分を人間とは違う生物だとも知らずに、ただのごく普通の女の子だと思って優しく接してくれたのかと思うと、雪木はうっすらと涙を流した。


「水前寺、絶対高井さんの仇を獲ってよね!」

「……はい!」


雪木は過去を思い出した上で視線を真っ直ぐと美森の方に向け、真剣な眼差しで敵討ちをして欲しいと伝え、彼は雪木の心境を読み取って気を強く持った返事をした。

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