30話 英夜と幽霊少女14
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英夜と穂波は取りあえず自分達が入った部屋に役に立ちそうな物がないか調べる事にした。
英夜はとっとと先に進みたかったのだが穂波からエリア内の探索もホラーゲームの基本だと指摘されて渋々彼女に乗ったのだった。
穂波はキッチンの方を調べていると、ある一枚の紙きれが落ちている事に気が付く。
「なんかメモを見つけたわ、『あの頃に戻りたい、楽しかった誕生日、親と言った遊園地、学校での遠足、部活での青春、ああ、全てが懐かしい』って書いてあるわ。」
穂波はメモが落ちていた事を英夜に知らせ、その内容を読み聞かせる。
「幽霊が書いたメモか?」
英夜はそのメモに半分程興味を抱いて穂波に問いかける。
「そうなんじゃない? あの頃に戻りたいかぁ……大人になると色々と人生で葛藤するから誰しもがそう思うわね……」
穂波はメモに書かれてある『あの頃に戻りたい』という単語に過敏になったのか、自分の過去を思い出す様にそう呟く。
「だけど時間は前にしか進まない、現実は非情だ、過去の事は思い出に浸る事しか出来ないのが人生だ。」
英夜はどんなに過去が恋しくても過去には戻れないと穂波に辛辣な意見を述べる。
「ねぇ天城、あんたって小学生の頃って給食と体育のためだけに学校行ってたタイプ?」
すると穂波は突然英夜の子供の頃について質問した。
「急にどうした?」
英夜は図星を突かれた様に眉を顰めながら何故いきなりこんな質問をするのかと穂波に問いただす。
「別に……ただあんたの昔話ってあんまり聞いた事が無かったから。」
穂波は自分の事はある程度英夜に話したが、その逆はリリカ関連の話以外無かった事に気づいた。
だから英夜の少年時代のエピソードがふと気になったのだった。
「あーそうだったな……まぁ、今お前が言った予想はあながち間違っちゃいねーよ……」
英夜も穂波に自慢話をした事が無かったと感じ、そして彼女から小学校時代の自分を当てられて右の目じりを掻いた。
「やっぱりね、それで授業中はよく居眠りしてたし、喧嘩では1人で複数に勝った事もある、そして高校の頃は早弁もしていた。」
「なんでさっきから当たってんだよ?」
穂波は続け様に英夜の過去を探り当て、英夜は何故こうも当たるのか疑問に感じるた。
「だってあんたって解りやすいもん、見るからに単純そうだし。」
穂波は英夜の普段の言動から彼が典型的な体育会系のガキ大将だったのだろうと安易に想像がついていた様だった。
「単純で悪かったな、馬鹿正直に生きるより自由気ままに生きる方が好きなタチでな。」
英夜は単純と言われ、それがある意味間違いでは無かったため反論が思いつかず、やむを得ず開き直った。
「そんなあんたがどうしてオーラナイトになったの? 給料は悪いし元老院からも代わりの効く消耗品同然に扱われてるんでしょ?」
そして穂波はそんな英夜でも命懸けで悪魔と戦うにも関わらず収入面等で冷遇されているオーラナイトになった動機は分からずにいた。
「確かに元老院の連中から依頼を受ける時は道具みてーにぞんざいに扱われるし手当もねーし最悪だわな、でも親の代からオーラナイトやってるからしょーがなくなった……と言うのは建前で本当の所はリリカが死んだ事がトラウマになって記憶に焼き付いているからリリカみたいに子供が理不尽に殺されるザマなんか見たくねーからっつーのが理由かな……せめて俺と同じ思いを他の奴にさせたくねーってのも動機だろうな。」
英夜は両手を腰に当てながら自分がオーラナイトになった理由を赤裸々に語った。
「立派な動機ね。」
「皮肉か?」
「いいえ、本気でそう思った。」
穂波は英夜のオーラナイトになった経緯を褒めるが、英夜は皮肉のつもりで言ってるのではと捉える。
それでも穂波は皮肉ではなく純粋な気持ちで褒めたと訴えかける。
「ふっ……素直に例は言っとくぜ、あんがとよ。」
英夜は穂波も穂波なりに人生で様々な事を経験してるからこそ今の自分を褒めたのだろうと思い、感謝の言葉を送る。
「それにしても、過去は思い出に浸る事しか出来ないねぇ……」
穂波は先程の英夜の言葉が刺さったのか、また夏鈴と過ごした日々を思い出した。
☆☆☆
夏祭りの夜。
神社の辺りには様々な屋台が並んでおり、浴衣や私服姿の来客達で混雑していた。
その人ごみの中で赤い浴衣を着た穂波と緑の浴衣を着た夏鈴が金魚掬いをしていた。
穂波は金魚を掬おうとするが、網が破けて逃げられてしまう。
「あー駄目だ、こういうのって私には向いてないのかも……」
穂波は毎年祭りの金魚掬いで失敗しているらしく、自分は不器用なんじゃないかと自信を失くしていた。
一方の夏鈴は鮮やかな手つきで出目金を掬ってボールに入れていた。
「わぁ、どうやったらそんなに上手く取れるの!?」
穂波は何気ない仕草で簡単に出目金を取った夏鈴にそのコツを尋ねる。
「ん~……取る際の角度は45°、そして金魚が来るタイミングを先読みするって所かな?」
夏鈴は顔を上に向けて考えた後、自分がしている行動をありのまま穂波に話す。
「えっ……なんだかそれって凄い才能が必要な様な……」
穂波は夏鈴の言ったコツが簡単な様でいざ実行しようとなると難しい様にも感じた。
「そうかなぁ? 私は小1の頃から普通に出来たよ。」
「凄いよ、夏鈴って他人には見せないだけで大抵の事はそつなくこなせるんじゃない?」
穂波は夏鈴は運動以外の事は特に苦にする事もなくやり遂げてしまう人間だと感じて、そんな彼女の才能が羨ましくなる。
「かもしれない、でもやっぱり私は地味でいる方が落ち着くなーって思う。」
夏鈴は自分の才能を自覚しながらも、それを自慢すれば自分を妬む敵が出来る危険性があると感じて学校では地味でいたいと思っていた。
「そっか、それじゃあ次行こう!」
穂波はそんな夏鈴の心境を読み取り目立とうとする自分とは対照的だなと思いつつ、今はあれこれ考えるより純粋に祭りを楽しもうと思って彼女に次の屋台に行こうと誘った。
「うん。」
夏鈴は屋台の主から出目金をビニール袋に包んで貰った後、穂波と共に立ち上がってその場から歩き出す。
次に2人はチョコバナナの売っている屋台が目に止まり、そこに立ち寄る事にした。
穂波は普通のチョコレート味、夏鈴はストロベリーチョコ味のチョコバナナを買ってそれを食べた。
「ねぇ、そっちも一口頂戴、私のも一口上げるから。」
そんな時、穂波は夏鈴の口をつけたチョコバナナが食べたくなったのか、顔を赤らめながら大きく口を開けて夏鈴にお願いする。
「え? ああ成程!」
夏鈴は穂波が何をやりたいのかを察して微笑み、手に持っているチョコバナナを差し出す。
穂波は喜んでそのチョコバナナを一口食べて、そして自分の持っているチョコバナナを夏鈴に差し出す。
今度は夏鈴が穂波のチョコバナナを一口食べた。
「ふむふむ、これが関節キスって奴だね。」
夏鈴は口をもぐもぐさせながら今の行為が何なのかを解説した。
「そんなはっきり言わないでよ!」
穂波は恥ずかしそうに失笑しながら夏鈴の肩を軽く叩く。
「穂波ちゃんったら大胆なんだから、でも嬉しい。」
夏鈴は明るくマイペースな穂波に乗せられつつも、自分と対照的な穂波と一緒にいて楽しい事を不思議に感じた。
「あっ! 見て見て、花火が上がったよ!」
そんな時、穂波は空で大きな音が鳴った事に反応して夜空を見上げ、夏鈴に花火が上がっている事を知らせる。
夏鈴も夜空を見上げると、そこには赤や青や緑の様々な色の花火が美しく打ち上がっていた。
「わぁーー! なんだか穂波ちゃんと見る花火って格別に綺麗だなって感じるよ!」
夏鈴は花火自体は毎年見慣れている筈なのに、穂波と共に見る花火が普段より格段に綺麗に感じてそれが貴重な体験だと思えた。
「やっぱり仲の良い友達と見る方がこういうのは楽しいのかもね。」
穂波は楽しい物は楽しい気持ちの時に見た方が断然いい物なのだと推測し、夏鈴に満面の笑みを送った。
☆☆☆
夏鈴と夏祭りで過ごした思い出の回想を終えた穂波はゆっくりと英夜に近づく。
「天城、確かに過去の事は思い返す事しか出来ないけど、過去を動力源に前へ進むことも出来ると私は思う。」
穂波は意志を強く持った真剣な表情で英夜に自分の考えを伝える。
「成程……前へ進むという事は過去から逃げるだけじゃないという事か……」
英夜は穂波の言い分に心を動かされたのか、彼女の意見に賛同する。
「あんたは以前こう言ってたよね、『ピアノの演奏をしたらリリカさんに上手いと褒められた、自分も調子に乗って将来リリカさんをお嫁さんにすると言った事がある』って。」
穂波は3年前に英夜が自分に話してくれた事の一部を思い出し、英夜にその記憶を甦らせようとする。
「ああ、そんな事も言ったな。」
英夜は子供の頃リリカに告白じみた発言をした事を思い出し瞳を閉じる。
店で見かけたピアノが綺麗だからというほんの些細なきっかけ始めたピアノの演奏でリリカが喜んでくれた事が当時の英夜は嬉しかった。
リリカと結婚して子供が出来たらその子供達にもピアノを聞かせてやりたいとも思っていたが、今現在はピアノはあまり弾いていない。
リリカと結婚するという夢が叶わなくなって、ピアノを弾くと昔を思い出して辛くなるからだった。
「いいじゃない、そういう思い出も、リリカさんを忘れて進むよりリリカさんを想って進む方があんただって強くなれるよ! 少なくとも私は毎日夏鈴を想いながら進んでいる!」
穂波は大切な人がいたのなら忘れずに記憶に焼き付けながら前に進むのも有りだと英夜にエールを送る。
「ああ、そうするよ、なんて事を話してる内にお客さんのお出ましだ。」
英夜は穂波のアドバイスを素直に受け取った後、穂波の背後の壁からスーツ姿のサラリーマンの幽霊がすり抜けて来た事に気づいた。
「あれま、幽霊だからリリカさん同様不死身だと思うけど、一時的にダウンしてて貰いましょう!」
穂波はこの幽霊があの頃に戻りたいというメモを書いた張本人ではないかと思いながらも、今は敵に同情するより目の前に降りかかる火の粉を追い払おうと考えるのが得策だと感じて両手にオーラを込めて戦闘態勢に入る。




