39話 英夜と幽霊少女23
1
スポーツジムでのトレーニングを終えたフォグはその付近にある喫茶店に来店した。
するとフォグは店の席に帽子を被ってサングラスをかけた男を目にした。
サングラスの男も店に入ったフォグに気づき、彼を見つめる。
しかしフォグはサングラスの男から目を放してすぐに空いてる席に座った。
「エスプレッソ。」
フォグは自分の席にやって来たウェイトレスに一言注文する。
するとサングラスの男は立ち上がり、その場を去って行くウェイトレスと入れ替えにフォグの方にやって来る。
そしてサングラスの男はサングラスを少しずらしてフォグに目を見せた。
サングラスの男は光龍だった。
「目が合って置きながらやけにリアクションが薄いな。」
光龍は自分を見て見ぬ素振りをするフォグに苦言を溢した。
「お前と話す事は無い、それともお前は俺と世間話がしたいのか?」
フォグは光龍の方を振り向きもせず、特に話す話題がある訳ではないと指摘する。
「ぐっ……!」
光龍はフォグの態度に腹が立ち、『俺の事見下してんじゃねーよ!!』と叫びたかった。
しかしここで騒ぎを起こせば自分が逃亡犯だという事がバレてしまうため叫びたい気持ちをグッと我慢した。
「それにメロンソーダを頼んでる奴と一緒の席に座ってたんじゃ格好がつかないんでな、様が無いなら自分の席に戻れ。」
フォグは光龍の座っていたテーブルに置かれてあるメロンソーダを見て彼に追い打ちをかける様に辛辣な言葉を浴びせる。
「人が何頼もうが自由だろ、本当イラつく事しか言えねー野郎だな、覚えてろよ。」
光龍はこれ以上フォグと関わってると怒りで乱闘になり、自分の正体が他の客や店員にバレてしまう危険性がある思って自分の席に戻りメロンソーダを自棄飲みする。
そして後日、人のいない場所でフォグに今日受けた怒りを返そうと光龍は考えた。
光龍が自分の席に戻った後、ウェイトレスがフォグの元へやって来て注文のエスプレッソを差し出す。
フォグは先程の光龍との言い争いがなかったかの様に何食わぬ顔でエスプレッソを啜った。
(メロンソーダを飲んでる奴と一緒に居ると余計に恵の事を思い出してしまう、今日は厄日だな。)
フォグが光龍と関わりたくなかった理由、それは初めて恵と食事をした時にも彼女がメロンソーダを飲んでいたからだった。
☆☆☆
都内にあるレストランでフォグと恵は向かい合わせの席に座りながら食事をしていた。
「え――! その歳まで童貞なの――? キーモーイ!」
恵はフォグから恋愛経験を伺ったらしく、彼が今までまともに女性と付き合った事が無いと知って笑い出した。
「だったらさぁ、俺と付き合ってみる?」
フォグは少しイラッとした表情で自棄を起こした様に彼女をデートに誘う。
「は? なんでそうなるの? マジキモイんだけど。」
恵は突然のフォグの申し出に戸惑ってしまった様だった。
「さっき万引きの濡れ衣を着せられそうになった君を俺が助けた、そして君はご親切に食事を奢ってくれた、だったら俺も君を今日一日楽しませても悪くない筈、最終的に付き合うかどうかは今日のデートの評価で決めてもいいし。」
フォグは恵とレストランで食事をしている経緯を語ってこの後一緒に楽しんでも悪くないのではと彼女に訴えかけた。
「んー……なんかあんたって微妙だけど……ここまで来たんだし仕方ないか。」
恵はフォグの身長が自分と然程変わらない事が原因で彼と付き合っても見栄えが悪いのではないかと迷っていた。
しかし思わずフォグを食事に誘ったのは自分だったためこういう展開になっても仕方ないと考えを改め取りあえず今日一日のデートには応じる事にした。
☆☆☆
フォグが恵との思い出を回想している間に光龍は立ち去っていた。
(今思うのは、こんな思いをする位なら恋なんてしなければ良かったって事だな……)
フォグの頭には時折恵の事が過っていた。
過去ではなく先の事を考えたいのに恵への愛しさが捨てられない、しかし恵が自分の素性を知っていればきっと幻滅していた、様々な考えに悩まされているフォグは今できる事はもう誰かを好きにならない事だと学習していた。
2
沼の水が英夜装甲態と直花の手によって干上がってしまったマーシュは何を思ったのか人間の姿へと戻った。
「どうした? 降参でもすんのか!?」
突然のマーシュの行動に英夜装甲態は今更降参するなんて見苦しいと感じてしまう。
「そんなつもりは微塵もありませんよ……」
マーシュは不敵な笑みを浮かべながらスーツの裏ポケットから黒いリモコンを取り出した。
「そのリモコン、まさか!?」
美森装甲態はマーシュが手に持つリモコンが何に使う物なのかを察してしまう。
「このリモコンで人質達を閉じ込めている結晶体を爆破してやりますよ、人間を守れなかったなんてオーラナイトとして恥ずべき行為ですからね。」
美森装甲態の予想通り、マーシュのリモコンは最後の悪あがきとして人質を殺害する物だった。
マーシュは自分を追いつめた英夜装甲態に仕返しとして人質を見殺しにしてしまった後悔の念を与えたかったのだ。
「て……テメェ!!」
英夜装甲態はマーシュの元に駆け寄ろうとする。
「無駄です!!」
マーシュの元へ駆け寄ろうとしても10秒位はかかってしまう、彼は英夜装甲態を嘲笑いながらリモコンのボタンを押した。
大きな爆発音と共に宙に浮いていた結晶体が次々と爆発する。
それを見た美森装甲態達は唖然として絶望してしまう。
「ヒヒヒヒヒ! ヒーヒッヒッヒッ!!」
マーシュは美森装甲態達が戦いに勝って勝負に負けたのだと思って笑い出す。
しかしその直後、マーシュは信じられない光景を目にしてしまう。
爆発したはずの結晶体が全て無傷でその場に留まっていたのだ。
「なっ……何!?」
マーシュはこの予想外の展開に困惑してしまう。
「どういう事だ……?」
英夜装甲態もマーシュ同様に困惑するが、人質達が無事だった事に安心感を抱いた。
「私が結晶体に細工をしたわ、爆発してもすぐに再生する様にね!」
そんな時、雪木が戦いの場までやって来て結晶体が無傷な理由をマーシュに説明した。
雪木は美森装甲態達が水中で戦ってる最中、宙に浮かぶ結晶体を眺めてマーシュが最後の手段として爆破する様に仕組まれてるのではと考えていたのだ。
そして予め結晶体や中にいる人質に一度だけ再生するオーラを送っていたのだった。
「雪木さんナイスアシスト!!」
「へぇー、貴女も中々やるのね。」
美森装甲態は自分達が結晶体から目を離している間にそんなサポートをしていた事に感謝し、直花も少しは雪木の事を見直した。
「クソ!! こんな筈じゃなかったのに!!」
マーシュは自分の予想通りに事が進まず悔しくて苛立ってしまう。
「まぁ何をやっても上手くいかねーんだよ、悪党ってのはな!!」
英夜装甲態はマーシュに捨て台詞を吐いた後、彼に容赦無く薙刀を振り下ろす。
「ぐぎゃっ!!」
「オラァ、もう一丁!!」
苦痛の声を上げるマーシュに英夜装甲態は更なる追い打ちを仕掛ける。
マーシュの身体はX状に斬り裂かれ、爆発した。
その直後に辺りのフィールドが昼前に食事を摂ったレストランへと戻った。
囚われていた人質達も結晶から解放され、今はレストラン内の床に横たわっていた。
美森装甲態と英夜装甲態は戦いが終わったと判断して変身を解く。
「ふぅ、どうやら全て終わったみたいね。」
初めて結界の中を探索して悪魔退治に同行した穂波は終わってみると大した事の無い出来事だったなとホッと一息を付いた。
「さてと、後やる事といえば一つね。」
「ああ、リリカと久しぶりに思いっきり遊んでやるか。」
直花から指摘を受けた英夜は肩を回して筋肉をほぐしながらリリカの方へ駆け寄る。
「英夜!」
リリカも宙を浮遊しながら英夜の方へ寄って来た。
「さぁ、屋敷に帰るぞ!」
「うん!」
英夜から屋敷へ戻ろうと言われたリリカはにっこりとした表情で返事をする。
その場に居た一同は後は特にレストラン内で話をする事はないと思って、日が暮れない内にリリカの屋敷に向かおうとする。
その時、出入り口に2人の人物が現れて美森達の行く手を阻む。
現れたのはアークとリメインだった。
「君は……」
「まだいたのかお前。」
リメインを目にした美森は複雑な表情で呟き、同じくアークを目にした英夜はしつこく現れるアークに呆れてしまう。
「俺達を置いて帰ろうなんてうけるんですけど!」
直花の作ったオーラのリングからなんとか脱出した模様のアークはまだ戦いは終わってないと言わんばかりにククリナイフを構えて美森達に敵意を向ける。
「よくもリメインを……許せない……もうみんな死んじゃえ!!」
リメインも先程美森に氷漬けにされた事が屈辱に感じてるらしく、怒りを爆発させながら斧を振りかざし、美森達に襲い掛かって来る。
それにいち早く反応したのは直花だった。
そしてアークもリメインの援護をするため走り出し、一瞬の内にククリナイフを直花の首筋に突き立てるアーク、気絶したリメインの髪を鷲掴みにして彼女にイーグルドローンを突きつける直花の図が完成した。
「失せなさい、お仲間がどうなってもいいの?」
直花はククリナイフを突きつけられても全く動じない凛とした表情でアークを脅す。
「……やめたやめた、マーシュはくたばったし俺がここにいる理由も無くなった。」
アークはマーシュが破れてゲームも終わったためか戦う気が失せ、構えていたククリナイフを直花から離して後退りをする。
直花はリメインをお姫様抱っこで抱えてアークに差し出す。
「お前とはまた戦いたいよ。」
リメインを受け取ったアークは直花に笑みを浮かべながら捨て台詞を吐き、そして窓の方まで走り出した。
窓を割って外に出たアークは自分の身体をスライム状に変化させて肥大化し、そして黒いスペースシャトルの姿になって空の彼方へ飛んで行った。




