31話 英夜と幽霊少女15
1
ビル等の建物が乱立する結界の空間。
そのビルの屋上の壁にポツンと空いた大きな壁からリメインが出て来た。
リメインは斧を構えながら辺りを見渡す。
「……いない……何処へ行った……です……あの女は天使と悪魔のハーフだからすぐに見つけられると思ったけど……反応が一つじゃない……オーラを分散させて隠れてる場所を見つけにくくしてる……です……」
リメインは美森と雪木を探すべく、感覚を研ぎ澄ませながらビルの屋上から飛び降りて行った。
一方の美森と雪木は何処かのビルのバーカウンターに身を潜めていた。
「はいこれ、鉄分の入ったサプリメント。」
雪木は自分のショルダーバックの中からサプリメントの入ったプラスチックの瓶を取り出し、美森に渡す。
「ありがとう……ございます。」
美森はただでさえ鉄分が不足して息苦しくなっているのに先程雪木を抱えて走ったため意識が朦朧としていたが、サプリメントを受け取ると少し安心感が芽生え、蓋を開けて10錠以上のサプリメントを一気飲みした。
「あの娘、ウィンドミル家に捨てられたとか言ってたけど何か心当たりはあるの?」
雪木は先程美森がリメインと戦った際に彼女の言った言葉が気になり、美森にその関連性を尋ねてみる。
「分かりません……ただ僕の曽祖父を彼女はパパと呼んでましたけど……」
「あんたのお祖父さんに姉か妹がいたとかじゃない?」
「祖父からそんな話は聞かされた事がありません、でも今僕が悩んでるのは彼女の正体ではなく彼女の能力です。」
美森はリメインとは初対面だったため、自分と彼女が身内であるという事実が全然掴めずに困惑していた。
しかしリメインは強敵であったため、現在美森は彼女にどう対抗するかを優先的に考えていた。
「相手の鉄分を奪う能力ね? あれは厄介よね、向こうは殺意剥き出しって感じだったし。」
雪木も美森が考える優先順位が妥当だと思い、共にリメインを倒す術を考える事にした。
「どうやったら彼女の能力を攻略できるのか……それを思いつかない事には……」
美森はリメインの能力は奇襲性が高く、どうすれば鉄分を奪われずに済むか、その打開策を必死に模索していた。
するとビルの外で大きな爆発音が聞こえ、美森と雪木はその音に驚く。
「きっとあの娘が血眼になって私達を探してるんだわ。」
雪木は今の爆発音がリメインがビルを破壊しながら自分達を探している物だとすぐに読み取れた。
「いつまでもこの場にのんびりしてられそうにないですね……」
美森もこの場に長く留まる事に危機感を抱き始める。
またリメインが襲ってきて自分の鉄分を奪う事を想像すると身体がゾッとした。
「ごめん、私が足手まといになっちゃって……」
そんな時、雪木は深く沈んだ表情になって美森に謝罪し始めた。
「何故、雪木さんが謝るのですか?」
「私は半天半魔だからあの娘に気配を感知されてしまう、私が人間じゃないせいで隠れにくくなっている、こんな事なら最初にあんたが言った通り私もホテルの外へ非難しておくんだったわ……」
雪木はもし自分が人間であればリメインに気配を悟られる心配もなくリメインに場所を知られる可能性ももっと低くなっていた筈だと思うと、自分の存在を恨めしく感じてしまい、自分は美森達に同行するんじゃなかったという後悔が生まれていたのだった。
「そんな事はないです、雪木さんがいなかったら鉄分以前に出血多量で死んでいたかもしれないのですから。」
美森は自分を責める雪木に回復能力は十分自分の助けになっていると励ましの言葉を送る。
「まさか私があんたに弱い所を見せるとはね……でも以前にもこういう事あったか……でも嬉しい、なんとしてでもここから生きて帰りましょう!」
雪木は美森に励まされたのは初めてデートをした時以来だなと感じながらも、自分が美森の役に立ててる事を嬉しく思い、前向きな気持ちを持とうとする。
「勿論です! それと、先程のサプリメントが効いたのか、大分頭も回ってきました。」
美森は身体に鉄分が戻って思考力も回復したのか、何かリメインに対抗する策を思いついた様で微笑みを浮かべた。
「それってあの娘を倒す方法を何か思いついたって事?」
「はい、あくまで僕の憶測なのですが……」
美森が雪木にリメインへの対抗策を話そうとしたその時、突然大きな爆発音と共にバーの壁が破られ、リメインが内部に入って来た。
「見つけました……殺します!」
リメインは美森達の姿を確認すると、殺意を込めながらゆっくりと近づいて来る。
「これ以上、お前の思い通りの展開にはさせない!」
美森は立ち上がり、ポケットからナイフを取り出して瞳を閉じた。
「なんのつもり……です?」
リメインは目隠しの状態でこちらにナイフを構える美森を疑問に思う。
「お前にはこれで十分だ、お前の事を見ずに倒す!」
美森は緊張感を押し隠す様に強気な言動をとる。
「リメインを舐めないで!!」
リメインは美森が自分を見下していると判断し、感情的になって彼に襲い掛かる。
美森はオーラで身体を固め、そして音を頼りにタイミングを合わせてナイフを振りかざす。
ナイフと斧の刃がぶつかり激しい金属音が鳴り響く。
リメインは瞳を赤く発光させ、また美森の鉄分を奪おうとする。
しかし美森の身体には特に変化が無く、リメインは困惑する。
美森はオーラの出力を上げてリメインの斧を振り払い、そして彼女を押し倒して左手で首を掴んだ。
「少し読めたぞ、お前が相手の鉄分を奪うには、自分の赤く光った瞳を相手に見せなきゃいけないんだ、お前と目を合わせないようにすれば問題ない。」
美森はリメインの能力の弱点を考察して目隠しの状態で戦いを挑んのだった。
自分の予想が的中した事で美森は安心した気持ちになる。
「ぐっ……放せ……です!」
リメインは悔しそうな表情で必死に抵抗する。
しかし美森も負けじとリメインを押さえ込む。
「僕は一応英国紳士の血を引いている、だからお前をボコボコにする様な真似はしない、少し眠っててもらう。」
美森はイギリス人の血を引いてる身として少女の顔面を殴る等の行為に抵抗があったらしく、オーラで冷気を送ってリメインの首を出発点に凍らせていく。
「あ……ああっ!!」
リメインは呻き声を上げながら自分の身体に冷気が送られて来るのに苦しむ。
そしてリメインの身体はあっという間に氷漬けとなった。
美森は瞳を開けて立ち上がる。
「もう……大丈夫ですよ。」
美森は完全に凍ったリメインを確認しながら雪木の方へ歩み寄り、安全を伝える。
「その娘の事、殺せなかったの?」
雪木は凍り付いて横たわっているリメインを眺めながら、美森が彼女に止めを刺さなかった事に触れた。
「正直、僕も彼女をどうしたいのかよく分かりません、ただ今は機能停止になってもらうのが妥当かと……そう思いました。」
美森にはリメインは自分の身内かもしれないと思うと、その事を無視して止めを刺すべきか、それとも生かして様子を伺うべきかという迷いがあった。
そして最終的に後者を選択する事にしたのであった。
「もしかしたらこの娘とは話し合えるんじゃないかって私は思うんだけれど。」
雪木はリメインの表情が終始悲しそうな物で、不敵な笑み等を浮かべていなかった事からやり方次第では和解も可能なのではと考えていた。
「確かにそれも可能かもしれません、だけど向こうが全力で僕を殺しにかかるなら受けて立つまでです、高井さんの仇を討つまで……僕も死ねませんから。」
美森は女性、ましてや少女の姿をしてるリメインと戦う事にはまだ抵抗が有ったが、それでも自分や雪木に襲い掛かって来る以上は返り討ちにして蹴散らしたいという思いもあった。
「なんというか……気の弱い性格と敵への対抗心は別なのね。」
雪木は美森の高井の復讐をしたいという決意や毎回戦いは卒なくこなす事からどんなに気が弱くても敵に立ち向かおうとする度胸は持ち合わせているのだろうと評価した。
「そうかもしれませんね……先へ進みましょう。」
美森は雪木から貰った褒めの言葉をポジティブに捉えるべきかネガティブに捉えるべきか分からず複雑な気持ちになるが、今はあれこれ考えるより先に進もうと考えて雪木に手を差し伸べる。
「ええ。」
雪木は美森の手を取り、そして2人は凍ったリメインを後にして結界の探索をするべく歩き出した。
2
グリーンパールのホテル。
ロンリネスを部屋に招き入れたアイシクルはまず冷蔵庫にあった缶のオレンジジュースを差し出した。
「ごめんなさい……本当は紅茶を……差し出したかったのだけれど……」
アイシクルはイギリス人としてはおもてなしには紅茶を差し出したかったそうだが、ホテルの冷蔵庫にはそれがなかったため少し残念な気持ちを語った。
「いいのよ、別に気にしてないから。」
ソファーで寛いでいるロンリネスは飲み物を出して貰えるのならなんでもいいとアイシクルを気遣う。
「それで……まず何から話したらいいの?」
アイシクルはロンリネスが何の前置きもなく突然訪ねてきたため、どんな話題をすればいいのか分からず困り果てた。
「そうねぇ……まず質問、貴女を封印したオーラナイトの中にウィンドミル家の人間はいたりしたの?」
ロンリネスはそれならと思い、アイシクルの封印に自分の先祖が関わってないか尋ねてみる。
「ええ……いた……」
アイシクルはその時の記憶を思い出す様に瞳を閉じながら質問に答える。
「そっかー、それは奇遇ね。」
「ウィンドミル家の……子孫なの?」
「そうよ、イギリス系日本人って奴ね。」
ロンリネスはアイシクルが自分とウィンドミル家の関係を聞いて来るのを待ってましたと言わんばかりに、にこやかな表情で答える。
「貴女は……私が自分を封印したウィンドミル家を……恨んでると思ってる?」
アイシクルは次にロンリネスが何を考えてるのかを予想して彼女に質問する。
「いいえ、そんな風には見えないわね。」
ロンリネスは缶の栓を開けてジュースを一口飲んだ後、アイシクルに質問を返した。
「……正解、封印された事なんかもうどうでもいい……」
「それは有り難いわね、恨みを買われていたらどうしようかと思ったわ。」
「変な人……」
アイシクルは自分がどういう存在なのか分かっている筈なのに冗談めいた発言を陽気な態度で続けるロンリネスの度胸に感服した。




