27話 英夜と幽霊少女11
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ブルーアルバトロスホテル。
時計の時刻は11時37分を刻んでいた。
『宿泊客の皆様にお知らせします、ただいまホテル内にて傷害事件が発生しました、お客様におかれましては慌てず、係員の指示に従って速やかに非難をしてください。』
突然ホテル全体に館内放送が流れ、宿泊客たちは何事かと騒ぎ始める。
「キャ――――――――!!」
その時、1階のロビーにいた穂波が悲鳴を上げた。
悲鳴で穂波の方に注目した宿泊客達が目にしたのは蟷螂の悪魔に襲われている穂波の姿だった。
「いや、やめてーーーーー!! ギャー―――――!!」
穂波は蟷螂の悪魔に背を向け逃げようとするが、すぐに追いつかれ胸部を切り裂かれて倒れてしまう。
そしてロビーに次から次へと蟷螂の悪魔がうじゃうじゃと現れた。
「なんだこいつらーーーー!?」
「逃げろ―――――!!」
宿泊客達はパニックになって外へ逃げ出していく。
「おー、上手く行ってるじゃん。」
うつ伏せに倒れていた穂波は顔を起こして逃げていく宿泊達を見届けながら微笑み呟く。
他の階でも同様に蟷螂の悪魔達が宿泊客を脅かしていた。
「助けて、ぐあーーーーーー!!」
美森は廊下を走って逃げようとするが、大量の蟷螂の悪魔に飛びかかられてしまう。
美森の身体から血しぶきが飛び散り、そしてクチャクチャという獣が獲物を喰らう不気味な音が鳴り響く。
その一部始終を見ていた宿泊客達は恐怖し慌てて逃げだしていく。
「みんな無事に逃げてください。」
人がいなくなったのを確認した美森は起き上がり、宿泊客や従業員が無事に非難する事を祈った。
そして美森を取り囲んでいた蟷螂の悪魔達は蒸発する様に消え去る。
その頃のアークとリメインは自分達の部屋のドアから逃げ惑う宿泊客達を覗き見していた。
「ギャハハハ! いやこれホントうけるーーーー!!」
アークはこの光景を見て大爆笑していた。
「何がおかしいんですか……?」
リメインは引きつった表情でアークに尋ねる。
「だってさー、悪魔の幻影に人間達が逃げてるんだぜ、悪魔の幻で人間を脅かして非難させるとか超うけるーーーーーー!!」
アークはこの騒動のからくりを説明しながらリメインに返答し、爆笑するのを続ける
。
「はぁ……兎に角リメイン達もゲームの準備に取り掛かる……です。」
リメインはため息をついた後、いつまでも笑っているアークに注意する。
「はいはい、いよいよお前もあの青い服の奴とご対面かぁ。」
アークは笑うのをやめた後、20数分後には美森とリメインが対決するであろう事に期待の様の感情を抱いた。
しばらくした後、ホテル内から人気が消えたのを確認した美森達は2階のゲームセンターに集まった。
「ナイトエンジェルとかいう薔薇をすり潰して作った粉にオーラを送って悪魔の幻覚を作り出すとは恐れ入ったわ。」
穂波は両手を腰に当てながら雪木の計画通り従業員や宿泊客を上手く外へ追い出せた事に笑みを浮かべる。
「最もこういう事は私にしか出来ないけどね。」
雪木は複雑そうな表情で穂波に返答する。
ナイトエンジェルは天使と悪魔のオーラが混じった時、広範囲に及ぶ幻覚剤に変わる特殊な薔薇だった。
雪木は子供の頃にナイトエンジェルに自分のオーラと波長が合う事に気が付き、そして大人になった現在、ナイトエンジェルを使って大胆な事が出来ると経験したのだ。
天使と悪魔の血が混じっている自分だからこそ出来たこの計画に雪木は素直に喜んでいいのかどうか分からなくなっていたのだった。
「ホテルの入り口にはオーラでバリアを張ったし、後は12時になるのを待つだけです。」
美森は腕時計の針を確認して、現在が11時55分だったため戦いに入る心の準備をした。
英夜の方も表層的には緊張感は感じられず、ホッケー台に腰をもたれながら腕組みをしていた。
「なぁ、穂波。」
英夜はそれとなく穂波に話しかける。
「何かしら?」
穂波は戦いに乗り出す緊張感を押し隠した様な固い表情をしながら返事をする。
「お前のダチは目立つ事を避けてたって言ってたな?」
「ええ、それが?」
「対するお前は目立ちたがり屋で、それでなんで気が合ったんだ?」
英夜は正反対な性格である穂波と夏鈴が何故友達として付き合っていたのかが以前から気になっていたらしく、この機会に尋ねてみた様だった。
「うーん……夏鈴は敵を作ってトラブルに巻き込まれない様地味な人間でいる性格だったけど、やっぱり心の何処かでは寂しさを感じてたってゆーか……私に話しかけられた時は素直に嬉しかったらしいわ。」
穂波はこんな事を英夜に答える必要があるのかどうか少し考えた後、別に隠す必要もないかと思って夏鈴から聞いた事をありのまま伝えた。
「そうか……あいつも……リリカも明るく振る舞ってる様に見えて寂しがり屋な一面があった、対する俺は人からの注目を集めたがる性格だった。」
英夜は自分とリリカ、そして穂波と夏鈴が似た様な友達関係だったため親近感を抱く。
「それはなんとも、不思議な巡り合わせね。」
穂波は目立ちたがり屋で正反対の性格である友達に先立たれたという共通点を持つ英夜と出会った事がなんとも皮肉に思えた。
そして穂波は気を紛らわせる様に腕時計の時刻を見て12時になるのを待つ。
普段ならあっという間に過ぎるであろう5分間がこういう時には長く感じる。
そして4人が自分の腕時計に目を光らせる最中、ついに12時となった。
それと同時に辺り一面の壁に血痕の様なシミが浮かびあがっていき、真っ赤なおぞましい空間が完成した。
結界だった。
「何……これ……?」
結界を初めて見た穂波は緊張感を滾らせながら英夜に尋ねる。
「知性のある悪魔が創り出す結界だ、俺達は異空間に閉じ込められたって訳さ。」
英夜は拳を鳴らして敵が攻めて来るのに備えながら穂波に結界の説明をした。
『ようこそ、我がゲームへ。』
すると何処からかマーシュの声が聞こえてきた。
美森達は辺りを見渡しマーシュを探すが、何処にも気配がなかった。
「テレパシーで遠くから私達に話しかけてるのね。」
雪木はマーシュがテレパシーを使っているのだとすぐに予測した。
『貴方達とは昨日屋敷で会いましたね、まさか私の計画を探り出してホテルの人間達を退避させるとは恐れ入りました。』
マーシュは従業員や宿泊客達をホテルから追い出した美森達に皮肉交じりの褒め言葉を送る。
「んな御託はどーでもいいんだよ、とっととリリカを返しやがれ!」
英夜はリリカの奪還、ただそれだけを目的にマーシュに怒りの言葉をぶつける。
『威勢がいいですねしかしこれを聞いても同じ事が言えるでしょうか?』
「なんだ!?」
英夜はマーシュがどんな脅しをしようが受けて立つという姿勢で返事をする。
『貴方達は無関係な人間を全て非難させたと思いでしょうが、実はそうではありません。』
マーシュの衝撃の告白に美森達は凍り付いた表情になった。
『これから私がやるゲームの名前は人質奪還ゲームです、予め事前に捕らえていた人間をホテル内の何処かに隠しており、それを見つけ出したら全員逃がしてやるという内容のゲームなんですよ、勿論人間がもしゲームへの参加を拒否すればその場で全員まとめて殺すと脅して強制参加させるつもりでした。』
マーシュは話を続け、自分が計画していたゲームを美森達に打ち明けた。
「ざけんじゃねぇぞテメェ! テメェはどうせ非力な人間が恐怖し絶望する姿を観察して楽しみてーだけだろうが!! どうせだれも生還させるつもりなんてねーんだろ!?」
英夜はマーシュはゲームでただ人間が恐怖に呑まれて死んでいく姿を見て楽しみたいだけという陰湿な思考を推察して図星だろと言い放った。
『なんとでも言いなさい、人質がこの場で殺されてもいいのなら。』
マーシュも負けじと強気で余裕に満ちた言葉で英夜に反論する。
「くっ……」
英夜はマーシュの言った人質がただのブラフなのではと推測する、しかし真相はどちらかは分からず、もし本当に人質がいたのならその人達の命が危ないと思って言い負かされてしまった。
『おや、意外と素直なんですね、まぁいいでしょう、貴方達でも一応そこそこ私を楽しませてくれそうなので貴方達をプレイヤーに任命します。』
マーシュは美森達を人質奪還ゲームのプレイヤーに任命した直後、美森達の足元に二つの底の見えない真っ暗な穴が出現する。
『その穴の中に入ればゲームのダンジョンへ入った事になります、4人まとまって1つの穴に入るか2チームに別れてそれぞれ別々の穴に入るかは貴方達の自由です、それではご機嫌様。』
マーシュは穴にどう入るかは美森達の自由だと告げた後、テレパシーを切った。
「どうする?」
穂波は4人でダンジョンを攻略するか、それとも二手に分かれるべきか分からず困惑していた。
「……ここは二手に別れましょう。」
そんな時、別れて探索しようと提案したのは雪木だった。
「その理由は?」
英夜が雪木に尋ねる。
「ここまでの流れを推理するに、あのマーシュとかいう奴はホラゲーをリアルでやってみたいんだと思う、多分リリカさんやその他の幽霊はゲームの敵キャラとして配置しているんだと思う。」
雪木はマーシュが人質奪還ゲームに集めた幽霊を使おうとしていた事や結界のおぞましい雰囲気から彼はホラーゲームを体感させようとしているのではと予測していた。
「リリカをそんな事に使う気なのか、だとしたらムカつく野郎だぜ、それでその事と二手に別れる事がどういう関係があるんだ?」
英夜はリリカをゲームの小道具に使おうとしているマーシュに改めて怒りを覚えた後、肝心の二手に別れる理由を再度雪木に尋ねる。
「この手のゲームってダンジョンが狭くて薄暗いのよ、4人集まってると戦いづらいと思うの。」
雪木は穴の先に続くダンジョンはおそらくテレビゲームと同じ様に狭く複雑な迷路になっているんじゃないかと予測して、万が一敵と遭遇したら少数の方が戦いやすいんじゃないかと思っていた。
「お前ってホラゲーやるタチなのか?」
「ゲーム位やるわよ。」
英夜は雪木がテレビゲームをやるのは普段のフリフリな服装からは想像できなかった様だが、雪木は頑固自分だってゲームはやると宣言した。
「ふーん、まぁいいか、確かに通路が狭くて4人でまとまってたら薙刀も振るいづれーしお前の意見には賛成だぜ。」
英夜は自分がリーチの長い武器を使う関係上、暗い空間で戦うと下手したら味方を攻撃してしまうと考え、雪木の意見に同意した。
「それはどうも、チーム分けは……するまでもないか。」
雪木は早速チーム分けをしようとするが、美森に自分を守ってもらう約束もあってかその必要は無いと考えた。
「私と天城でペアを組むのね、まぁ仕方ないか。」
穂波は美森と雪木は一緒にいるつもりだなと読み取り、英夜とペアを組む事に我慢している様な態度を取った。
「お前なぁ……」
英夜はそんな穂波の態度を見て顔を引きつらせる。
「はいこれ。」
雪木はそんな2人のやり取りを気にする事無く、緑と白のカプセル状の薬が無数に入った瓶を英夜に渡した。
「何この薬?」
瓶を受け取った英夜は薬の正体を雪木に尋ねる。
「回復剤よ、これも花屋さんで買った花を調合して作ったのよ。」
「成程、怪我をしたらこいつで回復出来るって訳か。」
薬の使い道を雪木から聞かされた英夜は彼女が回復薬だった事を思い出し有り難い気持ちで瓶をコートに閉まった。
「それじゃあみんな、穴に入ろう。」
美森は出発前の会話が終了したのを確認して皆に号令をかけた。
そして美森と雪木、英夜と穂波はそれぞれ別々の穴へと入って行った。




