44話 霊園の歌姫5
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フォグは引き続き歩道橋の上からオーラの鮫を遠隔操作している眼鏡の女性を見守っていた。
(確かジル・アッシュクロフトとか言ったな、あの女、果たしてオーラナイト達に逆探知されずにいられるだろうか……)
フォグはジルと呼んだ眼鏡の女性が美森達に見つからないかと内心ヒヤヒヤしていた。
そしてフォグは初めてジルと会った時の事を思い出す。
☆☆☆
夜の住宅街をジルはスマホで電話しながら笑顔で歩いていた。
「テレビに出たって自慢されても貴方ただインタビューに答えただけじゃない……まぁ私も高校時代チアリーディング部だったから甲子園の試合でがっつりテレビに映ったけど……兎に角くだらない自慢話をしたって相手はうんざりするだけよ、じゃあね。」
ジルは友人と思われる相手との電話を終えるとスマホを切ってバックに閉まった。
電話を終えたジルは先程の笑顔が嘘の様に沈んだ表情になる。
そしてふとジルは右の角を曲がった時、奥に見えるトンネルである光景を目撃してしまう。
それはフォグが柄の悪い男に麻薬の入った煙草の箱を渡して金を受け取っている光景だった。
フォグはすぐにジルの視線に気づいた。
ジルはフォグが何をしていたのかを察してここにいてはマズいとその場から逃げ出そうとする。
しかしフォグはボウガンを取り出しジル目掛けてトリガーを引いた。
「うっ!!」
ボウガンの矢はジルの右脚に命中して彼女は転んでしまう。
フォグはオーラで上げた脚力で素早くジルの方へ駆け寄り、彼女の襟元を掴んでボウガンを向けた。
「ひっ!!」
ジルはもうお終いだと絶望した。
しかしその時、フォグの中で何かがブツンと弾けた。
「ぐええええええええ!! ぎょえええええええ!!」
フォグは突然ジルの襟元から手を放し、蹲って嘔吐してしまった。
今フォグの頭の中には自分が衝動的に殺してしまった親子や恵の事が過った。
親子を殺してしまった後悔や恵を目の前で殺されてしまった悲しみが入り混じり、それ以来女性を殺そうとすると身体が拒絶反応を起こしてしまう体質になってしまったのだ。
ジルは突然のフォグの対応に困惑してしまう。
そんな時、オデイシアスが何処からともなく現れて、ジルの方に近づく。
そしてオデイシアスは両手をジルにかざし、彼女に力一杯オーラを送り込んだ。
「キャ―――――!!」
ジルは突然自分の中に流れ込んでくるオーラに、身体に激痛を感じて悲鳴を上げる。
そしてジルはその場に倒れ込んだ。
オデイシアスは腰を下ろしてジルを確認する。
ジルの身体は微かにピクピクと動いており、呼吸もしていた。
「運が良かったな、素質が無ければ死んでいた、これでお前も晴れてオーラ使いになったという訳だ。」
オデイシアスはオーラを身体に受けて生き延びたジルを悪そうな笑みで称えた。
「ハァ……ハァ……どういう事だ、この女をオーラ使いにするなんて!?」
フォグは嘔吐して気分が悪くなりながらも、自分が口封じで殺害しようとしたジルをオーラ使いにしたオデイシアスの行動が理解できず抗議する。
「そろそろオーラナイト打倒の計画でも考えようと思ったんだ、そしていい事を思いついた、オーラナイトは人間を殺せないからそれを利用しようってな。」
オデイシアスはいい加減自分が美森達を倒すために動いてもいい頃だろうと思ってある作戦を閃いた様だった。
「……大体察した、人間を刺客に送り込もうってんだな、しかしこの女が言う事を聞くのか?」
フォグはオデイシアスの考えを理解したが、肝心のジルがこちらの命令を素直に聞くのかと疑問を抱く。
「勿論そこも考えてある、こいつを使えばいいんだよ。」
オデイシアスはコートのポケットから水色の液体が入った瓶を取り出し、蓋を開けた。
「この薬を飲ませればこの女は俺達の命令に従う操り人形になる訳だ、念のためお前と会った記憶も消しといてやるよ。」
オデイシアスはジルの口に薬を注ぎ込みながら、フォグを気遣い麻薬の取引現場をみた記憶も処理すると宣言した。
「余計なお世話だ。」
フォグは他人の力を借りて証拠を隠滅する事に抵抗を感じてしまう。
「でもお前、殺せなかったんだろう?」
オデイシアスはフォグを煽るかの様な笑みで彼に事実を突きつける。
「ぐっ……」
フォグは毒づき、顔をオデイシアスから反らした。
まさかこんな形で過去への未練を表現してしまうとはと思ったフォグは非常に屈辱的で悔しい気持ちで一杯になってしまった。
「えーと、何かこの女の身分を証明できる物は……あった、ふむふむ、ジル・アッシュクロフト、生年月日からして歳は22歳、お前の1コ上だな。」
オデイシアスは薬をジルに飲ませた後、彼女のバックを漁って免許証を見つけ、名前と年齢を知った後ジルがフォグより年上だという事を面白く感じた。
「たかが1コ上なだけだろうが。」
フォグはジルとの年齢差に大きな差がなかったためオデイシアスに呆れてしまう。
「確かに歳はどうでもいいか、取りあえずこいつが出陣する時はお前がお目付け役になって欲しいな、殺せなかった代わりによ。」
「ちっ……」
フォグはオデイシアスからジルを殺せなかった恥ずかしさを揉み消したいのならジルの監視役として働く様命令し、フォグは舌打ちをしながら渋々引き受けたのだった。
☆☆☆
(あの時の失態、思い出すだけでも腹立たしい……それにしてもあの女は俺に殺されるのとオーラナイト打倒の道具にされるのとではどっちが幸せなのだろうか……)
フォグはジルを殺せなかった事を今でも後悔していた。
それと同時に今操られて美森達の敵として立ちはだかってるジルが少し可哀想に思えていた。
フォグが思考を張り巡らせていた時、喫茶店から美森達が外に出てくるのを目撃した。
「多分本体は外から鮫を操作してる筈、身を隠すなら広い場所の方が有力だから!」
直花は敵の心理を推理して、店の中に潜むより外から奇襲を仕掛ける方が見つかりにくいという安心感が高いと判断して美森達を連れ出した様だった。
「雑賀さん、悪魔の気配はある?」
胡桃は拳銃を両手に構えながら直花に敵の気配はあるかと尋ねる。
「今感覚を研ぎ澄ませているけど人間の気配しかないわ、敵の方も気配を消せる様身体に細工をしている可能性が高いし。」
直花は辺り一面を見渡しているが、敵と一般人の区別が難しくて困り果てていた。
当のジルはペットボトルをバックに閉まって美森達のいる歩道へと歩いていた。
あえて何食わぬ顔で美森達の前を通り過ぎて、彼らに敵じゃないと思わせたかったのだろうか。
(まさかあいつらも鮫の本体が人間だとは思うまい、ジルと一般人をどうやって区別出来る?)
フォグはジルを鮫使いと特定する手段は無い筈だと思い、オデイシアスの言う通り人間を駒として使うのは有効だと感じた。
しかしその時、フォグは胡桃が左手に持っていた銃を口に加えてショルダーバックから青色の野球ボール位のサイズの球体を取り出したのを目撃した。
(!? 何をする気だ?)
フォグは嫌な予感を感じ取り、警戒心を滾らせた険しい表情になる。
胡桃はボールを空高く投げて、右手の拳銃で発砲した。
するとボールから女性の声の様な透通る音が辺りに響き渡り、それを聞いた周りの通行人達はあくびをしてその場に倒れ込んだ。
(これは……は!!)
フォグは突然の出来事に戸惑うが、すぐに何かを察して自分も寝たふりをしなくてはと感じて地面に横たわる。
一方、歩道橋の階段を下りていたジルは対応が遅れて突然倒れ込んだ周りの通行人を見て動揺していた。
「最近作ったオーラが発現している者以外を眠らせる催眠ボール、効き目は抜群ね!」
一連の現象は胡桃の開発したボールによるものだった、周りの通行人達が眠った後、胡桃は眠らなかったジルに注目する。
「お前もまた大胆なモン作るなぁ、取りあえず鮫使いはあの眼鏡の女か!」
英夜は胡桃が自分の知らぬ間に新しい道具を作っていた事に唖然とし、そしてジルがオーラの鮫の本体だと断定して懐中時計を構えて近づこうとする。
「待って。」
そんな時、直花が何かが妙だと感じて英夜を制止した。
「なんだよ?」
「あの人に気を集中して気配を感知してるんだけど……あの人、多分人間なんじゃないかしら。」
直花は制止されて返事をする英夜にジルが人間かもしれないと忠告した。
「人間!? 間違いないんですか?」
美森は直花の忠告に驚き、ジルが本当に人間なのかと確認を入れる。
「悪魔がなんらかの方法で気配を消してるのとは違う、例えるなら地毛と染め毛では色具合が違うとかそんな感じ、彼女は正真正銘、混じりっ気なしの人間だと思う。」
直花は神経質な程ジルから漂って来る気配を感知しているが、やはり人間の可能性が高いと断言した。
「よくわかんねーが、なんで人間が俺達に攻撃してくるんだよ?」
英夜はジルが人間かどうかには半信半疑で彼女が自分達を襲う動機は何かと直花に尋ねる。
「それは知らないわ、でもオーラナイトたるもの人間の殺傷は出来ないからあの人には手加減した方がいいわ。」
直花もジルの身に何が起きてるのか分からなかったが、取りあえず美森と英夜にオーラナイトの掟に従いジルを殺害するなと警告した。
するとジルはバックの中から緑色の水鉄砲を取り出して階段を駆け足で降りて来る。
「水鉄砲? そんな物で私達と……まさか!!」
胡桃はジルが水鉄砲で自分達に対抗する気なのかと呆れてしまうが、すぐにオーラの鮫の存在を思い出して何かを察する。
ジルは階段を下り終えるとすぐに自分の付近に倒れているグレーのニットに青のミニスカートの黒髪のボブカットの女性に水をかけた。
すると女性の水で濡れた服からオーラの鮫が出現する。
そして次の瞬間女性はオーラの鮫と共に消えてしまった。
「消えた! 一緒に居る人間ごと瞬間移動できるのか!?」
美森はオーラの鮫の更なる能力に驚く。
次にジルはバックに水鉄砲を閉まって、代わりにペットボトルを取り出す。
その中には先程の女性が小人の様に小さくなってオーラの鮫と共に入っていた。
「つまりこれ、人質!?」
胡桃はジルがペットボトルを自分達に見せたのか、その意図を読み取った。
ジルはペットボトルを美森達に見せびらかしながらその場から走り去る。
「待て!!」
美森は急いでジルの後を追いかけ、残りの3人も後に続く。




