12話 胡桃とリコ6
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胡桃とリコは1階の部屋をある程度探索した後2階に上がった。
しかし2階の廊下には部屋が左右にそれぞれ3つ、合計6部屋もあり2人は探索は面倒くさいと感じてしまう。
「これ、1部屋ずつ調べていくしかないのかなぁ……」
胡桃は頭を抱えながらこれから手間のかかる探索をするのかと思い悩む。
「ん~ちょっと待って、なんか効率の良い方法があった筈……」
リコは部屋を手早く調べられる方法を聞いた記憶がある様で、腕を組みながらそれが何だったかを思い出そうとする。
「本当?」
「うーん……あっ思い出した!」
リコは解決策を思い出し、嬉しそうにスマートフォンを取り出す。
「スマホ? それで何が分かるの?」
胡桃はリコのスマートフォンを不思議そうに見つめながら、それが何の役に立つかを彼女に尋ねる。
「今スマホの電波は圏外になってるでしょ?」
「ええ。」
「この電波が高くなると、それだけ現実世界との繋がりが深い空間って事になるの。」
「それもお父さんからの受け売り?」
リコから結界でのスマートフォンの使い方を聞いた胡桃はそれも教えられた事なのかと尋ねる。
「そうだね、繋がりの深い空間だとそれだけ現実世界に戻りやすくなるし、結界の中心に行く近道がある事もある。」
リコはにっこりと笑いながらスマートフォンの電波状況の良い場所は便利な事があると胡桃に伝える。
「お父さんは随分結界の事に詳しかったのね。」
胡桃は今リコが見せた笑顔を見て父親を失った悲しみを隠すために無理をしてるのかなと思いつつも彼女の父親を褒める。
「天使は悪魔と関わりが深いから、争いを好まない天使でも戦闘能力の高い同胞から結界の事を伝えられる事もあるんだよ。」
「成程、電波の良い空間に行ったら英夜達にも教えなきゃ。」
2人は話し合いを終えた後、電波が届きやすい部屋の探索を開始する。
胡桃は右側のドアをまず最初に開けて中に入り、スマートフォンの電波を確認する。
しかし画面に映っている電波状況は圏外のままだったためすぐに部屋を出てドアを閉める。
それから2番目、3番目の部屋に入るがいずれもスマートフォンは圏外のままだった。
そして向かいの左側にある4番目の部屋に入った時、画面の電波に変化が起きた。
「胡桃ちゃん、この部屋あたりだよ!!」
リコは大はしゃぎをしながらドアの前にいる胡桃を呼びつける。
胡桃も部屋の中に入り、リコのスマートフォンの画面を見る。
「本当だ。」
スマートフォンの画面を見た胡桃は電波が最大まで良くなっているのを見てこの部屋に入った事に安心感を覚える。
「それに見て見てコレ!」
続いてリコは部屋の右端の方を指さす。
そこの床には緑色で描かれた六芒星の紋章が存在した。
「リコさん、あの紋章は?」
胡桃は床に描かれた六芒星が何を意味する物なのかをリコに質問する。
「これは結界内のワープホールだよ! 何処か別の場所にワープできるよ!」
「ワープできる場所ってランダム?」
六芒星が自分達が結界に入るときに使ったワープホールと似た様な物だと聞かされた胡桃は、その先に続く道は無造作になっているのではないかと思い、入る事に抵抗を感じる。
「結界に入った事のある同胞達の証言によればワープ出来る場所はちゃんと決まってるよ、だから安心しなよ。」
リコはワープホールに続く道には法則性があると説明し、胡桃を安心させる。
「ならよかった、じゃあ早速……」
ワープホールに安全だと知った胡桃はその中に入り先に進もうとする。
「待って、お腹空いた。」
だがその時リコは胡桃を呼び止め、いつの間にか手に持っていたタコス味と書かれたポテトチップスの袋を開けて床に座り込んだ。
「いやいや、ポテチ食べてる場合じゃないでしょ……」
胡桃は突然ポテトチップスを食べて休憩を取ろうとするリコに呆れて注意をする。
「だってこの先もっと手強い戦いが待ってるじゃん、その分私の血が少なくなってくるんだよ!」
リコは自身が血液を使って武器の強化等を行う関係上、その分食料を食べて血を作らなきゃ貧血を起こしてしまうと胡桃に訴える。
「まぁ……それもそうね、急いで食べてよ。」
胡桃はリコの言葉が言い訳に感じながらも、実際に貧血を起こされて戦闘不能になっては大変だとも考え、苦い表情で彼女の意見に同意する。
「じゃ、そーゆー事でいただきまーす♪」
リコは陽気な態度で食事を始める。
胡桃はそんなリコを見て、彼女はいつも能天気でおそらく子供の頃からそうだったのであろうと思い、自分はそんな彼女のどんな恩人になったのだろうと不思議に感じる。
「食べ終わったみたいね。」
リコがポテトチップスを食べ終えたのを確認した胡桃はワープホールの中に出発しようと彼女に持ち掛ける。
「うん、じゃあこの後は……ビーフシチュー味だ――――!!」
しかしリコは次にビーフシチュー味と書かれたポテトチップスを取り出し、今度はこれを食べると目を輝かせながら宣言する。
「もういいよ!!」
胡桃は強烈な勢いでリコの頭を叩き、ツッコミを入れる。
リコは結局ポテトチップスのお代わりを断念して、2人はワープホールに入る準備をする。
「ねぇ胡桃ちゃん。」
「何?」
「私達の最初の出会い、思い出した?」
そんな最中、リコは蟷螂の悪魔を倒した直後に言った『胡桃ちゃんは私の恩人』という言葉の意味を思い出したかを彼女に伺う。
「いえ、そこはどうしても……」
「早く思い出してね。」
「ええ、努力するわ。」
胡桃はリコに言われた最初の出会いがどうしても脳裏に浮かばず困惑するが、友達のためにも何とか思い出さなきゃと頭を抱える。
そんな胡桃にリコは無言で彼女の肩に手を置き、今はワープホールへ進もうという意思表示をする。
2人はお互い背中合わせになったてワープホールの上に立つ。
するとワープホールが輝きだし、2人は光に包まれて消え去った。
そして2人がたどり着いたのは大量の紙幣が並べられた広い金庫の中だった。
「これ、全部偽札だよね。」
胡桃はこの金庫にある金は全て本物ではなく、リコが結界の中に入る前に言った偽札だと推察する。
「十中八九そうだろうね……お父さんもバカだな、偽札なんかにムキになっちゃって……」
リコは周りにある偽札を見渡すなり真面目な表情になり、死んだ父親の事を想う。
「リコさんのお父さんと偽札って何か因縁があるの?」
胡桃は今のリコの独り言を聞いて、彼女の父親は過去に偽札絡みで何かあったのかと察する。
「大学生の頃に片思いしていた人間の女性が実は偽札を製造している組織の一員で、信じていた者に裏切られた感じがして偽札を憎む様になったって聞いた。」
「なんだか可哀想……」
「で、今度は私が偽札関連でお父さんを失うとは、何とも皮肉だよね。」
リコは親子二代で偽札のせいで不幸な目に合うこの状況を想うと辛くなり、悲しみを押し隠す様に瞳を閉じる。
「だったら終わりにすればいいよ、こんな因縁。」
胡桃はこの結界にいる親玉を倒して偽札の流出をストップさせ、リコの代で偽札の因果を断ち切ろうとアドバイスする。
「勿論そのつもりだよ、さてとこの中から出たい所だけどまずは男達に今いる場所を連絡したほうがいいんじゃない?」
「ああ、そうだった! 英夜達が今電波の届く場所にいるかどうかは分からないけど、念には念を入れて。」
胡桃は思い出した様にベルトの右の尻あたりに付けているホルスターからスマートフォンを取り出し、電波が立っている事を確認して英夜に電話を掛ける。
電話は7,8回コールした後、無事に繋がった。
『胡桃か? 結界の中って電話繋がるのか?』
「うん、場所によって繋がる所と繋がらない所があるみたいだけど、今はお互い繋がる場所にいる様ね。」
『そうだったのか、スマホにも目を通しとくんだったな。』
「私達は今偽札が保管されている金庫の中にいるわ、そっちはいまどんな所にいる?」
『俺達はさっきから湧いて来る敵を倒したりしながら廊下を進んでるよ、お前の所に近づいているかどうかは分からんがな。』
「道を進んでいる最中緑色の六芒星が描かれた地面を見つけたら進んでみて、リコさん曰く、それは近道に続くワープホールになってるそうだから。」
『そうなのか? まぁ取りあえず探してみるわ、それじゃあな。』
「うん、じゃあ。」
胡桃は電話を終えてスマートフォンをホルスターにしまう。
「それじゃあ、この金庫の扉を打ち破るよ。」
胡桃が電話を終えたのを確認したリコは扉を破壊して外に出ようと呼びかける。
「うん、でもこういう所の金庫の扉ってかなり頑丈に出来てる物じゃない?」
「確かにねぇ……でも外に出る方法が全くない訳でもないよ。」
「どうする気?」
「私の血をブシャーって出して扉に血痕を付けて、そしてオーラを送ってそれを溶液に変える。」
「溶かすって事?」
「それが一番手っ取り早い。」
リコは扉を溶かして外に出ると胡桃に宣言した後し、扉まで歩き出し折り畳みナイフを手に持つ。
そしてナイフを自身の頸動脈へ近づけ、扉に血痕を付着させようとする。
その時、突然扉からピーッという音が鳴り出し、開き始めた。
突然の出来事に2人は驚き、胡桃も扉の前まで歩き出す。
扉が開き、その先に会った光景は大広間と辺り一面に横たわる蝿の悪魔達、そして赤い軍服の少女ロンリネスだった。
「貴女は誰?」
胡桃は警戒心をむき出しにしながらロンリネスに名前を聞く。
「私はロンリネス、そうねぇ……通りすがりのデビルハンターっとでも言っとくわ。」
ロンリネスは胡散臭そうな微笑みを浮かべながら自己紹介をする。
「貴女、私達の味方なの?」
胡桃は周りに横たわる悪魔の屍を見てロンリネスが片付けたのだろうと推察し、彼女は自分達に敵意が無いのではと思い始める。
「待って、胡桃ちゃん。」
しかしそんな時、リコは胡桃の肩に触れ、彼女に警戒心を解かないよう注意する。
「どうかしたの?」
ロンリネスは自信を疑いの目で見つめるリコに声をかける。
「あんた、混じってるでしょ。」
「混じってる?」
胡桃はリコがロンリネスに言い放った『混じってる』という言葉の意味が分からず困惑する。
「胡桃ちゃん、こいつからは悪魔の気配を感じる。」
「え!?」
リコからロンリネスが悪魔だと指摘された胡桃は再び警戒心を滾らせ後退りをする。
「でも普通の悪魔の気配じゃない、人間の血も入っている、つまりこの女は半魔だよ。」
リコはロンリネスから感じる気配が人間と悪魔が混ざり合った物だと胡桃に伝え、胡桃は今しがた彼女が言った『混じってる』とはこの事かと理解した。
「ふーん、分かるんだ……最も天使と悪魔は種族の判別に長けてる生き物だけど。」
ロンリネスはリコに自身の正体を見抜かれた物の、余裕に満ちた表情は変わらなかった。
「貴女はその……人間と悪魔のハーフ?」
胡桃はロンリネスに人間と悪魔が結ばれて生まれた混血児なのかと尋ねる。
「それはどうかしら? 取りあえず私はオーラナイトではないけれど悪魔を狩って生計を立てているわ、まだあんた達の味方じゃないけど敵でもない。」
ロンリネスは自身が混血児かどうかははぐらかしたが、2人に警戒を解くよう説得する。
「半分だけとはいえ悪魔のあんたがどうして同胞を狩るの?」
「悪魔からは人間扱いされて差別されるのがオチだし、それなら人間として生きた方が楽かなーって思っただけ。」
「人間からも悪魔扱いされるんじゃないの?」
「それもそうね……でもバレなきゃ問題ない、人間にはオーラが発現していても種族の探知、及び判別能力は無いからね。」
「ふーん……でもあんたを信用するのは難しいよ、何で金庫を開けたの? というかどうやって開けたの?」
「金庫を開けたのは中を単純に中を調べたかったから、どうやって開けたかはオーラでこじ開けたのよ。」
「オーラでこじ開ける? 可能なの?」
「現実世界の電子ロックの金庫を開けるのはオーラを使っても難しいけれどこの金庫は結界の中だけにある物、だから開け閉めもオーラで何とかできるわ。」
「成程ねぇ……」
リコとロンリネスのやり取りは一先ず終了し、リコはロンリネスを信じていいのかどうかを考え込む。
「悪魔の血が入ってるからか貴女には偏見を抱く事もある、それもあるんだけども私達は初対面である貴女の事は当然素性も知らないし信用出来ない所もあるよ。」
そこに胡桃が話に割り込み、自分達は見ず知らずの存在であるロンリネスを信用する訳にはいかないと主張する。
「私を信じるか信じないかはお任せするわ、でもこうして出会った以上行動を共にした方がいいんじゃないの?」
「それもそうかもしれないけれど……」
ロンリネスから共通の目的で結界に来たのなら行動を共にするべきと指摘されたリコは、得体のしれない相手と一緒にいると何をされるか分からず決断を迷ってしまう。
「ほら、私達が話をしている間にまた人が入ってきた。」
するとロンリネスは右の方を指でさしながら2人に自分がさしてる方向を見てくれと頼む。
2人は金庫の外に出てロンリネスが指さす方向を見ると、大広間の奥で緑色に発行するワープホールがあるのを確認した。
そしてワープホールから2人の男性が現れる。
美森と英夜だ。
「本当にワープ出来たな。」
英夜は胡桃との電話の後ワープホールを見つけたらしく、彼女から言われたそれを実際に体感して感心した。
「偶然とはいえワープホールが見つかって良かったね。」
同じく美森もワープホールで通路の進行を省略できた事をありがたく思う。
「あっ! 英夜達だ!」
男性陣2人を見た胡桃は彼等と合流出来て一安心する。
「知り合いなの? それじゃあ彼等も含めて話をしましょう。」
ロンリネスは美森達の存在をリメインから聞かされて知っていたが、胡桃とリコに余計な警戒心を与えない様あえて知らぬフリをする。
そして美森達も交えて自分がパーティに入っていいのかどうかを話し合おうと提案した。




