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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第七話「ヴァルエメラルドの正体は誰だ?」
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レアカードとピジョンカルア

「じゃーん。ぼくの愛車、ライジングゴットフリード号だよ」

 いや、ただの通学用自転車ですが。どこらへんがライジングゴットなのかよくわからない。「本気を出せばそんじょそこらの自転車の三倍の速度で移動できる」ってただの可変速ギアだし。

 ともあれ、ライジングゴットフリード号と併走していく。ダンスゲームで鍛えているためか、Lの脚力はなかなかのものだった。全力にほど近い速度でないとすぐに離される。ゲーマーって運動不足のイメージあったんだけどな。


 ようやく目当てのカードショップに辿りついた。拡張パックや構築済みデッキの他に、カードのばら売りも実施されている。レアカードが一挙に陳列されているのは壮観だ。人気があるだけあって、最高レアカードなんか三千円とか五千円とかの値がつけられている。これ一枚でゲームソフトが買えるってよく考えたら異常だよね。

「おじちゃん、無限の少女ライムちょうだい」

「いつもありがと。三千円ね」

 レアカードに見とれている間に、Lはとっとと買い物を済ませている。店員のおっちゃんと顔なじみなのか。そして、気軽に財布から三千円を出せるって、財力もすさまじいな。中学生にとって三千円は大人にとっての三万円ぐらいの価値はあるんだぞ。


「やっと手に入れた。この子欲しかったんだよね」

「そのカード強いの」

「強いってもんじゃないよ。破壊されたとしても手札に戻るうえ、体力を回復させるもん」

 なにそれ。絶対に倒せないってチートじゃん。ただ、カードイラストは可愛いな。青色の髪をしたワンピースの少女が水辺で佇んでいる。

「マサッキーってランプ戦術が似合いそうだよね。じゃあ、新緑の守護竜ジオドラゴンとかどう。デメリットで体力を200削られるけど、攻撃力1000の高火力モンスターだよ」

 勧められたのは緑の鱗をした四つ足のドラゴンだった。けっこうかっこいいな。値段は八百円とそこそこ高いけど。でも、拡張パック五枚を買って外れを引くと考えれば損な買い物ではない。なんかカードゲーマー脳に染まってきたぞ。

 ちなみに、ランプ戦術というのは序盤にマナ加速カードを使い、素早く大型モンスターを繰り出すというものだそうだ。元ネタはMTGって、相当昔からある戦法みたいだな。かなりオーソドックスではあるが。


 Lから勧められたカードを購入しているし、店を後にしようとする。

「ねえ、せっかくだからもっかいバトルしようよ。ジオドラの力試したいでしょ」

「そうだね。でも、勝てるかな」

「ゲームは手加減しない主義だからな。やるからには本気でやっちゃうよ」

 いや、本気出されたら勝てないから。でも、ジオドラゴンの力が如何ほどの物か見てみたい。ちょうどゲームスペースもあるみたいだし、Lと再戦に入る。


 しかし、ちょうどいいタイミングで邪魔も入ってしまう。なぜだか外が騒がしい。足音とともに人々の悲鳴も混じっている。

「君たち、早く逃げた方がいい」

「どしたの、おっちゃん」

「近くの商店街でダイカルアの怪物が出たそうなんだ」

 このタイミングでダイカルアかよ。どうしよう。ルビィとサファイアの到着を待っていたら被害が広がる一方だ。おそらくというまでもなく、近くに魔法少女はボク一人しかいない。


 迷っている間に、問題の怪物がカードショップにまで接近してきた。豊満な鳩胸を主張し、灰色の翼を広げた鳥獣型の怪物。公園とかによくいる鳥だけど、化け物になるとそれなりにえげつないな。

「ホロッホー。俺の名はピジョンカルア。ダイカルアの平和のために恐怖心を捧げるのだ」

 平和の象徴の鳥が平和を乱してどうするんだよ。しかし、体長二メートル近い鳩ってそれなりに怖い。モッフモフの鳩胸で不穏なことをするつもりだろう。おまけに、ピジョンカルアの背後にはバグカルアが控えているという熱の入れようだ。


 さて、どうする。すぐそばには公園がある。公衆トイレに駆け込めば人目につかずに変身できる。すれ違う人が少ないので、堂々と変身したら正体がバレちゃうからな。

 変身できる布陣は整っているものの、いざ戦うとなるとやっぱり足がすくんでしまう。クロコダイルカルアと比べると大したことがない相手だろうけど、怖いものは怖い。


「ホロッホー。俺の魔法で苦しむがいい。蓄積されし記憶よ! 忘却の彼方へ消え失せよ! 暗記抹消ブレイクンメモリ

 ピジョンカルアが羽を広げると、周辺に綿埃が舞った。心なしか鳩胸の体積が減っている。やっぱり、鳩胸で攻撃してきたか。


 推測するまでもなく、綿埃に触れたりしたらやばいことになる。ボクは電信柱の陰に隠れて避難する。逃げ遅れたカードショップのおっちゃんが綿埃に纏わりつかれていた。

「この毛むくじゃらめ。あっちへいけ……」

 どうしたんだ。必死に鳩胸を追い払おうとしていたのに、急に脱力してしまっている。目も虚ろになり、だらしなく前屈みになっていた。

「ここはどこだ。私は誰だ」

 急にどうしたんだよ。誰だと聞かれても、おっちゃんの本名なんて知らないよ。


「なんだ、あの怪物は。どうしてこんなのがいるんだ」

 数か月前から出現していたでしょ。対面するのは初めてかもしれないけど、反応はまるで初めて存在を知ったかのようだった。

 右往左往しながらおっちゃんは逃げていく。おまけに、他にも鳩胸に纏わりつかれた人が、

「ここはどこだ」「私は誰だ」と次々に意味不明な発言をしている。一体どんな魔法を使ったんだ。


「ホロッホー。これこそ俺の魔法。俺は一時的に人間の記憶を奪うことができるのだ。最近は俺たちが出現しすぎたせいで、人間共に慣れが生じている。俺たちが初めて出陣したころは新鮮な恐怖心が得られたというのに。ならば、俺たちが侵攻してきているということを忘れてしまえばいい。そうすれば、もう一度新鮮な恐怖心が味わえるというもの」

 言われてみると、ダイカルアの襲撃は日常の一場面になりつつあったな。でも、恐怖を煽るために記憶を奪うなんて、横暴すぎる。

「俺たちを未知の怪物と認識している人間ならば、バグカルアだけでも十分に恐怖心を稼ぐことができる。いけ、人々を恐怖のどん底に陥れるのだ」

 奇声をあげてバグカルアたちが飛びかかって来る。このまま野放しにしておくわけにはいかない。ボクはちらりとトイレを確認する。怪物は襲撃に躍起になってこちらに気づいてはいない。震える足を叱咤して、じわりとトイレへと近づいていく。

さりげなく前作のキャラとコラボしているって気が付いたかな。

ちなみに、ライムの効果はシャドバの「ウロボロス」を参照しています。破壊された時に無駄に3点回復するのはやめろ。

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