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52話 霊園の歌姫13/胡桃とリコの温泉メモリー

山奥で美森は英夜と共に特訓をしていた。

英夜はオーラを込めて強化した2本の縄跳びを美森に振り回し、彼はそれを木刀ではじき返しながら接近してくる。


「水前寺! さっきも言ったが俺はリモコンタイプじゃないからあいつの鎖みてーに縄跳びを自在に操る事なんて出来ねーしこんなのは特訓にならねーぞ!」


しかし英夜は特訓の最中で自分にはオデイシアスの真似は出来ないためまともに鍛錬を積めないと美森に抗議した。


「分かってる! だけど……身体が疼いて仕方がない! ただ明後日までのほほんと待つなんて屈辱的だから!」


感情的になりながらも冷静さを保とうとしている複雑な眼差しで英夜に反論し、そして素早い身のこなしで彼まで接近して木刀で突き攻撃をする。

その攻撃は英夜の顔面で寸止めされ、その後2人は硬直する。


「最も厄介なのはあいつの生命力だ、お前はそれで一手食わされただろ? 人間の俺じゃあいつの生命力は再現できねぇ。」

「だからと言って練習相手を雑賀さんにするのは忍びない、君を選ぶしかなかった。」


英夜から自分ではオデイシアスの役をこなせないという最もな指摘を受けた美森は、天使でオデイシアスと同じく高い生命力のある直花ではあるが、やはり少女という理由で練習台に出来ないと苦言を溢した。


「確かに女の子を敵役にして的にするのは男のやる事じゃねぇな……仕方ねぇ、練習を続けるか。」


英夜も直花の戦闘能力は中々の物だと感じていたが、10代の少女を練習台にするのは男のプライドが許せないと思って美森との特訓を続ける選択をした。


それからしばらくして、2人はまだ昼食を食べていない事を思い出し、特訓を一時休憩して下山した。

すると丁度山に登って来た直花と鉢合わせをする。

彼女はビニール袋を持っていた。


「丁度良かったわ、ハンバーガーを買って来たわ。」


直花は美森達が下山したのがタイミングが良いと感じながら袋を差し出しす。


「気が利くな、それじゃあこの辺りで飯にしようぜ。」


英夜は袋を受け取りながら近場にある休憩用に造られた木製のベンチで食事を摂ろうと美森に誘い出す。


「ええ。」


美森は心の闇を押し隠す様なうっすらな笑みを浮かべて返事をした。


3人は2台設置された木製のベンチに座ってハンバーガーを食べていた。

美森と英夜が隣り合わせで1台のベンチに座り、直花が向かいのベンチに座っている状況だった。


「所でよぉ、お前ってアメリカに親しい友達はいる訳?」


英夜はふと直花がアメリカに居た時の人間関係が気になり尋ねた。


「ん? 大学では飛びで入学したから浮いてたけど、同い年の高校生で仲の良い人はいたわ。」


直花は自分の事を語るのは好きな方ではなかったが、話しても抵抗が無いと思う範囲まで話そうと決断した。


「ふーん、どんな奴?」

「ブライアン・デンジャーフィールドっていう……貴方達と同じオーラナイトよ。」


直花はブライアンの名を口にしながら彼との思い出の一部を回想する。






☆☆☆






人気の無い公園でブライアンは1人、傘もささずに雨に打たれていた。

そんなブライアンの前に直花がやって来る。


「そんな所にいたら風邪引くわよ。」

「もし俺が……彼女の罪を洗い流せる雨だったら……もし俺が……彼女をこの世に食い止める鎖になれたら……でも……もうこんな事を思っても遅い……」


話しかける直花にブライアンは独り言の様な言葉をぽつぽつと呟く。

彼の表情は放心している様で無表情だった。


「……出来る事は、貴方が彼女の分まで生き続ける事なんじゃない?」


直花はブライアンの心の痛みを感じて最適な言葉が思いつかず、取りあえずありふれた励ましをする。


「……しばらく1人でこの雨に濡れていたい……」


ブライアンは自分の両手を見つめながら1人にしてくれないかと直花に願い出る。

すると直花は傘を折りたたんで自分も雨に濡れる事にする。


「何やってるんだ?」


ブライアンは突然の直花の行動の意図が分からず質問する。


「私が貴方に何をしてやれるのか分からない、だから取りあえず私もこの涙みたいな雨に濡れる事にしたわ。」


直花はただ自分も雨に濡れて少しでもブライアンの悲しみを共有したいと思ったのだった。


「風邪引くぞ。」


今度はブライアンが直花に注意する。


「お互いにね。」


直花は天国を見つめる様に雨雲に閉ざされた空を見上げながらそっけない返事をした。






☆☆☆






「色々あって彼と意気投合してね……今度アメリカにいる彼に手紙を出そうかと思ってるの。」


直花はブライアンの事を思い出しながらも、英夜には彼との関係を大雑把に説明し、そして手紙を出したい気持ちも語った。


「お前はそのブライアンって奴と付き合っていたのか?」

「いえ彼とは……そんな関係じゃないの、ただ彼を支えてあげたいと思っただけ。」


英夜からブライアンとは恋人同士なのかと聞かれた直花はそれを否定し、しかしそれに近い特別な感情はあると説明した。

一方の美森は直花がブライアンの事を語っている時の表情が暗いと感じ取り、何か哀しい事情を抱えているのだろうと読み取ったが、しかし直花の事を考え追求しないでおこうと考えていた。


「話は変わるけど、あのジルって人、この戦いに巻き込まれた被害者ではあるけど何か闇が有りそうって気がするわ。」


直花は話題をジルの事に変えて、美森達にジルを見て感じた印象を打ち明ける。


「ジルさんですか? 確かに言われてみればそうかもしれませんが、だからと言って彼女が敵になるとかは有り得ないのでは?」


美森はジルが自らの意志で自分達の敵になる動機は現時点では思い浮かばないと直花に指摘する。


「悪魔がまた何時彼女をつけ狙うかもしれないわ、引き続き彼女の保護も続けた方が良さそうね。」


直花は今後何が起こるか予想は出来ないため今はまだ警戒心を解く事が出来ないと思っていた。


「だけど飯の時間位は楽しもうぜ、四六時中悪魔の事を考えて警戒するのも疲れるしな。」


英夜は時には心を休めるのも必要ではないかと意見して来た。


「天城君の言う通りだね、僕もあいつの事を考えてると胸が張り裂けそうだし。」


美森もオデイシアスの事を考えて気を荒げるよりも冷静にオデイシアスを倒そうとする心理が欲しいと思って英夜の意見に同意した。






昼休みの高校の屋上で青いブレザーの制服姿の胡桃とリコは弁当を食べていた。

胡桃も英夜からのラインでオデイシアスと遭遇した事を伝えられていた。


「良かったじゃん、水前寺さんの仇が見つかって。」


胡桃から事情を聞かされたリコは美森がオデイシアスと遭遇出来て何よりだと感じていた。


「でも相手も一筋縄では行かなさそう、明後日にグリーンパール博物館で再戦するみたいだけど勝算はあるのかなぁ……」


一方の胡桃は無事美森がオデイシアスを倒して高井の仇を討てるかどうか心配になっていた。


「博物館かぁ……そういえばまだ胡桃ちゃんと一緒に訪れてないなぁ……なーんて事を考えていたらこの間の日帰り温泉での出来事思い出しちゃった。」


リコは博物館と言うワードを聞いて胡桃とそこへ遊びに行った事がまだなかったと気づき、代わりに温泉に行った事を思い出した。






☆☆☆






美森達が凱巣島へ行ってブルーアルバトロスホテルに泊まった頃、2人は温泉で寛いでバイトの疲れをとっていた。


「ふぅ……この時間帯は人があまり入らないから実質私達の貸し切りになってるわね。」


胡桃は周りに自分達以外の客がおらず、リコと2人きりで寛げて気分が落ち着いていた。


「ねぇ胡桃ちゃん。」


そんな時、ふとリコが話しかけて来る。


「何? ひゃわっ!?」


胡桃は返事をしたのもつかの間、突然リコに抱きつかれた。


「リ……リコさん!?」

「この空間なら胡桃ちゃんと肌を密着させてもいいかなぁって思って。」


顔を赤らめる胡桃に、リコは2人きりの今なら大胆な事が出来ると彼女を抱きしめた説明をした。


「相変わらずリコさんの考える事って破天荒……」

「へへぇ、胡桃ちゃんの肌ってスベスベで気持ちいい……温泉の水で濡れてるからかなぁ?」


胡桃はリコの行動はやはり大胆だと感じ、一方のリコは戸惑う胡桃にそっと口づけをした。

2人の唇が離れた後、胡桃はリコの胸を両手で触った。


「今のお返しよ、リコさんの胸って初めて触ったけど中々弾力があって気持ちいいね。」

「もう、胡桃ちゃんったら!」


胡桃はこちらも大胆なお返しをしようと思ってリコの胸を揉み、今度はリコが顔を赤らめた。







☆☆☆






「あ―――!! ちょっとちょっと、今それ関係ないじゃん!! 思い出すと恥ずかしい!!」


胡桃は温泉での出来事を思い出すリコに赤面しながら今考える事はそれじゃないだろと注意した。


「照れない照れない、それよりも明後日の対決、私も手伝おうか? 敵にも仲間がいる可能性高いし。」


リコはおどおどとした態度の胡桃にクススと笑った後、もしよければ自分も美森達に同行できないかと願い出る。


「え? うーん……水前寺君達が凱巣島で遭遇したっていう女の子とナイフ使いも敵の仲間かもしれないし、こっちの人数も多い方がいいかも……ちょっとみんなに相談してみるね。」

「サンキュー!」


胡桃はオデイシアスが単独で行動しているのでなく仲間がいて自分達に罠を張り巡らせて来る可能性を考え、それならこちらも戦力が多い方がいいと思ってリコの同行を許可し、リコはウィンクをしながら礼をした。

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