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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第八話「腹ペコの錬金術師! 創造の戦士ヴァルトパーズ」
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ファイトいっぱーつ

 一難去ってまた一難ぶっちゃけあり得ないとはよく言ったもので、またもや壁にぶち当たることとなった。しかも、比喩表現ではなく、正真正銘の壁だ。

 ボクらの身長程もあるコンクリート壁が完全に行く手を遮っていた。典型的な袋小路。道がないのでは進みようがない。

「やっぱり道を間違えていたんじゃないの。明らかに行き止まりじゃん」

「おかしい。きちんと最短ルートを探ってきたはず」

 首を傾げながら、自前のスマートフォンを操作している。ちょっとした拍子に画面を覗くことができたけど、彼女の作成したルートにボクは愕然とするしかなかった。


「いや、いくらなんでもこれじゃ行き止まりになっても文句は言えないよ」

「単純かつ明快なルートなのに」

 反論するものの、計画時点でこうなる可能性に気付けと言いたくなる。なぜなら、駅から店まで地形を無視して一直線になるルートを選んでいたのだ。むしろ、ここまで手詰まりにならなかったのが奇跡だろう。


 今更引き返していては確実に間に合わない。残念だけど諦めるしかないか。多分、今日でなくても買えるだろうし。

 帰宅する気満々でいると、昴は左手でボクの肩を叩いた。

「まだ道はある。力を貸してほしい」

「いや、道なんて……」

 ボクは唖然とした。昴はあらぬ方向を指差していたからだ。


 彼女が意図しているルート。それは壁の上であった。いやいや、道ですらないじゃん。猫じゃあるまいし、そんなところを通ろうなんて正気の沙汰じゃない。

 でも、昴は聞く耳を持たない。制止する間もなく、壁に両手をかけてよじ登ろうとしている。まさか、本気で壁の上を行くつもりか。


 しかし、思うように力が入らないのか、四苦八苦している。やはり、無謀なんじゃないか。

「優輝、お願いがある。馬跳びの要領で踏み台になってほしい。もうちょっと高さがあれば登れるはず」

「でも、登ったところでどうするんだよ」

「その後優輝を引き上げる」

「簡単に言うけどさ」

「早くして。時間がない」

 切迫した表情に、ボクは二の句を告げられなくなる。有無を言わさぬとはこのことか。仕方なく、ボクは四つん這いになり、壁に寄り添った。


 程なくして、全身に重圧がかかる。重いなんて発言したらさすがに失礼だな。ただ、壁をよじ登ろうと執拗に足に力を入れているので、重圧がかかるのは仕方ないといえば仕方ない。

 地面と睨めっこしているので、昴がいかなる状態になっているのか見当がつかない。執拗に踏まれていることから、苦戦しているということは想像できる。やはり、無謀だったんじゃないか。諦めさせようとボクは顔を上げる。


 しかし、顎を持ち上げたまま停止してしまう羽目になった。裾が長いとはいえ、昴が穿いているのはスカートだ。足蹴りされた状態で天を仰いだ場合、視界に入ってくるものは言わなくても分かるだろう。

 バッチリと白い布地を目撃してしまい、慌てて顔を伏せる。拍子に腕の力が抜けそうだったので、堪えるのに精いっぱいだった。そろそろ解放してくれないと色々な意味で危ないぞ。


 やがて、背中にかかっていた重圧が急激に消え失せた。もう姿勢を崩してもいいよね。また例の布地を目撃してしまったら立ち上がることすらままならないぞ。

「へたっている場合じゃない。来て」

 壁の上から声をかけられる。本当によじ登ってしまうなんて、和菓子への執念恐るべし。


 馬乗りにされている間に大分体力を消耗してしまったのか、思うように力が入らない。全快だったとしても自力で登りあがるのは無理そうだけど。

 すると、右腕が一気に引き上げられる。何事かと驚嘆したが、どうということはない。昴が壁の上から引っ張り上げようとしているのだ。


 それにしても、予想以上の力だ。昴は筋肉質というか、華奢という印象が先行する。なのに、掴まれている腕は万力にかけられているようだった。変身後のヴァルエメラルドを制圧できることからして、少なくとも運動音痴ではなさそうだ。

 彼女の助けを得て、着実に壁の上へと上り詰めていく。もう少し、もう少しだ。

「ファイトー」

「いっぱーつ」

 やるよね、こういう時。つい乗せられてしまった。でも、掛け声をあげたことが吉と出た。自分でも予想外の力を発揮でき、上半身を押し上げることに成功したのだ。体半分を乗せてしまえばしめたものだ。下半身だけなら、どうにかよじ登ることができる。


 やっとこせ二人そろって壁の上まで到達した。気分はネコか泥棒だ。前者はともかく、ろくでもないことをしているのは確かだな。不安定な足場に苦戦しつつも、慎重に進んでいく。今更だけど、素直に大通りを行った方が早かったんじゃないかな。しかも、こんな状況を警察に報告されでもしたら、一発でお縄頂戴になるし。


 やっとこせ壁の果てへと到達した。飛び降りて怪我をしたらどうしようと心配したけど、おあつらえ向きに着地地点にゴミ袋が用意されていた。いや、不埒者が不法投棄しただけだろうね。

 ゴミのクッションを活用して地上に降り立ち、間髪入れずに駆け抜ける。またも細道が続くけど、あやまたずして出口が覗く。よし、やっと細道地獄から解放される。昴と拳を付き合い、スパートをかけた。

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