47話 霊園の歌姫8
1
ホテルのアイシクルの部屋で特大ピザを半分まで食べきったロンリネスは再びアイシクルに話しかける。
「ねぇ、話したくなかったらそれでもいいけど、貴女が抱えてる闇ってどういう物?」
「私の……」
ロンリネスから自分の身の上について聞かれたアイシクルは顔を俯かせて沈黙する。
「私は元々裕福だった……そんな私は人間牧場という人を奴隷の様に扱う所を知って驚愕した……その中には私と同い年の女の子もいた……私は裕福と言っても階級は中の上位……あの娘や……他の奴隷を助ける力が無くて悔しかった……話す事はこれ位。」
そしてアイシクルは自分が250年前に体験した出来事の大体を語った。
「成程……それだけ聞けば大体貴女の事が分かったわ。」
ロンリネスはそれだけ聞いてかつてアイシクルが世界を滅ぼそうとした理由がなんとなく想像できた。
「眠っていた間に随分と世界の風貌が変わったけど……私がいた時代よりはまともになったと思う?」
アイシクルは科学技術が発達して自分のいた時代より遥かに文明の進化した現代社会は幸せかとロンリネスに尋ねる。
「……さあね、本当の幸せなんて何処にも無いのかもね……」
ロンリネスはアイシクルから質問を受けて自分の過去を思い出す。
教科書やノートをビリビリに破かれたり下駄箱の靴に刃物を仕込まれたりトイレの個室で水をかけられたり……その上で結局何時の時代も不幸な人間はいるのだと彼女に返答した。
2
雪木の家のベッドで寝かされていたジルは目を覚ました。
「う……うーん……ここは……貴方達は?」
ベッドから上半身を起こしたジルは状況が分からず困惑する。
ジルの目の前には雪木や市街地で戦った美森達がいた。
「気を失っていた所を僕達が助けました、気を失う前の事は覚えていますか?」
美森は目覚めたジルに早速気を失う直前の記憶を尋ねた。
「え……うーん……駄目です、詳しく思い出せません……夜道を歩いていた事は覚えてるのですが……」
ジルは必死に意識が途絶える直前に何があったかを思い出そうとするが、夜道で知人と電話を終えてスマホをカバンに閉まった所までしか思い出せなかった。
取りあえずジルはベッドの目の前にある小型テーブルに置かれていた自分の眼鏡を手に取って掛けた。
「一部の記憶も抜かれてるのね、どうやら本当にただ悪魔に利用されてただけみたい。」
「こんな酷い事をするなんて許せないわ!」
直花は美森の見立て通りジルはただ洗脳されて自分達と戦わせられただけだと分析し、胡桃はこの様な所業をする悪魔に怒りを感じた。
「あの、私の事は知ってますか? 貴女の大学の後輩の雪木 蛍です。」
雪木は大学でジルに見覚えがあったらしく、改めて彼女に自己紹介をした。
「雪木……ああ、聞いた事があります、2年の中で最も成績優秀で首席で卒業も夢じゃないって噂が立ってますから。」
「あら、蛾にも取り柄があるのね。」
ジルも雪木の名に聞き覚えがあったらしく、自分が知る情報を語り出し、その直後に直花が雪木の大学での評価が高い事が意外だという感想を漏らした。
「いえ、私なんて大した事無いですよ、てゆーかあんた! 蛾は余計よ!」
雪木はジルからの評価に照れた後、相変わらず自分を馬鹿にする直花に抗議した。
「まあまあ、取りあえずはどうしよう……彼女を家へ返した方がいいのか……」
美森は雪木をなだめた後、ジルをこの先どうすればいいのかが思いつかず、悩んでしまう。
「答えは簡単よ、しばらくはこの家で保護する、まだ悪魔に目を付けられてる可能性があるから。」
悩む美森に直花は悪魔が一度洗脳したジルにもう手を付けず開放するとは限らないと推理し、今はまだ警戒心を怠らず雪木の家で保護するのが得策だと提案した。
「勢いよく決めてるけど、ここ私の家なんですけど。」
雪木は直花自身の家ならともかく他人の家でジルを保護しようと言い出す彼女に呆れてしまう。
「あの、悪魔とは?」
ジルは直花達の話についていけず、自分にも分かる様に説明してくれと申し出る。
「この際だからはっきり言うわ、貴女は悪魔が空想上の生き物だと思ってるけど実は実在する、貴女は悪魔に操られて私達に襲い掛かったのよ。」
「ますます訳が分からないんですけど……」
直花は今までに起きた出来事をありのまま語るが、ジルはやはり話についていけず困惑してしまう。
「貴方、ナイフを貸してくれる?」
直花はジルにこの状況を理解して貰おうと美森にナイフを貸して欲しいと願い出る。
美森は直花がこれから何をするのかを読み取り、すんなりと彼女にナイフを貸した。
ナイフを受け取った直花はジルの見てる前で自分の手首を斬った。
「え!?」
突然の直花の行動にジルは驚く。
そして直花の斬り傷は瞬時に再生し、ジルは更に驚かされる。
「この世には天使と悪魔がいる、ちなみに私が天使ね、悪魔に操られていた以外に貴女の記憶が途中で途切れて気を失っていた状況をどう説明できるの?」
直花は自分の再生能力を実際にジルに見せる事で彼女に天使と悪魔の存在に信憑性を持たせた。
「信じがたい話ですけど……貴女の傷の治癒力を見たら信じざるを得ませんね……」
ジルは話が突発的過ぎて頭が混乱していたが、直花の言っている事は事実だと受け入れる事にした。
「まぁ、取りあえずしばらくは家でゆっくりして行って下さい、水前寺、紅茶を入れて。」
「はい。」
雪木は自分の大学の先輩であるため直花の言う通り自分の家でジルを保護するのが自然だろうと思って美森にジルに差し出す紅茶を入れる様指示し、美森は返事をしてその場から立ち去った。
「俺達はどうする? カビ使いでも探すか?」
英夜はジルの一件が一先ず解決した後、ジルと戦ってる最中に援護して来たカビ使いの本体であるフォグの捜索を提案する。
「それなのだけど、カビを使って私達を襲って来たのはほんの一時的、それ以降は全く姿を現す気配が無いともなると何処の誰だか見当が付かないわ。」
直花は今の状況でフォグを探し出すのは極めて困難だと英夜に指摘する。
「帰っちゃったのかしら? それとも戦略的一時撤退?」
胡桃もフォグの行動心理が読めず、このまま解散して自分達は帰るという訳にはいかなそうだと悩み始めた。
「敵も本格的に動いてるという訳ね……」
直花は自分達も敵の情報を探らなければいけないと危機感を抱いた。
しばらくして台所で紅茶を汲み終えた美森がティーカップをトレイに乗せて帰って来た。
「どうぞ。」
美森は小型テーブルにティーカップを置いてジルにお茶を差し出した。
「ありがとうございます……」
ジルはティーカップを手に取り、紅茶を一口飲んで混乱してる頭を落ち着かせた。
「雑賀さん達はどうします? このままお帰りになられますか?」
美森は直花達はこの後どうするのかが気になり尋ねる。
「そうねぇ……取りあえず日が暮れるまで何も起こらない様だったら帰ろうと思うけど……」
直花は今の事態がどれ程深刻か分からず、取りあえずしばらく様子を見たら帰ろうと考えた。
そんな時、美森と英夜のスマホが鳴り出した。
2人は何事かと思ってスマホを取り出す。
「元老院からのメール……」
美森はスマホに表示された内容を見て呟く。
そして美森と英夜はメールの内容を呼んだ。
『グリーンパール市内で女性がここ数日で4名行方不明になっている、内1名の自宅付近で2人の怪しい男が歩いているのを監視カメラが捉えた、画像を添付しておく、もしこの男達が悪魔なのであれば殲滅せよ、また詳しい情報を手に入れたらメールを送る。』
メールにはそう書かれてあった。
そして美森はその画像を見て美森は驚愕した。
画像にはオデイシアスとリチュオルが会話をしながら歩いている姿が写っていた。
「こいつは……高井さんを殺した男……」
美森の瞳に再び闘争心が芽生える。
このタイミングでオデイシアスの情報が入るとはなんという幸運なのかと美森は武者震いをした。
3
昨日美森と直花が会話をした公園のベンチにオデイシアスが座っていた。
そんな彼の元にフォグがやって来る。
「確か昨日の夜聞いた話じゃこの公園で見かけたんだよなぁ、俺の命を狙ってる奴を。」
オデイシアスはベンチを右手で撫でながらフォグに話しかける。
「ああ、それよりも、ジルとかいう女が倒されたがどうする?」
フォグは美森の事よりもジルが敗れた事の方が今は重要だと思って話を切り替える。
「へぇ、そうなんだ……でも使い道が完全に無くなった訳じゃないから、また機会があったら指示を出すぜ。」
オデイシアスはまだジルを見放した訳ではないが、取りあえず今は野放しにさせていいとフォグに伝える。
「分かった、所でお前はつけ狙ってる奴の相手はするのか?」
フォグはオデイシアスの命令を承知した後話を戻し、美森と戦う気はあるのかと問いただす。
「そうだなぁ、俺も戦わないでいると身体が鈍っちまうし時が来れば戦いますか。」
オデイシアスは腕を組みながらこのまま何もしないでいるのは美森から避けてる様で屈辱的に思えたため、美森と鉢合わせする様な事があれば戦おうと決心した。




