36話 英夜と幽霊少女20
1
「英夜だけずるいよ、1人だけ大人になって。」
苦悩を語る英夜に、リリカは前々から言いたかったであろう気持ちを暴露する。
「ああ、言われちまったな……申し訳ないと思う。」
リリカの死から15年も経過した現在、すっかり22歳の大人になってしまった英夜はリリカの言葉がグサリと刺さり、罪悪感を抱いてしまう。
「まぁ大人になるのも良い事ばかりじゃねぇけどな、さっきも言ったが遊んでばかりはいられねぇし子供の頃に戻りてーってよく思うわな。」
英夜は現在、悪魔退治の収入で生活のやりくりをするので精一杯になっており、毎日カップ麺や簡素な料理で食べしのぐのが苦痛になっていた。
だから遊んでるだけで親がちゃんとした食事を作ってくれた子供の頃の方がいいとリリカに伝える。
「ふーん、なんだかよくわかんなーい。」
当然だが、働いて自分で生計を立てた事の無いリリカには英夜の悩みはイマイチ理解出来なかった。
「あはは、そうか……」
英夜は苦笑いしながら子供にこんな事を話しても難しいかと思ってしまう。
「さぁ、そろそろ貴女も成仏しなきゃね。」
直花は会話に割り込み、リリカに成仏を勧める。
「うーん……私はまだ遊びたいなぁ……」
リリカはやはり唐突に成仏しろと言われても心の準備が間に合わず困り果ててしまう。
「じゃあこうしよう、ここを出たらまた屋敷の花園で遊んでやる、そしたら成仏を考えてくれるか?」
英夜は困るリリカを見て彼女が一番に望む事をしてやったら心の収拾をつけてくれるのではと思って提案した。
「本当!? そしたら天国に行く事考える!」
リリカは取りあえず英夜のには賛成してくれた。
「ああ、それは有り難いぜ。」
英夜は反対されたらどうしようと心配な気持ちで質問してみたものの、先程の直花の歌もあってかリリカが素直に自分の要求を飲んでくれて安心した。
「くれぐれも今の台詞が死亡フラグにならない様にね。」
穂波は昨日リリカの屋敷に行く時に自分の発言の中に死亡フラグがあったと英夜にからかわれた事を思い出し、今度は彼が死亡フラグまがいな発言をしたためお返しの煽りを送る。
「はいはい、死亡フラグへし折おれるよう、努力しますよ。」
英夜は苦い顔をしながら穂波に反論をする。
「という事はこの娘をパーティーに同行させる事になるけどその辺はどうなるの?」
直花はリリカと遊ぶ約束をした関係上、彼女を結界探索に同行させなきゃいけないと指摘し、戦いに参加させるか護衛するかのどっちを選ぶか英夜に尋ねる。
「リリカを戦わせる訳にはいかねぇ、俺がこいつを守る。」
英夜は当然の様にリリカを護衛する事を選んだ。
それと同時に美森が雪木を過剰に守りたいという気持ちが英夜は少し共感出来た気がした。
「道徳的に考えてそれが一番妥当な考えね、じゃあここにはもう用が無いから次のエリアに行きましょう。」
直花も幽霊と言えど子供であるリリカを戦闘に加えるのは非道徳的だと感じて英夜の意見はまともだと判断した。
そして4人は調理場を跡にするため歩き出す。
「俺の手を放すなよ。」
「うん。」
英夜は歩き始めるとリリカに手を差し伸べ、リリカは嬉しそうな口調で返答して彼と手を繋いだ。
生きていた頃は両親と手を繋いで歩いたリリカだったが、今その相手が大人になった英夜であったため彼女は今の状況が複雑に感じてしまう。
「ちょっと、俺はどうするんですかーーー!!」
そんな時、床に磔にされているアークが立ち去る英夜達に慌てた口調で問いかける。
「さっきも言ったでしょ? あんたはそこで大人しくしてなさい。」
直花は見下した表情でアークに言い放ち、他の3人も彼を無視して去って行く。
「これじゃ俺ただの雑魚キャラだよ、うける――――――!! ギャハハハハハ!!」
アークは格好良くシリアスな悪党とは程遠い今の自分の状況が悔しくも面白く感じて爆笑する。
2
調理場を出た英夜達一行は探索中に見つけたエレベーターに乗って地下1階に向かった。
直花によれば結界は下に向かうほどボスのいる場所へ行きやすいとの事だった。
エレベーターが止まり、扉が開く。
英夜達を待ち構えていた空間はデスクにロッカー、二段ベッドが配列された小部屋だった。
「ここって何処かの宿直室かしら?」
穂波は小部屋に配置されている物の様子からこの部屋が宿直室ではないかと予想する。
「そうみたいね、でもこんな落ち着いた場所でも悪魔の気配は微弱ながらも感じるわ、このゲームの主催者がいる場所へ近づいているって事ね。」
直花は左肩を回しながら身体を柔らかくして、英夜達にマーシュとの決戦が近づいてる事を知らせる。
「そうなりゃ話は早い、とっととあいつを片付ける。」
英夜はリリカを連れ去った挙句、このホラーゲームの小道具として扱ったマーシュに対して闘士を燃やす。
「その前に……誰か来るみたい、何かしらこの異様な気配?」
直花はそんな時、マーシュのオーラとは別の異様な気配を自分達のいるエレベーターの向かいにある扉から感じて英夜を制止する。
英夜と穂波は咄嗟に戦闘態勢に入り警戒心を強める。
そしてその数秒後、扉が開き人が2人程入って来る。
「あ……」
扉から入って来た人物達を見て英夜は警戒心を解いた。
そこに現れたのは美森と雪木だった。
「天城君、無事だったんだ。」
英夜達一行を目にした美森はあっさり合流出来た事に驚きを見せる。
「あれ? あんた達リリカさんと一緒にいるの? それと知らない娘がもう一人いる。」
雪木は英夜がリリカと手を繋いで同行している事と、初対面である直花を見て困惑する。
「ああ、これはな……」
英夜が状況を説明しようとした時、直花が歩き出して美森と雪木に近づく。
「あ! 天使……」
雪木は近づいて来た直花から天使の気配を感じ取った。
「蝶のふりした蛾ね。」
一方の直花は会って早々人を見下した表情で雪木に辛辣な言葉を浴びせる。
雪木が天使と悪魔のハーフだと感じ取り、先程感じた異様な気配の正体は雪木だったのかと思ったからこその感想だった。
「何よ! 好きでこんな風に生まれた訳じゃないわよ!」
雪木は直花が自分の正体を知った上で発言した皮肉にムキになってしまう。
「あら、何が違うの?」
直花は雪木を挑発する様に首をかしげる。
「ムキ――――!! 天城、何なのよこいつは!?」
雪木は気を荒げながら直花が何者なのかを英夜に尋ねる。
「そいつはな―」
英夜は直花についてや、今リリカと同行している理由を美森と雪木に説明した。
「ふーん、霊園の歌姫ねぇ……それにしては随分と生意気な態度をとってくれるじゃない。」
英夜から直花の説明を受けた雪木は身分の割に無礼な態度をとる事を不服に思い、腕を組みながら直花を睨み付ける。
「所でさっきの『蝶のふりした蛾』ってどういう意味?」
一方の穂波は先程直花が発言した雪木の例えの意味が気になり尋ねてみる。
「それは……」
「ああ! あれですよね、雪木さんの美貌に嫉妬したからでしょ!?」
直花が雪木が半天半魔だと語ろうとした時、美森は慌てた様に口を割り込み、雪木の正体発覚を防いだ。
「は?」
「彼女の正体は秘密にしてるんです、どうかご協力をお願いします。」
戸惑う直花に美森が耳打ちして、雪木の正体を黙っていてくれと願い込んだ。
「……はぁ、そうよ、彼女が私より可愛いから嫌味を言っただけ。」
直花はため息をつきながら仕方なく美森の願いを聞き入れる事にした。
(水前寺のフォローが逆に惨めになる……)
雪木は美森が咄嗟についた誤魔化しが逆に自分の種族に対するコンプレックスが増してしまい内心落ち込んでしまう。
「で、今の耳打ちはなんだ?」
「それよりもリリカちゃんと解り合えたんだよね、良かったじゃない!」
英夜は美森が直花に耳打ちした内容を尋ねるが、美森はそれをかわす様に英夜とリリカが和解した事を祝福する。
「意地でも雪木に関する事は隠すんだな……」
英夜は雪木の話題が出ると必死になってそれを隠す美森に呆れ果てた。
「何はともあれこれでパーティーは全員集合したわね、だったらここで長話は無用じゃない?」
直花は無駄に話が長くなるのを避けたかったのか、美森達に先に進もうと呼びかける。
「確かにそうかも、でもその前に直花さん、マーシュとかいう悪魔は『人質を取ってる』って私達に言ったんだけどこれ事実だと思う?」
穂波は探索を続ける前に、マーシュがゲーム開始時に言った言葉を思い出し、直花ならこれが真実かブラフか分かるんじゃないかと思って尋ねる。
「それは分からないけど、経験上、悪魔の残虐性を考えたら事実の可能性が高いわ。」
直花にもそれは分からなかったが、悪魔はハッタリを使う程臆病ではなく、人間にはとことん危害を加える質であるためマーシュの言った事に嘘は無い筈だと穂波に告げる。
「悪魔の残虐性ね……」
雪木は直花の台詞の中に気になってしまった個所がありそっと呟く。
確かに悪魔は残虐な者が多いが、それを考えると天使と恋をして普通に自分を産んで愛情を注いでくれた母親が異端なんだなと雪木はつくづく思ってしまった。
「それは本当だよ、あの眼鏡のおじさんがホテルの人達を何人か捕まえてた。」
そんな時、リリカが話に割り込み、マーシュがゲームの支度をしている時に自分の見た事を有りのままに語った。
「本当!? でも貴女が言うのだから間違いないわね。」
穂波はリリカの発言に驚き、子供は正直という事もあってか彼女の言葉が十分に信用出来た。
「それじゃあ人質を助けるためにも急ぎますか! ありがとな、教えてくれて。」
英夜はそうと決まれば早くマーシュの元へ向かって人質を救出しようとみんなに呼び掛け、貴重な情報を教えてくれたリリカに微笑みながら礼をする。
「えへへ。」
リリカは照れ笑いしながら英夜に褒められた事を嬉しく感じた。
そして美森達は再び歩き始めた。




