24話 英夜と幽霊少女8/穂波と夏鈴
1
グリーンパール都内にある裏路地。
そこで白髪の青年が一人で佇んでいた。
青年の髪はショートカットで、背も160cm程の小柄で一見するとボーイッシュな少女の様に美しい顔立ちをしており凛々しくもどこか冷たい紫色の瞳をしていた。
服装は白のトレンチコートに青のジーンズ姿だった。
白髪の青年の所に茶髪で赤いパーカーに青いジーンズ姿のガラの悪そうな男が近づいて来る。
ガラの悪そうな男は白髪の青年の目の前まで近づくと、ポケットから1万円札を取り出しそれを渡した。
1万円札を受け取った白髪の青年は右手に持っていた小さな黒いカバンをガラの悪そうな男に渡す。
ガラの悪そうな男がカバンの中身を確認すると、そこにはビニール袋に詰められた白い粉があった。
麻薬だった。
中身を確認したガラの悪そうな男は嬉しそうにその場を去って行った。
白髪の青年も反対の路地から表へ出る。
そして表へ出て青年が最初に目にした光景は手を繋いで仲良く歩いている男児と母親だった。
青年はすぐに視線を親子から逸らして歩き出す。
青年はふと過去の事を思い出す。
子供の頃、ボロボロの服で公園のベンチに座り、楽しそうなやり取りをしている女児と母親を眺めてその光景が羨ましくなり涙を流した。
そして気が付くと、自分はその女児と母親をナイフで刺殺し、動揺した表情でその場から立ち去った、そんな思い出だった。
(通り魔なんてくだらない、馬鹿のする事だ……弱かった自分の過去が恥ずかしい。)
青年は心の中でそう呟き、過去を忘れろと自分に言い聞かせる。
そんな最中、青年は道端でオデイシアスと鉢合わせをした。
「ようフォグ~。」
オデイシアスはフォグと呼んだ青年にフレンドリーな態度で話しかける。
「オデイシアスか、何の用だ?」
フォグは冷たい態度でオデイシアスに返事をする。
「相変わらず釣れねーなぁ、最近はどうだい、麻薬の売り上げは?」
オデイシアスはフォグの態度にやれやれと思いながら麻薬は売れているかどうか尋ねる。
「最近は小遣いを制限されてる子供が多くてな、安くするので精一杯だ。」
「ふーん、大変だねぇ、でもお前は利益なんて二の次だろ?」
「ああ、俺はただ麻薬で人の幸せが壊れる様を見たいだけだ、売上なんて大して気にしない。」
フォグは麻薬を若者が買いやすい値段にするので大変だったが、それでも麻薬に手を染める人間達を見物したいがために売人を続けているという感じだった。
「所でお前はこんな所で何をしてるんだ。」
フォグは冷たい表情を維持しながらオデイシアスに町中で何をしているのか尋ねる。
「さっきまで光龍の特訓に付き合っててな、取りあえず今日はここまでにして解散した所なんだ、今はゆっくり寛ごうと思ってカフェに向かってる所だよ。」
オデイシアスは光龍の戦いの特訓に付き合った直後で、帰りに喫茶店に寄ろうとしていた所だった。
「あのアホの特訓か、お前も随分あいつに過保護だな。」
「ああいう奴程見所があるんだよ、同じ元人間の半魔としてお前はあいつの事どう思う?」
オデイシアスはフォグが光龍の事をどう評価しているのかが気になり尋ねる。
どうやらフォグもかつては人間で今は半魔となっている存在の様だった。
「正直あいつと一緒にされるのは御免だな、俺には何かあれば『俺の事見下してんじゃねーよ』とか耳障りな御託をほざく奴にしか見えんがな、もっと言うとああいう奴は自分の欠点を見つけて自分の不幸に酔い潰れたいだけなんだ。」
「どう思うかは個人の自由って奴よ。」
フォグは光龍の事を底辺に見ている様だったが、オデイシアスはあれはあれで見る価値はあると自分の意見を主張する。
「フン。」
フォグは軽く鼻で笑ってオデイシアスに呆れる。
「最も光龍は自分の人生に迷い行き詰ってるのに対してお前はいつも次に何をすべきかを考えるタイプだから相性が合わないのも当然か。」
しかしオデイシアスは無差別殺人を犯して人道を外れた後、何をしたらいいのか分からず迷っている光龍と物事を前向きに考えているフォグは気が合わなくて当然だとも考える。
「後ろ向きで歩くという行為は無駄なんだ、常に前を向き先へ進み続ける事が幸福に生きるコツなんだ、それはともかく、俺はこれから帰って今夜売る麻薬を作らなきゃならないんで失礼するぞ。」
フォグは自分の生き方を語った後、再び売り捌く麻薬を製造するためにその場から去って行った。
「う~ん、相変わらず凍てつく様に人を見下す目がイカすね~、あいつを今の状態にした悪の根源が親父さんっていうのもイカすわな。」
オデイシアスはフォグが去って行くのを確認した後、フォグが終始自分を見下す様な目をしていた事や彼が悪の道に入った原因が彼の父親にあるという事を面白く感じながら小声で呟く。
2
自宅に帰った穂波は自分の部屋へ入り一息つく。
部屋の中はシンプルで、右側にベッドと渋い小説や役者について書かれた実用書が並べられた本棚があり、左側にはデスクや小型のテレビにクローゼットがあった。
穂波はベッドに座り一息つく。
「ふぅ……同じ境遇の者同士として天城に死んだ友達と再会させようと思ったらこんな展開になるとは……」
穂波はリリカを失ったという英夜の心の闇を少しでも晴らそうと彼を凱巣島に呼んだ筈が、気が付けばホテルで悪魔退治をする予定になった今の状況を複雑に思う。
「……もしも、夏鈴も成仏出来ずに幽霊として彷徨ってたら嫌だなぁ……」
穂波はリリカの事は知らない。
だがリリカの幽霊を見た英夜の反応から生前から変わってしまったのだろうという事は想像がつき、もしも自分の親友も幽霊になって理性を失い彷徨っていたらと思うと切なくなる。
そして穂波は瞳を閉じ、静かに親友の夏鈴と過ごした日々を思い出す。
☆☆☆
3年前の夏、市内にあるプール欲場で紫色のビキニを着た穂波と白いビキニを着た黒髪の三つ編みの少女、夏鈴が遊んでいた。
「行くよ穂波ちゃん!」
夏鈴はそう言って手に持っていたビーチボールを穂波へと投げる。
穂波はレシーブして夏鈴に投げ返す。
夏鈴はそれを受け返そうとするが、体制を崩してその場にコケる。
「ちょっと、ワザとらしいよ。」
穂波は今の夏鈴の転び方が不自然だと思い、笑いながら彼女に指摘する。
「えへへ、ちょっとインパクトが欲しくて。」
夏鈴は水面から顔を出し照れた表情で穂波にそう返す。
「ありきたり過ぎてなんか地味よ。」
穂波は滑って転んだふりをしても大して笑いにならないと夏鈴に指摘する。
「う~、それを言われるとちょっと恥ずかしくて後悔するよ。」
夏鈴は自分は笑いを取るのが下手だなと感じ、普通にボールを投げ返しとけばよかったなと後悔する。
「でも折角プールに来たんだしビーチボールじゃ物足りないわね、ウォータースライダーとか行かない?」
「来たばかりだしまずはプールの方から楽しみたいなぁ~」
「何時行こうが同じじゃない?」
「ん~、言われてみればそうだね。」
夏鈴は穂波からウォータースライダーに行こうと提案され、そちらの方が楽しいかと思いついて行く事にした。
プールから上がり、ウォータースライダーへ登る階段まで行くと、そこは行列で混んでいた。
「こういう行列に並ばなきゃいけないからあまり行きたくなかったんだよね……」
夏鈴は行列に並ぶのが面倒に感じたためウォータースライダーに行くのに抵抗があったという胸の内を穂波に明かす。
「こんな行列あっという間よ、それに行列があるから自分の番が来た時楽しいと思うじゃない?」
穂波は行列が混んでるからといって避けず、たまには行列に並んで楽しい事をするのを待つのもいいんじゃないかと夏鈴に指摘する。
「うん、そうだね……私こういう公の場って滅多にいかないから忍耐力が薄いのかも……」
夏鈴は穂波の意見も一理あるなと感じてインドアでこういった経験が少ない自分を反省する。
「それじゃあ経験を積んでいこうよ、それに待ってる間時間つぶしに何か話でもしよう。」
穂波は夏鈴にもっと出かけて色々経験を積もうとアドバイスした後、並んでいる間雑談でもしようと持ち掛ける。
「それいいね、それじゃぁ……なんで穂波ちゃんは私と友達になろうと思ったの?」
「え?」
「穂波ちゃんは6月頃私のクラスに転校してきて、転校初日に速攻で私に話しかけたよね? 私って運動は苦手でいつも本を読んでる目立たない女で……私自身が目立つ事を避けてるのだけれどもどうしてそんな私に声をかけたのかなって思って。」
夏鈴は早速話の話題を思いつき、前々から思っていた何故穂波は自分と友達になろうと思ったのかという疑問を問いかける。
「……学校に居場所を作りたかった、だから出来るだけ早く友達を作りたかった。」
穂波は少し沈黙した後、夏鈴と交流を持ったきっかけを語り出す。
「そんな理由?」
夏鈴は首をかしげてキョトンとした表情になる。
「ねぇ、夏鈴が一番話しかけやすそうだったから真っ先に友達になろうとしたって言ったら、私の事軽蔑する?」
穂波は夏鈴を下手に見た様な動機で友達になろうとしたらしく、口にするのに抵抗を感じながらもそんな理由で寄って来た自分をどう思うか夏鈴に尋ねる。
「え……いや、友達になってくれたのは嬉しいよ、私人見知りしやすくて友達作れずにいたから。」
夏鈴は自分がチョロそうだと思われた事は特に気にしておらず、むしろ自分に話しかけてきた事を嬉しく感じていた。
「正直、家に居てもあまり楽しいと感じた事はないのよね、両親は勉強しろってうるさいし兄2人は仲が良いけど私は兄達の輪に入りづらくて疎外感を感じて……学校で友達を作って気を紛らわしたかったの、女同士で話し合う友達が。」
「気持ちは……なんとなく分かる気がする。」
穂波は自分が家に居ても楽しい会話が弾まず寂しい思いをしているという身の上を話し、夏鈴はそんな穂波が可哀想に感じて同情する。
「私の事より夏鈴、あんたさっき運動が苦手って言ったけどその反面勉強は得意じゃない?」
穂波は自分の事を話しても気分が暗くなるだけだと感じて、話題を夏鈴の事に切り替えた。
「そうかな?」
「それに一緒にいて最近思ったけどあんたって勉強以外の事には消極的、それって下手に目立つと敵が出来てトラブルに巻き込まれる可能性があるから極力目立たない様にしてるんじゃない?」
穂波は夏鈴の事を冷静に分析したらしく、夏鈴は普段から目立たない事を常に心がけている人間なのではないかという考えを口に出す。
「うーん、なんか当たってるかも……私集合写真でも目立たない位置に入る癖があるし。」
夏鈴は図星を突かれた様で苦笑いをした。
激しい喜びはいらないけど見下されていじめ等に合うのも願い下げだから普通で地味な人間として過ごしたいと考えてるのが夏鈴という人間だった。
「羨ましがられず馬鹿にもされない中間の位置をキープして平穏な日常を目指す、そんなあんたを尊敬してる、お世辞とかじゃなくて本気で。」
穂波はトラブルに合わずただ平凡で豊かな日常を過ごすのが一番だと思い、目立たない人間でいようとする夏鈴はある意味素晴らしいと感じていた。
「そう? ちょっと複雑な気持ちだけど……」
夏鈴は褒められたのは素直に嬉しいと感じるが、人に褒められるのも目立つ事だったので複雑な心境になってしまう。
「あ! もう私達の番がきたわよ!」
そんな時、穂波は自分達の前の列が空いた事に気づき、夏鈴に知らせる。
「本当だ、話をしてるとあっという間だね。」
夏鈴は確かに先程穂波が言った通り行列なんてあっという間だと感じ、経験を得てすっきりした気持ちになる。
2人は前の人が滑って行ったのを確認すると、自分達もスライダーの台に座り込む。
「なんだか友達と一緒にこういう事するの初めてだからそわそわするよ。」
夏鈴は友達と一緒にウォータースライダーを滑る、そんな事を初めてするので緊張のためか穂波に肌を密着させる。
「やだもう。」
穂波は照れ笑いしながら夏鈴の手を握るという言葉とは真逆な行動を取る。
そしてスライダーの右横に設置されている赤い信号が青になり、滑っても大丈夫というサインが表示される。
青信号を見た2人はアイコンタクトをした後身体を押して滑り出した。
2人は3回転程する通路を滑り降り、そして下のプールにザバーンという音を立てながら落ちて行った。
プールの水面から顔を出した2人は笑顔で見つめ合った。
☆☆☆
「過ぎ去った日々が愛しい……私は夏鈴と違って目立ちたがり屋だけど、それでも不思議と夏鈴の生き方も尊敬できた……」
穂波は夏鈴とプールに行った記憶をリプレイした後、独り言を呟きながら夏鈴はもうこの世にいないという今を悲しく思う。
夏鈴を失った事は傷になっているが、今は明日マーシュと対決する事だけを考えてネガティブな気持ちになるのは避けようと穂波は考えを改めた。




