13話 胡桃とリコ7/ロンリネスの秘密
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美森と英夜と合流した胡桃とリコは金庫の中から出ようとした時にロンリネスと鉢合わせをした事、ロンリネスが半魔である事を説明した。
「ふーん、半魔ねぇ……」
英夜はロンリネスを好奇の目で見つめながら呟く。
「それで、彼女を信用するの?」
美森はロンリネスとこの先行動を共にするかどうかの決断を胡桃に聞く。
「分からないよ、そりゃあ半魔ってことで警戒もするけど……そうじゃなくても得体の知れない相手を安易に信用しないけど……」
胡桃は例えロンリネスが人間や天使であっても、素性の分からない彼女を無暗に信用するのはどうかと思うという気持ちだった。
「そりゃそうだ、で、お前はアレか? 親のどっちかが悪魔って事なのか?」
英夜は胡桃の意見に賛同した後、ロンリネスに人間と悪魔の間に生まれたが故の半魔なのかと質問する。
「さぁどうだか。」
しかしロンリネスは先程胡桃に聞かれた時と同じ様に、質問をはぐらかす。
「私もさっき同じ質問をしたけどそこは知らばっくれるのよねぇ……」
胡桃は一行に自分達が気になっている質問に答えないロンリネスに呆れる様になる。
「せめてそれだけでも教えてくれない? でないとこっちも君を信用できない。」
美森はロンリネスに半魔である理由を教えてくれないと信用しないと注意する。
「……はぁ……私は元々ただの人間だった、だけど訳あって悪魔の細胞を身体に取り込んだ、そして半魔になった。」
ロンリネスはため息をついた後、嫌々という感じの表情で自身の素性を少し明かす事にした。
「その訳ってのは?」
英夜が彼女が悪魔の細胞を取り込んだ理由を尋ねる。
その時ロンリネスは脳裏に二つの記憶を甦らせる。
一つは「どんくさい女!」、「貧乏人は学校に来んな!」と言いながら倒れている自分を滅多蹴りにする制服姿の少女達。
もう一つは先程の少女達が血まみれになって横たわっている姿。
「……それは言えない、けどこれだけは言える、その当時は人間も修行すればオーラを宿せるなんて事知らなくて半魔になるしか選択肢がなかった。」
ロンリネスは二つの出来事を回想した後、自分が言えるのは後天的な半魔である事だけだと美森達に宣言する。
「信用できるかどうかは微妙だな。」
英夜は半魔になった動機を語らないロンリネスをまだ信用出来ず、胡桃とリコもそれに続くようにコクンと頷く。
「じゃあいいわ、私は1人でやらせてもらうわ。」
ロンリネスは美森達が自分を未だに疑っているのを見て愛想が付き、その場から立ち去ろうとする。
「待って。」
そんな時、美森がロンリネスを呼び止めた。
「君を完全に信用出来る理由はないけど必要以上に疑う理由もない。」
美森は続けて彼女に必要以上に疑ったこちらにも問題があったと説得する。
「彼女を信用する気なの?」
胡桃はロンリネスを仲間に入れる気なのかと問いかける。
「一応そのつもり、それに彼女が妙な気を起こしても4対1だし彼女は不利だと思う。」
美森は万が一ロンリネスが裏切る様な行動を見せたとしても、4人もいれば返り討ちに出来ると判断していた。
「あんた達の誰かを人質にとって脅迫するって事も出来るのよ。」
ロンリネスは例え相手が複数いても誰か1人を人質にとって脅せば何とかなると美森に伝える。
「自分からそれを言うって事は逆に裏切る気はないって事だよね。」
しかし美森は自分達にわざわざそんな忠告をしてくる彼女を見て、逆に自分達を裏切る必要性は感じてないんじゃないかと思っていた。
「フフフ……あんた、4人の中じゃ1番話が分かりそうね。」
「どうも。」
ロンリネスから話が分かりそうな相手と評価された美森は取りあえず彼女に礼をする。
「少なくとも私達もあんたの人質にされる程ヤワじゃないけどね。」
一方のリコは自分達は人質にされる程非力ではないとロンリネスに抗議する。
「はいはい分かったわ。」
ロンリネスは失笑しながら美森達を甘く見た様な発言をした事を詫びる。
「所で念のため君に質問したい事がある。」
そんな時美森はある事を思い出し、ロンリネスに質問をぶつける。
「何?」
「人を殺した事はある?」
「……無いと言ったら嘘になる、だけど無益な殺生はしない。」
「もう一つ質問、看護師を殺した事はある?」
「ない。」
「……分かった、質問に付き合ってありがとう。」
美森は後天的な悪魔になる道を選んだ彼女が殺人を犯していないかどうかが気になり、もしその中に高井がいるのではないかと思って質問をしてみたのだ。
殺人はしている様だが、二つ目の質問には即答で答えたため彼女は自分の探している仇ではないと判断する。
「こっちも質問させて貰うわ、あんたは家族か恋人に看護師がいて、それが悪魔に殺されてその敵討ちを考えてるの?」
今度はロンリネスが先程の美森の質問から彼が何を考えてるのかを推理して質問を返す。
「ご名答……」
美森は『殺人はしたか?』『看護師を殺したか?』と質問すれば自身の身の上は推察されて当然かと思いながら今の問いは正解だと答える。
「ふーん、そんな事情があったんだ。」
一連のやり取りを聞いていたリコはハンバーガーショップにいた時に看護師がどうのという会話があった事を思い出し、美森の過去を聞いて切ない気持ちになる。
「私もあんたの私情には口出ししないわ、さてと、青い服の彼は私の事を信用するそうだけど他の3人はどう思ってるの?」
ロンリネスは自身が過去を伏せている身のため美森の私情にこれ以上干渉しない事にして、話を切り替え美森以外の3人に自身を信用するのかどうか尋ねる。
「こいつの言う事が絶対って訳でもねーが、俺は別に構わねーよ。」
英夜は美森がこの一行のリーダーという訳ではないため彼の話に乗る必要性を感じなかったが、これ以上ロンリネスを疑い続けるのも無意味に思えてきて彼女を仲間に入れる事にした。
「うーん……ついて来るなら好きにしなよ、その代わり足引っ張んないでよ。」
「私もリコさんに同じく。」
リコと胡桃も英夜に続く形でロンリネスの同行を許可した。
「いいじゃんいいじゃん、じゃああんた達の名前を改めて聞かせて。」
無事美森達の仲間に加わる事が出来たロンリネスは嬉しそうな表情で4人にそれぞれ自己紹介をする様頼み込む。
「水前寺美森。」
「天城英夜だ。」
「滝内リコ。」
「三葉胡桃よ。」
「OK、分かったわ。」
4人の名前を知ったロンリネスはクルッと1回転しながら彼らが集まっている場所へやって来て自身も仲間に加わった事を態度でアピールする。
美森達は複雑な表情になりながらもロンリネスと一緒に大広間を跡にした。
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大広間を抜けた後、5人はしばらく廊下を歩き続ける。
その後、道端が崖で途切れている所にたどり着いた。
「あら、行き止まりね。」
リコは困った表情になりながらまた別の道を探すしかないのかと思い込む。
「そうでもないわ、ここの親玉はこの崖の下にいる。」
しかしロンリネスは崖の下にニュームーンの親玉がいる場所があると美森達に告げる。
それを聞いた美森達はいよいよ決戦が近いのかと思って緊張感が高まり息を飲む。
「でもどうやってそこまで降りるの? まさか飛び降りるなんていわないでしょうねぇ……」
胡桃が下までどうやって辿り着けばいいのか分からずロンリネスに質問する。
「正解でもあり不正解でもある。」
ロンリネスは胡桃の言った飛び降りるという答えは惜しいと言って、胸のポケットからピンク色の液体が入った小さな瓶を取り出し4人に見せつける。
「その香水は何?」
リコはその液体の中身は香水ではないかと予想し、ロンリネスに香水を何に使うのか尋ねる。
「これを靴に降りかけるの。」
ロンリネスは説明した通りに自身のブーツに香水を降りかける。
「そんな事してなんの意味があるんだ?」
英夜がそれと崖を下るの事にどんな関連性があるのか尋ねる。
「足元のオーラが一時的に強化されて垂直の道でも重力を無視して歩けるようになる、そういう特殊な香水なの。」
「マジで?」
「マジよ。」
ロンリネスは今使った香水は崖を歩く事が出来る特別な香水だと説明し、疑う英夜に断じてそうだと言い張る。
そしてロンリネスは香水を英夜に渡した後、早速崖から飛び降りてみせた。
美森達は咄嗟に崖の方を眺めるが、ロンリネスが崖に垂直に立っているのを見て香水の力は本物だと確信した。
「あれま、本当だ。」
リコは唖然とした表情でこの状況に驚く。
「あんた達もやりなよ、私が今実際にやってみせたんだから信用出来るでしょ?」
「仕方ねぇ、やるか。」
ロンリネスから自分達も香水を使う様勧められた英夜は自分の靴にも香水を降りかけ、他の3人の靴にも同じ様に香水をかける。
そして美森達も崖から飛び降りて垂直の地面に足を踏み入れる。
英夜はロンリネスに使った香水を返却する。
「さぁ、香水の効力は何れ切れるから急いで駆け下りるわよ!」
ロンリネスは受け取った香水を胸ポケットにしまった後、4人を先導して先に進む。
「何であいつ仕切ってんの?」
リコは飛び入りで仲間になったロンリネスに苦言を溢した。
「さぁ……」
胡桃は引きつった表情でリコに言葉を返す。
5人が崖から駆け下りていると蝿の悪魔達が沸いて出現し、美森達に襲い掛かって来る。
「あーあ、やっぱり来たか。」
英夜は親玉がいる最深部へ近づいている以上敵も当然沸いて来るだろうと予想していて、当然の結果とはいえ面倒な状況になった事を毒づく。
「さーて、思いっきり暴れるわよ!!」
ロンリネスは二丁の拳銃を取り出し、戦闘を楽しんでいると言わんばかりの笑みをうかべながら蝿の悪魔達に目がけて発砲する。
「ちょっと! 銃使うとか被ってるわよ!」
胡桃も二丁の拳銃を構えながら、同じ武器を使うロンリネスに抗議の言葉を漏らす。
「それは偶然でしょ、じゃああんた今後武器を変えればいいじゃない。」
ロンリネスは抗議する胡桃を軽く受け流し、彼女に愛用武器の変更を勧める。
「言ってくれるじゃない、私は銃が好きなのよ!」
「私だってそうよ。」
「2人共、武器の事で言い争ってる場合じゃないよ!」
美森はオーラを込めた足で迫って来る蝿の悪魔達に回し蹴りを食らわせながら言い争いをする2人を制止する。
英夜もリコもそれぞれオーラを込めた拳やナイフで軽い身のこなしで蝿の悪魔達を蹴散らしていく。
「皆さんよくやる~ゥ。」
ロンリネスは銃を連射しながらそれぞれの戦いを観察し、美森達の実力に感心する。
「調子のいい人だこと!」
胡桃はロンリネスと背中合わせになりながら楽観的な彼女に皮肉をぶつける。
「それはどうも。」
ロンリネスは皮肉を言う胡桃に同じように皮肉の礼で返す。
そして2人の銃使いは両手を左右に広げて蝿の悪魔達を撃ち落としていく。
「あっ! 面倒な奴らが来た!」
一方のリコは蟷螂の悪魔が8体程こちらに向かって来る事に気づき、再生能力を持つ敵を複数相手にしなければならない状況になった事を毒づく。
「ねぇ、あんたって天使!?」
そんな時ロンリネスが胡桃の背中から離れ、先程の大広間で自分の正体を見破ったリコに天使なのかと尋ねる。
「そうだけど!」
リコは蝿の悪魔達を斬り倒しながらロンリネスの質問に素直に答える。
するとロンリネスは右手に持っている銃をホルスターに収め、胸のポケットから先程の香水を取り出しリコに投げつける。
「これでどうしろって言うの!?」
香水を受け取ったリコはそれを自分に渡した理由をロンリネスに尋ねる。
「オーラを込めて、蟷螂共に降りかけてみて!」
ロンリネスは香水のプッシュを蟷螂の悪魔達に目がけて押す様リコに指示する。
リコはロンリネスの言葉に半信半疑だったが、取りあえずオーラを香水を持っている左手に集中させプッシュを押す。
すると香水から放たれた気体が火の玉へと変わり蟷螂の悪魔1体に突撃して行く。
「ギャアアアアアアアア!!」
火の玉を浴びた蟷螂の悪魔は全身火だるまになり炭になって消滅した。
「どうなってんのコレ!?」
リコは香水の気体が火の玉になった原理をロンリネスに尋ねる。
「その香水は天使のオーラに反応して可燃する成分も含まれているの! 再生能力の高い下級悪魔でも一撃で倒せるわ。」
ロンリネスは再び右手に銃を持ちながら火の玉の仕組みを説明する。
「そりゃあ便利だね、あんたが作ったの!?」
リコはロンリネスにこの万能な香水は自分で作ったのかと質問する。
「企業秘密よ!」
ロンリネスは蟷螂の悪魔達に銃を発砲しながら香水の入手経路は明かさないと宣言した。
「秘密主義者だねぇ……」
リコは自身の身の上や香水の入手経路を深く語ろうとしないロンリネスに皮肉を呟きながらも、取りあえず渡された香水は便利だと判断して引き続き蟷螂の悪魔達に火の玉攻撃を行う。




