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2話 人との関わり

美森は雪木の案内で彼女の住むマイホームまでやって来た。

その家は全体的にオレンジ色で両サイドに三角屋根の2階建て建物があり、中央にそれらを繋ぐ出入り口の扉がある四角い1階建ての建物があった。


「1件家を二つ繋げた感じですね、お屋敷っぽいというか何というか。」


雪木の家を見た美森はありのままに思った感想を口にした。


「父さんが手配してくれた家なの、まあ私は建築には興味ないから家の造形なんてどうでもいいけど……」


雪木はさりげない受け答えをした後、右手を腰に当てて複雑な表情を浮かべる。


「どうかしたんですか?」


顔色の変わった雪木を見た美森は彼女の事が気になり話しかける。


「あんたってさぁ、化け物退治の専門家でもあるんだよね?」


雪木は美森を見つめながら彼にそう尋ねる。

雪木はオーラナイトや悪魔の存在をこの街の有力者の父から聞かされ一応は知っていたらしく、美森自身もその情報を元に雪木に送った履歴書に自分がオーラナイトである事も書いてあるので彼の本職を知っていたのだ。


「はい……そうです。」


美森は雪木からヒーローみたいな扱いをされて持ち上げられるのではと思い、顔を赤らめて恥ずかしそうな表情で返答する。


「元老院に申し込み、実技試験に合格する事でオーラナイトになれて変身道具である懐中時計を渡される、基本は元老院の依頼を受けたり自分で悪魔退治専門の事務所を開いて生計を立てるけど、最近では任務における命の危険度に反して得られる報酬が少なくやむを得ずバイトをしたりしなきゃいけないのがオーラナイト達の不満になっている、それとオーラに関しては発現した後はペンと紙を用意して瞑想する事で自分がオーラで何をするのが得意なのかを知る事も出来る、例えば炎を操るのが得意なら紙にそのまんま『炎を操る』と書かれたりね、極力紙に書かれた通りの事をやるのが良く、また例えば水を操るのが得意な人が炎の技を極めようとしても高火力は望めないとかも知ってる。」


雪木はその後、オーラナイトやオーラに関する事を長々と美森に語った。


「凄い、そこまで知っているなんて。」


美森はオーラについて結構詳しい雪木に驚愕した。


「父さんからは最近化け物絡みの事件で物騒になってるからボディーガードにもなれる使用人を雇った方がいいって薦められてあんたを採用したんだぁ……何か父さんも会社立ち上げた頃はあんたみたいな退治屋を雇っていたらしいし……」


雪木はオーラについて語った後、両手を後ろに組みながら自分の家庭の事情を話しだした。


「お父様もオーラナイトを雇っていましたよね……それで、お嬢様はその……オーラナイトはお嫌いですか?」


美森は雪木自身がオーラナイトをどう思っているのか気になり尋ねてみる。


「別に嫌いなわけじゃないよ、たださぁ……高校時代から父さんとはあまり会話をする機会が無くて、男と女だから物の考え方も違うっていうのも理由の一つで……勿論父さん自身も忙しい身ではあるのだけれども家にいても会話が弾まないから一人暮らしをしようと考えて今に至って……あー、父さんと同じようにオーラナイトをボディーガードに雇ってる自分が何か複雑なのよ。」


雪木は父と上手く関係を築けてないと言いたかったが、思う様に言葉が進まず複雑で解りづらい説明をしてしまい、それに後悔するかのように美森に話し終えた後ため息をついた。


「……お気持ちは解ります、僕も裕福な家庭に育った身なので。」


美森は雪木の親と上手くいってなくて一人暮らしを始めたという気持ちを大体理解して彼女に自分なりの同情の言葉を送る。


「……取りあえずシビアな話はこの辺にしといて中に入って。」


雪木は美森の励ましの言葉を素直に受け取ったのか、あるいは心がこもっている様に感じなくて美森にこんな話をした自分が馬鹿だったと後悔したのかは定かでないが、取りあえずは重い話を一旦置いといて美森を家に上がらせることにした。


「お邪魔します。」


美森は雪木からどう思われたか気になるものの、それを問い詰めたら嫌われそうな気がして彼女に続くように今の話題を保留にして一礼しながら家へ上がる。

中へ入ると、玄関の正面には物置部屋と書かれた扉があり、そして横一直線に繋がる廊下があった。

そして玄関の右側には靴入れとスリッパ立てが配置されていた。


「靴は端っ子に並べて、そこのスリッパは使ってもいいわよ。」


雪木は右側にある靴箱の隣にあるスリッパ立てを指さしながら、美森にそれに履き替える様指示する。


「はい、お嬢様。」


美森は雪木に言われた通りに自分の靴を端に並べて置き、スリッパ立ての一番上にあるスリッパを取ってそれに履き替える。


「お嬢様……う~ん、何かこっ恥ずかしいし普通に雪木さんでいいよ。」


雪木は20歳になって『お嬢様』と呼ばれるのが恥ずかしく感じ、美森に自分を上の名前で呼ぶ様要求する。


「あ、すいません……雪木さん。」


美森は軽く謝りながら雪木の呼び方を訂正する。

雪木は返事は返さなったものの微笑みを浮かべて右側のドアまで来る様手でサインを送る。

美森はまずは右側の家の家事をするのだろうと解釈して彼女について行く。

連れてこられた扉の先は、大画面のテレビにその下の棚に集められ映画やドラマのDVD、複数の植木鉢に植えられた様々な種類の薔薇、テレビを見るときに寛ぐであろうピンク色の毛布のついた炬燵があった。

さらに中へ進むとドアが死角になって見えなかった右サイドにバーでよく見られる様なカウンターがあり、奥の棚には見た事もない数々の洋酒が入った瓶が飾られていた。


(ウチの実家もたいがいお金持ちだけど一人暮らしするにしては贅沢だなぁ……でも部屋が綺麗に整理整頓されてるのは女性らしいかな。)


美森は雪木の家の豪華な雰囲気を見て自身も金持ちの家に生まれたとはいえ、その豪華さが一人暮らしをする上では贅沢過ぎると感じながら、部屋が物で散らかってる様子がなく、そこが女性らしいと感心する。


「それでまずあんたにやって欲しい仕事はあの流し台に溜まってる食器洗いね。」


雪木はそう言って美森をカウンターの方に連れて行き、酒が並べられてある棚の隣にある流し台に溜まっている食器を見せる。

そこには汚れの溜まった皿やフォークやワイングラスが山積みされていた。


「あの、これは……」


美森はその洗い物の量が一人暮らしの割には多すぎると思いこれ程洗い物が溜まった理由を伺った。


「この間友人達とパーッと盛り上がっちゃって……そんな訳でよろしく頼むよ。」


雪木は友人達とパーティをしてそれが原因で洗い物が多くある事を美森に軽く説明した後、両手を合わせてウィンクをしながら彼に食器洗いをお願いする。


「あはは……分かりました……」


それを聞いた美森は雪木がその容姿に相応しいいかにもマイペースでポジティブ思考なお嬢様だなと思い少し引きつった表情で彼女の指示に従った。

美森は早速コートの腕をまくり、流し台の横に置いてあるゴム手袋をはめ、スポンジを手に取り食器洗いに取りかかる。


「所でさぁ。」


雪木は何を思ったのか、食器にスポンジを擦りつけている美森に話しかける。


「はい、なんでしょう?」


美森は手を動かしながら彼女の質問に答える。


「あんたの家もたいがいお金持ちなんでしょ? それがなんで他所の家の使用人になろうと思った訳?」


雪木は美森の家も裕福な家庭である事を調べており何故自身も金持ちの家に生まれながら使用人の仕事をしようと思ったのか疑問に思い問いかける。


「……順を追って説明します、まず僕はオーラナイトの家系にうまれましたよね?」


美森は少し沈黙して考えた後、今の雪木の質問に高井の事まで話す必要はないと判断して彼女に順を追って自分が使用人になろうと思った動機を話し始める。


「ええ、そうね……それでもこんな給料も少ない質素な仕事を積極的に受け入れたあんたが変わり者だと感じたの。」

「……先祖代々化け物退治を専門とする家柄に生まれたからこそ、周囲から疎外感を感じて……普通の家に生まれた人達が羨ましくなって……今に至るのだと思います……」


美森は元々引っ込み思案な性格もあって言葉の所々に間を開けてしまうが、雪木に特別な家庭に生まれた自分に孤立感を感じたため庶民的な生活に憧れた事を伝えた。


「ふーん……なんか青臭くて痛々しいね。」


それを聞いた当の雪木はそんな美森がまるで『自分は悲劇のヒーローです』と格好つけている様に感じて彼を痛々しい人間だと思ってしまった。

雪木から辛辣な返答を受けた美森は自分の引っ込み思案で見栄張りな性格がマイナスなのだと改めて痛感して落ち込んで作業中の手を止めてしまう。

ピンポーン

そんな時、家のインターホンが鳴り響いて、その音で美森は我に返る。


「こんな時に誰かしら?」


雪木は皿洗い中の美森に配慮したのか、自分で客を確かめに行った。

その最中、美森は食器洗いを続けながら高井との思い出を振り返る。

高井と初めてデートをした際、彼女から『貴方って無自覚の内に自分が可愛いと思ってるんじゃないの?』と自分の引っ込み思案な性格を辛口で指摘された様な気分になりショックを受けてしまったのだ。

引っ込み思案な性格の人間程逆にナルシストなのだとその時考え、高井からの好感度を上げるためにも前向きで明るくなってマイナスな性格を直そうと考えた。

しかし先程の雪木の言葉で人の性格が簡単に変えられるなら誰も苦労はしないと思い知らされた。


(自分に自信がないように見えて、本当は自意識過剰……だから他人に心を閉ざしてしまう……それを自分は引っ込み思案なだけだと言い聞かせて誤魔化してるのが僕なんだな……そしてその性格は今でも変わらずにいる……でもだからってそこで投げだしたら何もかも終わるけどね。)


美森は人の性格は簡単に変えられないと思い知りつつも殺人レベルの大罪を犯さない限りはまともに生きていけると考え、何より今は自分の高井の無念を晴らす事だけを考えようと自分に言い聞かせた。

愛する人の仇を討とうと考える限り自分は真っ当な人間だとも考えた。

そんな事を考えてる内に雪木は美森の所へ戻って来る。


「水前寺君、あんたにお客さんよ。」


雪木は来客は美森に会うためにやって来たのだと彼に伝えた。


「え、僕にですか?」


美森は驚いてまた食器を洗っていた手を止める。

一方の雪木は通路の道を開けて来客を部屋に招き入れる。

部屋に入って来たのは荒野での訓練を終えて美森の元に挨拶に来た英夜と胡桃だった。


「よ、お前が水前寺美森か?」


英夜は両手を腰に当てながら美森に彼が本人かどうか確認を入れる。

美森は無言で英夜の問いに頷く。


「初めまして、私達は貴方の同業者よ。 私は胡桃でこっちが英夜。」


続いて胡桃が明るい表情で美森に自己紹介をする。


「初めまして。」


美森は軽く頭を下げながら英夜と胡桃に挨拶を返した。


「あら、仕事中だったかしら?」


胡桃は美森が台所で食器洗いをしているのを見て来るタイミングが悪かった事を悟る。


「ええ、まぁ……詳しい話は仕事が終わってからでいいですか?」


美森は食器洗いの作業を続けながら今は洗い物に手こずっているので自己紹介の後の話は仕事が片付いてからにして欲しいと要求する。


「うーん……それじゃあ私達も手伝うわ!」


美森の言葉を聞いた胡桃は顎に人差指を付けて考え事をした後、自分達も美森の家事を手伝おうと決めた。


「マジで!?」


一方の英夜は美森の手伝いをするのが面倒に感じたらしく、嫌そうな表情で大声を出す。


「ただ待つだけなんてじれったいじゃない、いいでしょお嬢様?」


胡桃は自分の意見に反感を抱いている英夜を気に止めず、雪木に美森の仕事の手伝いをしていいかと尋ねる。


「あー……バイト代は払えないけどそれでもいい?」


雪木は胡桃の希望が唐突過ぎたため戸惑った表情をしながらタダ働きになるがいいかと彼女に尋ねる。


「構いませんよ~♪」


胡桃は陽気な口調でタダ働きでも構わないと雪木に返答した。


「ちょっと待て! こっちは訓練でくたくたなんだぜ!」


淡々と話を進める女2人に対し、英夜は昼から夕方までの間訓練に付き合わされてうんざりとしており、胡桃に文句をぶつける。


「いいや、仲間の仕事を手伝うのもオーラナイトの役目よ!」


対する胡桃は同じオーラナイトなら普段の仕事も手伝ってあげるのが筋だと英夜に少し怒った表情で指摘する。


「オーマイガー……」


英夜は頭を抱えてそう呟くが、


雪木の家での仕事を終えた美森は英夜と胡桃の3人でレストランで話し合いをしていた。


「ところで貴方がオーラナイトになったきっかけは何なの?」


胡桃は単刀直入に美森にオーラナイトになった動機を質問する。


「え?」

美森は胡桃の唐突な質問に戸惑う。

『悪魔に殺された想い人の仇をとるため』と言おうとしたが、やはり雪木とのやり取りで『悲劇のヒーローみたい』と指摘されたのが尾を引いて言葉を詰まらせてしまう。


「うーん……家が家なのも理由の一つだけど……詳しい話はノーコメントでお願いします。」


美森はそれしか返す言葉が無かった。

正直に全てを話して悲劇のヒーロー気取りなどしたくない、手短に復讐を済ませて前に進もうという志を決めていたからだ。


「ふーん……それじゃあ話を切り替えるね、明日から貴方に手伝って欲しい仕事があるんだけど手伝える?」


胡桃は美森があまり辛い過去等は人に打ち明けない性格なのだろうと悟り、話題を明日の予定に切り替える。


「一応雪木さんに話はつけてあります。」


美森も話題を切り替えてくれた胡桃にホッとしたのか雪木に明日家政夫の仕事を休む許可をもらったと彼女に返答した。


「そう……だったら早速内容を説明するね、先週この近くにある公園で無差別殺人事件があったの、犯人の名前は光龍 瞬平[こうりゅう しゅんぺい]。」


胡桃の話によれば光龍 瞬平なる人物は先週都内の公園で4人の人間を刃物で殺害、取り調べでは心神喪失の疑いがあると判断され、精神鑑定にかけられる事になったが被害者が皆自分より弱い高齢者のため明らかに殺す相手を選んでいるため責任能力有りと判断され死刑になる事は確実だろうとの事だった。


「成程……でもそいつはいわゆる『悪魔のような人間』であって『本物の悪魔』じゃないでしょ、オーラナイトの管轄外だから退治は出来ませんよ。」


美森は光龍という人物について説明した胡桃に対し、オーラナイトが退治できるのは正真正銘の悪魔で殺人犯とはいえそれが人間であれば手を出す事は出来ないと反論する。


「それがそうとも言えないの、光龍は昨日精神鑑定中の病院から誰にも気づかれずに逃亡したの、かなり警備の厳重な病院だから普通の人間ではまず逃亡は不可能だと思う。」


疑問を抱いて反論して来た美森に胡桃は精神病院の警備は厳重で人殺しをする程短気な人間が脱走できる確率は0に近いという事を彼に伝えた。


「……悪魔が殺人犯の逃亡を手助けしたかもしれないという事ですか?」


美森は話の筋道を大体理解して光龍が悪魔と手を組んで病院から脱走した可能性が高いと推察した。


「そうだ、いま胡桃が話したサイコ野郎が悪魔と結託してる可能性が高いからそいつを調査して場合によっては戦闘もやむをえないという事だ、それを協力してほしい。」


そこに英夜が話に割り込んで来て明日手伝って欲しい仕事が光龍の調査、及び打倒だと美森に宣言する。


「そういう事なら分かりました。 それでその殺人鬼が今何処にいるのか見当はついてるんですか?」


光龍が悪魔と手を組んでる人間だという可能性が高いと理解した美森は光龍本人が今何処にいるのか予想はついてるのかと2人に質問する。


「多分町はずれにある山脈だと思うわ、あそこは強力な悪魔が住み着いていて警察でもうかつに近づけないし。」


胡桃は右手の人差指を立てながら美森に光龍がいると思われる場所を教える。

その直後ウェイターが美森が注文したカレーライスを届けにやって来る。


「成程、明日そこに向かえばいいのですね。」


美森はスプーンを手に持ちカレーをすくいながら明日の仕事場所は町はずれの山脈だと理解する。


「お前の料理が一番先か、安物な分来るのが早いな。 金持ちなんだからもっと豪華な料理を注文すりゃあいいのに。」


一方の英夜は一番最初に来た美森のカレーを見て裕福な家庭で生まれた彼が庶民的料理を注文した事に疑問を感じていた。


「お金持ちといっても、もう一人暮らしをする身ですし贅沢は控えたいんですよ。」


美森は英夜に自分が自立した大人になるためにも贅沢な食事は避けて金を節約したいという気持ちを伝えてカレーを口に入れた。


「一つ言っていいか?」


黙々と食事を始める美森に英夜は眉間にしわをよせながら話しかける。

美森は英夜の言葉に反応して無言で彼の方を見上げる。


「お前みたいに自分の事を多く語らない奴程光龍みたいな犯罪者になりやすいんだぜ。」


英夜は控えめな振る舞いの美森を見て、自身がニュースでよく見る犯罪者も大抵内向的で大人しい人間だという事を思い出し、美森に光龍の様な犯罪者にならぬ様警告を入れる。


「僕は殺人なんかしない!!」


英夜の警告を聞いた美森はつい感情的になり怒ってしまった。

美森は高井の仇をとるためにオーラナイトになった身であるためか、自分が殺人鬼と一緒にされる事がとても屈辱的に思えたのだ。

しかし美森は周りの客の視線を感じてすぐさま我に返る。


「すいませんでした……」


美森は『突然騒ぎ出して何なんだ』と睨んでくる他の客たちに謝罪しながら罪悪感に満ちた表情で席に座り込む。


「差し詰めオーラナイトになった動機は家族か恋人の仇か?」


英夜は美森が今まで何処か悲しげな表情をしていた事、自身は人殺しなど決してしないと真剣な眼差しで自分に訴えた事から美森がオーラナイトになった動機が親しい人の復讐なのだと推察した。


「……そうですね……」


図星を突かれた美森はもう隠し事は出来ないと思い、虚ろな目で本音を言ってしまう。


「英夜、人の過去をえぐるのは良くないよ!」


沈んだテンションになっている美森を見て、胡桃は彼の個人情報を探ろうとする英夜が非常に感じて講義を入れる。


「だが過去に囚われていてはいつか闇に堕ちる、厳しいがこういう奴には無理矢理でも心を開かせるしかねーんだ。」


講義を入れてきた胡桃に英夜は美森の様に内向的で過去に囚われている人間程悪の道に走りやすいのだと反論する。


「お気持ちだけはありがたく頂戴しておきます。」


美森は英夜が一応は同業者である自分のためを想ってくれて忠告してくれているのだろうと推察し、彼の忠告を素直に受け入れる。

美森の言葉を聞いた英夜も少し落ち着いた表情になる。

その直後、ウェイターがグラタンとステーキを乗せたトレイを持って再び美森たちのいるテーブルにやって来る。


「ああ……あっ私達の料理も来たわよ!」


胡桃は先程から沈んでいるこの空気を和ませる様に自分達が注文した料理が来たことをあたふたした笑顔で英夜に伝える。

ウェイターは英夜の方にステーキを、胡桃の方にグラタンを置いた後一礼してその場を去って行った。


「俺の趣味は釣りと体力づくり。」


そんな時、英夜は突然自分の事を語り始める。


「え?」


英夜の唐突な発言に美森は困惑する。


「特技はピアノと運動、苦手な物は頭を使う事でガキの頃も勉強がダメで0点の常習犯だった、後は小説みたいな堅苦しい本。」

「突然何を言ってるんですか?」

「お前の事をちょっと知りたくてな、お前を知る前にまず礼儀として自分の自己紹介をした、だからお前も簡単な自己紹介位してくれねーか?」


英夜は少しでも美森と言う人間を知っておこうと思い彼の簡単なプロフィールが聞きたかったらしく、その前に彼が語りやすいようまず自分のプロフィールを説明したのだった。


「は、はぁ……趣味は料理作りで和食でも洋食でも拘りなくつくります、後は読書でこちらもジャンルに深い拘りはありません、特技は剣術と手芸、苦手な物は煙草の匂い……そして短所は人とのコミュニケーション不足です。」


美森は英夜の唐突な自分語りの意図を理解し、取りあえずお返しに自分のプロフィールを語り出す。


「そうか、ご苦労だったな。」


英夜は美森と言う人間を少し知れて一安心したのか、彼にお礼を言って食事を始める。


「……あの、ちょっと気になったのですがピアノを始めたきっかけって何なんですか?」


美森は先程聞いた英夜のプロフィールの特技の中にピアノがあったのを思い出し、体育系という感じの彼が何故その様な特技があるのか気になり質問する。

「ああ、幼稚園児の頃親とデパートで買い物をしてた時に見かけたピアノが綺麗だったから興味が沸いたんだ。」

「成程……」


英夜からピアノを始めた動機を聞かされた美森は彼にロマンチックな一面を感じる。


「さて、いざこざを起こしちまったがお前がグリーンパールへ来た事は歓迎するぜ、ようこそ。」


英夜はナイフとフォークを手に持ちながら多少口論はしたものの彼にグリーパールへやって来た事に歓迎の言葉を送る。


「ありがとうございます……」


美森は先程の口論で恥ずかしい思いをしたこともあってか作り笑いともとれる微妙な苦笑いをしながら礼を言う。


「じゃあ私達も料理が冷めない内に早く食べましょう。」

「そうだな。」


そして英夜と胡桃も食事を始める。

一方の美森は先程自己紹介の時に行った人とのコミュニケーション不足が頭に焼き付いており、そんな自分の短所を改善するためにも食事が終わった後2人に高井の事を打ち明けておこうと思っていた。

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