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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第二話「幼馴染は魔法少女!? 情熱の戦士ヴァルルビィ」
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情熱の戦士! ヴァルルビィ!

「なんだ、貴様は。コウモリにしては異様な魔力を有しているな」

「俺っちはバンティー。お前らダイカルアを壊滅するためにやってきた正義の使者だバ。そこのガール、俺っちに力を貸してほしいバ」

「私!? っていうか、正義の使者ならあんたが戦うんじゃないの」

「俺っちのこの姿に戦う力があると望む方が無意味だバ」

 開き直っちゃったよ。清々しぎる戦力外申告に、両陣営とも口をあんぐりと開けていた。


「敵は怯んでるバ。今のうちに君の力を使ってほしいバ」

「さっきから何なの、あんた。君、君って私にはちゃんと華怜って名前があるんですけど」

「華怜か。いい名だバ。君は魔法少女になる気はあるかバ」

 魔法少女だって。まさか、打開策ってそういうこと。さしもの華怜も唐突の提案に悩んでいるようだった。

「魔法少女ってダイカルアと戦っている謎の戦士でしょ。私がそれになれるってわけ」

「そうだバ。君にはかなりの魔力を感じるバ。ダイカルアの連中が付け狙うのも頷けるバ。君がその気になればいつでも魔法少女になれるバ」

「私が魔法少女ね」

 止めなよ、華怜。常識的に考えて胡散臭いでしょ。危機的状況とはいえ、肯定するわけ……。


「やるわ」

 即決かよ。いやいやいや、すんなり決断しすぎでしょ。十秒も悩んでなかったし。

「変身できれば、あの怪物たちをぶちのめせるのよね。なら、やらない理由がないじゃない。バンティーとか言ったかしら。早く変身させてちょうだい」

「あまり急かさないでほしいバ。君の変身アイテムを託すバ」

 ボクにダイヤモンドを渡した時と同じように、バンティーは翼を交差させると一個の宝石を生み出す。それは炎のように紅に染まっていた。


 手のひらに収まった赤い宝石を華怜はしげしげと見つめている。

「まさか、本当に魔法少女を生み出しただと。ええい、バグカルア、さっさとあの女を始末しろ」

「ちょっと、変身前を狙うなんて卑怯なんじゃない」

「うるせえ! そんなお約束を守ってられるか」

 ヒーローの変身前を潰せば勝てるって、やりそうでやらない戦法だよね。ベアカルアの号令とともに、四体のバグカルアが一斉に飛びかかって来る。


「今こそ変身するバ。アーネストレリーズ! ミラクルジュエリールビィと叫ぶバ」

「ダサ過ぎない、その呪文。まあ、背に腹は代えられないわね」

 バグカルアの指先が肉体にかかろうとする。その寸前に華怜は右手に握っていた宝石を突きつけた。


「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリールビィ!」


 ……あ、ありのまま、今起こったことを話すよ。華怜が呪文を唱えた瞬間、彼女の衣装が変わってバグカルアたちが吹っ飛ばされていた。何を言っているのか分からないと思うけど、ボクも何が起きたのか分からない。

 セーラー服を着ていたはずが、真紅のフリフリドレスに身を包み、胸にはルビィのブローチがついていた。ボクが変身した姿の色違いと言えば手っ取り早いだろうか。相変わらず無駄に露出が激しいな。


「魔法少女に変身するまでは0.05秒に過ぎない。万が一その間に攻撃しようものなら、特殊バリアによって弾き返されるバ。変身中に攻撃するなんて姑息な手段は通じないバ」

 よかった。変身している間にやられたらどうしようって思ってたんだ。きちんと対策を施している辺り抜け目ないな。


 本当に変身してしまった余波か、華怜は自分の姿をしげしげと観察している。華怜って、ザ・女の子みたいな服はあまり着ないからすごく新鮮だな。

「さあ、ダイカルア連中に君の名を聞かせてやるバ」

「赤羽華怜」

「って違う!! 本名を名乗ってどうするんだバ。その姿の名前が浮かんでいるはずだバ」

「ええ、このクソダサい名前を言うの」

「下手に変身前を狙われるよりはマシだバ」

 敵の目前で変身しておいて正体バレも何もあったもんじゃないけど。うん、あの名乗りは恥ずかしいよね。華怜もまたそっぽを向いている。


 だが、決心したのか凛とした表情を取り戻し、肩幅に両足を開いた。

「純情可憐! 我、ひたむきなる情熱の戦士! ヴァルルビィ!」

 威勢よく指を突きたてるも、非情な沈黙が流れた。まあ、こうなりますよね。

「ねえ、このヴァルルビィっての改名できないの。こんなの名乗るくらいなら本名明かした方がマシよ」

「俺っちに言われても困るバ。俺っちが命名したわけじゃないバ」

「じゃああんたの上司を出しなさい。力づくで名前変えさせるから」

「俺っちの首が飛ばされるから無理だバ」

 モンスタークレーマーと従業員とのバトルみたいになってるぞ。そんなコントに痺れを切らしたか、ベアカルアが吼えかかった。


「ヴァルルビィとか言ったか。どんな力を持っているかは知らんが魔法少女としては赤子に過ぎねえ。バグカルア、軽くひねりつぶしてやれ」

 号令を受け、バグカルアが再度飛びかかる。

「来たバ。ヴァルルビィの力を思い知らせてやるバ」

「あんたに命令されるまでもないわ」

 華怜、もといヴァルルビィは後ろ足を引き、腰に右手を添える。ゆっくりと息を吐き、迫って来るバグカルアに標的を合わせる。


 そして、間合いに入った瞬間。ヴァルルビィはバグカルアの腹を思い切り殴りつけたのだ。


 いやいやいや、何やってんの! しかも、威力は絶大だったみたいで、バグカルアは後続を巻き込んで吹っ飛ばされ道場の壁に激突した。人間(?)が壁にめり込むって漫画でしか見たことないよ。

「すごいじゃない。腕力があり得ないほど上がってる」

「魔法少女の身体能力は人間のそれを遥かに凌駕する……って、そうじゃないバ。魔法少女になったんだから魔法を使うバ」

「え? 魔法少女って敵を肉弾戦で倒すんじゃないの。私が見てたアニメの主人公はそうしてたわよ」

 確かに、ボクが幼稚園ぐらいの時にやっていた朝の女児向けアニメのヒロインは変身して敵と殴り合っていた。まあ、ボクら世代で魔法少女といえば二人で手を繋いで変身するプリティでキュアキュアなやつらだから仕方ないよね。でも、変身して早々腹パンするのはどうかと思うよ。


 その後もヴァルルビィは戦法を改めることなく、残りのバグカルアに回し蹴りやら間接締めやらおおよそ魔法少女らしくない攻撃を加えていく。相手からの反撃もスカートを翻して優雅に躱す。そして、気が付いた時にはバグカルアたちは全滅してしまったのだ。

「こんなところね。思ったより大したことないじゃない」

 グローブで汗をぬぐい、ベアカルアへと構えをとる。鬼気迫る立ち回りにさしものバンティーも圧倒されていたようだ。それでも、ここでおずおずと口を開く。

「ヴァルルビィ。君に言っておきたいことがあるバ」

「うるさいわね。これから本番だから邪魔しないでよ」

「うーむ、ある意味大事なことだと思うバ」

「ああもう! うっとうしいから早く言ってよ」

「さっき戦っている間パンツ丸見えだったバ」

 指摘されてヴァルルビィは咄嗟にスカートを抑える。


 あえてスルーしてたけど、主に回し蹴りしている時に中身が御開帳していたんだよね。ちなみに色はピンクでした。

「あんた、さっきからずっと見てたわけ」

「これがあるから魔法少女の妖精は辞められないバ」

「動機が不純すぎるわよ。あんたの他は怪物しかいなかったからまだマシだったけど」

 スカートをガードしたまま周囲を見渡す。ごめんなさい、華怜。ばっちり目撃してしまいました。


「ねえ、ジャージとかないの。これじゃまともに戦えないじゃない」

「スカートの下にジャージは邪道だバ。正義の味方の魔法少女がそんな真似をするわけにはいかないバ」

「じゃあ魔法でどうにかできないの」

「そんな都合のいい魔法、あるわけないバ」

「……待って。頭の中に呪文が浮かんだんだけど、これを唱えればいいのかしら」

 ヴァルルビィは手のひらを広げると目をつむった。


「下腹部を守りし正装よ、恥辱部を欺け! 下履召還サモンスパッツ

 指先に光が灯ったものの、特に変調は訪れない。跳ねるだけで何も起こらないって類じゃないよね。しかし、ヴァルルビィだけはなぜだか得意顔だ。一体いかなる効果が表れたというのか。


「残念だったわね。これでもうパンチラすることはないわ」

 誇らしげにスカートを捲る。ちょっと、血迷ったの。ボクは思わず顔を伏せる。けれども、怖いもの見たさに恐る恐る視線を戻していく。

 ピンクのパンツが顕現している。そのはずだった。しかし、ヴァルルビィの下腹部はしっかりと短パンでガードされていたのだ。

「スパッツを生成するなんて反則だバ。男のロマンを返すバ」

 喚き散らすバンティーを達観している。確かにこれならパンツを見られる心配はない。でも、魔法少女になって初めて使った魔法がスパッツを作るってのはどうなんだろうか。

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