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42話 霊園の歌姫3

雪木の自宅の食卓。

雪木はテーブルに座りながら自分の元に置かれているハヤシライスを見つめていた。


「今日1日中高井さんの仇を探し回ったから今日の夕食は出前のハヤシライスって訳?」


雪木は自分の目の前で立っている今日は料理をする暇もなかったのかと尋ねる。


「ええ、すいません。」


美森は料理を作れなかった事を申し訳なく思い雪木に謝罪する。


「なんだかあんた、やつれてない? 今日はまともに食事を摂らなかったの? そんなんで高井さんの仇なんか獲れるの?」


雪木は美森の目が死んだ様に虚ろなのを見て、その状態で仇討ちのために戦う気なのかと心配になって尋ねる。


「そんな事はありません、ただ今日は収穫無しなので気分が落ち込んでるだけです。」


美森は無理をしてるかの様に強がった態度を取る。


「水前寺、私が小さい頃お母さんからこんな事を言われたわ、『常に前向きであれ、そうすればオーラの力も百人力になる。』ってね。」


雪木はスプーンを手に持ちながら昔母親に言われた事を美森に伝える。


「何が……言いたいんですか?」


美森は雪木が自分に何を伝えたいのか分からず困惑した。


「オーラの力はポジティブな気分である程高い出力を発揮する、復讐に囚われて深く沈んでるダウナーな状態じゃオーラの出力もいつもの半分しか出ないって事よ。」


雪木は美森がネガティブに物事を考えてると思って、そんな事ではまともに敵と戦えないと警告したのだった。


「今の僕では高井さんの仇を獲れないというのですか?」


美森は今の自分ではオデイシアスに挑んでも返り討ちにされると雪木に指摘され、眉をひそめて険しい表情になる。


「私は心配してるのよ、だって今のあんた……枯れ木の様に脆い廃人みたいだから。」


雪木は人間復讐に囚われると周りが見えなくなる、普段は出来る冷静な判断も出来なくなってしまう、だからこそ美森には平常心を保って戦闘に挑む様注意をしたかったのだ。


「枯れ木……」


美森は雪木の言葉が胸に突き刺さり、今の自分の女々しさに気づいてショックを受ける。


「くれぐれもミイラ取りがミイラになるなんて事にならないでよ、高井さんに誇れる様常に胸を張って生きる事が肝心なの。」


雪木は美森への警告を終えるとハヤシライスを食べ始める。

一方の美森は無意識に自分の両手を見つめる。

そして美森は思った、雪木の言う通り、今の自分は冷静さを失って焦っている、果たしてこの調子で仇討ちなど出来るのだろうかと。


(高井さん……今の僕を見て高井さんはどう思いますか?)


美森は心の中で死んだ高井に問いかけ、そして彼女との思い出を回想する。






☆☆☆






美森と高井はある日の休日、水族館でデートをしていた。

高井が看護師という不規則な仕事をしているために中々デートの機会が作れず美森はそこに困っていた。

だからこそ今日みたいな都合のいい日は美森は有効に活用したかった。


「初めてのデートがまさか水族館なんてね。」


今回のデートが美森が高井に告白して初めて行ったデートだった。

高井は美森も中々洒落た場所に連れて行くのだなと感心した。


「手軽に行けて普段は足を運ばない場所って何処だろうって考えた結果ここを選んでみました。」


美森は自分から誘ったものの、女性と2人きりで水族館に行くという経験は初めてだったので表面は笑顔でも心の奥では緊張で胸が張り裂けそうだった。


「こういう所に来たのって随分と久しぶりだし、楽しめない事はないわね。」


高井は看護師になって以来水族館には足を運んでいなかったらしく、好都合だと感じて微笑む。


「そう言っていただけると嬉しいです、やっぱり誰かと付き合うのに年上も年下も関係ないでしょ?」


美森は最初に高井に告白した時に自分が年下である事を指摘されたのを思い出し、歳の差の事を考えないで付き合うと楽しいと彼女に告げた。

高井に話す一言一言が美森にとっては勇気のいる物だった。

年上の女性に告白するのも大胆であればその女性を自分からデートに誘うのも大胆、美森は今までの自分がやらなかった事を今こうして実行している自分が不思議に思えた。


「まぁ仕方ないわね、私も貴方の告白を受け入れちゃったし。」


高井は例え5歳しか歳が離れていなくても美森が子供に見えてしまったが、よく考えれば彼は20歳、自分と同じ成人してる人間なのだから付き合うのも悪くないと考えを改めていた。


「それに、僕はこういう空間にいると落ち着くんです、暗い室内に青い光が静かに照らされてるこの空間が。」


美森はふと自分の好きな場所を語り出した。

こんな事を人に言うのは初めてで気持ちが晴れた感じがしたが、しかし同時に突然何自分語りをしてるのだろうという恥ずかしさが美森の心にあった。


「いかにもって感じね、貴方人付き合いとか苦手そうだもの。」


高井は美森の表面上の態度から彼の性格を読み取った。


「あはは、当たりですね。」


図星を突かれた美森は苦笑いになってしまう。


「そんな貴方が年上の私に告白するなんて、ちょっと貴方の考えが分からないわ。」


「うーん……一目惚れ……なのかもしれませんが、高井さんとは気が合いそうだと思ったっていうのが理由ですかね。」


高井から愛の告白をした心理を尋ねられた美森は少し考え込んだ後、頭に思い浮かぶ理由を淡々と彼女に述べた。


「まぁ、気が合いそうなのは否定しないわ、でも歳の差とかは気にしなかったの?」


高井は自分と美森が同じ読書を趣味としていたため気が合いそうという理由は否定しなかった。

しかし5歳も年上の自分に告白する事に抵抗が無かったのかが気になり、美森に尋ねる

「好きなった人に年上も年下も関係ない、そう思いました、ただ真剣に貴女とお付き合いしたい、それが僕の気持ちです。」


美森は自分の右手を胸に当てながら、自分の人を愛する気持ちを真面目に高井に打ち明けた。


「変わった子ね……」


高井は初めてまともに付き合った女性が年上である自分で、しかも自分に本気で愛している美森が変わり者だと感じた。

その後も2人は館内の水槽を見て回ったり、イルカショーを見たり飲食店で食事をしたりして楽しんだ。

どれも美森にとっては恋人と楽しむ初めての経験であり、緊張しながらも心の中は満開の花畑の様に幸せだった。






☆☆☆






「スーッ……ハァ……」


高井との思い出を回想した美森は軽く深呼吸をした。

そして美森は高井が死んだその日から自分は廃人同然だったのかもしれない、でも雪木の言う通り今の状態のままオデイシアスに挑んでも勝算があるかどうか分からない、高井と付き合っていた頃の様な生き生きとした気持ちを取り戻さなくてはと思った。






深夜の薄暗い病院の廊下を黒髪のポニーテールの看護師が歩いていた。

看護師はふと自分の真後ろに気配を感じて振り返る。

しかし背後には誰もおらず看護師は気のせいだと思い再び歩き出した。


「キャッ!?」


しかしその時、看護師は突然横から何者かにタックルをされ、壁に頭をぶつけて気絶してしまった。

タックルをしたのはリメインだった。

リメインは急いで気絶した看護師の両腕を引っ張って移動する。

そして人がまず立ち寄らないボイラー室まで看護師を引っ張ったリメインは彼女の看護服のボタンを外して肌を露出させようとした。

しかしそんな時、リメインは後ろから誰かがやって来る事に気が付いて振り返った。

そこにはロンリネスがポツンと立っていた。


「リメイン、お人形さん遊びの邪魔されるのは嫌い……です。」


リメインは不機嫌そうな表情でこれからやろうとしていた行動を妨害された事をロンリネスに抗議した。


「おっぱいをチューチュー吸ったりバイブレーターを入れたりするのがお人形さん遊びとはねぇ……」


ロンリネスはリメインがこれから気絶した看護師に如何わしい行為をするのを知っていた。

知っていたからこそリメインのお人形さん遊びという表現に失笑した。


「なんの用……です。」

「いうやねぇ、美森と戦った感想を知りたくてね。」


リメインから用件を尋ねられたロンリネスは率直に美森と対峙した時の感想を伺った。


「うう……思い出すだけで頭にくる……です。」


リメインは先のブルーアルバトロスホテルで美森に自身の能力の弱点を突かれて敗北した挙句、直花からワンパンで気絶させられた事を非常に悔しく感じていた。


「なんならあいつを倒すのを手伝ってあげてもいいのよ。」


ロンリネスはニュームーンのストロング退治で美森達に協力した身だが、基本は気まぐれで味方を変える性格なので平気な顔でリメインに美森を倒すのに協力してあげると勧めた。


「必要ない……です、用が済んだのならどっかに行って欲しい……です。」


リメインは次こそは自分の手で美森を倒すと断言してロンリネスを追い払う。


「あら残念、それじゃあ取りあえずお人形さん遊びを満喫してね。」


ロンリネスはやれやれと思いながらボイラー室から出て、リメインを気絶した看護師と2人きりにさせた。


(リメインの強力な能力を打ち破るとは、美森も結構やるじゃん、今後の大叔母大甥対決も見物になるわね。)


ロンリネスは廊下を歩きながら今後の美森とリメインの身内同士の対決を楽しみに感じた。

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