45話 霊園の歌姫6
1
何処かの公園で、黄色のカーディガンに白いTシャツ、青のロングスカート姿の茶髪のウェーブのかかったロングヘアの女性と黄色いTシャツに赤のサスペンダー、白いソックス姿の幼稚園児位の少女が楽しそうに会話をしていた。
どうやら2人は親子の模様だった。
「ママ、新しく出来たお菓子屋さんのお菓子美味しかったね。」
「ええ、また今度行きましょうね。」
親子は何気ない会話で弾んでいた。
そんな時、親子の頭上から紫の煙が降り注いできた。
「はぁ……」
「はぁ……」
煙を浴びた親子は睡魔に襲われ、そしてベンチに倒れ込んだ。
親子が眠った後、リチュオルがやって来る。
「うっひょー! 母娘丼だ、早速持ち帰るか!」
リチュオルは上機嫌な態度で手のひらサイズの小さな壺を取り出す。
すると眠った親子は光の球体となって壺の中に吸収されていった。
リチュオルは周りをキョロキョロして誰もいない事を確認するとその場から立ち去って行った。
公園を跡にしたリチュオルは何処かの薄暗い地下室へとやって来た。
地下室の床にはブルーシートが引かれており、その上で茶髪のボーイッシュなショートヘアの白いノースリーブのシャツにピンクのミニスカート姿の女性、頭の両サイドをお団子結びにした黒髪の青い中華風のTシャツに白いミニスカート姿の7歳位の少女、金髪のロングヘアの緑のノースリーブのシャツに青いショートパンツ姿の女性、茶髪のロングヘアのスカートが脚の関節辺りまでの長さの紫色のビジネススーツを着た女性が眠っていた。
リチュオルの女性達が眠るブルーシートに先程の壺を突き出す。
すると中から光の球体が飛び出てブルーシートの上に着地し、先程公園で捕らえた親子の姿に戻った。
「くっくっくっ、リメインのお人形さん遊びはただ一時的に気絶させた女を犯すだけで底が浅い、俺の場合は捕らえて歳をとらない様仮死状態にしてコレクションするんだ、着せ替えをして遊ぶことも出来る。」
リチュオルは独り言を呟きながらニヤリと笑う。
どうやら女性を仮死状態にしてコレクションする事がリチュオルの趣味の様だった。
2
催眠ボールで通行人達が眠った最中、フォグも自分が敵だと美森達にバレない様に通行人に紛れて寝たふりをしていた。
(まさかこんな簡単な方法でジルを見つけ出すとはな、しかもご丁寧に事故を起こさないため車に乗ってる人間には催眠音波が効かないとか都合が良すぎだろ……さて、どうしたものか……)
フォグはジルがピンチになってるこの状況をどうするか考えていた。
一方のジルは一般人の女性を人質として捕らえた後、美森達から逃げ出す。
美森達は血相を変えてジルの後を追いかける。
「畜生、催眠ボールが仇になるなんて……!」
胡桃はジルに人質を獲りやすい状況を作ってしまった事に責任を感じてしまう。
「そりゃ仕方ねーよ、他に本体を見つける方法は今でも思いつかねーしな!」
英夜は催眠ボールを使うしかジルを探す方法が無かったため、仕方がないと胡桃を励ます。
「それよりマズいわ、彼女が逃げてる方向には大きな川がある、そこへジャンプする気よ!」
直花はジルの逃げる先に白いフェンスがあるのを確認する。
今までの経緯からジルの鮫は水から水へ瞬間移動する能力を持っていると読み取った直花はジルが川を渡って逃げる気なのだとすぐに分かった。
「だとするとあのオーラの鮫はちゃんとした海や川では実際の鮫程の大きなる……それは厄介だ、鮫の泳ぐスピードに人間の足が追いつける訳ない!」
美森はジルが川に飛び込むとなると、彼女はオーラの鮫に跨って移動する事になるためスピードではこちらが不利だと焦り始める。
「なんとしてでも阻止するわ! イーグルドローン!!」
直花はイーグルドローンを操ってジルより先回りさせる。
イーグルドローンに行く手を阻まれたジルは立ち止り、人質である女性の入ったペットボトルを盾にして脅しをかける。
「『人質がどうなってもいいのか』って言いたい様ね、でも甘いわ!」
直花はジルの脅しに屈する事無く、イーグルドローンの超スピードでジルが持ってるペットボトルを翼で切断する。
ペットボトルの水はこぼれ、中に入っていた人質の女性が元のサイズに戻って出て来た。
「ナイスだ雑賀!」
「安心するのはまだ早いわ、オーラの鮫が人質の喉に!」
人質をペットボトルから解放させた事で直花を褒める英夜だったが、肝心の直花はオーラの鮫が女性の喉元にいる事を確認してまだ焦りを解かなかった。
「あの人の喉を噛みきる気ね、させるか――!!」
そこへ胡桃は叫びながら銃を発砲する。
銃弾は意志があるかの様に軌道を曲げながら、的確にオーラの鮫の脇腹へと命中した。
「ぐえっ!!」
その直後にジルの脇腹も自動的に負傷し、彼女は呻き声を上げた。
「やっぱりオーラの塊を攻撃するとダメージが本体へフィードバックされるのね、急所を外して良かった!」
胡桃は切り離してるとはいえジルのオーラである以上攻撃すればジルにもダメージが返ると予測していた、だからこそわざと急所を外して狙ったのだった。
「よし追いつめたぞ! 悪いが気絶しててもらう!」
ジルの近くまで到達した英夜は彼女に飛び蹴りを喰わらせようとする。
しかしその時、突然英夜の右脚から緑の綿の様な物体が湧き出した。
「うおおおおおおお!! なんだこれはぁああああああああ!?」
英夜は右脚から激痛を感じてその場に転がり込んでしまう。
「英夜!! てっうわああああああ!! 私の腕までぇえええええええ!!」
胡桃は慌てて英夜に駆け寄ろうとしたが、しかし自分の右腕まで緑の綿が湧き出して苦しんでしまう。
それに続く様に美森と直花の身体にも緑の綿が発生する。
「これは……カビよ!!」
直花は緑の綿の正体がカビであると見抜き、自分達の身体がカビに浸食されてるのだと察した。
「彼女の能力……いや違う、全く異なる能力を2つも極めるなんて容量が悪過ぎる! もう一人、別の仲間がいる!!」
美森はジルの能力はオーラの鮫を操る事だけの筈だと思い、別の何者かがジルを支援しているのだと推理した。
「ひいいいいいい!! 誰か、カビ〇ラー持って来い!!」
英夜はパニックになりながらカビの除去洗剤を要求した。
「余計肌に悪いよ!!」
胡桃が洗剤を肌にかけるのは逆に危険だと常識的なツッコミを入れた。
そんな最中でジルは英夜に水鉄砲をかけた。
「うおっ! しまった!!」
服に水をかけられた英夜はこの後どういう展開になるのかが分かってしまい青ざめてしまう。
英夜の予想通り、水で濡れた部分の服からオーラの鮫が飛び出し、彼に嚙みついた。
そしてオーラの鮫は英夜ごと消え去ってしまう。
美森達は英夜が水鉄砲のタンクの中に閉じ込められたのだろうと予想した。
ジルは宙返りをしながらフェンスの方へジャンプする。
そして一心不乱にフェンスを飛び越え川へ飛び込んだ。
美森の予想通り、オーラの鮫は川で実際の鮫程の大きさになって現れ、ジルは鮫の身体に跨った。
鮫の口にはカビの浸食で苦しむ英夜がくわえられていた。
その一部始終を何時の間にかマンションの屋上まで移動したフォグが眺めていた。
「俺が手助けするのは一時的だけだ、後は自分の力でなんとかしてみろ。」
フォグは鮫に乗って川を移動するジルを眺めながら呟く。
カビのオーラを使う本体はフォグだった。
その直後にフォグが能力を解除したのか、美森達の身体を蝕んでいたカビが消滅し、ようやく彼等も自由に動ける様になった。
「カビが消えた……どういう事だ?」
美森はカビが消えた理由が分からず困惑する。
「この際カビ使いの本体を探すのは後回しにしましょう! 鮫使いを追いかけるわよ!」
直花はまず優先するべきはジルに捕まった英夜の救出だと考え、美森と胡桃を先導する。
「了解!」
胡桃も直花の意見に賛同して返事をし、そして3人は逃げたジルを追いかける。
一方の英夜はカビの浸蝕こそ止まったが、オーラの鮫の遊泳速度による風圧や水しぶきで苦しんでいた。
「くっそぉ……舐めんなよ!!」
英夜は苦しみの最中で懐中時計を取り出し、装甲態へと変身した。
「うう……薙刀で攻撃するとダメージがこの女に返ってしまう……!」
英夜装甲態は薙刀の刃でオーラの鮫を突き刺そうとしたが、ジルへダメージがフィードバックするのを恐れて躊躇ってしまう。
一方の美森達もオーラで脚力を上げてジルを追跡しているが、やはり鮫の遊泳速度には及ばす焦っていた。
「クソォ! このままじゃ逃げられる!」
「仕方がないわね、こうなった以上アウトローな方法を取るしかないわ!」
どうしたものかと悩む美森に直花はある思い付きを提案する。
「アウトローな方法?」
胡桃は直花が何を思いついたのか分からずキョトンと首をかしげる。
「時として目的のためならどんなゲスな事だってする漆黒の意志が必要って事よ!」
直花は不可思議な発言をすると突然車道に出てこちらに向かって来るトラックに通せんぼうをした。
「何考えてんだこのガキ―――――!!」
トラックの運転手は当然の如くトラックを止めて窓から顔を出して直花を叱りつける。
そんなトラックの運転手にイーグルドローンが突撃した。
「ぐえっ!!」
イーグルドローンの攻撃を顔面に受けたトラックの運転手は気絶してしまった。
「雑賀さん、それ犯罪ですよ!!」
美森は直花がトラックを奪ってそれでジルを追跡すつもりなのだと察して、彼女にそれは人の道に外れると抗議した。
「言った筈よ、時として漆黒の意志が必要だって、綺麗事だけじゃ戦いはやっていけないのよ!」
直花はオーラでトラックのドアを強引に開けて運転手を引きずり出しながら美森を説得する。
「私も雑賀さんに賛成、今はこれしか手段が無いわ!」
胡桃の方は直花のやり方は仕方がない事だと不本意ながら彼女の行いを認めてる様だった。
「胡桃ちゃんまで!」
美森は直花に賛同する胡桃にも苦言を溢す。
「私を否定したいのならそこにのこるといいわ。」
直花は美森を冷たい態度を取りながら運転席に座り、胡桃もそれに続いて助手席へと座った。
「うう……運転手さん、ごめんなさい! 僕は荷台に乗ります!」
美森は決心を固めたのか、気絶して倒れている運転手に深々と謝りながら荷台へと向かった。
「準備OKです!」
数秒後、美森は荷台の上に乗った合図を直花に送り、直花はトラックを走らせた。




