28話 英夜と幽霊少女12/リメインとの対面
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穴に入って地面へと着地した英夜と穂波は辺りのダンジョンを見渡す。
雪木の予想通り、そこは灰色の壁の狭い通路となっており、明かりもなく奥行きも見えない空間だった。
「夏鈴もよくこういうゲームをやっていたなぁ……」
穂波は自分達のいるダンジョンを見て、以前夏鈴の家で一緒にホラーゲームをした思い出を懐かしんだ。
「俺はアウトドア派だからテレビゲームには疎いが、目の前の敵を倒すというのは普段の仕事と変わりねーから大した問題じゃねぇ。」
英夜はゲームこそ滅多にしないものの、こういうダンジョンは先のリコの依頼で行ったニュームーンで経験済みだったため腕が鳴るという気持ちだった。
「リリカちゃ……いやリリカさんの屋敷でも使った懐中電灯は今回も持って来たわ、あの悪魔がゲームセンターで何かをするって事はこういう事なんじゃないかと予想してね。」
穂波は昨日使った懐中電灯が今日も必要になるのではとなんとなく感じていたらしく、再びそれを取り出して明かりをつけた。
「お前までリリカにはさん付けで俺の事は呼び捨てなのか……」
英夜は懐中電灯の事よりも穂波も雪木同様リリカの事をちゃん付けからさん付けに改めて自分を呼び捨てにしている事に不満を抱いた。
「そんな細かい事どうでもいいじゃない、行くわよ。」
穂波は英夜の不満を聞き流して探索を始めると指示した。
英夜は苦い顔をしながら先に歩き出した穂波について行く。
2人は数分程歩いてはみたものの、敵が襲って来る様子は未だになかった。
「こう歩いてばかりだと暇ね。」
穂波は敵は出惜しみしているのかと思ってそれとなく英夜に話しかける。
「ああ、だけど歩いてる途中から視線を感じる様になった、いよいよ出るかもしれねーぞ。」
英夜はそれでも先程から誰かに見られている様な感覚に襲われてるらしく、警戒心を怠らなかった。
「そうなの、まぁリリカさん以外の敵ならこの手で容赦無く爆破してやるわ。」
英夜の忠告を聞いたリリカは自分も再度警戒心を滾らせ、左手にオーラを込めてやる気を示した。
「行ってる傍から現れたぞ。」
すると英夜は穂波の背後に何かがいる事に気づき、彼女の後ろを指さした。
「え? うえっ!!」
穂波は背後を振り返ってみたが、そこにはチアディーティングで使うボンボンを両手に持った、サクランボの絵がプリントされた緑のYシャツに青いジーンズ姿の30代位の男性の幽霊がいた。
穂波はその奇怪な姿の幽霊に思わず驚きの声を上げる。
「フレー! フレー! オーラナイト!」
男性の幽霊は応援をするチアガールの様に英夜達を悪ふざけで応援した。
「何応援してんだ、キメェんだよ!!」
英夜は悪ふざけをしている男性の幽霊を不快に思い、オーラの込めた右手で殴り飛ばした。
「ぶひょ!!」
男性の幽霊は甲高い奇声を上げながら地面に転がる。
「昨日変身している時にリリカに触れた、つまりオーラを身体に発現させていれば幽霊にも触れられる訳だ。」
英夜は昨日のラパンとの戦いで装甲態になっている時に彼女に触る事が出来たのを覚えており、オーラを纏った状態なら幽霊に触れられると考えていたのだった。
自分の予想が的中して英夜は笑みを浮かべる。
「もー、痛いじゃないかー!」
男性の幽霊は殴られた左の頬を抑えながら起き上がる。
「あんた、私達とやる気?」
穂波はオーラの込められた左手を男性の幽霊に近づけながら戦う意思を問いかける。
「あっ……いやぁ、私はただのしがない元死刑囚でして……えへへ。」
男性の幽霊は両手を前に出して後退りをしながら戦う意思が無い事を示す。
「つまり悪者じゃねーか。」
英夜は右手をボキボキと鳴らしながら男性の幽霊を懲らしめる意志を示す。
「あはは……旦那、お願いしまーす!」
男性の幽霊は焦った表情で背後の道に叫び、誰かを呼び掛ける。
すると暗闇の中から足音が聞こえて来た。
「また誰か来るのか?」
英夜は足音のする方向に顔を向けながら今度こそちゃんとした敵が来るのかと思い込む。
足音のペースはどんどん早くなって行き、そして黒い影が暗闇から姿を現して猛スピードで英夜達に突進して来た。
英夜と穂波は間一髪でその突進を避ける。
しかし英夜は左の頬に、穂波は右の二の腕に切り傷を負ってしまった。
「あれま、避けられちゃったよ、うけるー!」
右足で踏ん張ってその場に立ち止った黒い影は両手にククリナイフを持ったアークだった。
「お前はレストランにいた頭のおかしい奴。」
英夜は突然現れたアークがレストランの入り口で突然笑い出した奇怪な人物であった事を思い出す。
「ちょっ! 俺の事覚えていたとか超うけるー! ギャハハハハ!」
アークは英夜に顔を覚えられていた事を愉快に感じて大爆笑する。
「なんかまた変な奴が来たけど、ヤバそうね……」
穂波は不自然な所で笑い出すアークにドン引きするが、それでも先程の攻撃は避けるタイミングが遅れていたら右腕を引き裂かれていたかもしれないと思って彼に脅威を感じる。
「さてと……今度は外さないぜ。」
アークはそう言って再び2人に迫って来た。
英夜と穂波はオーラを全身に集めてククリナイフの攻撃をガードする。
しかしアークもそれで引き下がらず、宙返りをしながら穂波に飛び蹴りを喰らわした。
「キャッ!!」
穂波はダメージを受けてその場に転がり落ちる。
「いいぞ、いいぞ、旦那!」
その戦いを観戦していた男性の幽霊はボンボンを持っている両腕を交互に上げ下げしながらアークを応援する。
穂波はそれが不快に感じたのか、すぐに起き上がって男性の幽霊の腹部に手を当て、そしてオーラを送り込んで爆破させた。
「ギャーーーース!!」
男性の幽霊は黒焦げになってその場に倒れた。
穂波はポーチから野球ボールを取り出し、アークと交戦している英夜を見つめる。
英夜は装甲態に変身しようと懐中時計を取り出そうとするが、アークの次々と繰り出される素早いナイフ捌きに変身する余裕が与えられず、ただオーラで身体をガードするのが精一杯の状況だった。
穂波はタイミングを見計らって野球ボールを投げる。
アークはそれに気づき野球ボールを切り裂こうとするが、ククリナイフが当たった途端、ボールに込められた穂波のオーラが爆発した。
「がっ……! ぐおっ!?」
爆発で右手にダメージを受けるアークだったが、直後に英夜はオーラを右腕に一点集中させてアークの顔を殴り追撃した。
安全を確認した英夜はバックステップで穂波の目の前まで移動する。
「天城、多分あいつはゲームでいう所の追跡者よ!」
穂波は戦いの最中でふと感づいた事を英夜に伝える。
「追跡者?」
「ええ、ホラゲーじゃダンジョンの探索中に特定のイベントじゃないと倒せない追跡者が現れる事があるの、それまでは逃げたり隠れたりしながらやり過ごすのが基本。」
穂波は夏鈴の家でプレイしたゲームの内容を思い出しながら、英夜に追跡者の特徴を説明する。
「てゆー事はなんだ? この場は逃げた方がいいって事か?」
「そうなるわね、ホラゲーは敵と戦うメリットがあまり無いし、いかに敵の攻撃を回避してダンジョンをクリアするかが鍵になるから。」
英夜と穂波が一旦退避しようと会議をしている最中にアークが起き上がる。
「逃げるとかうけるんですけど……」
アークは不敵な笑みを浮かべて再びククリナイフを構えながら2人に迫って来る。
「天城、私の手を握って!」
穂波は動きの素早いアークに普通に逃げてもすぐに追いつかれると思い、突然何かを閃いた様に英夜に右手を差し伸べる。
「え?」
「いいから! そしてオーラを足元に集中させて!」
手を差し伸べられ訳も分からず困惑する英夜に穂波は大声で兎に角手を握れと要求した。
英夜は言われるまま穂波の手を握り、オーラを両足に送る。
「何をしようと俺からは逃げられないよ!」
アークは自分の素早さに自信を持ちながら2人に勢いよく迫って来る。
するとその時、穂波は左手をアークにかざして、オーラを爆発させる。
「ぐおっ!?」
バーナーの様に燃え広がる穂波のオーラを浴びたアークは足を止めて苦しみだす。
そして英夜と穂波は爆風の衝撃でレーシングカーの様に素早い速度でアークから遠ざかって行った。
「ぐぅ……左手から放たれる爆風をモーター代わりにして逃げ切るってか……いいじゃん、結構うけたよ!」
オーラの爆発を浴びたアークの前身の火傷は瞬時に再生して元通りになる。
そしてアークは電子タバコを取り出し、軽く一服する。
「ふぅー……この先も霊魂達が待ち構えてる事だし、あいつらがどう足掻くか見物だぜ。」
アークは口から電子タバコの霧をプカプカと吹かせながらゆっくりと歩き出した。
2
英夜と穂波がダンジョンに入ったのと同時刻、美森も雪木をお姫様抱っこしながら地面に着地し、別のダンジョンに入った。
「何かしらここ? ホテルの宴会場?」
美森から降りた雪木は辺りを見渡し、そこに多数のテーブルやステージがあった事からホテル内部のパーティー会場ではないかと推測する。
「その様ですね。」
美森も雪木の意見に同意する。
そして2人は辺りを警戒しながら歩き出した。
「霊気は……特に感じないわね。」
雪木は感覚を研ぎ澄ませてみるが、特に幽霊の気配が無かったためこの場所は安全だと美森に伝える。
「わかりました……あの……良かったら手、繋ぎませんか?」
美森は少し照れた表情になりながら、雪木に左手を差し伸べる。
「はいはい、逸れない様にするためでしょ。」
雪木はこんな時にももじもじしてる美森がじれったいなと感じながらも、美森から逸れてピンチにならないためだと思って彼の要求を飲み、手を繋いだ。
「ねぇ、高井さんともこういう風に手を繋いだ事ってあるの?」
雪木はふと、また高井とはどんな思い出があるかを美森に問いだす。
「はい、高井さんとデートをする時も僕の方から勇気を出して手を差し伸べました。」
美森は高井との初めてのデートを思い浮かべながらあの時と同じ様に自分から積極的なアプローチをした事を誇らしげに思った。
「いくらあんたでもそれ位の度胸はあるか、コクったのもあんたからだったみたいだし。」
雪木は美森も最初の頃突然自分にもデートを申し込んできた事を思い出し、彼にも時折大胆な事をする時があると感じて彼を頼りにするのも悪くないかなと思った。
そんな時、突然会場の証明が照らし出された。
2人は何事かと思って辺りを見ながら敵が攻めてこないか確認する。
「待ちかねた……です!」
そしてステージの方から大きな声が聞こえて2人はステージの方を注目する。
ステージの左端からマイクを片手に持ったリメインが現れた。
美森は突然現れた10歳前後の少女にキョトンとするが、一方の雪木はリメインからある気配を感じ取る。
「水前寺、微かだけど感じるわ、あの娘から悪魔の気配がする、それも半分だけ!」
「え!? てゆう事は半魔ですか!?」
雪木からリメインが半魔だと伝えられた美森は、雪木の前に立ってリメインから雪木を守ろうとする。
「リメインを捨てたウィンドミル家……絶対に許さない……です!」
リメインは手に持っていたマイクを捨てながらステージを降りて美森に近づき、宣戦布告する。
「何!?」
美森はリメインの口から何故ウィンドミル家の単語が出て来たのか理解できず困惑する。
リメインはそんな美森にお構いなしに彼に右手を差し伸べ、緑の瞳を赤く発光させた。
「!? ぐえっ!!」
美森は突然苦しみだして身体を蹲らせ、そして口から鋏を吐き出し、それにより吐血してしまった。
「水前寺!!」
雪木は突然の奇妙な出来事に驚き、美森の肩に触る。
「お前は確実に殺す……です!」
リメインは苦しむ美森に対して静かに何らかの怒りを滾らせた。




