シン・ワニラとデュエルウィザーズ
学校に到着してからも話題は怪物と魔法少女についてだった。人一倍食いついてきそうなのはもちろんこいつだ。
「巨大怪獣とか男のロマンすぎるだろ。フェスに行かなかったのが悔やまれる」
ハンカチを噛むというアニメテンプレで悔しがっているのはボクの友人覇王。人通りの多さを嫌ってネトゲに夢中になっていたという、インドア大好き人間だ。
「ネットでも大騒ぎになっているぞ。シン・ワニラが出てきたってな」
「水爆実験で誕生した怪物とごちゃ混ぜになってない」
ワニラって言い得て妙だよな。そのうち巨大な亀の怪獣とかも出て来そうだ。とはいえ、相手をするのはボクらだから勘弁してほしい。
「そのうちワニラのフィギュアも発売されるだろうな。ニコニコ動画にはもう『ワニの怪獣をフィギュアで再現してみた』って動画が出回っていたぞ」
「仕事早すぎでしょ」
覇王がこっそり持ち込んでいるスマートフォンから問題の動画を見せてもらう。ウルトラマンの怪獣ソフビを素体にして、あっという間に巨大クロコダイルカルアを作り上げていく。まさに才能の無駄遣いというやつだ。
更には「ワニラを描いてみた」ってタイトルでイラストが投稿されているし、挙句の果てには進撃の巨人の巨人をクロコダイルカルアに変えただけのクソコラとかも多数作られていた。もはやいいオモチャだな。
他人事のように達観していたけど、ふとまとめサイトのサイドバナーに釘付けになった。美少女フィギュアの広告みたいだけど、煽情的なポーズを取っているその娘はどうにも見覚えがあったのだ。いや、見覚えってレベルではない。嫌な予感しかしないけど、念のため覇王に確かめてみる。
「ねえ、このフィギュアってもしかして噂の魔法少女だったりする」
「よく気が付いたな。最近人気になっているヴァルダイヤモンドのフィギュアだ」
やっぱり。白いドレスといい、中性的な顔立ちといい悪寒はしていたんだよね。萌えキャラっぽく美化されているから、実物とは似ても似つかないのが救いか。
でもさ、考えてもみてほしい。自分そっくりの人形を勝手に作られて、他人の家で飾られているところを。肖像権を主張すれば販売停止にできそうだけど、そんなことをしたらダイヤモンドはボクだって自白しているも同然だ。
「ダイヤモンドの人気はすさまじいぞ。等身大抱き枕とかプリントTシャツとかも出回っているそうだからな」
やめてくれよぉぉぉぉ!! 自分そっくりの抱き枕とか拷問でしかない。しかも、人気アイドルの抱き枕よりも高額で取り引きされているからたちが悪い。
「もともとダイヤモンドは人気があったが、ワニラの一件から評判が鰻登りになっているようだぞ」
「そうなの」
「ワニラが消滅していく動画を画像解析したところ、ヴァルダイヤモンドっぽい人影が映っていたみたいでな。詳細不明と銘打たれていても、ヴァルダイヤモンドがワニラをやっつけたと定説づけられている」
事実、ボクがやっつけたのだから間違ったことは言っていない。っていうか、画像解析技術すごすぎだろ。ニュース映像だと、画面一杯に光が広がっているだけで訳が分からなかったよ。
なんかダイヤモンドばっかり持ち上げられているもんだから、興味本位で質問をぶつけてみた。
「ちなみに、ルビィとかサファイアのフィギュアはあるの」
「無いな」
即答だった。あの二人組涙目すぎるだろ。
「サファイアだったらそのうち作られるだろう。そこそこ目撃情報があるからな。で、ルビィはこの学校に出てきた魔法少女だっけか。マイナーすぎてフィギュアを作っても誰も買わんだろう」
魔法少女になって一月ぐらいだから、知名度が低いというのも致し方ない。でも、魔法少女歴が数倍の渚先輩より先にフィギュア化するなんて。なんか申し訳なくなる。あの先輩のことだから、フィギュア化されると知ったら有頂天になりそうだ。
「万が一ルビィがフィギュア化したとしても、中途半端すぎて需要は薄いのではないか。噂だと、男勝りだけどチンチクリンという。せめて、徹底的にロリキャラに徹するのであれば、その筋のマニアが食いついただろうに。まあ、粗暴キャラは『あんたバカぁ』ぐらい言わんと受け入れられんからな。在庫処分待ちになるのは必至だろう」
ああ、ものすごく酷評しているよ。でもさ、覇王。君は気が付いていないみたいだね。着実に死神の鉄槌が迫っていることを。
「ねえ、ルビィがチンチクリンとか言ってなかった」
「言ったぞ。男に二言はないからな」
ふんぞり返る覇王。しかし、彼は般若とご対面してしまった。ダメだよ、華怜。ここは抑えておかなきゃ。でも、沸騰寸前の彼女は少しの刺激で我を忘れそうだ。
憤怒の魔神を前に、覇王は固まってしまっている。ようやく人差し指で指しながら言葉を絞り出す。
「ど、どうして赤羽が怒るのだ。ヴァルルビィとは関係がないはずなのに」
「え、そ、それは、ええっと」
不意を突かれて、華怜は目を白黒させる。まさか、ヴァルルビィが自分だと明かすわけにもいくまい。怒りに任せて墓穴を掘っちゃったか。
華怜の事だから、不用意な発言で誤解を招きかねない。ここはフォローしておくかな。
「華怜はヴァルルビィのことが好きなんだよね」
「そ、そうね。サファイアとかもいるみたいだけど、やっぱりルビィが一番よね」
棒読みになりながらも誇張する。ナルシストじゃあるまいし、自画自賛するのはきついだろうな。
「ルビィが好きとは。物好きもいたも……グホォ」
覇王がむせた。無理もない。華怜が密かに腹パンを喰らわせたからだ。至近距離で動向を見守っていたボクでしか気が付かないって、本気で暗殺とかやったら恐ろしいだろうな。できれば、そういうスキルはダイカルア相手に発揮してほしい。
「大丈夫、覇王」
とりあえず、介抱してみるが、
「我々の業界ではご褒美です」
そんな必要はなかった。華怜の怒りの鉄拳って絶対ご褒美じゃないよな。むしろ、覇王の腹の脂肪だったらちょうどいい塩梅になるのか。
「ねえ、ルビィが一番よね」
華怜さん、目が笑っていません。
「ああ、ルビィも一番だ」
直接的に脅されて覇王はあっさり屈した。ルビィ「も」ってところにはツッコまないのかな。一番だって認められて有頂天になっているから別にいいか。
「ところで、話は変わるが優輝氏はデュエルウィザーズをやっているか」
「すごい人気のやつだよね。カードデッキほしいけど、どこにも売ってないんだよね」
「フフフ。俺はついに手に入れたぞ」
こっそり忍ばせておいたのか、制服の内ポケットから一枚のカードを取り出した。「暴食王グラトニー」ってレアカードじゃないか。それ、相当人気あるやつだぞ。
話題に上がっているデュエルウィザーズは最近発売されたトレーディングカードゲームだ。特にメディアミックスをしているわけでもないのに、急に人気が上がったとして一目置かれている。ボクも気になっておもちゃ屋を巡っているけど、どこも売り切れなんだよな。
「すごいな、覇王。どこで手に入れたんだ」
「グフフ。ネットでの伝手を使えばどうということはない。グラトニーをゲットするのは骨が折れたがな。RMTで稼いだ金が吹っ飛んでしまったよ」
さらっといけないことを言ってなかったか。他のカードゲームでもそうだけど、レアカードって滅茶苦茶な値段がつくんだよね。
「いいな。カードすら持っていないから、もはや次元が違いすぎるよ」
「諦めたら試合終了だぞ、優輝氏よ」
覇王先生、バスケはしたくないです。含みのある笑みを浮かべているけど、こういう時って大抵ろくでもないんだよな。
「実は、ほぼ確実にカードを手に入れられるイベントがあるのだ」
ありゃ、結構まともだった。しかも耳寄りな情報だぞ。
「今度の日曜日に、ショッピングセンターでデュエウィザの大会があってな。初心者向けにレクチャーも開催されるという。スタンダートデッキも大量入荷するらしいし、まさにビギナーいらっしゃいな大会だ」
すごく回し者くさいセリフだけど、デッキが高確率で手に入るのならめっけもんだな。
「俺は既に本大会のエントリーを済ませてある。レクチャーだけなら当日参加可能だから、行ってみたらどうだ」
「そうさせてもらうよ。ついにデュエウィザが手に入るのか」
いくら大会向けに大量入荷しているとはいえ、売り切れの心配もあるからな。捕らぬ狸の皮算用ってやつだ。でも、話題のゲームをプレイできるってなるとワクワクするじゃん。
話に花を咲かせるボクらだけど、華怜は冷めた目で腕組みしていた。
「そのデュデュオンシュだっけ。そんなに面白いの」
怪訝そうに首をかしげている。どこをどう間違えたらオーバーロードインベスの名前になるのだろうか。
「面白いってもんじゃないぞ。優輝もやってみれば分かる。まあ、頭を使うから頭脳戦が苦手だとつまらんかもな」
「へえ、私が脳筋って言いたいわけ」
某みさえさんが息子によくやっているお仕置きを喰らわす華怜。児童虐待だってうるさいから本家でも滅多にやらないのに、現実でやっている人初めて見たぞ。そして、「ご褒美ありがとうございます」という場違いな悲鳴をあげるのはやめなさい。
「私だけ蚊帳の外ってのも癪だから、冷やかしに行こうかしら。ちょうど部活も休みだし」
「旅は道連れ世は情けというしな。よかろう、同行を許そうではないか」
「あんたに上から目線されるとむかつくわね」
なんだかんだ言いつつも、華怜の参戦が決定した。ただ、これまでの流れからもう一人付いてきそうなんだよな。多い方が賑やかでいいけど。




