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34話 英夜と幽霊少女18

グリーンパールのスポーツジム。

そこで緑のTシャツと黒のジャージズボンに着替えたフォグがサンドバックにパンチを繰り出しトレーニングをしていた。


「ぐう……! ぐっ!」


フォグの表情は嫌な思い出を掻き消す様な険しい物となっており、両手から繰り出される拳の音も重かった。


(あいつのせいで恵の事を思い出してしまった……やっぱりあいつと関わると碌な事が無い!)


フォグはホテルでアイシクルから恵の話題をされた事に気が立っていた。

だからこのやるせない怒りをサンドバックにぶつけたかったのだ。





☆☆☆




恵が射殺されたゲームセンターには恵の他に10人程の死体が横たわっていた。

恵を殺した通り魔を再起不能なまでに暴行したフォグは放心状態で彼女の死体へと歩み寄る。

そしてフォグは恵の死体を起こしてギュッと抱きしめ涙を流した。


「分かっていた……俺に誰かを愛する資格が無いなんて事……」


フォグは自身もなんの接点も無い親子を見てると幸せそうで腹がっ立ったという理由で殺害した過去を思い出し、これは神が自分に下した罰なのだろうと解釈した。

しかし恵の死体を抱きしめていると余計に彼女が愛しく、守ってやりたかったという感情が湧きだし涙が止まらなかった。





☆☆☆





恵が死んだ時の状況を頭に過らせたフォグは再びサンドバックを一発殴って左手で頭を押さえる。


(俺が出来る事は……あいつの事を忘れて先へ進む事だけだ!)


フォグは恵の事を思い出すのは後ろを向いてる証拠、自分は恵の事を考えず次に何をするのかを考え前へ進むべきなのだと言い聞かせながらその場を離れる。

そしてフォグはランニングマシーンへと向かい、ボタンを押して作動させた。


「過去に干渉して何が変わる?」


フォグは心で思った事を思わず口に出して呟きながら走り出した。






「リリカ!!」


英夜装甲態は自分の背中にしがみ付くリリカに思わず叫んでしまう。


「英夜、また一緒に遊ぼうよ!」


リリカは無邪気そうに英夜装甲態をギュッと抱きしめる。


「リリカやめろ!!」


英夜装甲態は左手でリリカの腕を掴んで離そうとする。


「え? 英夜は私の事嫌いなの?」


リリカは自分の腕を離そうとする英夜装甲態にショックを受けたのか、ガッカリした口調で彼に尋ねる。


「違う!!」


英夜装甲態は嫌いになる訳なんかないと必死にリリカに訴える。


「私の事が嫌いな英夜なんて……いなくなっちゃえ!!」


リリカは口調を荒げながら姿を変化させ、そしてラパンへと変貌して英夜装甲態の首を絞めつける。


「がっ……!!」


英夜装甲態はラパンに説得の言葉をかけたかったが、首を絞められ言葉を発せなかった。


「いつもー、吹いてるー♪ やーさーしい風♪」


それを見ていた直花は急いで歌い始め、ラパンを静めようとする。

しかし歌っている最中、それに反応したアークがククリナイフを直花に投げつけた。


「あっ!!」


直花は間一髪で飛んできたククリナイフをかわした。


「今の歌、死者への慰めの歌だな!」


アークは直花の声帯から発せられる穏やかなオーラを感じ取り、彼女が霊園の歌姫だと感づいた。


「うう……!」


直花は敵のいる前では都合よく歌えないなと思ってこの不利な状況に唸った。

一方の穂波は、英夜装甲態を助けるべく急いで起き上がって両手にオーラを込めてラパンに突進する。

そして穂波の手がラパンに触れると同時に爆発が起こり、ラパンは英夜装甲態を離してしまう。


「ゴホッ……ゴホッ……リリカ……」


英夜装甲態は荒い呼吸をしながら蹲り、ラパンの方を見つめる。


「これで3対2になった訳だが力の差は互角って所かな?」


アークは何処からともなく3本目のククリナイフを右手に取り出しながら英夜装甲態達に勝負はまだ分からないと告げた。


「どうする? あいつはともかくリリカさんとは……」


穂波は倒す事前提で戦えるアークと倒す訳にはいかない所かそもそも不死身なので倒せなないラパンの2人を相手にするのは骨が折れると感じた。


「仕方ないわね、貴方達2人は幼馴染の相手をして! あいつは私が食い止めるわ!」


すると直花は1人でアークの相手をすると言い出し、ラパンの相手を穂波と英夜装甲態に任せる事にした。


「お前1人で大丈夫なのか!?」


英夜装甲態はアークはふざけた態度が目立つが実力は侮れないと感じているため、直花1人で適うかどうか不安になる。


「私は人間の魂を静める者、人間の幽霊に手出しは出来ないけど悪魔が相手なら容赦をしない!」


直花は自身に満ちた勇ましい表情で悪魔には決して負けないと断言した。


「……まぁリリカとのケリは俺が付けるのが筋ってモンだから仕方ねぇか! 任せたぞ!」


英夜装甲態は直花が人間に手出し出来ない事はなんとなく想像がついたため、彼女の選択は正しいと思って信頼する事にした。


「いきましょう、天城!」


穂波も直花に同意の上で英夜装甲態に呼び掛ける。


「言われなくても!」


英夜装甲態は軽く穂波に返答し、2人はラパンへと立ち向かって行った。


「1人で俺に挑むとか超うける――――!! ギャハハハハ!!」


アークは自分と1対1で戦おうとしてる直花の無謀さに大笑いした。


「ご心配なく、私はこう見えて実力は高いのよ。」


直花はアークに恐れる様子を見せず、全身にオーラを滾らせてか「かかってこい」と身体で意思表示を見せる。


「それじゃあ、遠慮なくその身体バラバラにしてやるぜ!!」


アークは直花目掛けて突撃し、ククリナイフで彼女を切り裂こうとする。

直花はイーグルドローンで次々と繰り出されるアークの攻撃をガードする。


「どうだ俺のナイフ捌きは!? 攻撃する暇もないだろう!?」


アークは初っ端から攻撃をガードしてばかりの直花に皮肉の言葉を浴びせる。


「そうでもないわ。」


しかし直花の返答は余裕に満ちていた。

その直後、イーグルドローンの翼が展開されて、アークのククリナイフが弾かれた。

突然の出来事にアークは驚くが、直花はその隙を見逃さず、彼の腹に膝蹴りを喰らわせた。


「ぐおっ!!」


呻き声を上げるアークに直花は追い打ちをかけ、左腕を鮮やかに振り回しながら腕に止まっているイーグルドローンの翼で彼に攻撃する。

そして直花は左腕を突き上げ、それと同時にイーグルドローンが飛び立ちながらアークに体当たりを仕掛けた。

アークは弾き飛ばされ、イーグルドローンは空中で1回転しながら再び直花の左腕へと泊まる。


「まだやる?」


直花は真剣な眼差しをしながらアークに問いかける。


「それで俺を追いつめたと思ってんのか? それうけるんですけど!」


アークはムキになっているかの様な荒い口調で強気な台詞を吐いて再び直花に襲い掛かる。



一方の英夜装甲態と穂波もラパンとの激しい戦闘を繰り広げていた。

英夜装甲態は薙刀の攻撃でラパンに両手でガードさせた後、左手にリリカの宝物であるおもちゃのコンパクトを取り出してそれを見せつけた。


「覚えてるかリリカ!? これはお前が大切そうに持っていた物だよな!?」


英夜装甲態はコンパクトをラパンに注目させて必死の説得を試みる。


「……サンタさんからの……プレゼント……」


ラパンはコンパクトに反応して手を差し伸べる。

英夜装甲態はそっとコンパクトから手を放し、ラパンの手元へと置いた。


「俺はな、お前の事を忘れた事なんか1度もねぇ! 毎日心の奥でお前の事を想って今日まで生きて来たんだ! 一緒に花畑で走り回ったり、俺がお前にピアノの演奏を披露してお嫁さんにしてやるって言ったり、一緒にクッキーを作ったり釣りに行った事も全部覚えてる!」


英夜装甲態はラパンになんとか生前の理性を取り戻して貰おうとかつての思い出を語り始める。


「英夜……」


ラパンは英夜装甲態の名を呟く。


「リリカ……地縛霊としてこの世に留まるなんてお前らしくない、だから……」

「英夜……こっちへ来て!」


ラパンに成仏する様説得しようとする英夜装甲態だったが、ラパンは突然自身の身体から霊気を発現させて彼を取り込もうとする。


「リ……リリカ!」

「私一人ぼっちで寂しかった、だから英夜もこっちに来て! また一緒に遊ぼうよ!」


戸惑う英夜装甲態にラパンは無邪気な口調で彼を誘う。

英夜装甲態も幽霊になれば自分は救われるとラパンは解釈した様だった。

そんなラパンに穂波は自身のオーラを最大限にまで上げて体当たりを仕掛ける。

穂波のオーラとラパンの霊気はぶつかり合い、互いに引きを取らなかった。


「リリカさん……それは間違ってる!」


今度は穂波がラパンに説得を始める。


「どうして? こうすればまた英夜と一緒に遊べるのに。」


ラパンは何故穂波が止めに入ったのかが理解できずキョトンとする。


「貴女は天国に行ってそこで幸せに暮らすべきなのよ! 屋敷にいたって天城と2人きりになるだけで今までと大差ないわ!」


穂波は生きていれば実年齢は22歳になっていたが、姿も精神年齢も7歳のままで止まっているラパンにどれだけ自分の言い分が理解できるか分からなかったが、兎に角当たって砕けたかった。


「嫌!! 私は英夜と遊びたいの!!」


ラパンは子供らしい駄々をこね、穂波の説得に反論する。

そんな時、英夜装甲態も自身のオーラを上げてラパンの霊気に対抗して来た。


「リリカ……悪いが俺は今死ぬ訳にはいかない、俺が死ぬのは後60年位先の予定だ、だからお前は先に天国に行って幸せになってくれ!」


英夜装甲態はオーラナイトとしての使命を全うすべく生きたいという意思をリリカに伝える。


「酷い……酷いよ英夜!!」


ラパンは英夜装甲態が自分を嫌っているんだと思い込み、泣きそうな口調になる。

しかし英夜装甲態はラパンの霊気を気合で押しのけ、彼女を抱きしめた。


「落ち着いて聞け、俺はお前の事を嫌いになったりはしない!! ただ俺がもう大人だから遊べないだけなんだ、それにお前は暗い屋敷の中にいたって幸せになんかなれやしない、だから明るい天国に行った方がいいんだ!!」


英夜装甲態もラパンにどれだけ自分の説得を受け入れられる理解力があるのかが分からなかったが、今の地縛霊という悍ましい存在になっているリリカが耐えられないため意地でも彼女に成仏して欲しかった。


「お前を想って進む……俺がいつもお前を想って生きるのは駄目か?」


そして英夜装甲態はある要望をラパンに問いかけた。

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