男勝りな幼馴染とヲタク勝りな友人
学校でも魔法少女の話題で持ち切りだった。そりゃ、近くのショッピングセンターで怪物と魔法少女が出たなんてニュースでやっているんだもん。話題にするなという方が無理だ。
「五宝にまた魔法少女とか神すぐるだろ、ワロタ」
ブヒブヒと鼻息荒く興奮しているのはボクの友人。名前は伊早坂覇王。決してあだ名ではない。伊早坂さん家の覇王君である。この頃少し変っていうかいつも変なやつだ。だって、班行動で一緒になった時に「男の娘キタコレ」って絡んできて、なし崩しに親交を深めちゃったんだよね。
「今度のはヴァルダイヤモンドって言うみたいだね」
「うむ、名前に宝石を使う魔法少女は居そうでいなかったからな。あ、いや、キュアダイヤモンドってのが実在している。でも、あいつはトランプのダイヤがモチーフだったか。ジュエルペットは言わずもがなだし」
その後もひとりでにプリキュアの名前を列挙している。どんだけ魔法少女アニメに精通してるんだよ。
「まどマギってそれっぽいのいなかったっけ」
「深夜アニメだとそもそも変身後に名称変更するものが少ないからな。テイルレッドとかが例外だろう」
どことなく話についていけている自分が怖い。彼に勧められてやたら深夜アニメ見ていた時期あったからな。穂波がキュウべぇを見て「この子可愛い」って言った時は心の奥から「そいつはやめとけ」って叫びたかった。
「しかし、ヴァルという名称はどうかと思うぞ。スーパー戦隊五作目にイーグルとシャークとパンサーがいたし」
ひとりしたり顔をしている覇王。思えば、ヴァルダイヤモンドの「ヴァル」ってどういう意味なんだろ。今度バンティーに聞いてみよう。あまり会いたくないけど。
「それはそうと、優輝氏。これでこの町にいる魔法少女は二人となったわけだ」
「ダイヤモンドの他にいたっけ」
「おま、忘れたのか。青い魔法少女がいただろ」
少し前に噂になってたな。ダイカルアの怪物が出た時に青いコスチュームの魔法少女が出てきて退治したって。えっと、ヴァルサファイアって名乗ってたっけな。
「名称が統一されていることからダイヤモンドの仲間だろう。うーむ、早く集結しているところを見てみたい」
恍惚としている覇王。まさか、目の前にダイヤモンドがいるなんて思ってもみないだろうな。大体、サファイアの存在なんて数秒前まで忘れていたし。ヴァルサファイア。どんな人なのかな。
「おいお~い、また魔法少女が出たみたいじゃないか。お前がそうなんじゃないか」
すごく心臓に悪い疑惑を投げかけられる。そのうえ、顔を覗かせたのは更に心臓に悪い輩だった。
制服を着崩し、三白眼で睨んでくる嫌な奴。いっつもボクにちょっかいを出してくるこのクラスの不良たちだった。こいつら、事あるごとにゴールデンボンバーの名曲でボクをなじってくるんだよな。
「もしも魔法少女が男だったら気持ち悪すぎるだろ。女装が趣味とか終わってるぜ」
「だよな」
リーダー格に合わせて取り巻きの二人が空笑いする。すごく痛い所突いてるから言い返せない。そして、覇王。相撲取りみたいな立派な体型してるのに、ボクを盾にしようとしないでよ。
他のクラスメイトは関わり合いはご免という風体でそっぽを向いている。こいつら、生徒指導室行きの常連だからな。ああ、早くどっか行ってくれればいいのに。
「ちょっとあんたら、また弱いもの苛めしてるわけ」
「ゲ、華怜が来たぞ」
不良の一人が顔をしかめる。声を荒げているのは溌剌とした女生徒。ボクよりも頭一つぐらい小さいと割と小柄だけど、堂々とした態度から不良たちが矮小に見える。正式にはポンパドールというらしいけど、前髪をふんわりと上げてまとめた髪型をしており、きりりと胸を張っている。ただ、張るほど胸がないのが悲しい。
「最近魔法少女が出たって言うからよ、こいつがそうじゃないかって尋問してただけだ」
「あんたね、優輝が魔法少女なわけないでしょ。腐っても男なのよ」
擁護してくれるのはありがたいけど、その前振りはひどくないですか。
「おい、調子に乗ってるとひどいぞ」
「何がひどいって?」
たった一言で不良を黙殺する。
「まずいぞ。あいつ剣道二段だったよな」
「いや、最近三段に上がったそうです」
「くそ、覚えとけよ」
不良たちはすごすごと退散していった。
「いやあ、助かった。マジ神。ぱないですわ」
「あんたは別に助けてない」
「その誹り、我々の業界ではご褒美です」
「キモ」
覇王は鼻血を出した。ダメだ、こいつもどうにかしないと。
「ああ、もう優輝。もうちょっと言い返すとかできないわけ。あんなの別にどうってことないじゃん」
「それは華怜が強いからでしょ。ボクなんかが同じこと言ったらボコボコにされるって」
「はあ~。だから、魔法少女に間違われるのよ」
頭を抱える強気な少女。彼女は赤羽華怜。幼稚園の頃から付き合いのあるいわゆる幼馴染だ。家が隣であることも相まって、何かと一緒に過ごしてきた。そして、昔から変わらずボクがいじめられそうになると駆けつけてくる。
「あんたさ、少しは鍛錬しようとか思わないの。知り合いに道場やってるところあるから紹介するわよ」
「い、いや、剣道はご免かな」
「もう、せっかく誘ってあげてるのに。優輝も習えば少しは強くなるかもしれないわよ」
そう言って、空の竹刀で素振りをする。そんじょそこらの男よりも男らしいというのが彼女の評判だった。
「しっかし、魔法少女ね。魔法なんてインチキに頼らずに正々堂々とぶちのめせばいいのに。それに、ダイカルアって連中もふざけてるわよね。一度お灸を据えないといけないかしら」
ダイカルアの怪物が暴れているというニュースに対しての感想がこれだもん。彼女と性別を逆にしたらって何度なじられたことか。
「で、でもさ。ああいう可愛い衣装って憧れたりしないの、女の子的に」
「戦うのに邪魔だと思う」
あくまで機能性重視か、華怜は普段ラフな格好を好む。流行に倣って校則違反のスカート丈だけど、「ミニの方が動きやすいじゃん」ってのが彼女の理論だ。
「でもでも、華怜も着てみたら案外似合うかもよ」
「え、そ、そうかしら」
「ふむ、剣道美少女の魔法少女か。案外需要あるかもしれんな」
悪い気はしないのか、スカートの裾を広げたりしている。あまりやりすぎるとパンツ見えそうだから気を付けてください。
「まあ、馬子にも衣装という格言があってだな。男勝りキャラでも魔法少女の恰好をさせとけばかわい……メメタァ」
カエルを波紋が籠った拳で殴った音を立てながら覇王が撃沈した。あれってダメージないはずだよね。
「いやあ、超絶可愛いなんて困っちゃうわよ。ね、優輝」
「うん、そうだね」
目が笑ってませんよ、華怜さん。
「我々の業界ではご褒美で……す」
覇王さん、この一撃は絶対にご褒美じゃありません。
「おーい、授業始まるぞ」
ものすごく気の抜けた声が教室内に響き渡る。枯れそうな小枝みたいな担任の折木先生だ。今日もまた平穏な日常が始まる。半死体と化した覇王を引きずり、ボクは着席するのだった。