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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第七話「ヴァルエメラルドの正体は誰だ?」
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ヴァルエメラルドの正体

「また迷惑をかけている。性懲りもない」

 うろたえていると、どこからともなく声がかけられた。フードパーカーを被った長身の少女。眠そうな垂れ目で、ポケットに手をつっこんでいる。

 謎の少女が出現した途端、エメラルドの表情が強張った。威圧的だった態度はどこへやら。さりげなく退散しようとしている。


 だが、少女は先回りしてエメラルドの襟をむんずと掴んだ。魔法少女の動きよりも先行できるって、寝ぼけた顔をしつつもなかなかの強者だ。

「すばるん、見逃してよ。ようやくダイヤモンドと対面できたんだよ。実力を図らせてもらってもいいじゃん」

「ダイヤモンドは困っている。無理強いするのはよくない」

 たしなめられてぐうの音も出ないようだ。ボクは恐る恐る少女へと近づいた。


「助けてくれてありがとうございます。えっと、あなたは」

「わたし? わたしは昴。エメラルドの保護者みたいなもの」

「いつから保護者になったんだよ。間違ったことは言ってないけど」

 認めちゃうんだ。文字通りに保護者ってわけではなさそうだな。どう見ても同い年ぐらいだし。


 昴から雷を受けているエメラルドだったが、追撃とばかりに新たなる来客が現れた。

「エメラルドがまた迷惑をかけてるのかル」

「うん」

「だから、迷惑はかけてないって。ウルルも勝手に決めつけないでよ」

「いや、迷惑はかけていた。わたしが保証する」

 軽快に足音を響かせているのはチワワくらいの大きさのワンコ。いや、ワンコにしては顔が凛々しい。灰色の毛並みといい、満月の夜に崖の上で遠吠えさせたら絵になりそうだ。そのまま人間になりそうで怖いけど。


「君が噂のヴァルダイヤモンドかル」

「そうだけど、君は?」

「申し遅れたル。ボクはウルル。異世界マージナルよりダイカルアを殲滅するためにやってきた妖精だル」

 うん、なんとなく予想はしていた。しゃべる狼って時点でバンティーの仲間としか考えられない。


「すばるんも連れ立って何しに来たんだよ」

「ダイカルアが出たってウルルが言うからやってきた。そうしたら、ダイヤモンドと喧嘩していた」

「喧嘩じゃないよ。魔法少女としての力を確かめてただけだって」

 必死に訴えかけているけど、一方的に戦いを挑んできているから喧嘩よりもたちが悪い。


 いくら反論しようと、多勢に無勢。抵抗しても無駄と悟ったエメラルドはしぶしぶ肩を落とした。

「まあ、バリアの魔法は厄介だし、少なくとも前に戦った魔法少女コンビよりは骨がありそうかな」

 ルビィとサファイアのことを言っているのだろう。二人が同席していたら滅茶苦茶面倒なことになっていそうだな。


 すると、エメラルドはおもむろに胸の宝石を取り外した。彼女の全身に光が点る。

「アーネストシール」

 同時に呪文を紡ぐ。って、その呪文はまさか。気が付いた時にはもう遅かった。変身するのが0.05秒なら、変身解除されるのもまた然り。瞬きする間にエメラルドはとある少女の姿へと戻っていた。


 相変わらず自己主張を続けるアホ毛。わがままそうに憤慨している様は、童顔とも相まって可愛らしく映る。

 って、嘘でしょ。そこにいたのはまごうことなき、天才ゲーマーことLだった。


 どういうことだ。Lがヴァルエメラルド。困惑する中、ボクは思わず声を漏らした。

「君って女の子だったの」

「失礼だな。たまに間違えられるけど」

 むくれていたところ、更に膨れ面になる。女って意識すると、出てるところは出てるんだな。しかも、さっき思い切り触っちゃったし。


「あのさ。ぼくだけ正体を明かしてずるくない。君の正体って誰なの」

 やっぱそう来たか。どうしようかな。同じ魔法少女とはいえ、おいそれと明かすのは躊躇われるし。迷っていると、Lはじっと顔を近づけてきた。いや、近すぎる。鼻先が擦り合わさりそうだよ。

「妹の反対は?」

 唐突に何だ。妹の反対でしょ。

「姉」

「仕事に反対するのはホニャライキ」

 ホニャに当てはまる言葉を言えってことか。

「スト」

「一度貼るとなかなか剥がれないのはなんだ」

 今度はなぞなぞかよ。

「シール」

「じゃあ、続けて言ってみよう」

「アーネストシール」

 ……って、おい!


 はめられたと思った時にはもう遅い。ボクの全身を光が包み込む。したり顔をしているLの前で強制的に変身が解除されていく。まずい、まずいって。再度変身の魔法を唱えようとするものの、所要時間は0.05秒。まともに発音する時間すら許されない。抵抗する間もなくボクは変身前の姿を晒してしまった。


「マサッキー!? まさか、君がダイヤモンドだったの」

 そりゃ驚きますよね。同時に幻滅しただろう。だって、少女ですらなかったわけだし。

「やっぱり君は女の子だったんだね」

「いや、男なんだけどな」

「またまた。冗談でしょ。男が魔法少女になれるわけないし」

 肩を小突いてくる。あれ? もしかしてボクが女だと本気で信じているのか。疑念を抱えて立ち尽くしている間にも、Lは体のあちこちをどついてくる。微妙に痛いからやめてほしいな。


 すると、Lの手がある一点で止まった。ああ、そこか。そこは触ってほしくないな。っていうか、触っちゃダメだから。次第にLの顔が紅潮していく。いや、ダメだ。握らないでよ。

「ほ、ほほ、本当に、男だったの」

 男にしかない稲荷寿司を握りながら確かめようとしないでください。いつまでも握られるとさすがに痛い。


「ウルル。男って魔法少女になれるもんなの」

「普通はなれないはずだル。でも、ボク以外の妖精が変身させたとなると、バンティーの仕業のはずル。あいつのことだから、インチキでも使ったかもしれないル」

 バンティーさん、さりげなくひどいことを言われていますよ。とりあえず、状況を整理するのが先か。

「えっと、Lがヴァルエメラルドの正体で、そこの狼のウルルが変身させた妖精ってことでいいんだよね」

「Lってまた珍妙な名前使ってる」

「いいじゃん、すばるん。天才ゲーマー蘭ちゃんことL。どこも間違ってないじゃん」

「天才ゲーマー蘭ちゃん?」

「こいつの本名は五十嵐蘭子。深入りする必要はない」

 本名を聞くと明らかに女の子なんだよな。名前に違わず嵐みたいなやつだ。


「蘭子さんはどうしてダイヤモンドと戦おうとしていたの」

「蘭子でいいよ。さん付けされるのは慣れてないからさ。正体がバレちゃった以上、腹を割るしかないみたいだね」

 斜に構えた態度から一変し、表情を曇らせた。固唾を呑んでいると、突然深々と頭を下げた。

「折り入って頼みがある。ぼくの兄貴を助けてくれないか」


 ダイカルアのせいで人通りが皆無とはいえ、公衆の面前で頭を下げられ、ボクは当惑してしまう。すると、突然肩を叩かれた。昴だったっけ。パーカーを被った少女がじっと見つめていた。

「わたしからもお願いする。蘭子の兄を助けるにはダイヤモンドの力がどうしても必要」

「いきなり助けてほしいと言われたって。何がどうなってるのかさっぱりだよ」

「その通りだル。一からきちんと説明した方がいいル」

 ウルルが後押しする。人間である二人よりも、この妖精の方が常識的のような。


「じゃあ、ボクの仲間にも紹介した方がいいかも。ボクだけじゃなくて、三人で挑めば解決するかもしれないし」

「君に仲間がいたんだ。どんな人?」

「ヴァルルビィとヴァルサファイアっていうんだけど、前に会ってるよね」

「前に戦った二人か。うーん、頼りになるのかな」

 本人を前に口にしたら半殺しにされそうだぞ。提案しておいて勝手だけど、あまり対面させたくなくなった。


「会うとしても、どこがいい。学校が同じとかなら機会はある」

「そこなんだよね。蘭子さ……蘭子はどこの中学なの」

「ぼく? 五宝中だよ」

 つい吹き出してしまった。そんな偶然、ありうるのだろうか。

「まさか、同じ中学?」

「そのまさかだよ」

 あまりにできすぎているでしょ。むしろ、どうして今まで気が付かなかったんだろう。


 ふと、一つの可能性に思い至った。

「五宝中でも、ボクは中二だけど、君たちは何年生?」

「乙女に年を訊ねるのは厳禁」

 おっしゃる通りだけど、話が進まないじゃないか。むくれる昴を差し置き、蘭子は興味深げに腰に手を当てた。

「意外だな、先輩だったんだ」

「先輩ということは、もしかして一年生」

 素で驚いてしまった。最低でも同級生だと思っていたのに。同じ学校でも学年が違えば全然知り合わないというのもザラだ。まして、ボクが所属しているのは廃部スレスレの弱小部活動。上下間でのつながりが薄いのは致し方ない。


 ただ、蘭子が年下というのは釈然としないな。嘆いたところでどうなるというわけでもない。むしろ、華怜や渚先輩に紹介できると分かっただけでめっけもんだ。

「善は急げって言うしね。明日の月曜日に会わせてよ」

 蘭子にせっつかれる。渚先輩はともかく、華怜は都合がつくのかな。とりあえず、ダメ元で二人に連絡を入れてみた。さて、どうなることやら。

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