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16話 胡桃とリコ10

大きな公園のサッカー場。

そこでセーラー服を着たリコが同じ服装の女子3人に袋叩きにされていた。


「お前、何ガム噛んでいるの先公にチクッてんだよ!」

「大体さぁ、いつも黙ってる癖に男子にモテるなんて生意気なんだよ!」

「分厚い本読んで清楚可憐を気取ってんの? バッカじゃないの?」


3人の少女は倒れているリコに罵詈雑言を浴びせながら蹴りを入れていく。

リコは3人の少女が校内でガムを噛んでいた事を教師に報告し、その事を逆恨みされていじめを受けていたのだ。

リコは苦痛の表情で涙を浮かべる。


「まだメソメソ泣くのは早いよ、これから短い髪をさらに短くしてあげるんだから!」


1人の少女がカバンから鋏を取り出し、後の2人がリコの腕を掴み起き上がらせる。


「お……お前ら……」


リコは目に怒りを滾らせながら呟く。

少女がリコの髪に鋏を近づけたその時だった。


「うっ!?」


突然少女は呻き声を上げてその場に倒れ込む。

するとその後ろにブレザーの制服を着た胡桃がいた。

胡桃が手刀で少女を気絶させたのだ。


「感心しないわね、寄ってたかって1人をリンチにするなんて。」


胡桃は残りの2人に弱い者いじめをしている事を咎める。


「何だお前!?」


リコの右腕を掴んでいた少女が胡桃に近づく。

胡桃はバックステップをした後、少女にタックルを仕掛ける。


「この!!」


今度はリコの左腕を掴んでいた少女が胡桃に殴りかかる。

リコは素早い身のこなしでその攻撃をかわし、地面にある石ころを両手に拾って指弾を発射する。


「いてっ!!」

「くそっ!!」


石ころを額にぶつけられ、2人の少女は怯んだ。

胡桃はその隙にその内の1人の腕を掴んでを背負い投げし、そして急いでもう1人に駆け寄りパンチのラッシュを繰り出した。


「お――――――――りゃ!!」


そして胡桃はとどめに少女の顎にブローを入れた。

胡桃からブローを受けた少女は苦痛の表情で気絶する。


「う……うぅ……」


背負い投げをされた少女が起き上がろうとする。

その少女の襟をリコは鷲掴みにする。


「まだやる?」


胡桃は少女を睨み付け威圧する。


「い……いえ……」


少女は胡桃の鬼の様な形相に負け、怖気づいた。

胡桃は少女の襟から手を放した後、リコに近づく。


「大丈夫?」


胡桃は先程とは違う優しい目でリコに話しかける。


「え……ええ。」


胡桃の強さに唖然としていたリコは上手く言葉が見つからず簡易的な返事をする。


「ここに長居は無用よ、場所を変えましょう。」


胡桃はリコに手を差し伸べながらこの場を離れようと提案する。

リコは言われるままに胡桃の手を取った。






眠っていた胡桃は意識を取り戻す。

気が付くと自分は病院のベッドで眠っていたのだ。

周りには美森、英夜、リコの他に知らせを聞いて駆け付けた雪木までもが自分を見守っていたのだ。


「あれ……みんな……」


目覚めたばかりの胡桃は状況が呑み込めず困惑する。


「胡桃ちゃん!」


胡桃から見て右側の椅子に座っていたリコが彼女の目覚めに感激する。

胡桃はリコが自分の右手を握っている事に気が付く。


「リコさん……私、どうしたの?」


胡桃は身体を起こして、自分が置かれた状況をリコに尋ねる。


「敵の攻撃で気を失って、それで私達が病院に運んだの! 敵はきっちりやっつけたよ!」


リコはストロングを倒した後、気絶した胡桃を急いで病院まで運んで行った事を、感情を荒げながら本人に告げる。


「そう、良かった……」


状況を理解した胡桃はストロングを無事倒す事が出来てホッとする。


「私も水前寺から話を聞いて飛んで来たわ、まさか私の知らない所で大変な事になっていたなんて。」


雪木も会話に加わり、戦いに参加しなかった自分がここにいる経緯を胡桃に話す。


「そうだったんだ、来てくれてありがとう雪木さん。」


胡桃はわざわざ見舞いに来てくれた雪木に礼をする。


「いいのよ、私も全くの部外者って訳じゃないから、これ、お見舞いにチョコレートケーキ買って来たわ。」


雪木は美森の関係者である以上その仲間である胡桃が入院したとなれば他人事と判断する訳にはいかないと彼女に告げ、病院に来る途中で買ったチョコレートケーキの入った箱を渡した。


「ありがとう、チョコレートケーキ大好きなの。」


胡桃は大好物のチョコレートケーキを貰って喜ぶ。


「最も、貴女がそれが好きなのは天城から聞いたんだけどね。」


雪木はケーキを買う際、電話で英夜から胡桃の好物を伺った様だった。


「へぇ、あんたも気が利くじゃない。」


それを聞いた胡桃は英夜の方を見てニヤリと笑いながら彼に皮肉めいた言葉をかける。


「どういう意味だよ?」


英夜は苦い顔をしながら胡桃に言葉を返す。

英夜の反応を見た胡桃はクススと笑った後リコの方を見つめ話しかける。


「ねぇ、リコさん。」

「何?」

「私、思い出したよ、リコさんと初めて出会った時の事。」

「本当!?」


胡桃から自分達の最初の出会いを思い出したと聞かされたリコは嬉しそうな表情で驚く。


「うん、あの時敵にやられて気を失ったショックで思い出したんだと思う。」


胡桃はリコとの出会いを思い出したきっかけがストロングの氷の球体を直撃して頭を打った事ではないかと推測する。


「あのさ、もし俺達邪魔だったら席外そうか?」


2人の会話を聞いた英夜は此処から先は自分や美森は部外者であるため干渉する権利は無いのではと思い立ち去ろうとする。


「え? いや、胡桃ちゃんの家族だし教えてあげてもいいよ、他のみんなにも特別に教えてあげる。」


リコは少し悩んだ後、英夜と美森はストロング打倒に協力してくれた戦友なので教える資格はあるだろうと思い、ついでに雪木にも自分達の秘密を教える事にした。


「それはありがとう。」


美森は胡桃の身内である英夜だけでなく、さらに部外者である自分達にも身の上話を聞かせてくれるリコに礼をする。


「あれは中学1年生の時だった、私が公園でいじめられていた時に胡桃ちゃんが助けてくれたの。」


リコは自分がいじめられた過去を人に話すのに抵抗を感じながらも、過去に何があったかを語り始める。


「そういう出会いだったのか。」


英夜は明るく能天気な印象のリコが元いじめられっ子だった事を意外に感じながらも2人の出会いを察した。


「私はあの時心の中で『こんな奴ら本気出せば一発で殺せるのにな』って思っていたの、でもお父さんから『人間に手を出すな』って口止めされていた。」

「人間のフリをするためか?」

「うん、でも私は人間なんて悪魔から守ってやらなきゃいけない程可愛い生き物じゃないし、だったらここで道を踏み外して悪魔みたいに人間の敵になってもいいって思ってた、若さ故に自棄になっていたの。」


リコは自分は人間より優れた存在であるにも関わらず父から騒ぎになっては困るという理由で素性を隠す様言いつけられ、そしていじめっ子達から人間と思われいじめられて人間不信になりそうで、いじめっ子達を殺して何もかも捨てて悪魔の様に人間の平和を脅かす存在になっても良いと自暴自棄になっていた当時の心境を英夜に真剣な眼差しで伝える。


「リコさんが道を踏み外そうとする直前、偶然私がリコさんがいじめられてる姿を見て助けたって訳、もし助けるタイミングが1秒でも遅れてたら大変な事になっていた、そう思うとゾッとするわ。」


間一髪でリコを助けた胡桃も、駆けつけるタイミング次第ではリコがいじめっ子達に報復して殺害していたかもしれないと思い、大参事が起こるのを食い止められて良かったと今でも思っていた。


「胡桃ちゃんがいじめっ子達を懲らしめる時、胡桃ちゃんの拳に微弱だけどオーラが籠っていた事を私は感じ取った、公園を離れた後、私は胡桃ちゃんにその事を言ったの。」

「それで私とリコさんは互いの正体を知って友達になった、学校は違ったけれどもいい友人関係になった、でもある日私は親の都合で遠くの学校に引っ越す事になってリコさんと離れ離れになってしまった。」

「成程大体分かった。」


リコと胡桃の話を聞いて、英夜は2人が心が通い合える仲になって良かったけれども別れてしまったのは気の毒と思った。


「でも一つ疑問があるんだけど、君は何故滝内さんの事を忘れていたんだい?」


一方の美森は何故胡桃がそんな大切な思い出を忘れていたのかが気になり彼女に尋ねる。


「多分あれだと思う、中三の時に初めて悪魔に遭遇したの、その時英夜も一緒だった。」

「あの時の衝撃で記憶が欠け落ちたのか!」


胡桃と英夜はお互いに心当たりのある出来事を思い出し、2人だけで納得をする。


「詳しく聞かせて?」


美森は自分も納得できる様説明して欲しいと2人に願い出る。


「あれは胡桃と町中で世間話をしていた時だった、突然悪魔が現れてな、俺と胡桃は勿論野放しに出来ず戦ったさ、当時俺達はまだまだ未熟で苦戦しちまったがなんとか倒した、まぁ俺達も重傷で病院に運ばれたがな、俺はともかく胡桃は悪魔から後頭部を殴られて意識不明の状態だった、今回みたいにな。」

「オーラで頭をガードしていたから大事には至らなかったけど目覚めるのに数週間は掛かったそうよ、でもその時の衝撃でリコさんと一緒に過ごした日々が欠落したんだと思う。」

「成程……」


美森は頭を強く打ってリコとの記憶が飛び、皮肉にもまた頭を打って記憶が甦る羽目になった胡桃を気の毒に感じる。


「……滝内、俺が不甲斐なかったために胡桃の記憶が失われる事になった訳だが、俺の事は恨んでるか?」


英夜は自分の力不足が原因で胡桃からリコとの思い出を奪った事に罪悪感を感じ始め、彼女が自分の事をどう捉えているのかが気になり尋ねてみる。


「最初はちょっと恨んだよ、でも胡桃ちゃんの家族だから恨むのはよくないと思った、胡桃ちゃんから『家族に代わりはいないから大切にしなきゃいけない』って言われた事もあったから。」


リコは英夜に対して恨みを抱いた事もあったが、胡桃から家族の大切さを教えられ、そして胡桃の家族である英夜も胡桃を想う気持ちを強く持っている筈だと解釈して恨むのをやめたのであった。


「そうか……」


リコが自分の事を責めるつもりがないと知った英夜は安心する。


「今の学校に転校して胡桃ちゃんに再会できた時は嬉しかった、同時に胡桃ちゃんが昔の私と出会った時の記憶を忘れていた時はショックだった、少し冷静になって胡桃ちゃんに過去に頭を強く打った事はないかを尋ねてそして納得した、それからは私が直接伝えるよりも胡桃ちゃんに自分の力で昔の事を思い出して貰おうって思ったの、その方が本当の友達になれると思ったから。」


リコは転校して胡桃と再会した後、彼女が記憶を失った理由を調べた、その後は無理に思い出させようとしても胡桃が混乱してしまうだけだから自分の力で思い出して貰おうと考えた。

そしてリコは取りあえず自分が天使である事を打ち明け、フレンドリーに接してまた胡桃との思い出を作るのも悪くないとも考えていたのだ。


「リコさん……その……リコさんとの思い出、忘れていてごめんなさい。」


胡桃は自分達の大切な出会いを忘れていた事をリコに深く謝罪した。


「いいのいいの、思い出したんだしそれで十分だよ! 私は胡桃ちゃんと出会ったおかげで人を殺さずに済んだ、胡桃ちゃんと出会ったおかげで人間を信じて見ようと思った、私が明るく生きていられるのも胡桃ちゃんのおかげ、だから出会えて良かった……胡桃ちゃん!」


リコは忘れていたのは胡桃自身のせいじゃないと考えており、彼女の事を責めたりせず、逆に思い出してくれた事を嬉しく思い抱きしめた。


「ちょっと、リコさん……」


抱きしめられた胡桃はリコの大胆さに戸惑いながらも、自分を許してくれた彼女に嬉しさと申し訳なさを抱いて笑みを浮かべる。


「よし、それじゃあ今夜は一緒に寝ようよ!!」

「いやらしい意味に聞こえるよ、それに病院はホテルじゃないんだよ。」


リコが調子に乗ってふざけた発言をして、胡桃はいつもの事かと思いながらツッコミを入れ、彼女の頭を軽く叩いた。


「えへへ……」


リコは胡桃から身体を放しながら右手を後頭部に当てて笑いを溢した。


「あのー、一連の話で盛り上がってる所悪いんだけど、みんな私の事忘れてない?」


そこにようやく雪木が会話に加わり、ニュームーンの潜入に参加していなかった身であるため胡桃とリコの身の上話を聞いても上手くついて行けないという心境を溢した。


「あー、そういえばあんたいたね。」


リコもそんな雪木の存在をすっかり忘れていた様だった。


「おい!!」


雪木は忘れられていた事にムッとなり声を上げる。


「まーそうカッカしないで、水前寺さん、ちょっとこの人と2人で話をしていい?」


リコはムキになっている雪木に気を静める様呼びかけ、そして美森に雪木と2人だけで話をしていいか尋ねる。


「構わないよ。」


美森は雪木が胡桃の病室に来た時に気配で彼女が半天半魔である事を読み取ったから話がしたいのだろうと察し、雪木との対談を許可する。

早速リコは椅子から立ち上がり雪木について来る様アイコンタクトを取る。

雪木はそれに応じて自分も立ち上がり、リコと一緒に病室から出る。

そして2人は病室の入り口付近の廊下で話をすることにした。


「話しって私の正体の事?」


雪木も美森と同様自分の存在についてリコが問いただしたいのだと悟る。


「うん、あんたみたいな混ざり方初めて見たよ、最初あった時は水前寺さんからジェスチャーで黙っていてって言われたから何も言わなかったけど。」


リコは雪木と対面した時に彼女の正体を知り、直後に美森が右手の人差指を鼻に当てて知らぬふりをしていてくれとジェスチャーで伝えて来た事を思い出しながら彼女が半天半魔である事に驚く。


「あいつ、私の正体黙っていてくれたんだ……それであんたは私の事どう思ってるの?」


雪木は美森に自分の正体を口外するなとは伝えてなかったが、それでも自分を気遣い皆に黙っている彼に感心しながらリコに自分をどう捉えているのか尋ねる。


「ん~ちょっと危険かな、具体的な意味はないけど本能がそうしちゃう。」


リコは半天半魔というまるで光と闇が入り混じった様な存在である雪木を異質で不気味に感じ、会ったばかりで何も知らない彼女を無意識に警戒していた。


「でしょうね。」


リコの心境を聞いた雪木は悪魔だけでなく天使からも異端に思われてる自分自身に存在価値があるのかどうかと思い悩んでしまう。

雪木は過去にも同じ様な経験は何度もしてきたのだが、この疎外感には中々慣れずにいた。


「もしかしてあんたも迫害されて辛い思いしたの?」


リコは雪木が暗く沈んだ表情になったのを見て、自分の発言は取り消した方がいいのかと焦り始める。


「気にしてないわ、よく言われる事だから、こんな異質な存在に生まれたおかげでよく悪魔から命を狙われたし。」


雪木はリコを気遣い、先程の発言で傷ついたりはしてないと強気で前向きな表情を見せる。


「それは気の毒だね。」


リコは雪木が抱える苦労をなんとなく察し、彼女に悔やみの言葉を送る。


「……私の事よりあんた、胡桃ちゃんと友達になるのはいいけど私達は人間より長生きするわ、子供から大人までの成長は人間と変わりないけどそれ以降の差は凄まじい、あの娘が寝たきりのお婆ちゃんになっても私達は人間で言うアラサー位の肉体だし。」


雪木は少し沈黙した後、これ以上弱い自分を見せないために話題を切り替え、リコに種族が違う故に寿命も違う胡桃と今後も友達を続けられるかどうかを尋ねる。


「それ位の覚悟がなきゃ友達になんかならないよ、その時が来たら私が胡桃ちゃんを精一杯介護する、それも友達の務めだからね。」


リコは例え寿命が違っても友達として胡桃に尽くしていくという前向きな志を雪木に示す。


「あんたも言うじゃない。」


雪木はリコも思いの他タフなメンタルを持っているのだなと感じた。

そして話を終えた2人は病室に戻り胡桃達との雑談を楽しむ事にした。

しかし2人は気付いていなかった、廊下の奥の角でハルカが隠れて2人の話を盗み聞きしていた事に。





意識を失っていた光龍は目を覚ました。

気が付くと自分は山小屋のベッドで眠っておりその近くでオデイシアスが椅子に座っていた。


「俺は……そうかまたあいつらに負けたのか、畜生!」


光龍は自分の腹部に包帯が巻かれているのを見て、英夜装甲態に薙刀で腹部を刺されて意識を失っていた事を思い出し、右手の拳を叩いて悔しがる。


「まぁ落ち着け、お前も強くなるためにもっとトレーニングをする必要がある。」


オデイシアスは感情的になる光龍にアドバイスを送る。


「はぁ、しょうがねぇか……この次は必ず一泡吹かせてやる。」


光龍はトレーニングを面倒に思いながらも、心の奥底では自分の力不足を実感しておりオデイシアスの意見に賛同した。


「急ぐ事はない、ゆっくりと強くなればいい、俺がみっちりとコーチしてやる。」


オデイシアスは気楽そうな微笑みを浮かべながら光龍に焦らず自分のペースで強くなれとエールを送った。

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