41話 霊園の歌姫2
1
夕方4時頃のグリーンパール都内の喫茶店。
学校を終えた雪木と胡桃はそこで鉢合わせをしてコーヒーを飲んでいた。
「うーん……凱巣島で色々あった事は分かりました、リリカちゃん……名前だけなら英夜から聞いた事あるけどまさか幽霊として再会したなんてねぇ……それよりも水前寺君の探してた仇が見つかったってのが驚きです。」
胡桃は雪木から旅先での話を沢山聞いて頭の整理が追いつかず戸惑っていた。
そして一番印象に残った話が、美森が高井の仇であるオデイシアスの事を知った事だった。
「ええ、今頃血眼になって探してると思う……」
雪木はコーヒーを静かに啜りながら美森の精神状態を心配する。
今朝、美森は何食わぬ顔で雪木の朝食を作った。
しかし雪木が朝食を食べている間、美森はずっと遠い目をしており、自分が家を出た頃にオデイシアスを探して街を周るつもりなのだと彼女は感じ取ったのだ。
しばらくは1人にしてあげようと思った雪木は美森に電話もラインもしなかったが、心の奥では不安を積もらせていた。
「霊園の歌姫、雑賀直花かぁ……まさかこんなに簡単に高井さんを殺した犯人が見つかるなんてその場にいなかった私でさえたまげたわ、ちなみにその直花って娘は今何処に?」
胡桃は雪木の話に出て来た直花に興味を抱き、今現在の行方を尋ねる。
「さぁ、しばらくはここに留まるみたいだけど……歳は18歳だけど16の時に大学に飛び級で入学、歌姫として活動するために中退して今に至る娘だけどまだまだ謎な部分も多い……別に悪い奴でもなさそうだけど。」
雪木は帰りの飛行機の中で直花のアメリカでの学歴を聞かされており、随分と凄い生い立ちだと感じたが、それでもあまり自分を語りたがる性格には見えずミステリアスな天使という印象を抱いていた。
「中退したとはいえ飛びで大学行けるなんて相当な天才ですよね、リコさんとはまた違った天使って感じで増々会ってみたいです。」
胡桃は飛び級の天才児なんて創作物でしか見た事がなかったため、実際にそれをなし得てる直花が非常に珍しく感じた。
「私は……あの娘と会うのは嫌。」
対する雪木は自分が半天半魔である事を直花に異様と思われたのが原因で、彼女と関わるのは避けたかった。
2
美森は街行く人々に手当たり次第にオデイシアスの絵を見せて、彼を見かけなかったかと尋ねていた。
しかし有力な情報は未だ見つからず、公園のベンチに疲れ果てながら座っていた。
(やっぱりこの絵1枚だけじゃ情報不足か……せっかく高井さんを殺した男の顔が分かったというのに……)
美森は内心で苛立っていた。
最初に直花からオデイシアスの絵を見せられた時は仇探しにかなり近づいたと思ったが、後々に冷静になって考えてみると似顔絵だけでは有力な情報が期待出来ないと思い知らされた。
それが美森は悔しくて堪らなかった。
美森はふと高井が死んだ日の夜の事を思い出す。
☆☆☆
美森は自分の部屋にある本や衣服を八つ当たりで散らかしていた。
そしてコンビニで買いあさった缶ビールを片っ端から飲んでいった。
美森は元々あまり酒は好きではなかったが、高井が死んだという事実を受け入れられず、ただ闇雲に飲まずにはいられなかった。
「高井さん……」
美森は缶ビールをある程度飲み干すと、空き缶を投げ捨てて床に倒れ込んでしまう。
「なんで……なんでこんな事に……償わせてやる……この僕が!」
美森の心はすっかり荒れていた。
折角女性とまともに付き合う事が出来たのに何故高井が殺されるという最悪の結末になってしまったのかという自問自答よりも、高井を殺した犯人に報いを味合わせてやりたいという気持ちが彼の中では強かった。
☆☆☆
(僕が初めて、自分の力で勇気を持って想いを打ち明けて、そして付き合う事が出来た……だから高井さんという存在は僕の中では貴重……だからこそ僕の手でこの男に償いをさせたいというのに……!)
美森の表情は険しくなり、身体は武者震いをしていた。
そんな美森の前に1人の少女がやって来た。
直花だった。
「ずっと探していたの? その絵の男を。」
直花は現れて早々、美森が今まで何をしていたのかを言い当てる。
「雑賀さん、この絵以外にもっと有力な情報は得られないんですか?」
美森は突然現れた直花が好都合だと思って、オデイシアスの詳しい個人情報を伺った。
「残念だけどその男に殺された人は男の名前も素性も分からなかったのよ、おそらく何かの口封じに殺されたんでしょうね。」
しかし直花は高井が自分を殺したオデイシアスとは赤の他人だったためこれ以上オデイシアスについて調べる事は出来ないと断言した。
「くっ……」
美森は無念な気持ちで一杯になった。
「でもこのグリーンパールにいるのは間違いないんでしょ? 何時かはこの男の討伐依頼が元老院から来るって可能性もなくはないわ。」
直花は美森からある程度グリーンパールに来た理由を聞いており、占いでオデイシアスとグリーンパールで会えると出た以上は希望はあると彼にフォローを入れる。
「確かにその可能性に懸けるのも悪くありません、だけど僕は自分の手でこいつを探したい、僕は……高井さんを愛していたから。」
美森はただ人任せにして待つよりも自分からオデイシアスを探し回って仕留める事こそ高井への愛の表現方法なのだと思っていた、どれだけ時間がかかろうと望みは捨てないと心に誓っていた。
「……写真の人とはどれだけの時間を過ごしたの?」
美森がそれ程までに仇を討ちたがるのを聞いて、直花は高井と彼がどれだけ一緒に居たのかが気になり、尋ねてみる。
「半年以下……しかしそんな短い時間でも思い出は今でも頭に強く焼き付いています。」
あくまで美森にとって高井は恋人であり、身内ではないため共に過ごした時間も長くはない、しかし時間の長さなんて関係ない、愛していたからこそ高井の無念を晴らしてあげたいと美森は考えていた。
「貴方にとっては貴重な存在だったのね……」
直花は腕を組みながら同情の哀しさを押し隠したウルウルとした瞳になる。
職業柄、美森の様に愛する者を失った悲しみや怒りを抱く人間は何度も見て来た直花だったが、それでもこの経験には慣れずにいたのだった。
「そろそろ日も暮れるし、もう一息探してみます。」
美森は立ち上がり、再びオデイシアスの捜索をするべく歩き出した。
直花はそんな美森を複雑そうに見つめる。
美森は公園の出入り口に人が通りかかるのを見かけ、その人物へと駆け寄る。
その人物はフォグだった。
「すいません、人を探してます、この男に見覚えはありませんか?」
美森はフォグがオデイシアスの仲間だと知らずに、彼にオデイシアスの絵を見せて尋ねる。
「……知りませんね。」
フォグは美森が復讐の為にオデイシアスを探している事は知らなかったが、彼がオデイシアスを探して倒す気である事だけは察した。
取りあえずフォグは知らないと嘘を吐く。
「すいません、失礼します。」
美森はフォグからこれ以上有力な情報は聞き出せないと思ってその場を立ち去ろうとする。
「その人を探してどうする気ですか?」
フォグは好奇心からなのか、美森を呼び止めオデイシアスを探す理由を尋ねる。
「貴方には関係の無い事です、僕と彼の問題です。」
美森は突然自分を呼び止めたフォグを妙に感じる。
しかしフォグがただの一般人だと思った美森はオデイシアスを探す理由を伏せた。
「そう……その人との間にどんな関係があるのか分かりませんが見つかるといいですね。」
フォグは皮肉交じりの励ましを美森にかけた後、その場から立ち去って行く。
美森はフォグの事を不思議に感じながらも、これ以上赤の他人に話しかけるのもどうかと思って歩き出した。
3
何処かの家の部屋。
そこで赤い短髪の髪に黒い革ジャンと緑のTシャツ、青のジーンズ姿のチンピラ風の男が怪しい薬を調合していた。
「くっくっくっ……遂に完成したぜ。」
ビーカーに入った液体の薬がボコボコと泡立ってるのを見た男は怪しげに笑い出した。
その男の前にオデイシアスが現れる。
「ようリチュオル、前から作りたかった薬は完成したのか?」
オデイシアスは開いた扉に肩をもたれながらリチュオルと呼んだ男に話しかける。
「ああ、1年前お前が東京の病院から薬をかすねて犯罪組織に売り飛ばしたっていう話を聞いて俺も薬を売って金儲けしたくなったからな。」
リチュオルはオデイシアスが1年前にやった所業を聞いて興味を抱き、謎の薬品を作るに至った様だった。
「そんな事もあったなぁ、まぁ悪魔と言えど生活ためには金が必要だしな。」
オデイシアスは1年前の出来事を思い出し懐かしむ。
その記憶の中には病院から立ち去る際に鉢合わせをした高井を剣で斬り殺した記憶もしっかりとあった。
「さーて、この薬は俺にとってはもは芸術作品、早く買い手に自慢したいぜ。」
リチュオルは夏休みの自由研究で作った工作を学校で自慢する様な感覚で薬を瓶に注いで商品にする準備を始めた。
一方のオデイシアスは自分のスマホの音が鳴った事に気づき、取り出した。
「おっ! フォグからだ、何の用だ?」
オデイシアスはフォグからラインが来た事を知り内容を調べる。
そこには『お前の事を勘ぐってる奴がいる、精々気を付けろ。』と書かれていた。
「へぇ、面白いじゃん。」
オデイシアスは自分の命を狙う者がいると知ると、その事を面白がってニヤリと笑った。




