表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/78

3話 無差別殺人犯

1年前の東京の晴れた大きな公園広場、美森はそこで高井とデートをしていた。

2人はまず最初に園内の遊園鉄道に乗って公園の景色を把握して何処から歩き回ろうか考える事にしていた。

鉄道には窓がなく、心地よい風にあたりながら2人は外の緑あふれる自然の景色を堪能していた。


「ねえ水前寺君。」


高井は列車の窓から見える花畑を見ながら美森に話しかける。


「はい?」


美森は少し緊張した趣で返事をする。


「水前寺君は大学を卒業したら何になるつもりなの?」


高井は美森の方に顔を向けながら彼に大学卒業後の進路をそれとなく伺った。


「えーと……警察ですかね。」


自身の進路を聞かれた美森は少し悩んだ後、彼女に警察になるつもりだと告げた。


「ふーん、それは正義の味方になりたいって事なの?」


高井は美森が警察という激務な仕事に就きたいと言った事に対し、その志望動機が単純な物なのかと尋ねる。


「そうですね……僕の動機は単純過ぎますか?」


美森も自分の志望動機がスタンダート過ぎたかと思い、恥ずかしくて赤面をする。


「そうね、ありふれた動機ね。」

「でも僕も誰かの役に立ちたいんです、高井さんも僕と似たような理由で看護師になったのでは?」


美森は自身の警察になりたいという動機がありふれていると言った高井に対し、彼女も人を助けたいという想いで看護師になったのではと指摘する。


「確かにそうね、困っている人がいたら放っておけないっていう気持ちが強くてそれで看護師になったのかもね。」


高井は微笑みを浮かべながら自身もありふれた理由で看護師になった事を思い出す。


「話は変わりますが、高井さんは今僕とこうしてデートしている事は幸せですか?」


美森は話題を変えて、高井は今自分とデートしている事が幸せかどうかを質問してみる。

内気でガールフレンドが中々出来なかった美森にとってこれは中々勇気のいる質問だった。


「今のこの状況? そうねぇ……お互いまだ知り合って間もないし、幸せかどうかは別ね、今の貴方はちょっと暗くて女々しいっていう印象しかないし。」

「女々しい、ですか……確かに僕はこの性格が災いして中々彼女が出来ずにいました、自分でもこの性格はまずいと思っているので改善するつもりでいますけど。」


高井から女々しいと言われた美森は図星を突かれてショックを受ける。

しかし同時にこの性格を改善していきたいという気持ちも高井に伝える。


「『するつもり』じゃなくて今改善しなきゃ駄目よ、重要なのは過程よりも結果、結果をすぐにでも出さなきゃ意味がないわ。」


高井は美森の言った『するつもり』という単語が弱々しく感じ、『してみせる』という強気な言い方じゃないと説得力がないと言い返す。


「うう……すいません」


美森はまた高井の発言がグサリと刺さり、引きつった表情になる。


「後それから貴方はどうして私を好きになったの? 」


高井は少しため息をついた後、美森にどうして自分を好きになったのか尋ねた。





グリーンパールの街外れの山岳地帯。

美森、英夜、胡桃の3人は精神病院から脱走した凶悪犯、光龍瞬平の捜索、及び打倒のためにこの山に来ていた。

そんな山道を歩いてる最中で美森は高井とデートした記憶をフラッシュバックしていたのだった。


「どうしたの、水前寺君?」


胡桃は心ここにあらずな状態で山道を歩いていた美森が気になり話しかける。


「ちょっと……昔を思い出していたんです。」


美森は胡桃に話しかけられ我に返り、彼女に先程まで高井との思い出をリピートしていた事を伝える。

美森は昨夜英夜に『隠し事をする奴程間違った道に進みやすい』と指摘されたのが尾を引いているのか、山を出発する前に高井について2人に説明しており、今も正直に自分が考えていた事を胡桃に打ち明けた。


「高井さんだっけ? その人とは仲が良かったの?」


胡桃は高井と美森がどれ位仲が良かったのかが気になり彼に質問してみる。


「……僕は女々しい性格なので女性からは頼りなさそうに思われがちで……デートには応じてくれましたが実際高井さんの僕に対する好感度がどれ位だったのかは分かりません。」


胡桃から質問を受けた美森は、結局高井が自分と交際していて本当に幸せだったのか、彼女の素の気持ちが分からず曖昧な返答をしてしまう。


「水前寺君は何を思って高井さんと付き合ったの?」


胡桃は高井と言う人間がいた事は美森から聞かされたが、一方の彼がどういう心境で彼女と付き合おうと考えたのかをまだ聞いていなかったため尋ねてみる。


「彼女がオーラナイトや悪魔の事を知らない普通の世界のひとだったから、僕はこんな特別な家系に生まれたから普通の世界に生きる高井さんに憧れていた、当時僕も普通の人の様に生きたかったから。」


美森は自身がオーラナイトという特殊な家系に生まれたために周りの人間に疎外感を感じてしまい、普通の人間の暮らしに憧れている様だった。


「普通の世界ねぇ……」


それを聞いた胡桃は何かが突き刺さった様な凍り付いた表情になり、無意識に腕を組んでしまう。


「だけど僕は引っ込み思案で人付き合いが苦手で……だけど普通の人の世界で生きたい、自分の考えが矛盾し葛藤して……だから同じように人見知りな性格の高井さんをみて自分の葛藤が和らぎました、高井さんにシンパシーを感じたから付き合いたいと思いました。」


美森は自分の考えに矛盾がある事、そして自分と似た様な性格の高井に出会った事でその悩みが少し和らいだ事を悲しそうな目をしながら語る。


「……」


それを聞いた胡桃は何か言いたそうに口を開けようとするが、咄嗟に気が変わったのか沈黙してしまう。


「ま、何はともあれお前を受け入れてデートにまで付き合ってくれたんだから人は良かったのかもな、その高井って人。」


そこに英夜が話に割り込み、引っ込み思案で男として頼りない美森に付き合ってくれた高井は優しい性格なのではと指摘する。


「そうですね、高井さんだって人間だから彼女が全くの聖女だって事はあり得ませんが、少なくとも困っている人は放っておけない性格でした。」


英夜からフォローの言葉を貰った美森もそれを聞いて勇気づけられたのか、少し気が楽になったという表情で彼の意見に同調する。


「看護師になった位だし、まぁそういう性格はしてるよね。」


胡桃も高井の事は美森の口から聞かされた程度でしか知らないが、看護師になった人間が悪い人の筈がないと言って美森を勇気づける。


「高井さんは僕と一緒にいて幸せだったのか……今はそれを聞く事も出来ない……今の僕が出来るのは仇を討つ事くらい……考えて見たら空しいなって思えます……それでも、会って間もないこんな僕を励ましてくれる貴方達に感謝の気持ちも抱いています。」


美森は高井を失った悲しみはこれからも消えることは無いだろうと思いながらも自分にエールを送ってくれた英夜と胡桃に感謝の気持ちを抱いた。


「所でよぉ、仇討ちが終わった後お前はどうする予定なんだ? このままオーラナイトを続けるつもりか?」


英夜はふと美森が高井の仇討を終えた後、このままオーラナイトを続けるのか、はたまた別の道を歩むのかが気になり話題を切り替え彼に質問してみる。


「かつては警察官になりたいと思っていましたが、今は高井さんの復讐を果たした後もオーラナイトを続けて行こうかなと思います、損な生き方だとは思うけど……これしか生き方が見つけられなくて……」


英夜からこれから先どうしていくかと質問された美森は高井とデートした時彼女から似たような質問を受けて警察官になりたいと言った事を思い出すが、今現在は悪魔と戦い続ける事で高井への未練を忘れられると思い込み、子供の頃からなる事を拒んだオーラナイトの仕事を続けようと思っていて彼にそう返答した。

それを聞いた英夜は美森の発言が痛々しく感じたのか少し引きつった表情になる。


「今僕の事悲劇のヒーロー気取りのナルシストだと思いましたか?」


美森は英夜の表情を見て彼が考えてる事を読み取り、それとなく伺ってみる。


「いや、深く責めたりはしない、オーラナイトの家に生まれれば大抵はこういう気持ちになる。」


英夜は確かに美森本人も認めている通り悲劇のヒーローを気取っている様で痛々しく思う物の、オーラナイトという命を懸けて悪魔と戦うという危険な仕事の割に一般人にあまり認知されていない立場の家系に生まれれば誰でもこうなるかと考えを改め、美森に気を使った返答をする。


「水前寺君も実際の所、悲劇のヒーローのレッテルを張られるのは嫌だよね? 高井さんの話は一旦保留にしましょう。」


胡桃も水前寺が『恋人を失った悲劇のヒーロー』だと周りから言われる事に抵抗があるだろうと思い、高井に関する話を一旦打ち切ろうと提案する。


「そうですね、愛する人を失った悲しみから立ち直るのは安易な事ではないけれど、周りに『自分は可哀想な存在』だとアピールするのは気持ちのいい事ではありません。」


美森も胡桃から高井の話は無しにしようと言われて少し気が楽になったのか、微笑みを浮かべながら彼女の意見に賛同する。


「所でよー……」


すると英夜は話の話題を変える様に美森に話しかける。


「はい?」


美森は英夜が話を変えてきたのを察し、首をかしげる。


「俺達に敬語使う必要なくね? 俺達とお前の立場は対等みてーなモンだし。」


英夜は歳がそれ程離れておらず、明確な上下関係もない自分達に敬語を使う美森に違和感を抱いていたらしく、彼に普通の言葉で自分達に接してはと勧める。


「え? あー、これは癖で……えっと……こんな感じでいいかな?」


美森は自身の敬語は癖で無意識にこうなってしまう様だったが、せっかくオーラナイトとしての同業者である英夜が勧めてきたのだからと思い口調を標準にする。


「悪くないと思うぜ。」


英夜は口調を標準にした美森を見て今のままで十分良いと彼に告げる。

美森は敬語で話す方が楽に感じたのか、少し恥ずかしくて照れた表情になる。

そしてしばらく3人は無言で山道を歩いた後、胡桃が椅子に出来そうな丸太を見つけてそこに駆け寄り座り込む。


「ちょっとこの辺で休もうよ。」


丸太に座った胡桃は背負っていたリュックのチャックを開けて水筒を取り出しながら2人に一休みしようと持ち掛ける。


「そうは言ってられないみたいだよ。」


しかし美森は山道の奥から何かが来るのを感じて、胡桃に警戒する様伝える。


「え?」


それを聞いた胡桃は美森が眺めているこれから行くであろう山道の方へ首を向ける。

霧で曇ってよく見えないが人影の様な物がこちらへ迫って来るのが見える。


「あれってもしかしなくてもそうだよね……」


胡桃はこちらへ迫って来る人物が十中八九敵である事を安易に読み取った。

そしてこちらに迫って来る人物を囲んでいた霧が晴れ、その人物達が何者かが把握できるようになった。

戦闘に立っている人物はボサボサ頭の黒髪に無精髭を生やした黄色いハイキングジャケットに青いジーンズ姿の男性だった。


「あいつだ!光龍瞬平は!」


その男を見た英夜はその男を指で差しながら彼が無差別殺人犯、光龍瞬平だと美森に告げる。


「あいつが……!」


光龍の姿を初めて見た美森は動揺した様子で身構える。

今まで無差別殺人犯といえばニュースや新聞でしか見たことがなかったので、生でその姿を拝む形となった事に美森は複雑な心境になってしまう。

芸能人を生で見かけるのが嬉しく感じるのなら犯罪者を生で見かけるのは恐怖や憎悪、憎しみといった負の感情がこみあげて来る。

オーラナイトと言えど退治するのは人間と違う生き物である悪魔だ、同じ人間でいて、しかも平気で人を殺せる光龍という存在を美森は激しく嫌悪した。


「よぉ、オーラナイトの皆さ~ん!」


光龍は狩りの獲物を見るかの様な表情で3人に挨拶をする。


「反吐が出る程の子悪党が来易く話しかけんじゃねー! こちとらテメーみてーなサイコ野郎を生かしとく程お人好しじゃねーんでな、とっとと地獄に墜ちてもらうぜ!」


自分より弱い高齢者ばかりを殺す光龍に対して怒りの感情を抱いているのは英夜も同じで、彼には早速敵意丸出しで変身器具の懐中時計を構える。


「うっせーよタコ! 俺の事見下してんじゃねーよ!!」


英夜の罰声に光龍は逆上した模様で、大声を張り上げながら自身の左腕に付けている金色の腕時計を英夜達に見せつける。


「!? その腕時計、まさか!」


光龍が自分達に見せつけた金色の腕時計を見た美森はそれが自分達オーラナイトが変身に使う懐中時計と雰囲気が似ている事を察してよからぬ想像をしてしまう。


「外装!」


光龍は腕時計を嵌めた左腕を天に上げながらそう叫ぶ。

すると光龍の頭上からビカ――――ッという大きな音と同時に突如として落雷が落ちて彼に直撃する。

そしてその落雷から放たれた光に美森、英夜、胡桃の3人は目をくらませる。

そして美森達が次に目を開けて光龍の方を見ると、彼は金色のプレートアーマーに身を包んでいた。


「お……オーラナイトだと!!」


英夜はオーラナイトに変身した光龍[以後、光龍変身態]に驚く。

凶悪な殺人犯である彼が人を悪魔から守るオーラナイトになるなどあってはならないと英夜は強く思った。


「ちょっと違うな、この鎧は高等な悪魔達がオーラナイトの鎧に似せて作った、差し詰めオーラナイトもどきといった所だろう。」


光龍装甲態は今自分が装着している鎧は悪魔がオーラナイトの鎧を参考にして作った代物だと美森達に言い放つ。


「そんな馬鹿な! 悪魔がオーラナイトもどきの鎧を作って凶悪犯をスカウトしたっていうの!?」


胡桃は悪魔が疑似的なオーラナイトの鎧を制作した事に驚愕する。


「と……兎に角今は変身して向かい打ちましょう!」


光龍変身態の姿を見て驚き硬直する英夜と胡桃に美森は我に返る様呼びかけ、そして英夜に共に変身して光龍変身態に立ち向かおうと言い放った。


「お……おう、そうだな!」


美森の言葉で理性を取り戻した英夜は急いで変身するため手に持っていた懐中時計を天にかざし、理性を取り戻してくれた英夜を見た美森も少し安心した表情で彼と同じように懐中時計を天にかざす。


「「外装!!」」


そして2人は変身の掛け声を叫び、それぞれ美森装甲態、英夜装甲態へと変身した。


「いずれにせよテメーみてーな悪党はこの場で始末してやる!!」


英夜装甲態はどの道凶悪犯である光龍がオーラナイトの真似事をする事が許せず、彼に怒りの言葉をぶつけて、薙刀を振りかざして立ち向かって行く。

対する光龍装甲態も鉈を具現化して英夜装甲態の薙刀に対抗する。


「悪党ね……別に否定はしねーよ、好きで悪党やってる訳だからな!」


光龍装甲態はそう言いながら自身の剣の刃を左手で撫でる。

すると刃から雷が発生し、その衝撃波で英夜装甲態を吹き飛ばす。


「ぐああああああ!!」


吹き飛ばされた英夜装甲態は指先を地面に引っかけながら持ちこたえる。


「僕も忘れて貰っちゃ困る!」


英夜装甲態を圧倒して油断していた光龍装甲態に、いつの間にか彼の背後に回っていた美森装甲態が大きく剣を振りか上げながらそう叫ぶ。

光龍装甲態は慌てて美森装甲態の方へ振り向き、鉈で剣の攻撃をガードする。

しかし光龍装甲態のガードは追いつかなかったため、剣と鉈がぶつかって起きた衝撃波で彼はダメージを受ける。


「くっ……舐めるな!!」


光龍装甲態は美森装甲態にそう言い放ち、雷を纏った左手の拳で彼の腹部にパンチを入れる。


「俺もまだ負けてねぇぞ!!」


先程雷攻撃で吹き飛ばされた英夜装甲態も負けじと応戦しようとする。

しかしその時右横から突然噴き出してきた炎に英夜装甲態は直撃してしまう。


「ぐおっ! 今度は何だ!?」


英夜装甲態は慌てて炎が噴き出した方向を見る。

するとそこには人間程のサイズのゾウムシの様な悪魔が存在していた。


「畜生、ご丁寧に下級悪魔まで連れてきてたのか!」

「これで丁度2対2だ、フェアな戦いをしようぜ!」


毒づく英夜装甲態に美森装甲態と戦闘中の光龍装甲態は皮肉を言う様に2対2のフェアな戦いをしようと言い放つ。


「いいや、2対3よ!!」


そこにショットガンを持った胡桃が英夜装甲態の加勢に入り、光龍装甲態を睨みながらそう言い放つ。

そして胡桃はゾウムシの悪魔に拳銃を発砲して攻撃する。


「お前じゃ無理だ! 下がってろ!!」


英夜装甲態は生身の状態である胡桃では敵の攻撃を受けたら無事では済まないと思い、彼女に戦列から引くよう命令する。


「あまく見ないでよね! こう見えてもあんたの知らないところであんた以上に鍛えてるんだから!!」


英夜装甲態にこの場から引くよう言われた胡桃は彼に自分だって戦闘の鍛錬はしているのだと伝えた。

そして胡桃はゾウムシの悪魔にショットガンを次々と発砲していく。


「ギュオオオオオオォォォッ!!」


ショットガンの雨を食らったゾウムシの悪魔は負けじと火炎放射で反撃する。

それを胡桃は紙一重でかわしながら弾を再装填し、再びゾウムシの悪魔に追撃する。


「何ボサッとしてんのさ、あんたも戦う!」


自分が戦ってる姿を呆然と見ていた英夜装甲態に胡桃は見てないで一緒に戦えと注意する。


「す……すまん。」


英夜装甲態は慌てて戦闘態勢に戻る。


「ほう、あの女も変身できねぇ癖にやるじゃないか!」


美森装甲態と戦闘をしながら胡桃が戦う姿を観察していた光龍装甲態は皮肉めいた口調で彼女の事を持ち上げる。


「お前はさっき『俺の事を見下すな!』とか言ったな! そう言うお前本人が周りを見下してんじゃないのか?」


美森装甲態は今胡桃を下手に見た様な発言をした光龍装甲態に対し、先程英夜に自分を見下すなと反論した彼本人が周りの人間を見下してると推察して彼にそう言い放つ。


「ああそうですかい!!」


図星を言われて逆上したのか、光龍装甲態は声を荒げて鉈をがむしゃらに振り回す。

美森装甲態は振り回される鉈を冷静に見切って剣でガードしていく。


「テメェ、俺を動揺させて隙を作ろうとか考えてねぇか?」


少し時間がたって頭が冷静になったのか、光龍装甲態は美森装甲態が自分を挑発させて隙を作ろうとしているのではないかと考える。


「さあな!」


美森装甲態は光龍装甲態の問いにイエスかノーかはっきり答えるのが面倒に思ったのかアバウトな返答をする。


「だが俺を見縊って貰っちゃこまるぜ! この鎧の面白い所を見せてやる。」


光龍装甲態はバックステップをした後、美森装甲態にそう言って左手で剣の刃を擦って摩擦で雷を作り、そして雷を帯びた剣を天にかざして振り回した。


「何!?」


美森装甲態は分身した光龍装甲態を見て驚愕する。


「フン。」


光龍装甲態は軽く笑った後、分身達と一斉に美森装甲態に襲い掛かる。


「言っておくがこの分身達は全部質量を持っている、どれか1人本物を見つけて倒そうなんてありがちな考えはしない事だな!!」


光龍装甲態は美森装甲態が本物を倒せば他の分身も消えるという安易な考えをしているだろうと思い込み、彼に分身にも質量があって結果1体1体をコツコツと倒すしかないと告げた。


「あっちも大変そうだな!」


光龍装甲態の分身達に手こずっている美森装甲態を見た英夜装甲態は急いで彼の加勢に行こうとする。


「ちょっと、私一人にする気!?」


胡桃はショットガンを悪魔に発砲しながら英夜装甲態を制止する。


「いやだってお前だって鍛えてるんだろ!? それに6体1の水前寺の方が大変そうだし!」


「水前寺君だってそれで怖気づく程軟じゃないでしょ! それにこっちの悪魔を倒すことがあんたの本業でしょうが!!」


胡桃は英夜装甲態の理屈を勢い任せの感情論で薙ぎ払う。

そんな胡桃に英夜装甲態は女性らしい感情論の考えに呆れて頭を抱えてしまう。


「えーい、面倒くせぇ!!」


英夜装甲態は美森装甲態に加勢に行くか、引き続き胡桃と共にゾウムシの悪魔と戦うか、どちらが正しいか分からなくなりパニックになる。

一方の美森装甲態は光龍装甲態の分身に囲まれ、本物と思われる個体に首を絞められていた。


「どうかな、俺の実力?」


首を絞めている光龍装甲態は人を嘲笑うかの様な口調で美森装甲態に自分の実力を伺った。


「そうだな、50点って所かな!!」


美森装甲態は自分の首を絞めている光龍装甲態の腕を鷲掴みにして解こうとしながら彼に彼自身の実力は半分程度の点数だと言い放った。

そして美森装甲態は光龍装甲態の右腕を掴んでいた自身の右手を放し、そして右手を自身の胸に当てる。

すると美森装甲態の身体が液体化し、光龍装甲態の拘束から脱出する。


「何だと!?」


自身の身体を液状化した美森装甲態を見た光龍装甲態が驚く。

そして液状化した美森装甲態は素早い動きでゾウムシの悪魔の背に飛び乗り、再び実態を保ち、暴れるゾウムシの悪魔を力づくで光龍装甲態の分身達の方へ向けさせ頭を殴る。

するとゾウムシの悪魔が悲痛の叫びをあげて炎を吐き出す。

吐き出された炎は光龍装甲態達を焼き尽くす。


「う……ぐううう!」


光龍装甲態は鎧を覆っているため火傷はしないものの、火にあぶられた鎧から発生する熱で苦しむ。

そして中身を持たない光龍装甲態の分身達は熱で溶けて消滅した。


「ね、美森君は1人でどうにか出来るって言ったでしょ。」


胡桃は先程自分の言った事が現実のものとなったのを見て得意気な表情で英夜装甲態に言い放つ。


「ああ、そうですか……」


英夜装甲態は先程までパニックになっていた自分がバカバカしく感じて唖然とした口調で返答する。

1人となった光龍装甲態はその場にうずくまる。


「こいつも食らえ!!」


そして美森装甲態はゾウムシの悪魔から降りてそれを剣で突き刺し、光龍装甲態の方へ投げ捨てる。


「ぐあ!!」


ゾウムシの悪魔を投げつけられた光龍装甲態はそれの下敷きとなって倒れ込む。


「いくら凄い技を持っていたとしても肝心のお前自身は運動不足だった様だな! 所詮お前は小物だ!!」


美森装甲態は無差別殺人を犯した光龍装甲態は普段家に引きこもって生活していたであろう事を読み取り、彼を恫喝する。


「その言葉、忘れないぜ! 今日はこの位にしておこうかな。」


光龍装甲態は少し硬直した後立ち上がり、美森装甲態達に捨て台詞を吐いて煙球を投げてゾウムシの悪魔共々退却する。

それを見た3人はてっきり光龍装甲態が逆上してがむしゃらに自分達に突っ込んでくると思ったので、意外と冷静な対処をした光龍装甲態に驚く。


「凶悪犯の考えてる事って解らないなぁ……」


素直にその場から退散した光龍装甲態に対し、変身を解いた美森は怒りと迷いが合わさった複雑な表情でそう呟いた。


「俺は解りたくもねぇな。」


同じく変身を解いた英夜は人殺しの気持ちなど解りたくないと言い張った。


「私も同感。」


胡桃も英夜の意見に同感した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ