26話 英夜と幽霊少女10/フォグと謎の魔女
1
翌朝のグリーンパール1階のレストランの入り口。
美森達3人はその通路で穂波が来るのを待っていた。
美森が腕時計を確認すると、時間は10時40分になっていた。
「あいつ、まだかなぁ……」
英夜は頭を掻きながら穂波が来るのを待つ。
「まだ5分しか経ってないよ、気が短いよ。」
美森は入口の通路に集まって5分程しか経過してないのに愚痴を溢す英夜に忍耐力が足りないと指摘する。
「女っていうのは支度に時間が掛かるからなぁ、待ってるだけで不安になるんだよ。」
英夜は女性が男性より出かける前の支度が長い事もあってか、穂波を待っているともしかしたら数十分は待たされるかもしれないと心配になっていたのだった。
「これだから男は、女っていうのは周りの目を神経質な程チェックして自分がだらしないと思われない様にするのよ。」
雪木はそんな英夜に不機嫌な表情をしながら注意を入れる。
「そうですか。」
英夜は雪木が面倒くさい奴だなと思いながら返答する。
「うけるー!」
そんな時、目の前で大きな声が聞こえ、美森達は思わず声の聞こえたレストランの入り口付近を振り向く。
そこにいたのは腹を抱えて笑っているアークとそんな彼の手を引っ張ってレストランの中に入って行くリメインの姿があった。
「今目立ってました……貴方。」
リメインはアークを睨み付けながら美森達に注目された事に小声で抗議を入れる。
「だってあのフリフリな服の女普通に素通りしても気が付かねーんだもん、流石オデイシアスの作った悪魔の気配を消す香水は効くな。」
アークはポケットからオデイシアスが調合したであろう紫色の香水を取り出し、その香水を降りかけた事で雪木が自分達が悪魔である事に気が付かず笑っていた。
「それはいいから早く席に座る……です、それと決してあいつらの方を見ない事……です。」
リメインはアークを引っ張り、気配を絶っただから美森達に警戒される事を防ぐ様注意する。
「わりぃわりぃ、それにしてもあの女、天使と悪魔の血が混じってるとはね、それもうけたよ。」
アークはリメインに軽く謝りながら、雪木から半天半魔の気配が感じた事を滑稽に思った。
一方の美森達はレストランに入って行ったアークを奇怪に思いながらも取りあえず忘れようと思っていた。
「あ! 長良さんが来た。」
そんな時、美森は穂波がこちらに向かって来る事に気づき、2人に知らせる。
「おまたせ、待った?」
美森達の目の前まで来た穂波は彼等に待ちくたびれてないかどうか尋ねる。
「いや、丁度いいぜ、それじゃぁちと早いが昼飯にしようぜ。」
英夜は長い時間待たされなくて安心した様子で、全員集合したのでレストラン内へ3人を先導した。
中に入った美森達は席に座り、まず注文したローズティーを啜る。
「あら、結構美味しいじゃない。」
ローズティーを飲んだ雪木はその味を高く評価した。
「結構紅茶には気合を入れてるのよこのレストラン、後はそうねぇ……鶏肉の料理とかも好評よ。」
穂波は得意気にこのレストランのおすすめメニューを雪木に教える。
「ローズティーかぁ……」
一方の英夜はローズティーを見つめて思いつめた表情になっていた。
「どうかしたの?」
穂波は英夜の呟いた言葉にはんのうしてそれとなく彼に話しかける。
「リリカはお袋からこんな事を教えられていた、人間は花から恩恵を頂いて生きているとな。」
「そんな事があったの。」
英夜は子供の頃リリカから聞いた言葉を話し、穂波はそれに関心を示す。
「小さい頃は俺もリリカもなんのこっちゃと思っていたが、今ならなんとなく分かる気がする。」
英夜は紅茶をまた一口啜りながらあの時聞いた言葉の意味が今なら理解できると宣言する。
「確かに、花って積んでしまったら可哀想って思うけど私達ってこういう紅茶だとか香水だとか何かしら花を利用して生きてるもんね。」
穂波は英夜がリリカから聞かされた言葉が切ないけれど何処かロマンチックだと感じた。
「あんたの口から花の話題が出るなんて驚きよ。」
雪木はガサツそうな英夜から自分の好きな花の話題が出た事に意外性を感じていた。
「これでもリリカと一緒に花園で遊んだ身だからな。」
英夜は雪木にニヤリと笑いながら自慢気に語る。
「昨日ホテルに行く前に見たあの花園ね、綺麗だったわ、リリカちゃんにはお似合いだけどあんたにはそうでもないか。」
雪木は昨日屋敷を出て英夜に連れられた花園を思い出し、そこでリリカが舞っていたのかと想像して微笑み、そして英夜に皮肉を浴びせる。
「なんとでも言え。」
雪木から皮肉を言われた英夜は開き直る様に彼女に言い捨てる。
「あ、でもリリカちゃんって言うのもおかしいか、年上だものね……リリカさん。」
すると雪木は生年的に年上であるリリカをちゃん付けで呼ぶのは少し抵抗がある事に気づき、さん付けに改める。
「俺の事は呼び捨ての癖によく言うぜ。」
英夜はリリカと同い年である自分の事は天城と呼び捨てにする癖に女性が相手だとさん付けで呼ぶ雪木の虫の良さにやれやれと感じた。
「所で12時に悪魔が来るけどその時他の宿泊客とかどうするの?」
穂波はふと12時にマーシュと戦う際、他の従業員や宿泊客の安全はどうするのか気になり雪木に尋ねる。
「それはね……」
雪木は他の客の耳に入らぬ様、穂波に耳打ちで無関係の人達を退避させる方法を語る。
「何それすんごい大胆。」
それを聞いた穂波は少し引きつった表情で驚く。
「悪魔退治をするなら多少無茶な事も覚悟しておかなくちゃいけないのよ。」
雪木はそんな穂波に人を悪魔から守るためなら大胆な方法も取るべきなのだと指摘する。
「でもそんな事出来るの?」
「出来るわ、これを使えばね。」
穂波は雪木の計画が上手く行くかどうか半信半疑であったが、そんな彼女に雪木はある一輪の白い薔薇を見せつける。
「白い薔薇?」
「月の光を浴びて夜に咲く特別な薔薇、ナイトエンジェルよ、ホテルに来る途中で見かけた花屋さんで買っておいたの。」
首をかしげる穂波に雪木は薔薇の名前と入手経路を説明する。
「それが何の役に立つの?」
「これに私のオーラを注げばね……」
雪木は再び穂波に耳打ちをして、薔薇の使い道を説明する。
「成程、あんたってそういう特技もあったんだ。」
薔薇の使い道を聞いた穂波はつくづく雪木は戦闘以外の事に関しては起用なのだなと感じた。
そんな美森達のやり取りを遠く離れた席でアークとリメインがケーキを食べながら盗み聞きしていた。
「あいつらどんな方法を使うのか分からないけど、どうやらこのホテルから人間を追い出すつもりだよ、うけるー……」
アークは小声でリメインに囁きながら、美森達のやろうとしている事を面白く感じる。
「そんな事はどうでもいい……です、リメインはただあの青い服の人を殺せればそれでいい……です。」
リメインは無関係な人間達の事は眼中に無く、ただ美森を殺す事のみを考えていた。
「マーシュがやるゲームもうけるけど、あいつらのやろうとしてる事もうけそうだから俺チョー楽しみ。」
深刻な表情のリメインとは対照的にアークは美森達がどうやって人間を追い出すかが楽しみで12時になるのが待ち遠しくて陽気な気分になっていた。
2
グリーンパール都内にあるホテル。
そのホテルの廊下をフォグが袋紙を右手に持ちながら歩いていた。
(406号室はここか……)
フォグは目的の部屋を見つけるとインターホンを鳴らした。
すると数秒後にドアが開き、藍色の長い髪に黒い質素なドレスにエプロン姿の15、6歳位の無表情な少女が出迎えて来た。
「調子はどうだ? アイシクル。」
フォグはアイシクルと呼んだ少女にまず一声かける。
「別に……いつも通り……中に入って。」
アイシクルはぽつぽつとした小声で喋りながらフォグを中に招き入れる。
部屋の中に入ったフォグはアイシクルに案内され、そしてソファーに腰を掛けた。
「貴方が来るなんて……意外。」
向かいのソファーに座ったアイシクルはフォグが自分に会いに来たのが意外に感じてる事を口に出す。
「オデイシアスは用事があってこれないから俺が代理で来た、これは差し入れだ。」
本当ならアイシクルに会いに来るのはオデイシアスの筈だったが、彼は光龍の特訓で忙しかったためフォグに代わりを頼んだのであった。
フォグはその事を伝えながら紙袋をアイシクルに渡す。
アイシクルが袋を開けて中身を取り出すと、そこにはハンバーガーが入っていた。
「何これ……」
アイシクルはハンバーガーを初めて見たらしく、キョトンとした表情でフォグに尋ねる。
「ハンバーガー、アメリカの食べ物だ。」
フォグはハンバーガーについてシンプルな説明をする。
「ふーん……美味しい。」
アイシクルはハンバーガーを一口食べ、率直な感想を述べた。
(こうして見るとただの暗い女だな……まぁそれでも250年前のイギリスで村一つ滅ぼしかけた魔女である事に違いはないが……)
フォグはハンバーガーをあどけない表情で食べてるアイシクルを見て、危険な存在だとオデイシアスから聞いていた割には無害そうな態度の少女だなと思った。
「所でフォグ……自分のお父さんを殴り殺した時……どんな気持ちだった?」
ハンバーガーをある程度食べ終えた後、ふと何かを想ったのかフォグに質問を問いかける。
「……それを知ってどうする?」
フォグは聞かれたくない事を聞かれたらしく、目を細めてアイシクルを睨み付けた。
「別に……私には……お父さんがいなかったから……お父さんを憎むってどんな気持ちなのか気になって……」
アイシクルは自分には父親と過ごした思い出がなかった故に父親の記憶が頭に焼き付いているフォグの心境に興味があった様だった。
「そんな事もう忘れた、あいつの事なんてもうどうも思っていない。」
フォグは父親に対する嫌悪感を押し隠す様に瞳を閉じてアイシクルに大雑把な答えを返す。
「それじゃあ……あの人の事は……神崎 恵さん。」
アイシクルは次に恵と言う人物についてフォグに尋ねる。
フォグはまた触れてほしくない人物について聞かれたのか、険しい表情を続ける。
「恵の……事だと……」
フォグがそう言いながらイメージしたのは茶髪の長い髪に白いYシャツに赤いネクタイ、その上に茶色のニットベストを着て紺色のスクールスカートを履いた女子高生位の少女だった。
その少女が神崎 恵なのだろう。
「恵さんの事……今でも愛してる?」
アイシクルは無機的な表情のまま、まるで嫌味を言う様にフォグに問いかける。
フォグは恵との思い出をフラッシュバックする。
ゲームセンターのUFOキャッチャーでフォグが熊のマスコットを取って恵に渡し、彼女がそれに喜ぶ。
しかし次の瞬間突然恵の頭を弾丸がぶち抜き、恵は笑ったまま即死して地面に倒れた。
フォグが弾丸が飛んできた方を振り返るとそこには自作のエアガンを乱射している通り魔の姿があった。
フォグは怒りで我を忘れた様に通り魔の顔を壁に叩きつけ、回し蹴りをして、倒れた通り魔の顔を足で思いっきり踏みつけた思い出だった。
「愛してるも何も、死んでしまった人間の事を想っても何かが変わる訳ではない、あいつとは……ただ成行きで付き合っていただけだ……もう終わった事だ。」
フォグは過去を必死に振り切る様に恵に対する未練を断ち切ってる姿勢をアイシクルに表す。
「あら……そう……そのドブを見る様な冷たい目で……貴方は日々何を思っているのかしら……」
アイシクルは過去への干渉を避けているフォグを嘲笑う様な言葉をかけた後、再びハンバーガーを口にする。
(流石魔女として人々から恐れられただけの事はある、ボーッとした顔をしといて他人の過去を掘り起こして楽しもうとする、お前のそういう所が、俺は嫌い。)
フォグは心の中でアイシクルの物静かな態度に隠れたおぞましい一面を感じ取り、彼女に嫌悪感を抱いた。




