17話 英夜と幽霊少女1
ロンリネスはハルカの病室で窓の外の青空を眺めていた。
「ねぇロンリネス、空なんか眺めて楽しいの?」
ハルカはベットでクレヨンで絵を描きながら上の空なロンリネスに話しかける。
「いいえ、ただ考え事をするには丁度いいかなって思っただけ。」
声をかけられたロンリネスはハルカの方を振り向き、考え事に夢中になって我を忘れていただけだと返した。
「考え事って、この前関わった人たちの事?」
ハルカはロンリネスが考えていたのは美森、英夜、胡桃、リコの4人の事なのではと予想する。
「うん、あいつらって一緒にいて楽しいのかなーって思って。」
ロンリネスは美森達4人が行動を共にしていてどういう気持ちだったのかが気になっていた様だった。
「あの人達って友達なの?」
「さぁね、ただの仕事仲間だと思うわ。」
ハルカは美森達が友人同士なのかと思っていたが、ロンリネスはそれ程4人は親密な関係ではないだろうと思っていた。
「そうなんだ、所で新しい絵が描けたよ。」
それを聞いたハルカは特に表情を変える事無く話を流し、そして会話をしている最中に描き上げた絵をロンリネスに見せる。
「どれどれ?」
ロンリネスは興味本位でハルカの絵を見るためベッドに左手を当てて彼女の傍に近づく。
「じゃーん、私達の結婚式!」
ハルカが誇らしげにロンリネスに見せた絵は教会でタキシードを来たロンリネスとウェディングドレスを来たハルカが手を抱きしめて見つめ合っている絵だった。
「あの……私達女同士……」
ロンリネスは流石にこの絵には引きつった表情になり苦言を溢す。
「いいじゃん、私達仲良しなんだし!」
ハルカは細かい事は気にするなと言わんばかりに軽くロンリネスの胸を叩きながら笑顔を見せる。
「はぁ……」
ロンリネスはため息をつきながらふとハルカの過去を頭に思い浮かべる。
それはハルカが買い物に来ていたショッピングモールが悪魔達が放った大火事によって焼け、来客も悪魔達によって次々と殺されていく地獄絵図だった。
ハルカは元々引きこもりがちで親しい友人がいなく、買い物も気分転換程度で来ていたのだが、そこで悪魔のテロ行為に巻き込まれたため外に出歩かなきゃ良かったという後悔と絶望が人並みに強かった。
そこに駆けつけたロンリネスが悪魔達を銃殺し、そして悪魔に傷つけられて血まみれになっている彼女を連れだしたのだ。
(ま、ハルカも明るくて何よりだけどね、本人はその時の記憶が欠け落ちて思考が幼くなってるみたいだけど……サバイバーズギルトで思い悩むよりは幸せよね。)
ロンリネスは病院のベッドで子供の様に健気に絵を描いて過ごすハルカを見てあの時の出来事を忘れてサバイバーズギルトによる罪悪感に囚われる事もなく幸せそうにしている彼女を儚く感じた。
(そういえば水前寺も私の後に駆けつけてきたっけ……接触は避けたけど。)
そしてロンリネスはあのショッピングモールの中で美森を目撃した事も思い出す。
その時のロンリネスは身内と交流したい気分じゃなかったため彼に気づかれずに気絶したハルカを抱えてその場を後にしたのだった。
「あっ、お客さんだ!」
ロンリネスがハルカと出会った経緯を思い出している時、ハルカが病室の前に人が立ってるのに気づいて声をかける。
病室の目の前に立っていたのはリメインだった。
「あらリメイン、何の用?」
不満そうな表情をしながら近づいて来るリメインにロンリネスは怖い物知らずと言わんばかりの余裕そうな笑顔で話しかける。
「どういう事? オーラナイトに協力するなんて……」
ロンリネスの目の前に来たリメインはまず一言彼女に抗議を入れる。
「あらもうその情報が流れてたの? 噂って奴は怖~い。」
ロンリネスはリメインが起こっている理由が自分がこの前ニュームーンの結界の中で美森達と手を組んだ事だろうと察し、情報が洩れている事を皮肉に思う。
「ふざけないで……です!」
リメインは人を喰った様な態度を取るロンリネスに大声を上げてしまう。
「君、病院の中ではお静かに、だよ。」
ハルカは会話に割り込み、病院内で大声を出したリメインに注意する。
「貴女には関係の無い事……です。」
リメインは顔を右に向けながらハルカに部外者は黙っていて欲しいと告げる。
「落ち着きなさいよ、まず私はあんたと関わりがあるだけで別にオデイシアス一味の仲間じゃない、つまり私がどんな行動を取ろうが勝手でしょう?」
ロンリネスは苛立ちを抱えてるリメインに自分は美森達と協力しても問題ない立場だと反論する。
「でもだからって……ウィンドミル家と関わるなんて……」
しかしそれでもリメインはロンリネスが美森達と手を組んだ事には納得がいかなかった。
「私は言わば渡り鳥、誰かの仲間になるのだって気まぐれよ、最初にそう言ったでしょう大叔母さん?」
ロンリネスは気取った態度で自分について語った後、リメインを親族として呼んだ。
「その呼び方は止めて下さい! リメインはもう……」
リメインは自分を大叔母と呼んだロンリネスにそう呼ぶのは止めて欲しいと抗議する。
「え? 2人って家族なの?」
ハルカはロンリネスがリメインを親族と呼んだ事に驚きを見せる。
「あら、そう言えば話してなかったわね、私達一応血縁関係者なのよ。」
ロンリネスはハルカにはまだ自分達が身内だと告げてなかった事を思い出し、今話したことは事実だと告げる。
「という事はあれだよね……えっと名前何だっけ……水前……」
リメインがロンリネスの大叔母と知ったハルカはロンリネスと従兄妹である美森を思い浮かべる。
「兎に角です! オーラナイトと関わるのなら貴女も敵とみなして排除します!」
リメインはハルカの言葉をこれ以上耳にしたくなかったのか、また声を荒げて話を中断させる。
「その時はその時でお相手するわ、でも今はまだあんたと戦いたくない。」
ロンリネスはリメインの脅しに動じることなく、戦いたければいつでも相手になってやるという強気な姿勢を見せる。
「……」
リメインはロンリネスの言葉に反論を考えたが上手く返せる言葉が思いつかず沈黙してしまう。
「そ・れ・に・そろそろあんた自身が表に出て美森と対決したら? 実力はあるんでしょう?」
ロンリネスは追い打ちをかける様に自分から美森達に攻撃を仕掛ければいいだろうと皮肉めいたアドバイスを送る。
「……分かってます、このリメインが直々に出向いてあの人を殺します!」
リメインは自分が内気で中々前線に立てない臆病者だと言われた様に感じてムッとなり、出撃宣言をして病室から立ち去って行った。
「行っちゃったね、所でもしあの子がロンリネスの大叔母さんだとしたら若すぎない? それにウィなんちゃら家を憎んでるみたいだけどあの子だってウィなんちゃら家の人間だよね?」
ハルカは去って行くロンリネスを見届けた後、自分の感じた矛盾点をロンリネスに質問する。
「複雑なのよ、私達の家系は……」
ロンリネスは話すと長くなると思ったのか、目を瞑ってただ一言曖昧な答え方をした。
2
水色に澄み渡る上空を飛ぶ飛行機。
飛行機は本州から少し離れた所にある凱巣島[がいすとう]という小さな島に向かっていた。
機内には沢山の乗客がいて、その中に美森と英夜も乗っていた。
「今の内に話を整理するね、天城君の家に悪魔を退治して欲しいという以来の手紙が来た、だから手紙の送り先である凱巣島に向かうために飛行機に乗っている。」
美森は唐突に英夜に話しかけ、自分達が飛行機に乗っている経緯を語り出す。
「何で話を整理する必要あるんだ?」
英夜は自分の所に手紙が来た時点でその事は既に分かっているので今更説明する必要もないと返答する。
「いや、何となく……それよりその依頼主、長良 穂波[ながら ほなみ]は何でグリーンパールに住んでる君の所へ手紙を送ったの? 確かに飛行機で行っても半日はかからない距離だけど……」
美森は苦笑いをしながら先程の自分の発言を恥ずかしく思いつつ、まだ英夜と手紙の主である穂波と言う人物との関係をまだ聞いていなかった事を思い出し質問する。
「その前に話がややこしくならない様先に言っておく事がある、俺は元々凱巣島で生まれた、親父がそこに上京して結婚したのが経緯だ、俺は小学校低学年位までそこで暮らしていた。」
英夜は穂波との関係を話す前にまず自分の身の上を美森に説明する。
「そうだったんだ。」
美森は英夜の意外な生い立ちに感心する。
「3年前、長良穂波は悪魔に襲われて死にかけた、友達と一緒に夜道を歩いていた時だ。」
「その人、歳はいくつなの?」
「今は17歳だな。」
「という事は3年前は中2の女の子。」
「そうだな……友達と夜道を歩いていた理由は家出していた友達に連れ戻され、その矢先だ。」
「長良って娘が家出した理由は何?」
「あいつの親は滅茶厳しいらしい、上の男兄弟2人もエリートなうえ男同士仲が良かったから家族の中で疎外感を感じていたらしい。」
「長良さんは勉強が苦手だったの?」
「勉強は努力で何とかしたそうだが問題はそこじゃない、当時あいつは演劇に夢中で将来女優になりたかったそうだが親から反対されたっつーのが不服だったらしい。」
「我が子を不安定な仕事に就かせたくなかったって事?」
「ああ、そんな訳で家にいても苦しいだけだと感じて家出した、親から厳しくされて同年代の友達としか心が通い合えなかったんだろうな。」
「僕の親も厳しいから彼女の気持ちが分かる気がするよ……」
穂波の身の上話をある程度聞いた美森は自分も親から勉強しろと厳しく躾られたりゲームをやったり漫画を読んだりるのを禁止されていた事を思い出し、彼女に共感する。
「家出した後、友達に説得されたのかどうかは分からんが長良は家に帰る事にした、その夜道で悪魔に遭遇したんだ。」
「君はその時君は里帰りしてたの?」
「ああ、久々に故郷が恋しくなってな、それでラーメン屋で飯を食って店を出た所にあいつ等の悲鳴が聞こえてな、幸い長良は助けられた、だが友達の方は手遅れだった。」
「それじゃあ、長良さんは君を恨んだ?」
美森は英夜が以前病院でリコに似た様な境遇で自分を恨んでいるかどうか尋ねたのを思い出し、穂波の件でトラウマを抱えているのではと思い込む。
「その時は恨まれた、今は考えを改めたらしいが。」
英夜は気難しそうな表情で今は穂波から恨まれていないと告げる。
しかしそれでも何処か穂波に会いづらいという雰囲気を英夜は漂わせていた。
「あんたも苦労してるわね。」
その時会話に入り込んだのは雪木だった。
彼女は雪木の隣の席である窓側に今までずっと座っていたのだ。
「ああ、それよりもお前が同行するのが今一番の不安だな。」
英夜は穂波との気まずい雰囲気を紛らわす様に自分達に同行して来た雪木に不安を溢す。
「何よ、人を役立たずみたいに!」
雪木はまるで自分が役立たずの様な言われ方をして腹を立てる。
「まあ、落ち着いてください。」
美森は感情的になる雪木を苦笑いしながらなだめる。
「お前もお前でよく同行を許したな、確かに雪木の家でお前がバイト中に俺が訪ねて手紙の話をしたからこいつにも話は聞かれているが。」
英夜は雪木を旅に同行させた美森の行動に疑問を感じた。
「最初は僕も反対した、だけど雪木さんから一人ぼっちにされる方が危険だと指摘されて同行させる事にしたんです。」
美森も雪木が一緒に連れてって欲しいと言われた時は反対をした。
先のディセントとの戦いの後雪木本人に戦いに巻き込みたくないと宣言したからだ。
だが彼女から自分の留守中に悪魔に襲われる危険性を話され、確かにその時自分が遠くへ居ては彼女を守れないと思い、傍にいて守ってあげようと判断したのだった。
「水前寺は使用人として主である私を危険な戦いに巻き込ませたくないのか、それとも高井さんの事で……まぁ兎に角私を守るんなら常に私の傍にいて欲しいって事、私も危険な場所には立ち寄らないって水前寺に言ったしそれで納得してもらったわ。」
雪木は半天半魔で人間より生命力があるにも関わらず自分を戦いから遠ざけようとする美森は高井の時の様に目の前で女性を失いたくないからそうしているのではと解釈していた。
雪木自身もそんなトラウマを抱える美森に配慮して危険な行動はしないと約束していた。
「そうですか、まぁ胡桃は滝内と一緒にバイト中だし男2人で行くよりマシか。」
英夜は美森と雪木が話し合った末に同行している事に納得した様で、現在リコがストロング退治の依頼料を稼ぐためにバイトをしていて胡桃もその手伝いをしているため不在で、代わりの女性がいるだけマシかと思っていた。
「私がついでみたいな言い方しないでよね。」
雪木は自分が男臭さを紛らわす中和剤の様な扱いをされたと感じて不貞腐れる。
「2人共喧嘩しないで、僕達は仲間も同然なんですから。」
美森はギスギスしている2人に仲良くする様呼びかける。
「取りあえず、手紙によれば穂波は空港で待機してるらしい、話はそれからだ。」
英夜もこれ以上雪木と揉めていても仕方がないと感じて会話を中断して視線を反らす。
雪木も無言で視線を窓の方に向け、その2人を見た美森はこの一行で無事に仕事が出来るか不安になってしまった。




