20話 英夜と幽霊少女4/幽霊屋敷潜入
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屋敷の中の薄暗い空間の中、美森達は恐る恐る階段を上り始める。
辺りは物音一つせず静かで、それが逆に恐怖となって4人は冷や汗をかく。
階段を上り終えると、そこには1階からも見えた薄暗い廊下があり、その中から誰かに見つめられている感覚に4人は襲われた。
「雪木さん、さっきより気配は強いですか?」
美森は雪木が幽霊を感知してるかどうか尋ねる。
「ええ、あの廊下の奥から感じるわ、確実にいる。」
雪木は自分の身体が凍り付いてる様に鈍くなってるのを感じ、幽霊がこちらを見つめてるのは間違いないと美森に告げる。
それを聞いてた英夜は突然3歩程前に歩き、そして大きく口を開ける。
「おいリリカ! 俺だ、昔お前と一緒に遊んだ天城英夜だ! 帰って来たんだ!!」
英夜は廊下の奥にいるであろうリリカの幽霊に叫んだ。
その叫びは暗闇の空間にいる恐怖とリリカに対する愛憎が入り混じってる様に3人は感じた。
「天城君……」
美森は思わず英夜に悔やみの言葉をかけようとする。
「はぁ……俺らしくない事を言ってしまった……」
しかしその前に英夜が喋り出し、今の自分の叫びが虚しいという感情を吐き出す。
「あんたがそうする気持ちもわかるわ。」
穂波は死んだ友達の幽霊に会いに行くとなれば自分でも英夜の様に叫んでいたと彼に同情の言葉を送る。
「慰めは結構、俺はまだ正気だ。」
英夜は一呼吸した後、自分は平常心を保ってると穂波に強気な姿勢を取る。
穂波は英夜を素直じゃない奴だなぁと思いながら肩にかけているポーチから懐中電灯を取り出しライトをつける。
「これで少しはマシになるでしょ?」
穂波はライトで廊下が照らされ、奥に続く道が見えるのを確認しながら美森達に少しは安心できたかどうか尋ねる。
「用意が良いな。」
「暗い屋敷を探索するんだからこれ位当然でしょ? それとこれ。」
穂波は次にポーチからビデオカメラを取り出し、英夜に渡す。
「ビデオカメラか、心霊映像でも撮ろうってのか?」
ビデオカメラを渡された英夜はまるで自分達が肝試しで心霊スポットに遊びに来た感覚になり少し気が抜ける。
「目視でリリカちゃんの幽霊が見えなかった時はこの手がいいかなって思って。」
穂波は自分なりにリリカを見つける手段を考えたのだと英夜に主張する。
「確かにこれの方が効果的かもしれんな。」
英夜はビデオカメラで撮った方が幽霊が見やすいなんて考えはバラエティ番組の心霊ドキュメントを観た素人の思い込みではないかと思いつつ、リリカを見つけるためならいかなる手段も取ろうとする穂波に感謝の気持ちを抱く。
「……これから進むのは試練の道よ、過去に打ち勝つ試練の道。」
穂波は改めて英夜を勇気づけようと思ったのか、これからリリカの幽霊と接触しようとするのは過去を乗り越える試練なのだと言い放つ。
「ほう、お前にしては上手い事言うじゃねぇか。」
英夜は穂波が前向きに物事を考えろと言いたいのを読み取り、格好いい台詞吐きやがってとうっすらと微笑みを浮かべる。
「お互い過去を乗り越え強くなる必要があるでしょ、そちらの2人もそういう事情なの?」
穂波はお互いに過去に傷を負ってる身だからこそ試練という表現を使ったのだと英夜に言った後、美森と雪木にも同じような過去があるのかが気になり、2人に尋ねてみる。
「確かに僕らも似た様な事情だね。」
「とゆーか、誰だって生きていれば大なり小なり辛い過去位経験してるでしょ。」
美森も大切な人を失ってる身だと打ち明けた直後に雪木は人生で不幸にならない事なんかないと断言する。
「あんたは結構前向きなのね、まぁそういうのが一番ベストだけれども。」
穂波は雪木の発言を聞いて彼女が一番苦難に立ち向かおうとする覚悟がありそうだと感心した。
「それじゃあ、かくれんぼと洒落込もうか、見つけてやるぜリリカ。」
英夜はそろそろ屋敷の探索を再開しようと思い、ビデオカメラを回しながら薄暗い通路へと歩み出す。
美森達も英夜に続き息を飲み込みながら通路へ足を踏み入れる。
狭い通路の中はより一層不気味で、美森達を追い返そうとする様な風が静かに吹いていた。
その風が通路の奥で窓が開いているのか、幽霊の圧力による物なのかは分からず、美森達は自分達が今立ち寄ってはいけな場所にいるんだなと改めて自覚し鳥肌が立った。
その時、通路を歩いている途中で突然穂波の持っているライトの明かりが消えた。
美森達は突然の出来事に動揺して声を上げたくなる。
「来てしまった以上仕方がないわね、どうか試練に打ち勝って。」
すると何処からか女性の声が聞こえ、その直後にライトの明かりが再び灯った。
「今喋ったのどっちだ? 女の声だったが。」
英夜は声の主が女性だったため雪木と穂波のどちらが喋ったかを尋ねる。
「私じゃないわよ。」
「私でもない。」
雪木と穂波はお互いに喋ったのは自分じゃないと英夜に否定する。
「もしかして今の声がリリカちゃんって事は?」
美森は先程の声の主こそリリカなのではと推測する。
「それはねーな、あいつにしては台詞が大人染みている。」
英夜は先程の声は台詞からして7歳の少女であるリリカの物とは考えにくいと思い、声の主は別人だと推測した。
「ねぇ誰かいるの!? いるんだったら出てきて!」
穂波は通路をキョロキョロしながら自分たち以外に人がいるのかどうかを確認する。
しかし辺りはシーンと静まり返っており、一向に人が出て来る気配がなかった。
「反応なしみたいだな、だが今優先して見つけるのはリリカだ。」
英夜は声の主が姿を表さないのならそれでもいいと考え、3人にリリカの捜索を優先しようと呼びかける。
通路を抜けると、今度は左右に続く通路があり、壁にはドアが4つ確認できた。
「皮肉ね、この廊下は霊道になってるわ、霊の残留思念で頭が変になりそう。」
雪木はこの左右の通路が幽霊が通りやすい道だと感じ取り、頭がフラつきそうになる。
「雪木さん、大丈夫?」
美森は心配で雪木に声をかける。
「あんまり大丈夫じゃないか……!」
雪木は話している途中で何かを見つけた様に口を止める。
雪木が目にした物、それは英夜の背後で宙に浮かぶ人の脚だった。
ピンクの長いスカートに白いタイツ、そして黒い靴、雪木はその脚が少女の物だとすぐに分かった。
英夜は雪木が自分の方を見つめて凍り付いているのを見て反射的に後ろを振り向く。
しかし英夜が振り向いた直後に少女の脚は消えてしまった。
「リリカ! お前なのか!?」
英夜は辺りを撮影しながらリリカを呼び掛ける。
「見つけたのね、リリカちゃんの幽霊。」
穂波は恐怖と緊張感を押し殺す様な笑みで雪木に問いかける。
「多分そうだと思う、女の子の脚だったし……あっ背中!!」
雪木は今自分が見た脚はリリカの物である可能性が高いと断定した直後、再び何かを見つけて穂波を指さし叫ぶ。
「え? ひっ!!」
穂波は言われるまま自分の背中を見てみると、そこにはロングヘア―でフリフリの可愛らしいピンクのドレスを来た少女がしがみ付いていて、思わず悲鳴を上げる。
少女の肌は青白く、瞳も虚ろで生気がまるで感じられなかった。
「うふふ、お姉ちゃん達一緒に遊んでくれるの?」
少女は無邪気に笑いながら可愛らしい声で穂波に問いかける。
「リリカ!!」
英夜は少女を見てすぐにそれがリリカだと分かった。
英夜はリリカの容姿を忘れた事はなく、むしろ大人になり様々な物を知るにつれて逆に強く記憶に焼き付いていた。
英夜はリリカを穂波の背中から引き離そうとするが、幽霊故実体が無く、触れることが出来ない。
リリカは英夜の方を振り向き、好奇心に満ちた表情で彼に抱きつく。
「英夜、また会えて嬉しい! これからはずっと一緒にいようね!」
リリカは英夜に不気味な笑みを浮かべながらそう言い放ち、彼を強く抱きしめる。
「リリカ……」
リリカに抱きしめられた英夜は生気を吸い取られている様な感覚に襲われ意識が朦朧とする。
「天城! 身体のオーラを上げなさい!!」
雪木は慌てた口調で英夜にそう叫ぶ。
意識の遠のく英夜はなんとか雪木の言葉を聞き取り、指示通り身体にオーラを発現させる。
「キャッ!!」
リリカは英夜のオーラで弾き飛ばされ悲鳴を上げる。
「邪魔しないで!!」
リリカは不機嫌な表情になり覇気で美森達を威圧する。
美森達は突風から身を守る様に姿勢を低くする。
「15年も幽霊やってるだけあって威圧感も半端ないわね。」
穂波は皮肉めいた言葉を口に溢しながら緊張を解そうとする。
「うふふ、みんな私のお人形さんにして遊んであげる。」
リリカは再び微笑んだ表情になると、身体が青い炎で包まれる。
そして青い炎はどんどん大きくなって、炎が消え去るとそこには赤く鋭い目をした紫色の兎のぬいぐるみの様な怪物がいた。
「あれは……リリカが持っていたぬいぐるみに似ている……」
英夜は怪物に変身したリリカを見て、その姿がリリカの私物であるぬいぐるみにどことなく似てると感じた。
「多分そのぬいぐるみに姿を似せてるんでしょうね、取りあえずあの姿のリリカちゃんはラパンって呼びましょうか。」
穂波は怪物に変身したリリカでは呼びづらいと感じ、咄嗟にあの姿のリリカをフランス語で兎を意味するラパンと名付けることにした。
「おいおい、人の幼馴染に勝手にあだ名つけるな。」
英夜は余裕そうにリリカに仮の名前を付ける穂波に苦言を溢す。
「言い争いは後、来るよ!!」
美森は話し合っている英夜と穂波にラパンがこちらへ近づいていると注意する。
そしてラパンは両腕に爪を立て、美森達に飛びかかった。




