43話 霊園の歌姫4/鮫の襲撃
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午前11時頃。
雪木の家である程度の家事を終えた美森は英夜と胡桃に呼び出され喫茶店で紅茶を飲んでいた。
「まぁアレだ、俺もリリカとの事があったからお前の気持ちは分かるが、いつまでも生気の抜けた面してても仕方ねーって事だよ。」
英夜は凱巣島からの帰還後の美森を自分と重ねて心配していた。
だから胡桃と共に美森を喫茶店へ呼び出したのだった。
「昨日雪木さんからも同じ事を指摘されました。」
雪木と似た様な指摘を英夜から受けた美森はそんなつもりは無かったのに他人に心配をかけている今の自分が情けなく思えてしまう。
「そうか。」
英夜は美森が昨夜雪木からも色々言われたであろう事は大体想像できた様だった。
「復讐を成し遂げようと必死に努力してるつもりが、気が付いたら後向きでネガティブな状態になっている……そう思うと自分が嘆かわしい……」
美森は自身が抱く自分の印象と他人から抱かれた印象が180°違ったという事実を突きつけられて、今この状態で高井の仇を討てるのかと自信を喪失しかけていた。
「水前寺君らしいって言えばらしいけど……やっぱり命懸けの戦いをする以上気高い精神を持って突き進まなきゃ前へ進めないよ。」
胡桃は美森が落ち込みやすい性格なのはいつもの事だと思いながらも、だからこそ前向きに生きるという気持ちをより強く持たなければならないと厳しく指摘する。
「うん、まずはそこから始めるつもり。」
美森は高井と過ごした日々を思い出して悲しむよりも絶対にオデイシアスを倒して仇を討つという志だけを今は強く持とうと考えながら紅茶を一口啜った。
そんな時、美森達の席に直花がやって来た。
「これはまた偶然ね、それともオーラ使い同士は引かれ合う運命なのかしら。」
直花は喫茶店に入って早々美森達を目にしたらしく、興味本位で彼らの元までやって来たのだった。
「雑賀か、こいつは本当に奇遇だな。」
英夜は奇妙なタイミングで直花と再会した事に驚いた。
「へぇ、貴女が雑賀さん、私は英夜の従兄妹で三葉胡桃、よろしくね。」
胡桃は前々から気になっていた直花と対面できた事を嬉しく感じながら自己紹介をする。
「ふーん、従兄妹がいたのね、雑賀直花よ、よろしく。」
直花は英夜に従兄妹がいた事に感心を示しながら胡桃に手を差し伸べる。
胡桃は笑顔で直花の手を取り握手を交わした。
「これも何かの縁だし相席いいかしら?」
胡桃との握手を終えた直花は相席をしてもいいかと尋ねる。
「構わないぜ。」
英夜は相席を了承し、直花は美森の隣の席へと座る。
「それで、貴方達が話していたのは彼の事?」
直花はさっきまで英夜達は美森の仇討ちについて語り合っていたのかと想像して尋ねる。
「そんな所だな、お前のおかげで無事仇は見つかったが肝心の水前寺がゾンビが徘徊する様に生気の無い顔で探し回ってた訳だから注意してたのさ。」
「その辺の事情は知ってるわ、昨日も彼に会ったから、コーヒーをブラックで。」
英夜から先程までの会話内容を聞かされた直花はやはりそうかと頷いた。
そして直花は席までやって来たウェイトレスにコーヒーを注文する。
「やっぱりアメリカ暮らしが長いと紅茶よりもコーヒー派なんですか?」
胡桃は興味本位で直花の事をもっと知ろうとする。
「ええ、紅茶なんて滅多に飲まないわね。」
「水前寺君はイギリス系だからなんか対称的ですね。」
直花から紅茶は然程飲まないと聞かされた胡桃は彼女が紅茶を愛飲するイメージのあるイギリス人の血が流れている美森と隣同士の席に座っている事を面白く感じた。
「へぇ、イギリス系、貴方はコーヒーより紅茶なの?」
直花は美森がイギリス系だと知って驚き、彼に紅茶好きなのかと尋ねる。
「ええ、子供の頃から紅茶を飲まなきゃいけないという使命感があったので。」
美森には幼少期からイギリス人といえば紅茶という印象を抱いて育ったためイギリス系である自分も紅茶を飲まなくてはと考えていた様だった。
「イギリス系とアメリカ帰りの出会いってゆーのも奇妙よね。」
胡桃は対照的な美森と直花を観察して微笑みながらふと自分の紅茶を見つめる。
そして何食わぬ顔でティーカップを手に取った時、胡桃は異常な物を見てしまった。
紅茶から突然三角状の緑色の物体が浮き出し、円を描く様に泳いでいたのだ。
「何……これ……鮫!?」
胡桃にはその物体がまるで鮫の背びれの様に見えた。
そして次の瞬間、三角状の物体は紅茶の中から飛び出して胡桃の喉に食らいついた。
やはり胡桃の予想通り、三角状の物体は小さな鮫だった。
「ぐえっ!!」
小さな鮫に喉を食らいつかれた胡桃は苦痛にもがき、床に倒れ込んだ。
「胡桃!?」
突然の出来事に英夜は驚き、倒れた胡桃の傍による。
そして胡桃の喉に小さな鮫がいる事に気づき、急いで鮫を引き放した。
「なんだこいつは!?」
英夜は自分の手でじたばたと暴れる鮫に困惑した。
取りあえず小さな鮫が危険な存在である事だけは理解した英夜はオーラで握りつぶそうとするが、次の瞬間鮫はテレポートをする様に突然と姿を消した。
「な……! 何処へ行った!?」
英夜は辺りを見渡し消えた鮫を探す。
「取りあえず彼女の応急処置を!」
この一部始終を見ていた直花は鮫を探すよりもまず胡桃の傷口を塞ごうと彼女に駆け寄った。
すると次の瞬間、突然胡桃の喉の傷口から消えた鮫が現れ、直花の喉へと飛びついた。
「ぐっ!!」
突然の奇襲に直花も対応が遅れ、喉に嚙みつかれてしまった。
「雑賀さん!!」
今度は美森が雑賀の喉に食らいついた鮫を取り外そうとするが、またしても鮫は突然消えてしまった。
「また消えた!?」
美森は奇襲を仕掛けては姿を消す鮫に混乱し、直花は痛みを堪える様に脚をかがむ。
「お客様、これは一体!?」
そんな時、直花の注文のコーヒーをトレイに乗せてやって来たウェイトレスが突然負傷した胡桃と直花を見て驚く。
そして美森はウェイトレスが持ってきたコーヒーから鮫の背びれが浮かんでいるのを確認する。
「危ない! そのコーヒー地面に投げ捨てて!!」
美森は大慌てでウェイトレスにコーヒーを乗せたトレイを捨てる様指示する。
「え!?」
ウェイトレスは困惑し、そしてコーヒーから鮫が飛び出てウェイトレスを狙おうとする。
「キャッ!?」
しかし間一髪で直花のイーグルドローンが鮫を鷲掴みにしたためウェイトレスは負傷せずに済んだが、衝撃で彼女は腰をついてしまう。
「今度こそ捕まえたわ!!」
天使特有の再生能力で喉の傷が治癒した直花はイーグルドローンを操作して鮫を鷲掴みにしたまま地面へ叩きつけた。
その後美森と直花はイーグルドローンの元へと駆け寄る。
「この鮫は……オーラの塊よ。」
直花はイーグルドローンから伝達されるオーラで鮫の正体を調べ、その鮫が何者かのオーラによって形作られた存在だと分析した。
「オーラの塊!? 確かにオーラを使う者の中にはオーラに形を作って切り離して遠隔操作出来る者もいるけど実物を見たのは初めてだ。」
美森はこれまで自分が戦った事が無い初めてのタイプの敵に緊張感を抱いた。
その直後、やはりオーラの鮫は何処かへ消えてしまった。
「くっ……また瞬間移動された! こうなったら本体を見つけて直接倒すしかなさそうね!」
直花はオーラの鮫を探すよりも、それを操る本体を探す方が有効だと考えた。
直花は辺りを見渡すが、一連の騒ぎでこちらを注目する客や店員の数は多く、一目見ただけでは誰が本体なのかを特定出来なかった。
「雑賀さん、切り離したオーラをどれだけ遠くに飛ばせるかは知ってますか?」
美森はオーラを遠隔操作するオーラ使いについてはあまり詳しくなく、直花に遠隔操作の射程距離を尋ねる。
「個人差があり過ぎて分からないわ、この店内にいる可能性も外から操作している可能性も否定出来ない!」
直花によればオーラの塊をどれだけ遠くに飛ばせるかは人それぞれらしい。
直花は試しに悪魔の気配を感知してみたが、店の中にそれらしい気配は見当たらないため店の外から操ってる可能性も視野に入れていた。
一方の英夜は胡桃の止血をハンカチで止めるので必死だった。
「くそぉ、こんな事なら雪木も呼んでおくんだった!」
英夜はまさかこんな状況で敵と遭遇するとは予想してなかったため、回復役である雪木も連れてこ来なかった事を激しく後悔した。
「待てよ、確か!」
すると英夜は突然何かを思い出したかの様にコートのポケットを漁る。
「あった、これだ!」
英夜が取り出したのは先のブルーアルバトロスホテルでのダンジョン探索の際に雪木から貰った回復薬の入った瓶だった。
あの時は使う機会がなかったがその後も取りあえず持ち歩いていたのを思い出したのだ。
英夜は急いで瓶の蓋を開けて回復薬を胡桃の口に入れる。
「胡桃、こいつを飲み込め!」
英夜は胡桃に回復薬を飲むよう呼びかける。
胡桃は喉の激痛で中々薬を飲み込めずにいたが、身体のオーラを喉に一点集中させて痛覚を和らげなんとか飲み込んだ。
すると胡桃の喉から虹色のオーラが発生し、喉は瞬く間に修復された。
「うう……よくもやってくれたわね! オーラの本体は何処のどいつよ!?」
胡桃は喉が完治すると、先程の奇襲の屈辱も兼ねて本体を探そうとした。
喫茶店の外の付近にある歩道橋。
そこにはふわふわとウェーブのかかった茶髪のボブカットに紫の瞳、ピンクのトレンチコートに青のセミロングスカートに黒いタイツを履いた眼鏡をかけた若い女性が喫茶店の窓を眺めていた。
女性は右手にペットボトルのミネラルウォーターを持っており、その中に先程のオーラの鮫が泳いでいた。
どうやらこの女性がオーラの鮫の本体の模様だった。
さらにその眼鏡の女性を喫茶店の向かいの歩道からフォグが眺めていた。
(取りあえずオデイシアスは刺客としてこいつを送り込んだ訳だが、本当にこいつに任せて大丈夫だったのか?)
フォグは内心で眼鏡の女性が美森達を仕留められるかどうか心配していた。




