35話 英夜と幽霊少女19
1
「てりゃっ!! はっ!!」
英夜達が戦ってた頃、美森も雪木を守りながら迫り来る幽霊達に格闘で応戦していた。
美森は自分が今戦っている幽霊達が元は罪の無い一般人ではないかと思うと心が痛んだが、雪木を守るためにも苦渋の決断で彼らを攻撃していた。
「ダメだ、やっぱり不死身だ……今の内に行きましょう!」
美森はどれだけ攻撃しても幽霊達を倒す事が出来ないと悟り、幽霊達が怯んでる間に雪木の手を取り走り出した。
美森は通路の扉を開けて次のフィールドへと入り、そして急いで扉を閉めてオーラで冷気を放って扉を氷漬けにした。
幽霊だから壁をすり抜けられるのではという考えもあったが、オーラで作った氷でバリケードを固めればそれも防げるかもしれないというイチかバチかの賭けがあっての行動だった。
「ねぇ水前寺、勢いでここに入ったけど、ある意味あんたにはトラウマな場所かもしれないわ。」
雪木は入った部屋の雰囲気を見ながら美森に警告を入れる。
「え……? あ!」
美森は部屋の辺りを見渡して動揺する。
そこは施設のカウンターの中でデスクや棚が配置されていた。
何より美森が注目したのは棚には薬が配列されていた事やレントゲンの写真が貼りつけられたボードが目に写った事だった。
「ナースステーション……」
美森は今自分達がいる場所が何なのか見当がついてしまった。
病院のナースステーションと言えば真っ先に彼が連想するのは看護師である高井の事だった。
「水前寺、戸惑わないで!」
雪木は美森が高井の事を思い出している事が安易に想像出来て、彼に平常心を取り戻す様呼びかける。
「は……はい。」
気が動転しそうになっている美森は雪木の声でなんとか理性を取り戻そうとする。
しかし美森の精神状態に追い打ちをかける様に看護師の幽霊が3人程地面から這い出て来た。
「うっ……!」
身体のあちこちに血痕が付着している看護師の幽霊達を見て美森は高井の死体を見た時の事を思い出し青冷めてしまう。
「水前寺!!」
雪木は再び美森の名を叫び、彼の正気を取り戻そうとする。
美森は咄嗟にナイフを構え、雪木の盾になって看護師の幽霊達に立ち向かおうとする。
しかしナイフを持った手が震えて十分な戦意を出せなかった。
高井は刃物で胸部を斬られて惨殺された。
だから自分が看護師にナイフで攻撃する事が悍ましく感じたのだ。
ナイフだけではない、普通に格闘で対抗する事も美森には出来なかった。
「身体が……動かない……」
美森の表情は青冷めたままだった。
高井の死がトラウマになっているため看護師の幽霊達と戦おうとしてもどうしても身体が拒絶反応を起こしてしまった。
そんな時、美森の背中にいた雪木が突然彼を押しのけ看護師の幽霊達に立ち向かって行った。
「雪木さん!!」
突然の雪木の行動に美森は驚愕する。
「てりゃ!! てりゃ!!」
雪木はオーラを身体に発現させながらタックルで看護師の幽霊達に攻撃し、非力ながらも必死に戦った。
しかし戦闘の苦手な雪木ではオーラを纏っていても幽霊に大したダメージは与えられず、すぐに体制を立て直した幽霊達に取り囲まれてしまう。
「雪木さん!! う……うわあああああああ!!」
美森は雪木がピンチになっているのを見ると、身体の拒絶反応に鞭を打ち、過去を打ち消す様な叫び声を上げて看護師の幽霊達に立ち向かって行く。
雪木同様、幽霊達にタックルをして払い除け、そして雪木の手を取って急いでナースステーションの外へと走り出す。
当然幽霊達は追跡してくるが、美森は左手を前に出し、オーラで冷気を作り出して幽霊達に放つ。
幽霊達は氷漬けになり、なんとか動きを封じる事に成功した。
「どうして無茶な事をしたんですか!?」
廊下に出た美森は幽霊に立ち向かった雪木を問い詰める。
「あんたがうじうじしてるからでしょ!! 過去のトラウマが何よ、乗り越えればいいじゃない!!」
雪木は看護師の幽霊と高井を重ねて動揺していた美森が見るに堪えなかった。
たから自棄になって無理をしてまで自分が戦おうという発想に至ったのだった。
「雪木さん……」
雪木に一喝された美森はようやく精神を安定出来た。
「そんな調子じゃ高井さんの仇なんてとれやしないわ! 自分の中にある迷いを打ち消しなさい!」
「……貴女には説教されてばかり……情けない……でも雪木さんの行動がなければ僕はあの幽霊達に立ち向かう事すら出来ませんでした、ご迷惑をかけてすいません。」
美森は雪木が自分の為に戦闘が苦手なのにもかかわらず勇気を出して幽霊達に立ち向かって自分の目を覚まさせてくれた事が申し訳なく思い、同時に有り難く思えた。
「調子良すぎ、くよくよする暇があったら先に進むわよ。」
雪木はここでポジティブに物事を考える美森に呆れながらも彼を引っ張って歩き出そうとする。
「はい、次はもうさっきの様になりませんのでご安心下さい。」
美森は急いで歩く先導権を取って彼女の言動でトラウマを克服する勇気がついた今なら彼女を守り切れるという自信をつけた。
2
英夜装甲態がラパンを説得している間、直花はアークとの戦いを繰り広げていた。
お互いに俊敏な身のこなしで空中にジャンプし武器をぶつけ合っていた。
「しぶといなお前、超うけるんですけど!」
空中戦での激しいぶつかり合いを終え地面に着地したアークが中々倒れない直花に毒づく。
「貴方こそ、そろそろくたばってくれないと困るんだけど。」
同じく地面に着地した直花は早くアークとの決着を付けて早くラパンに癒しの歌を届けたいという気持ちで一杯だった。
「その希望には答えられんな! 三日月斬り!!」
アークは決着をつけるべく、両手のククリナイフをクロスさせて空を斬り、直花に真空剣を繰り出した。
直花は左腕からイーグルドローンを羽搏かせ、真空剣を身体で受け止めさせた。
攻撃を直で受け止めたイーグルドローンは衝撃に押しつぶされそうになるが、直花から送られるオーラでなんとか真空剣を打ち消した。
「えー、マジ……」
自身の攻撃を打ち消されたアークは引きつった表情になる。
「それじゃあ、今度は私の番ね。」
直花は冷静な表情でアークに反撃宣言をする。
するとイーグルドローンが空中に飛び上がり、円を描く様に飛び回る。
「あれぇ? この後どうなるか分かったんですけど!」
アークは直花が自分にどんな技を繰り出すかが安易に想像できた。
イーグルドローンが飛び回っているとやがて竜巻が発生し、アークに襲い掛かった。
「イーグル竜巻斬り!!」
直花は技名を叫び、自身のオーラを全開にする。
すると竜巻の中から緑色のオーラの塊で出来た鷲のヴィジョンが現れ、アークに猛突進した。
アークは咄嗟にオーラで全身をガードしながら竜巻を避けようとする。
しかし竜巻のスピードには適わず、彼は呑み込まれてしまった。
「ぶりゃあ!! これ、超うける――――――!!」
アークは竜巻の中で目を回しながらいつもの癖でつい爆笑してしまう。
しかしそれでも必死に抵抗して竜巻から脱出しようとするが、竜巻の中から突然直花が現れた。
「て――――――――りゃ!!」
直花は叫び声と共にアークにキックをお見舞いする。
「ぶふ――――――!!」
アークは竜巻に抵抗するのが精一杯で直花のキックをガードする余裕が無く、腹にキツイ一撃を喰らってしまう。
そして竜巻が止み、アークは地面へと落下してさらに直花に踏みつけられた。
「そこで大人しくしてなさい。」
直花はオーラで4つのリングを作り、それを操ってアークの手足に固定させてアークの元から去る。
「ちょ! 放置プレイとかうける―――――!!」
アークは直花に負けた事を悔しく思いながらも笑い出す。
英夜装甲態はラパンを抱きしめ必死の説得をしていた。
「嫌だ……嫌だよ……私はここで遊びたいの!」
ラパンは動揺した口調で駄々をこねる。
「我儘言うな! 出来る事ならお前を生き返してやりたい……だが、オーラの能力を持ってしてもそんな人の限界を超えてる事は無理だ……だがな、天国に行けばいつかお前は生まれ変われるかもしれねぇ、そしたらまた遊べる、それまでは……我慢していてくれ。」
英夜装甲態は天国や輪廻転生が存在するのか分からず子供を騙している様で忍びないきもちになるが、それでもラパンに地縛霊から解放されて成仏して欲しくて自分の気持ちを精一杯伝える。
「私と遊んでくれない英夜なんか……英夜なんか……」
ラパンは自分と遊ぶ事を拒む英夜装甲態に怒りと悲しみの混じった言葉をぶつけ様とする。
そんな時、直花がやって来てラパンに向かって歌い始める。
「いつもー、吹いてるー♪ やーさーしい風♪ 貴方はそーれーをーわーすーれたの♪ 死者もー、生者もー、かなしーまないで♪ ひーかーりー溢れる、空を見上ーげ、生まれ―変われる日を信じーよーおーう♪ やさしーい、光が―、貴方をきっとー♪ いーやーしーてーくーれーる♪ どしゃぶーりの雨ー、私がきっと♪ 快晴の空に、変えて虹ーをー♪ 輝ーかせるーかーらー♪」
直花の透通る様に綺麗な歌声が調理場に響き渡り、ラパンの霊気もそれと同時に弱まって行った。
「私は……ただ遊びたいだけなのに……でもずっと英夜に会えなくて……寂しかった。」
ラパンは悲しそうな口調で自分の想いを語る。
「リリカ、お前に渡したい物がもう一つある。」
英夜装甲態はラパンから離れ、そして紙のケースを取り出し、中を開いてラパンに見せる。
中にはラパンの屋敷で咲いていた花が一輪、ビニールに挟まれ押し花にされていた。
「リリカ、お前は屋敷の庭に咲いていたあの花園を見ていたか?」
英夜装甲態は変身を解いてラパンに戦う気が無い事を態度で示しながら質問をする。
「……うん。」
ラパンはリリカの姿に戻りながら押し花の入ったケースを受け取った。
彼女の表情はまだ何処か曇っていた。
「俺は、お前を守れなかった事をずっと悔やんでいた。」
英夜は膝をついてリリカの背丈に合わせながら彼女の右肩をそっと掴み、子供の頃の非力だった自分の苦悩を語り始める。




