48話 霊園の歌姫9
1
美森と雪木は今日の夕食の材料を買うためにスーパーで買い物をしていた。
美森がカートを押して、雪木が食材を探して美味しそうな物をカゴに入れていた。
「急遽、今日の夕食は6人で食べる事になるとはねぇ、それはそれで楽しいけど。」
雪木は夕食を大人数で食べるとなると胸がワクワクしていた。
「想定外ですけど、確かに楽しみですね……」
美森は作り笑いをしている様な薄っぺらい笑顔で雪木に返答する。
「……スーパーに来る前にメールの画像にあった場所に行ったけど特に目ぼしい手掛かりは無かったし、あんたも頭の良い犯罪者は一度訪れた現場には戻らないって解釈したじゃない? 今は食べる物を食べて来るべき戦いに備えるべきよ。」
雪木はスーパーに来る前の出来事を話し、今はまともな食事を摂って体力をつけるべきだと美森に指摘する。
「はい……」
美森は昨日雪木に廃人みたいになってると指摘されたのを思い出し、今日以降はそうならない様にしようと決意して雪木の意見に賛同する。
「それにジルさんが操られて刺客として送り出されたのもあんたが勘ぐってる事を向こうが気づいたからでしょ? そう考えると少しずつ高井さんの仇に近づいてると思うんだけど。」
雪木はジルがどういう理由で悪魔に操られたのかを推理し、敵は美森の行動に気づき始めてるのではないかと推測した。
「彼女を巻き込ませてしまったのは僕の原因か……でもそうなると昨日聞き込みをした人の中に絵の男の仲間がいたのかな?」
美森は結果的に自分の行いでジルを戦いに巻き込ませてしまったのかと思うと罪悪感を抱いてしまう。
その後にジルを操って自分達を襲わせたオデイシアスは何処で自分を知ったのかと考え、昨日の聞き込みの時にオデイシアスの仲間に遭遇したのではという結論に至った。
「心当たりはある? 何か不審な素振りをみせた人とか?」
「うーん……あ!」
雪木から聞き込みの最中に怪しい人物に出くわさなかったかと問われた美森は昨日の記憶を掘り返した後、それらしい人物がいた事を思い出した。
「昨日の夕方、白髪の白いコートの僕と同い年位の男性に聞き込みをした事があります、その人は『何故絵の男を探しているのか』と質問を返して来ました、もしかしてあの男が……」
美森が思い出した人物はフォグだった。
あの時は不思議な人物だなとしか思っていなかったが、ジル戦を終えた今では自分に不審な質問をして来た彼に対する疑いが芽生え始めていた。
「ふーん、確かにその男は匂いそうね……その内白髪の男があんたの前に立ちはだかって、最終的には高井さんの仇が動き出しそうな予感がするわ、昨日の聞き込みも無駄じゃなかったって事ね。」
雪木は一見骨折り損のくたびれ儲けに見えた昨日の美森の聞き込みが知らず知らずの内に前へ進んでいたと解釈して彼を勇気づける。
「ええ、次にまた会えるか分かりませんが、もしまた彼に会えたのなら様子を探ってみます。」
美森は運良く元老院からオデイシアスの情報が来た事やジルが刺客として自分達を襲って来た事が徐々にオデイシアスに近づいてるのだと前向きな自信を持ち始めた。
2
雪木の自宅の居間でジルは直花からオーラの使い方を教わっていた。
ジルは三つのコップを使ってオーラの鮫を瞬間移動させていた。
「オーラ使いのタイプは全部で4つ、攻撃と防御に優れたパワータイプ、パワーは低いけど俊敏な動きでそれを補うスピードタイプ、オーラで何かを遠隔操作するのが得意なリモコンタイプ、怪我の治療等戦いとは無縁な能力が得意なストレンジタイプよ、ちなみに私と貴女がリモコンタイプね、パワータイプに対して他のタイプは一見不利だけど例えばこの技を繰り出せば寿命が減るとか厳しい制約やデメリットをつければパワータイプと渡り合える可能性があるってのがオーラの魅力ね。」
直花はある程度ジルの能力の練習に付き合った後、オーラ使いには4つのタイプがある事を彼女に明かした。
「それはまた複雑ですね……取りあえずオーラの使い方は分かりましたが、これが私が一番得意な事なんですか?」
ジルは自分の特技が呑み込めず、オーラの鮫を操るのが正しい事なのかと直花に問いかける。
「ええ、さっきメモ帳に瞑想して書いたでしょ? これを極めるのが一番効率がいいのよ、人にはそれぞれ適材適所がある様にオーラにだって何をするのが得意で何をするのが苦手っていうのも先天的に決まってるわ、例えばなんの考えも無しに風を操る技を極めてみようなんて思わない事をお勧めするわ、貴女は風を操るのが苦手なタイプかもしれないし何より野球部と茶道部を掛け持ちするのと同じ位容量が悪いから。」
直花はメモ帳のオーラの鮫の操り方について書かれたページをジルに見せながらオーラの正しい使い方を説明する。
「分かる様な分からない様な……取りあえず日常ではあまり役に立ちそうにないですね、私の能力……」
ジルはオーラの知識を学んだ後、自分の能力は特に便利な物ではないと判断した。
「そうね、オーラの使い道は悪魔と対決する事くらいね、貴女にその気が無いのならあって無い様な力よ、勿論オーラを悪用するなんて事はしないように。」
直花は最後にオーラ使いとしての暗黙のルールをジルに伝えた。
「確かに私には意味の無い力ですね、勿論悪い事に使おうなんて人道に反する事はしません。」
ジルは直花からの教授を受けると、最終的に自分はオーラで何かをするでもなく、今まで通り普通の人間として生きて行くと決心した。
「今日の事を忘れろって言っても無理だと思う、だけど今後トラブルに出くわさない事を祈ってるわ。」
直花は戦わず今まで通り平穏な日常を過ごす選択をしたジルに敬意を抱いた。
そんな時、胡桃が好奇心に満ちた表情でジルの元へやって来る。
「あの、ジルさんってそういえば横文字の名前ですけど何処の出身なんですか?」
胡桃はジル・アッシュクロフトという名前から彼女が何処の国から来たのかが気になり尋ねた様だった。
「日本です、ただアメリカ人の父と日本人の母のハーフなのでアメリカ系日本人って所ですね。」
ジルは特殊な血統ながらも生まれは日本だと胡桃に笑顔で返答した。
「へぇ、なんか凄い。」
「特別扱いはご遠慮願います、昔から羨ましがられたりしましたけど、結局はたまたま外国人の血が入ってるという些細な事実なので何か人より才能に優れているとかそういうのはありませんから。」
ジルは特別な存在を見るかの様に振る舞う胡桃にハーフも1人の平凡な人間なのだと指摘する。
「あはは、すいません。」
胡桃はジルの意見は最もだと感じて特別扱いした事を謝罪した。
しばらくして美森と雪木が買い物から帰宅し、美森が夕食の準備に取り掛かった。
「作る量と洗い物の量、どっちもいつもの倍異常だな……」
キッチンでニンジンの皮をピーラーで向いている美森は6人分の料理を作る事が大変に思っていた。
「半分手伝うわ。」
そこに直花が料理の手伝いをするためキッチンにやって来て包丁を持ってキャベツを切り始めた。
「あ……ありがとうございます。」
美森は突然助太刀にやって来た直花に感謝した。
「ねぇ、昔付き合っていた恋人と今のあの彼女、どっちといるのが幸せ?」
直花は料理の手を動かしながらも、美森にある質問を投げかけた。
「高井さんと雪木さんの事ですか? それは……分かりません、高井さんとは純粋に恋人同士でしたが雪木さんとは主人と使用人の関係で……それに雪木さんとは種族が違うし仮に結ばれても僕の方が確実に早死にして雪木さんが未亡人になってしまう……なんか次元が違うなって感じてしまって……」
美森は高井と雪木では自分との立場が違い、そもそも雪木とは種族が異なる故に寿命も違うため自分は雪木を残して先立ってしまうために彼女と付き合うのが正しい事なのかと悩み始めていた。
「確かに天使や悪魔は人間に比べて長寿な生き物、その二つの血が入ってる彼女も例外じゃないわね。」
直花も寿命の違いばかりはどうする事も出来ないと思って美森に哀れみを感じた。
「雑賀さんは人間を愛する事はあったんですか?」
美森はふと直花の種族を超えた恋愛事情が気になって尋ねてみる。
「私? 私は……人間を愛しても寿命が違うから不幸になるだけって思って人間の男を好きになるのを避けていた……でも最近は思うの、共に過ごせる時間は短くても人との繋がりはかけがえのない思い出だって、だから愛した人が亡くなった後もその人を想って、その人の子供と共に余生を送るのも悪くないと思ってるわ。」
直花は過去を思い出してるかの様な遠い目をしながら自分の意見を語った。
「貴女はどんな過去を生きて来たのですか?」
「貴方が知る必要は無いわ。」
美森は直花の人生論を聞いて彼女がどんな人生を歩んできたのかを伺うが、本人はそれを一切語ろうとしなかった。
「ただね、過去を忘れた訳じゃない、職業柄人の死を哀れむ事も多い、だけど私が考えるのはいつも次に何をするかなのよ。」
直花は淡々とキャベツを切りながら自分が思う心情を美森に伝える。
「重要なのは今何をしてるか……なのですね。」
直花の話を聞いた美森はある程度ニンジンの皮を剥いた後包丁で切り始めながら重要なのは過去に縛られるより今善良な人間として生きているのかどうかだと解釈した。
天国の高井が今の自分を認めてくれているかなんて美森には知るすべも無かったが、それでもこれからも自分は底抜けの善人でありたいと強く願った。




