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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第二話「幼馴染は魔法少女!? 情熱の戦士ヴァルルビィ」
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クッキンアイドルあいマイ穂波

「……げて。は……く」

 途切れ途切れの女性の声。凄惨にまき散らされる鮮血。ほほにかかる液体は未だ生温かさを保っていた。

 虚ろな眼差しで顔をあげる。そこにいたのは仰々しい化け物。


 そいつが発した言葉にはどこか親和性があった。どこで聞いたか。とにかく、つい最近というのは確かだ。推測するまでもなく、辺り一面に電子音が鳴り響いた。


朝の七時か。まだ眠っていたいよ。そうは言ってられないか。今日は学校があるし。

 敷布団はびっしょりと濡れていた。決しておねしょではない。中学二年にもなって夢の中で失禁したなんて冗談じゃない。でも、失禁してもおかしくない夢を見ていた気がする。ただ、夢のようで夢じゃないような。


「お兄ちゃん、いつまで寝てるの。さっさと起きないと朝ごはんが片付かないじゃない」

 勝手に部屋のドアを開けて侵入してきたのはふんわりとカールさせた髪を揺らした小柄な少女。すでに学校指定のセーラー服に着替えている。ただ、右手にお玉を握っているのがどこかアンバランスだ。

「ごめん、穂波。すぐに行く」

 大あくびして布団から上半身を起こす。ぐっしょりと滲んだ上着が気持ち悪い。顔をしかめてボタンを外していると、「早く来てよね」と穂波はプリプリしながら台所へ帰還していった。


 ボクの妹、呉羽穂波くれはほなみ。一つ年下の中学一年生だけど、なにかと世話を焼きたがる。うーん、ボクの方が年上なんだが、頼りないのかな。

 制服に着替えていると、机の上に置いてあった宝石が目に入る。昨日の出来事は夢だと思いたかったけど、こいつが存在しているってことはそうじゃなさそうだ。「いつダイカルアの襲撃があるから分からないから、肌身離さず持っているバ」とバンティーに忠告されていた。気が進まないけど、家の中にダイヤモンドを放置するわけにはいかないからな。制服のズボンのポケットの中にそっと忍ばせる。


 畳が敷き詰められた和室にちゃぶ台と座布団。古き良き日本の一般家庭の食卓だ。ちゃぶ台のうえにはご飯に味噌汁、鮭の塩焼きにお浸しとこれまた一般的な和風朝食のメニューが並んでいた。さっそく鮭の身をほぐし一口いただく。

 いい具合に塩味が効いていて、寝ぼけ眼にはありがたい。そして、ふっくらと炊き上がったご飯がまた合うんだよな。

「どうお兄ちゃん。私の渾身の料理、よくできてるでしょ」

「うん、おいしいよ。いつも悪いな」

「いいって、半ば趣味みたいなものだし」

 微笑むと、穂波もまた味噌汁をすする。中学生の趣味の範疇を超えている気がするけど、そんじょそこらの中学生よりも料理歴は長いからな。NHK教育の子供向け料理番組に出ていてもおかしくなさそうだ。クッキンアイドルあいマイ穂波。なんちゃって。


 一人ほほ笑んでいると、穂波がジト目で睨んできた。な、なんだよ。

「お兄ちゃん、変なこと考えてるでしょ」

「べ、別に考えてないぞ」

 嘘だけど。

「どうでもいいけど、お弁当ついてるわよ」

 本当だ、気が付かなかった。ほっぺにくっついていたご飯粒をぺろりと舐めとる。


「ところで、父さんはもう仕事に行ったの」

「そうみたい。最近忙しそうよね。おかげで私が御飯作ることになるじゃない」

 セリフとは裏腹に口調は嬉しそうだ。このお浸しもまた美味いんだよな。


 つけっぱなしになっているテレビでは朝の情報番組が放映されていた。もうすぐ東京でオリンピックやるみたいだからな。色々と準備が大変そうだ。

 やがて、地域のニュースに移り変わり、映し出されたのは近所にあるショッピングセンターだった。

「では、次のニュースです。昨日十五時ごろ、五宝町ごほうちょうにある商業施設がダイカルアの未確認怪物による襲撃を受けました」

「これって、お兄ちゃんが買い物に行ってたところじゃない」

 指摘された通りだ。まさに昨日、サラダの材料を買いに行っていたところである。


「目撃者の話によりますと、襲撃してきたのはスパイダーカルアと名乗るクモの姿をした怪物とのことです。これまでに報告された怪物との類似点がないことから、新種ではないかとみられています。

 スパイダーカルアなる怪物は天井を破壊しながら建造物内に侵入。糸を吐きつけ、人々をぐるぐる巻きにしていったとのことです」

 ニュースにされるとあいつの横暴さが際立つ。まったく、ダイカルアの連中はひどいことするな。このところ、奴らの悪行が報道番組で取り上げられない日はなかった。未確認怪物って何度耳にしたことか。


 食後の牛乳を口に含んだところで画面が切り替わる。だが、表示された画像がいけなかった。

「しかし、この危機にヴァルダイヤモンドと名乗る少女が出現。彼女は不思議な光線によりスパイダーカルアを撃退した後、魔法で崩壊した商業施設を修復したとのことです」

 思わず口から牛乳を発射してしまった。

「お兄ちゃん、汚いな。余計な仕事増やさないでよ」

「ご、ごめ、ゴホ、ゴホ」

 むせた。いや、仕方ないじゃん。だって、画面に映っているのは魔法少女に変身した後のボクだったんだもん。「視聴者提供」って誰だよ、あの惨状をスマホで撮ってた大馬鹿者は。


「ダイカルアの怪物出現と同時に各地で魔法少女と名乗る少女の活躍が報告されており、警察では彼女もまたその仲間であるとの見方を示しています。

 小暮さん、この魔法少女というのは私たち人類の味方とみてよろしいでしょうか」

「ダイカルアの破壊活動を防いでいるという点ではそう断言してもいいと思います。ただ、この魔法少女もビルを一瞬で直すといった規格外の技を披露しており、まかり間違えれば核兵器並の脅威ともなりかねませんな」

「ただ、怪物から町を守っているという点では安心できそうですね」

「そうですね。ダイカルアの怪物に関して、警視庁は対抗勢力となる特殊装備部隊の実用化に向けて急ピッチで動いているそうです」

 しばらく魔法少女関連のニュースが続いているけど、それどころじゃなかった。どうするんだよ、もう。大々的に報道されちゃってるじゃん。


「魔法少女か。お兄ちゃんと違ってすごく凛々しいんだろうな。このヴァルダイヤモンドって人も怪物に恐れることなく一撃で倒しちゃったって話だよ」

 ネット上だとそうなってるみたいですね。誰だよ、話に尾ひれをつけたの。そのヴァルダイヤモンドが目の前で牛乳を雑巾で拭いているなんて夢にも思っていないだろうな。

「お兄ちゃんもヴァルダイヤモンドを見習ってしっかりしたら」

 いや、同一人物なんですが。なんて言えるわけもなく、ボクは苦笑するしかなかった。


 後片付けを済ませ、いざ登校。ってところで、穂波に裾を引っ張られた。

「お兄ちゃん、大切なこと忘れてるでしょ。いくら遅刻しそうだからって疎かにしちゃダメ」

 おっと、そうだ。我が家では毎朝欠かさずやっていることがあった。


 食卓の隣の居間には質素ながらも仏壇が備えられている。遺影に移っているのは柔和な笑みを浮かべる三十代半ばの女性。年齢よりも若く映える顔つきとか髪質とかがどことなく妹と似ている。

 りんを鳴らし、穂波と一緒に手を合わせる。

「母さん、いってきます」

 事故で死んでしまった母さんに朝の挨拶をすること。これがボクが小学三年生の頃から加わった呉羽家の家訓だった。外の世界は色々と大事になってるけど、母さんはいつも変わらぬ笑みでボクらを見守ってくれているのだった。

そういえばまいんちゃんが最新作のプリキュアに声優として出ているみたいですね。キュアカスタードだっけ。

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