46話 霊園の歌姫7
1
グリーンパールのホテルの廊下をロンリネスは陽気に歩いていた。
「さーて、今日はどんな話をしようかなー♪」
ロンリネスは406号室、アイシクルが宿泊してる部屋の前まで来るとインターホンを鳴らした。
数秒後に扉が開いてアイシクルが出迎える。
「丁度……良かった……手伝って欲しい事があるの。」
アイシクルはロンリネスが訪ねて来た事が都合よく思えたのか、すんなり彼女を招き入れる。
「何かしら?」
ロンリネスは何が丁度良かったのかが分からなかったが、取りあえずまたアイシクルと話せる事を嬉しく感じて部屋に入った。
そしてアイシクルがロンリネスに見せた光景は、テーブルの上に置かれた通常の3倍程の大きな面積のピザだった。
「何これ……」
流石のロンリネスもこれは予想していなかったらしく、引きつった表情になる。
「オデイシアスから……特注のピザの差し入れがあったの……こういうのって……誰かと一緒に食べた方がいいかなと思った……」
アイシクルは部屋に規格外の大きさのピザがある理由を淡々と説明する。
「あーらら……これは1人で食べるのはキツそうねぇ……来た以上はしょうがない、食べますか。」
ロンリネスはここで帰ってはなんのために来たのだとアイシクルに思われてしまうと感じて彼女の食事に付き合う事にした。
アイシクルは早速ローラーを手に取りピザを半分に切る。
その直後、アイシクルはピザを手に取ってパクリと嚙みつき、2、3口程味わった後まるで麺類を啜る様に音を立てながらあっという間にピザを吸引した。
「いやいやいや、おかしいおかしいおかしい、どうなってるのよ貴女の身体!? その調子ならピザ全部飲み込む事だって可能でしょ!」
ロンリネスはアイシクルの強引な食べ方に思わずツッコミを入れてしまう。
「そうでもない……私の胃袋にも限界がある……」
アイシクルは冷静に自分が食べれる量の限界を説明した。
「あはは……恐れ入りました……」
ロンリネスは今のアイシクルの芸当は魔女故になせる事なのかと強引に納得してしまう。
その後ロンリネスはソファーに座り、ローラーを手に取って残りのピザを手に持ちやすいサイズまでスライスしていく。
「所で……貴女の名前……なんだっけ?」
アイシクルはロンリネスの名前を忘れてる事に気づき、彼女に尋ねた。
「ちょっ! ロンリネスよ、ロンリネス!」
ロンリネスはコケそうになりながら呆れた表情で自分の名前を告げる。
「あー……そうだった……食事をすると頭がボーッとするから……」
アイシクルはそう言いながら立ち上がり、冷蔵庫から缶のコーラを取り出して飲み始めた。
「まぁいいわ、今日はそうねぇ……オデイシアス一味の中で誰に一番注目してるか質問するわ。」
ロンリネスはピザを一口食べながら話の話題を決めてアイシクルに問いかけた。
「注目……フォグかな……」
アイシクルはコーラを飲みながら自分が一番気になっている人物の名前を口にする。
「フォグ? ああ、あの麻薬売りね……公園で見かけた親子が幸せそうに会話しててムカついたからって理由で殺した……過去に自分の親から虐待でもされたのかしら?」
ロンリネスはフォグの過去をある程度リメインから聞かされた事はあったが、全てを聞かされた訳ではないためまだ謎のある人物だなという印象を抱いていた。
「ちょっと違う……でも自分の息子が死んでも別に構わないって人だったから……どの道酷い親……」
アイシクルはフォグの過去の全容を知っているらしく、知った上で彼に同情している様だった。
「ふーん、貴女も親に恵まれなかったの?」
ロンリネスはアイシクルがフォグに注目してるのは自分の過去と重ねているからなのではと推測して問いかけてみる。
「……それは秘密……」
アイシクルは再びソファーに座りながら、自分の家族関係は伏せておくとロンリネスに告げる。
「貴女も秘密主義って訳ね、まぁ私も他人に自分の過去自慢するのは好きじゃないけど。」
ロンリネスは過去を語ろうとしないアイシクルがケチだと思いながらも、自分も美森達に身の上話をした事が無いためお互い様だと思った。
「彼……良心の呵責で葛藤しやすいタイプだし……愛した女性を幸せにしたいというピュアな気持ちもあったし……それが面白い……」
アイシクルはフォグの性格を自分なりに分析しており、その上で彼の人格に面白みを感じていた。
「人としての一線は超えちゃったけど善の心が微かにあって悪党になりきれないという訳ね……まぁ、ただ沸点が低いだけのバカである光龍よりはまともな思考回路してそうだけど。」
ロンリネスはフォグの生い立ちを全然知らなかったが、可哀想な人間だというのはなんとなく理解していた。
「それにしても……食べるの遅くない?」
アイシクルはフォグの話題をしてる最中でロンリネスがピザをまだ食べきれてない事が気になり伺って来る。
「貴女の食べるスピードが異常なんですけど……」
ロンリネスは先程から会話しながらもピザを一生懸命食べており、一気に口の中に吸い込んだアイシクルの方が異常だと常識的なツッコミをした。
2
美森達はトラックに乗りながらさらわれた英夜装甲態を救出するためジルを追跡していた。
「あの人が人間である以上、迂闊な攻撃は出来ないと思っていたけど、この方法なら行けるかも!」
胡桃は今までオーラの鮫に攻撃するとダメージがそのままジルに跳ね返ってしまうため攻撃を躊躇っていたが、何かいいアイデアが頭に浮かんだらしく、トラックの窓から銃を発砲した。
放たれた弾丸はぐにゃりと曲がって川を泳いでいるオーラの鮫に向かって行く。
そして弾丸はオーラの鮫の尾鰭に命中した。
「ぐっ!!」
ジルはそのダメージがフィードバックして右足を負傷してしまう。
それと同時にオーラの鮫の泳ぐスピードも落ちていった。
胡桃はオーラの鮫を操作しているのはジルだったため、彼女が脚を負傷すれば鮫の泳ぐスピードも必然的に落ちるだろうと予想していたのであった。
「今だ!!」
荷台に乗っていた美森はタイミングを見計らったかの様に自分の身体を液状化させてオーラの鮫へとジャンプしていく。
そして美森は自分の身体をジルへ直撃させた。
ジルは衝撃でオーラの鮫から落下し、液状化から身体を戻した美森と取っ組み合いを始めた。
美森はジルに馬乗りして抵抗する彼女を抑えようとする。
しかしジルも負けじと美森のコートの襟を掴みながら身体を回転させ、体制を入れ替える。
ジルは美森の顔を川の中に沈めて彼を溺死させようとするが、その直後に突然腹を抱えて苦しみだした。
美森はその隙にジルの拘束から脱出して、後ろを振り返る。
遠くでオーラの鮫の牙から抜け出した英夜装甲態が鮫に軽く攻撃していたのが確認できた。
美森は一息ついた後、懐中時計を取り出して装甲態に変身し、蹲ってるジルに刃を向ける。
「答えてもらいます、何故僕達を狙うんですか?」
美森装甲態はジルに自分達を襲う目的を問いただす。
しかしジルは無言で顔を上げ、瞳を緑色に発光させた。
すると遠くにいたオーラの鮫が光の球体となってジルの元へ飛んで行き、彼女はそれを右手で受け止めた。
光の球体はやがて形を作り、緑色に輝くオーラの剣となった。
「そんな芸当も出来るとは……!」
美森装甲態はジルのオーラの更なる応用に驚いた。
ジルは美森装甲態へ斬りかかり、両者の剣を交えたぶつかり合いが始まる。
戦闘力では鎧を着ている美森装甲態の方が上だったが、ジルが生身の人間であるため彼は手加減するので必死だった。
「待ってろ! 今俺も加勢するぜ!」
それを見ていた英夜装甲態も急いで助太刀するため駆け寄る。
「待ってください! 彼女は人間、手加減をするためにも僕一人で戦います!」
しかし美森装甲態は人間であるジルに複数で立ち向かうのはオーラナイトとして忍びないと思ったらしく、英夜装甲態の加勢を拒否した。
「おいおい! 大丈夫か!?」
「子供扱いは無用!」
心配の声をかける英夜装甲態に美森装甲態は頑として1人でジルを無力化してみせると断言した。
次々と繰り出されるジルの斬撃、しかし美森装甲態は自分の剣で応戦しながらジルの太刀筋を分析する。
(踏み込みは出鱈目、太刀筋は大雑把、鍛錬を積めば上達するかもしれないけど、間違いなくこの人はオーラ使いになったのはつい最近のヒヨッコ!)
美森装甲態はジルが剣を大きく振り上げ、腹部が無防備になったその僅かな隙を付いて彼女の腹部を剣の柄で攻撃した。
ジルのオーラは完全に解かれ、オーラの剣も消滅して彼女は気絶した。
美森装甲態は変身を解きながら倒れそうになるジルを抱えた。
そして英夜装甲態も変身を解き、美森に駆け寄って来た。
「その女……一般人だよな?」
英夜はジルの素性をよく知らなかったが、直接の戦闘であっさり敗北した事からオーラナイトに縁のある人間ではないと予測していた。
「うん、僕もそう思う、なんらかの理由で悪魔に利用された傀儡……そんな感じがする。」
美森もジルが自分達に台詞らしい台詞を一言も喋らなかった事から彼女が無機的に感じて何かしらのマインドコントロールを受けたのではと推測していた。
「兎に角、このまま放っておく訳にはいかなそうだ。」
英夜も取りあえず自分達が次にしなきゃいけないのはジルを何処かで休ませて気が付いたら事情を伺う事だと考えていた。
そしてトラックを止めた直花と胡桃も美森達の方へやって来る。
その様子フォグはこっそり建物を伝って移動して今はビルの屋上から美森達の様子を眺めていた。
(やはり素人にオーラナイトの相手は荷が重すぎたか……あの女をこの世界に足を踏み入れるべきじゃなかったな。)
フォグはオデイシアスに洗脳され、無理矢理オーラ使いにされて刺客として投げ出されたジルに哀れみの感情を抱いていた。




