51話 霊園の歌姫12
1
グリーンパール都内の大学の庭で、雪木がベンチに座ってスマートフォンで会話をしていた。
「水前寺から電話番号を教えてもらったのは分かったけど、それで、なんで公衆電話から電話をかけたの?」
雪木は電話をしている相手が気に入らないかの様な嫌そうな表情で通話をする。
『いきなり知らない番号からかかってきたら不審に思うでしょ? それなら公衆電話からなら警戒心も薄れると思ったからよ。』
電話の相手は直花だった。
直花は今朝の美森とオデイシアスが戦った状況を雪木に説明したのだった。
「まさか敵の方から顔を出して来るとはね、それも有り得る事だけど、それで水前寺は今何してる訳?」
雪木は表情を美森の事を心配する複雑な物に変えながら彼の状況を尋ねる。
『人気の無い裏山で特訓中よ、悪魔が明後日の夜7時にリヴェンジをしてもいいって誘って来たからそれに向けてでしょうね。』
「成程、それで場所は何処なの?」
『グリーンパール博物館よ。』
「あそこって確か明後日は休館日……敵も意外と気遣いが出来るのね。」
雪木はオデイシアスが再戦に指定した場所が無関係な人々を巻き込まない場所だと悟って逆に敵は余裕そうな心理をしているのだろうと思って戦慄する。
『この前の凱巣島のホテルみたいに下手な茶番で一般人を追い出す手間は無いけど、敵もどんな罠を張り巡らせているか分からないし用心した方がいいわね。』
「茶番ってナイトエンジェルの幻覚剤で宿泊客達を追い出した事を言ってるの? 茶番で悪かったわね。」
雪木は直花が相変わらず自分との会話では一言余計な発言が多くてムキになってしまう。
『あら、悪かったわね……所で貴方にとって彼はどういう存在?』
直花は軽く謝った後、雪木に美森の事をどう思っているのか尋ねる。
「水前寺の事……高井さんを失ったのは気の毒だと思うけど、だからと言ってあいつを可哀想って甘やかすつもりもないわ、ただシンパシーを感じる所があるから放っておけないの。」
美森の事についてを聞かれた雪木は顔色を哀れみの混じった複雑な表情に変えながら自分なりに彼を気遣う気持ちを語り出す。
『シンパシー?』
「お互いそれぞれ寂しいって気持ちを抱えているのよ、そういうあんたこそ、水前寺の事を気に掛けるのは何故? 職業柄?」
雪木は逆に直花が美森を心配する理由が気になり尋ねて来る。
『……アメリカの知り合いにあの彼と似た境遇の人がいるの、ちなみにその知り合いはもう敵討ちを済ませているわ……今の貴女達の関係が知り合いと私の前日談に似ているから、気になっただけよ。』
直花は少し沈黙してアメリカにいるブライアンの事を思い浮かべた後、今の美森と雪木の関係が昔の自分とブライアンに似ていて親近感を抱いた事を思わず雪木に語ってしまった。
「へぇ、意外……取りあえず私も学校が終わったら水前寺の様子を見に行くわ、じゃあね。」
雪木は直花の過去を意外に感じながらも、今心配すべきは美森の精神状態だと思いながら直花との通話を終える。
「あいつ……ムキになってなきゃいいんだけど……」
雪木は美森の性格上、高井の仇に一手喰わされたともなれば気を荒げながら鍛錬をしているのではないかと思い、それが心配でならなかった。
2
オデイシアスは美森との再戦に指定したグリーンパール博物館にフォグとアークと共に来館していた。
館内は昭和のダイヤル式の電話や絵画、昔のバスの模型等が展示されていた。
「よりによってここを再戦の場に選ぶとはな。」
フォグは博物館に連れて来られた事を不服に感じてる様だった。
「場所自体は適当に決めたんだが、そういやお前にとっては過去を思い出す場所だったな、忘れてたよ。」
オデイシアスは博物館を再戦の場に選んだ事をフォグに申し訳なく思った。
フォグは昔、この場所で恵とデートをした事があったのだ。
フォグは思わずその時の出来事を思い出してしまう。
☆☆☆
天気のいい晴れた日曜日に、フォグは赤いパーカージャケットに緑のミニスカート、茶色のロングブーツ姿の恵と博物館の入り口を歩いていた。
「デートの場所としてはどうだ? 俺なりにいい場所を選んでみたが。」
フォグは少し緊張した表情で恵に博物館でデートをする感想を尋ねる。
「うーん……今までデートでこういう場所に来た事ないし、斬新でいいかなー。」
恵は以前の彼氏とのデートで博物館に行った事がないと気づき、フォグのチョイスは新しい刺激を得るのに丁度いいと感じていた。
「良かった、気に入って貰えるかどうかは正直不安だったから、それなら早速。」
フォグは恵が博物館でのデートを気に入った所で、彼女に手を差し伸べる。
「え?」
恵はフォグの差し伸べた手の意味が分からずキョトンとする。
「恋人といえば手を繋ぐのが定番だろ? 俺達付き合ってるんだし。」
フォグは少し照れた表情をしてるがそれでも恵からイメージダウンを受けない様に彼女の方を真っ直ぐに向いて手を繋ぎたい願い出た。
「あー、そうだった。」
恵は仕方ないなと感じながらフォグの手を取った。
「なんて言うか……俺がお前を幸せにしてやる、なんて言ったらベタ過ぎて逆に薄っぺらい理屈になってしまうが、少なくともお前に楽しい思いをさせる決意は持ってるから。」
「口で言うより行動で示してくれないと私も信憑性感じないなー、口で説明されるのって逆にウザいよ。」
フォグは恵に今自分が思う感情を伝え、彼女はそれは直接行動で示さないと意味がないと指摘した。
「ああ、それもそうだな。」
フォグは恵に一手食わされたと感じて思わず失笑してしまった。
レストランで恵に思わず告白してしまった時、フォグは心の奥でこれから自分は恵の金ヅルになるかもしれない、好きな服やカバンを彼女に買ってあげる破目になると後悔の気持ちがあった。
人の金ヅルになるという事は自分が嫌悪する父親を思い出してしまうからだ。
フォグはすぐに恵にこれは援助交際ではないと伝えるため、欲しい物はおごるが月に1回程度だという条件を出した。
恵も取りあえず援助交際という形は取りたくなかったためその条件を了承した。
フォグは恵と一緒に居ると彼女は常に笑顔で楽しそうである事から、きっと自分と違って幸せな人生を歩んできたのだろうと感じていた。
ただ不思議と嫉妬心は沸かなかった。
恵の幸せをこれからも自分が守るのも悪くないとフォグは心の奥で思っていたのだった。
☆☆☆
恵との過去を回想したフォグはそれを誤魔化す様に髪をかき上げた。
「それで、ここで具体的に何をしようってんだ?」
一方のアークは楽しそうな表情でオデイシアスに博物館でやろうとしている事を尋ねる。
「この間お前が凱巣島で会ったマーシュとかいう奴はホテルでゲームをやったよな? それを応用しようと思うんだ。」
「へぇ、面白いじゃん、今度はどんなゲームが待っているのかと思うとうける―――! ギャハハハハハハ!」
アークはオデイシアスがマーシュのゲームの要素を取り入れて美森達と戦うのかと思うと愉快に感じて笑い出した。
「おいおい、ここは博物館だぜ、大笑いはご勘弁な。」
オデイシアスは周りの来客の目を気にしながら笑い出すアークにやんわりと注意をした。
「あーワリィワリィ、これは癖でね。」
アークは右手の拳を頭に乗せながらテヘっと笑ってオデイシアスに謝罪した。
「所で明後日の戦いにはあの変態野郎も参加するのか?」
「リチュオルの事か? そうだなぁ……あいつも知性を得てまだ間もない身だし、色々と経験させておくのも有りだな。」
フォグはリチュオルも明後日のゲームに参加させる気かとオデイシアスに尋ね、彼はリチュオルはまだ新人の様な存在であるためオーラナイトとの戦いにも慣れさせておこうと考える。
「所で例のオーラナイトの連れにショートカットで前髪の長い黒いカーディガンの女はいなかったか?」
するとアークは公園でオデイシアスが美森と戦った際にその場に直花がいなかったかどうかを尋ねて来た。
「ああ、確かにそんな女がいたなぁ……なんだお前、そいつをライバル視してんのか?」
「大体そんな感じ、あの女にはちょっと借りがあるんだよ。」
オデイシアスから直花の存在を伝えられたアークは心の奥でブルーアルバトロスホテルで彼女に敗れた事を根に持ちながら、闘争心の籠った不敵な笑みを浮かべた。
3
車やラジカセ、冷蔵庫が不法投棄されたゴミの山場で、リチュオルは赤い革ジャンに青いジーンズの茶髪の男性、黒い革ジャンに紫のジーンズの黒髪の大柄な男性、黄色のパーカージャケットにピンクのTシャツ、青いジーンズ姿の金髪のウェーブのかかったロングヘアーの女性に絡まれていた。
3人共顔つきが悪く、如何にもチンピラと言える風貌だった。
「よう兄ちゃん、俺達の縄張りに勝手に入るとはいい度胸してんじゃねーか!」
茶髪の男性はリチュオルの服の襟元を掴みながら因縁を付ける。
「健全な聖人がこんな所に来る筈ねーからな、思う存分痛い目に遭ってもらうぜ!」
「それがあたい達の流儀だよ!」
大柄な男性と金髪の女性もそれに続いてリチュオルを威圧する。
するとすぐにリチュオルは水色の小瓶を取り出し、蓋を開けた。
小瓶からは紫の煙が飛び出て、それを浴びた3人のチンピラは瞬時にその場に倒れて眠ってしまった。
「男2人に用はねぇ、あばよ。」
リチュオルは続いて拳銃を取り出し、安全バーを解除して男性2人の頭上に発砲した。
男性2人の殺害後、リチュオルは公園の親子を捕らえた際にも使用した小さな壺で金髪の女性を吸収し、そしてその場を去った。
自分のアジトに返ったリチュオルは、金髪の女性を壺の中から解放してジーンズを脱がし、青色のチュチュスカートに履き替えさせた。
「意外と似合ってるぜ、チンピラなんかやってるより俺のコレクションとして後生大事に飾られた方がお前も幸せなんじゃねぇのか?」
リチュオルは金髪の女性をお姫様抱っこで抱え、他の女性達が眠っているブルーシートに並べながら、眠っている彼女に囁いた。




