53話 霊園の歌姫14
1
美森達は山を下山し、街を歩いていた。
「あの鎖野郎との決戦の間、取りあえずあのジルって奴の素性を探ってみるか? その上でお悩み相談的な。」
英夜は自販機で買ったペットボトルのむぎ茶を飲みながらジルに関する問題を解決しようと提案する。
「うん、最近自分の事ばかりで他の人に気が回っていないし、あの人も突然非日常の世界に巻き込まれて困惑しているのだからメンタルケアしなきゃね。」
美森も少しずつ頭を冷静にしようと努力しており、まず身近なジルの件を解決しようと考えた。
「貴方は感情が高ぶってもすぐに冷静さを取り戻せるからいいわね、ブライアンは感情的ですぐ考えも無しに行動するから一緒にいて大変だったわ。」
直花は美森の性格を見てついブライアンと比較してしまった。
「へぇ、所でブライアン君は日本についてはどう思ってるんですか? 好きな和食とかは?」
美森はふとブライアンの事がもっと知りたいと思って直花に質問した。
「そうねぇ……結構豊かな国だと思っているわ、好きな和食は鯵の開き、お好み焼き、タコ焼き、それに蕎麦やうどんね、後やっぱり納豆は苦手みたい。」
「クスス……やっぱり納豆って外国人ウケ悪いんですね。」
直花からブライアンの和食の好き嫌いを聞かされた美森は納豆が苦手なのは予想通りだと思って静かに笑った。
「逆に貴方が外国の食べ物でドン引きした物ってある?」
「僕ですか? 僕は……韓国のポンテギですかね。」
今度は直花が美森に外国の食べ物で苦手と感じた物はあるかと質問し、美森は少し考えた後ポンテギを上げた。
「ああ、あの蚕の蛹の缶詰ね、ブライアンもそれを知った時は引いたわ。」
直花は随分とユニークな食材を上げたなと思って美森に感心する。
「家族で韓国に旅行した時があって、その時食べた事はあります、味は……まあまあでした。」
美森は食べた時の感想を思い出しながら苦笑いをした。
「あれでも韓国ではおやつとして有名だし、私は食べてみたいと思うわ。」
直花はポンテギに前から興味があり、実際に食べた事のある美森を羨ましく感じた。
「あの!」
そんな時、背後から少女の声が聞こえ、3人は振り返る。
そこにいたのは右手に紙袋を持ったアモーレだった。
「あの、水前寺美森さんですよね?」
アモーレはにこやかで楽しそうな表情をしながら美森に本人かどうか確認する。
「ええ、君は?」
「私はアモーレ・ド・ヴェルデローザです! なんというか……ロンリネスさんのお友達で、彼女から貴方の事を聞かされて興味が沸いて会いたくなりました。」
美森に名前を尋ねられたアモーレは簡易的にロンリネスとの関係を話ながら自己紹介をした。
「ロンリネスの……彼女も人脈が広いのかな? 取りあえずよろしく。」
美森はアモーレは先のニュームーンで共闘した事をロンリネスから聞かされたのだろうと判断し、取りあえず彼女に挨拶をした。
「あの、これ良かったらどうぞ、私からの差し入れです。」
アモーレは早速と言わんばかりに手に持っていた紙袋を美森に差し出す。
紙袋を受け取った美森が中身を確認すると、そこにはおはぎが3パック程入っていた。
「おはぎだ、滅多に食べないからちょっと嬉しいかも。」
「気に入って貰えて嬉しいです! 私が日本に来て初めて食べたお菓子だから選んでみたんです。」
おはぎを受け取った美森の反応が良くて、アモーレは感激した。
「あんたって何処の国の出身だ?」
すると英夜がアモーレに国籍を尋ねて来る。
「イタリアです、旅行に来ていたロンリネスさんと意気投合して、成行きで日本まで付いて来ちゃいました。」
アモーレは右手で自分の揉み上げをいじりながら日本にいる説明をする。
「立ち話もアレだし……雪木さんもそろそろ帰宅する時間だからそこで話そう?」
美森はこの場で会話をするより雪木の家でゆっくりと話をしないかとアモーレに提案する。
「はい、お邪魔させて頂きます。」
アモーレは両手を見にミニスカートの位置で組みながら美森の案に乗った。
2
病院内の喫茶店でロンリネスとハルカはティータイムをしていた。
「最近ロンリネスってホテルによく行くけどそこにどんな人がいるの?」
ハルカはロンリネスがアイシクルの宿泊しているホテルに顔を出しているのが気になり、それとなく様子を尋ねる。
「なんて言えばいいんだろう……中世ヨーロッパの人でそこでは色々あって迫害されてた人ね。」
ロンリネスはアイシクルという人間を1から話すと長くなるため、簡易的な説明だけをハルカにした。
「ふーん、私も自由に外出出来たらなぁ……」
ハルカは色々な所に外出して人と交流できるロンリネスが羨ましく感じ、早く自分も退院出来ないかと心を急がせた。
そんな時、2人の前にアイシクルがやって来た。
「噂をすれば……まぁ、普段はこの病院に居るって前に教えた事があるから来るのも不思議じゃないけど。」
ロンリネスはこのタイミングでアイシクルがやって来た事を面白く感じる。
「私も……閉じこもってるよりたまには外に出ようかと考えた……この席いい?」
「ええ、どうぞ。」
アイシクルは外に出だ理由を語りながら相席できないか尋ね、ロンリネスはそれを許可した。
席に座った後、ロンリネスはやって来たウェイトレスに紅茶を注文した。
「私、島田ハルカ、よろしくね。」
ハルカはここにいるアイシクルが先程ロンリネスが話していた人間なのだろうと察し、微笑みながら挨拶をする。
「アイシクルよ……」
アイシクルは挨拶を返しながら、ハルカをじっと見つめる。
「どうかしたの?」
「ちょっといいかしら?」
何故自分をじっと見つめているのかが分からず首をかしげるハルカに、アイシクルはそっと彼女の額に右手をあてた。
するとアイシクルの脳裏にあるヴィジョンが流れ込んでくる。
☆☆☆
公園の広場を夏用の制服を着た2人の女子高生が歩いていた。
「ねぇねぇ、大学に行っても陸上部を続けるの?」
黒髪のお団子ヘアーの少女が隣を歩いている黒髪のボーイッシュな少女に尋ねる。
「うーん……まぁ一応そのつもりね。」
ボーイッシュな少女は少し考え込んだ後、微笑みながら返答した。
すると、その2人の映像がだんだんアップで近づいて来る。
途中で映像が真っ暗になり、そして次に写ったのは2人の無惨なバラバラ死体で、クチャクチャという獣が獲物を貪る様な音が聞こえた。
☆☆☆
「ふーん……」
一連の映像を見たアイシクルは何かを察した様で、右手をハルカの額から離した。
ハルカは相変わらずアイシクルの行動の意味が分からずキョトンとした表情をしていた。
(もしかしてハルカの記憶を読んだりした? へぇ、そんな事も出来るんだ、恐ろしや恐ろしや……)
一方のロンリネスは心の中でアイシクルが今何をしたのかを察し、彼女が見かけによらず侮れないなと感じた。
「所でアイシクルさんって中世ヨーロッパの人でしょ? 思い出話とか聞かせてくれない?」
ハルカはアイシクルが自分に何をしたのかはそれ程気にならなかったらしく、それよりも彼女が昔の人間である事の方に好奇心が向いており、昔話をしてくれないかと願い出た。
「……まぁ、構わないけど……」
アイシクルはポジティブな思い出だけなら語ってもいいかと判断した。
「やったー! 新しい絵の閃きに繋がればいいなぁ!」
ハルカはアイシクルからはファンタスティックな話が聞けそうだと感じて満面の笑みでウキウキしていた。
3
雪木と美森達は自宅の前で丁度鉢合わせをして、美森からアモーレの事情を聞かされた雪木は取りあえず彼女を招き入れた。
そして美森達はアモーレから身の上話を聞かされた。
「成程、中世イタリアのお姫様って訳ね。」
事情を聞いた雪木は常識を超越した人生を送って来た身故にアモーレの話を信じ、他の一同も同じ気持ちだった。
「はい、王都を狙う悪魔からの襲撃を受けた際、一族の血を守りたいと思ったお母様によって冷凍睡眠させられて、そしてロンリネスさんの手によって永い眠りから目覚めました。」
アモーレは当時の事を思い出し、哀しそうな笑みを浮かべていた。
「それでそのお妃様が天使で君はハーフエンジェルって訳か……」
美森はアモーレの血統を聞いて、人間と天使のハーフと交流したのは初めてで斬新な体験をしたと思っていた。
「まぁ、身寄りが無いっていうのも可哀想ね、他に行く宛が無いなら私の家に居候しても構わないわよ。」
雪木は現代において知人が一人もいないアモーレに哀れみを抱き、自分が引き取ろうかと考えた。
「え? ええ……でも人様の世話になるなんて……」
アモーレは300年前の不自由の無い暮らしと現在の状況にギャップを抱いて苦しんだりもしているが、純真な性格故今日会ったばかりの人間に甘えるという行為に抵抗を感じてしまった。
「でも、現代社会で貴女が一人で生きて行くのは困難よ、結局、人は助け合わないと生きて行けないのだから時には人に甘えるのも悪くないわ、甘えすぎるとダメ人間になっちゃうけども。」
雪木は戸惑うアモーレに優しく説得の言葉をかけた。
雪木の説得を隣で聞いていた美森は今朝自分も直花に同じ事を言われたのを思い出し、アモーレに親近感を抱いた。
「そう……ですか……取りあえず2日間だけ住まわせて貰って、それで最終的な判断をします、勿論この恩義はちゃんと返します。」
アモーレは結局今の自分もロンリネスの助けで生きていると自覚し、だったらお試しで雪木の家に泊まって、それから後の事を考えようと判断した。
「元老院に相談すれば学校に通える様手続きもしてくれると思うけど……取りあえず今はゆっくりして行って。」
雪木はアモーレが現代社会に溶け込める様にこの先の事をあれこれと考えながら彼女を同居人として受け入れた。




