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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第七話「ヴァルエメラルドの正体は誰だ?」
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ようやく対面を果たしました

 月曜日の放課後。集合場所にボランティア部の部室を指定してあるため、ボクは渚先輩と一緒に待ち受ける。先輩は相変わらず本を読んでいるけど、ページをめくる手がせわしない。流し読みできそうな内容ではないはずなんだけどな。

「本当にヴァルエメラルドの変身前が来るの」

「実際に会って約束を交わしたから、間違いはないはずなんだけど」

 授業が終わって一時間が経とうとしている。収穫が得られず下校時間を迎えては本末転倒だ。ボクも本でも読んで時間を潰そうとしたけど、全然内容が頭に入ってこない。


 無意味にページをめくっていると、勢いよく扉が開かれた。やっと来たか。ボクよりも頭一つ小さいぐらいの小柄な女の子。せわしなく動くアホ毛が……ついていない。

 それどころか、道着に袴というハイカラさんが通りそうな恰好で仁王立ちしている。そうだ、彼女も呼び寄せたんだっけ。

「ようやく来たかと思ったらレンちゃんか。期待させないでよ」

「失礼ね。エメラルドと会えるっていうから、練習を抜け出してきたんじゃない」

 全身汗まみれなのが彼女の苦労を物語っていた。むしろ、よく抜けることができたな。剣道部って練習が厳しいって噂なのに。


 汗臭さを忌避する渚先輩からハンカチを受け取り、華怜は顔を拭う。こっちはいつもの面子が揃った。さて、エメラルドはちゃんとやってくるのか。

「優輝。結局、ヴァルエメラルドってどんな子だったの」

「えっと、会ったことがあるから分かると思うけど、とにかく明るい子だったよ」

「ヒントに乏しいわね。安心できないじゃない」

 少なくとも、きちんと穿いてますよ。目撃したことがあるから間違いない。実は、対面するにあたって、「サプライズがしたいから、ぼくのことは詳しく説明しないでね」って釘を刺されているのだ。でも、華怜や渚先輩と面識があるといえばあるから、下手なことを言うと露呈しそうなんだよね。とっとと本人が登場してくれれば悩むことないんだけど。


 飽きることなく華怜と渚先輩がいがみ合っていると、再びドアがノックされた。ようやく来たか。胸をなでおろしつつ、ボクは扉を開く。

 学校指定のセーラー服。今どきの学生にしては珍しく、校則に従った長いスカート丈にしている。髪も首筋で切りそろえられているが、ブロンドの毛色が唯一の反抗心といったところか。長身なので圧迫感があるけれども、眠そうな眼が印象を和らげていた。

 あれ、エメラルドってこんなに背が高かったっけ。おまけに、トレードマークであるはずのアホ毛が消え失せている。


「蘭子だと思った。残念、昴でした」

 訝しんでいると、勝手に種明かししてくれた。ですよね。取り巻きの方が先にやってくるとは。肝心の当人はどこにいるんだよ。


 すると、昴が半歩横にずれた。長身に隠れていたために見えなかったけど、小柄でアホ毛の少女が意気揚々と腰に手を当てていた。そして、親指で自分の首元を指すと、歌舞伎の見得のようなポーズをとった。

「蘭ちゃん、参上」

 デンライナーへお帰り下さい。って言ってはいけないか。


「随分遅かったね。来ないかと思ったよ」

「ボランティア部なんてどこでやってるか分からなかったからさ。迷いに迷ったよ」

「間違ったことは言っていない。活動するなら大々的にやるべき」

 逆に責められているのは何故だろう。活動拠点を決めたのは何世代も前の先輩だから、文句はそちらにお願いします。


「誰かと思ったら、前にカードゲームの大会で会った子じゃない。えっと、天才ゲーマーMだっけ」

「Lよ。間違えないでよね」

 蘭子はむくれて華怜を指差す。天才ゲーマーMってノーコンティニューでバグスターを倒す研修医になっちゃうじゃん。

「あなた、よく見たら前に会ったことあるわよね」

「先輩はマサッキーの取り巻きだっけ。その時じゃないの」

「いや、もっと前に……って思い出したわ」

 渚先輩は蘭子と知り合いだったのか。合いの手を打つもんだから、みんな注目している。


「あなた、うちの部員でしょ。全然顔見せないもんだから、つい忘れてたわ」

「そういえば、ぼく部活動入ってたな。入学して一回行っただけだから、つい忘れてたわ」

 自信たっぷりにオウム返ししないでください。言われてみれば、新入部員の顔合わせの時にいたような覚えがある。そこからすぐ来なくなったから、忘却の彼方へ送られていたよ。

「でも、新入部員は信楽胡蘭しがらきこらんという名前だったような。あなたの名前は……」

「ぼく? ぼくは五十嵐蘭子だよ」

「ワタシは土橋昴」

 昴が便乗して自己紹介する。渚先輩の言う通り、名前だけ聞くと別人だよな。他人の空似ということもありうる。


 悩んでいると、蘭子は柏手を打った。

「知らないのも尤もだね。だって、信楽胡蘭ってぼくが前に使ってたハンドルネームだからさ」

「じゃあ、これは偽名なの」

「うん。うちの中学は部活動強制でしょ。だから、放課後にゲームするために隠れ蓑として利用してたわけ。ボランティア部ってろくに活動してないでしょ」

 部活動で偽名登録してまでゲームするなんて、よほどのゲーマーなんだな。本当はやっちゃダメだからね。それに、ろくに活動してないは失礼だな。反論できる程実績はないけど。


「それで、あなたがヴァルサファイアの正体なんだよね。えっと、名前は」

「美波渚よ」

「渚か。じゃあ、ナギッサで」

「なによ、その鋼の錬金術師のOPみたいな名前」

 遠い日の記憶を君の手で切り裂くんですね、分かります。渚先輩を呆れさせるのはある種の才能なんじゃないかな。

「それで、そっちのチンチクリンが」

「誰がチンチクリンよ。私の方が背が高いでしょうが」

「いいや、ぼくだね。だって毎日牛乳三本飲んでるもん」

「勝った。私、五本飲んでる」

 何で張り合ってるんですか。それだけ飲んでよくお腹壊さないな。

「ちなみにワタシは七本飲んでいる」

 話をややこしくしないでください、昴さん。


「自己紹介しといてあげるけど、私は赤羽華怜よ」

「じゃあレンちゃんだね」

「どうしてそうなるのよ」

「レンちゃん一択でしょ。あなた、意外と気が合うわね」

 妙なところで蘭子と渚先輩が意気投合している。友情の握手なんか交わしちゃってるし。


「信楽胡蘭なんて大層な偽名使ってるけど、あなたゲームの大会ではLって名乗ってたわよね。なんか理由でもあるの」

「気分転換かな。いちいち信楽胡蘭と名乗るのは面倒くさいし。ぼくの本名は蘭子でしょ。だから、名前の頭文字をとってLにしたの」

 そんな単純な理由なのか。でも、一つの疑問が生じる。

「蘭子だったら、LじゃなくてRじゃないの」

「私も思った。Lだと『らんこ』ではなく『るぁんこ』になるわよ」

「そうなの。すばるん、ぼくの名前をローマ字読みすると『Lanko』になるとか言ってなかったっけ」

「今の今まで間違いに気づかないなんておバカさん」

「くっそー、はめられた」

 地団太を踏むけど、むしろどうして気が付かないんだよ。「Lanko」でも「らんこ」と読めなくはないけどさ。

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